やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂版の序
 歯科医師臨床研修が必修化されてから,7年となる.本書はこの臨床研修の新たなスタートにあわせて臨床研修歯科医師のために編集されたものである.発足当時,実際の臨床研修がどのように行われるのか,正直なところ,指導医も研修医もまだ五里霧中であった.そのなかで,本書は多くの現場の指導医を執筆者に迎え,どうにか初版の出版に漕ぎつけることができた.もとより不十分な点や問題点がなかった訳ではない.この7年間,様々なご指摘やお叱りも戴いた.しかし幸いにも本書は多くの研修医諸君の座右の書として愛用して戴いた.われわれ執筆者一同としては,少しでも研修医のお役に立てたかと思うと素直に嬉しい.
 臨床研修は本来,歯科医師として最低限必要な,最も基礎となるべき技量を身に付けるためのものである.その土台の部分が,そう毎年,毎年変更になるようでは困るわけだが,一方医学の進歩も著しいのに,例えば10年間なにも変わらないというのも,如何なものかと思われる.幸いなことに本書は幾度の改訂の機に恵まれた.基礎として変わらない部分は変更せず,必要な部分については改訂するという方針であった.初版の序にも述べておいたが,研修医だけでなく指導医もいまだ未完成である.未完成であるから努力が生まれる.向上心が生まれる.自分のしていることが最高と思った瞬間,ピークアウトすることになる.驕らず腐らず,患者さんとともに,より一層満足度の高い診療ができるよう日々研鑽を重ねていこう.われわれは一生この道を進むわけだから.
 医学技術教育は奥が深い.日本の医学教育は,これまで講座制の下で行われてきた教育の行き詰まりから,アメリカ式の教育技法を機械的に取り入れようとする傾向が強まったが,今はむしろ弊害の方が指摘され,反省期に入ったといえる.技術の伝承の肝心の部分は,人から人へ伝えていくものである.研修医諸君は本書を読むばかりでなく,指導医の指先をじっと見詰めてほしい.しかし医学は,技術であるとともに,病める人と接するという対人関係の部分が大きい.対人コミュニケーションは,技術だけでは解決できない.対人関係を技術と捉えると,自分が起こした医療トラブルの原因さえ理解できなくなってしまう.実は人格が問われているというのに.
 ヒポクラテスの時代から医師は医術の研鑽のためにトラベリング・ドクターとして永い旅を続けてきた.さあこれから1年間,ミラーと本書を片手におおいに臨床を学び,医療の一翼を担う立派な歯科医師をめざして勇躍,遠い旅に出ようではないか.
 平成24年5月
 監修者 竹原直道
     廣藤卓雄


 いよいよ平成18年4月より,歯科医師臨床研修制度が必修化され,新たなスタートを切る.これから臨床研修をはじめる諸君は,歯科医師国家試験合格の喜びもつかの間,一抹の不安に包まれているものと思う.諸君を受け入れる,大学病院を中心とした主たる研修施設,そして研修プログラムに参加した協力型施設の側であるわれわれは,諸君以上に緊張と不安が大きい.プログラム,給与,運営,どれをとっても準備万端整ったとはいい難い状況がある.臨床研修歯科医はこれまでもいたが,必修化後,その重みは質・量ともに今までとはまったく異なるものとなる.そのなかで,歯科医師としての第一歩を踏み出す諸君の技能・技量を,速いスピードでどう高めていくか.われわれ教える側に荷せられた課題は多く,責任はきわめて重大といわざるを得ない.諸君の負託にどう答えるか,われわれ教える側の本当の力量が問われている.
 本書は主に九州歯科大学と福岡歯科大学の臨床研修に携わる教員を中心に執筆された.その水準が,全国的に求められている臨床研修歯科医師を育てるのにふさわしい域に達しているのかどうか,これから検証されていくものと思う.その水準が高くとも低くとも,これがわれわれの水準である.われわれはここからスタートしなければならない.現実を見つめ,そこから高みをめざす.教育する側も,学ぶ研修医諸君も共にまだ不十分である.完璧でないからこそ努力が生まれる.向上心が生まれる.困難な状況のなか,お互いに納得のいく臨床研修を共に進めていこう.
 本書のコンセプトは,臨床研修歯科医として必要な態度・知識と基本的な予防・治療の手技を身につけることである.教育技法や評価法は教える側の問題なので,ここでは取り上げない.その代わり,より実践的にするために,一部の手技をDVDに編集した.また健康保険で治療を行った場合の保険点数を参考になるように記載した.一応の参考にしてほしいが,医療は常にケースバイケースなので必ずこうだというわけではない.
 われわれは本書が研修医諸君の研修のバイブルとして活用されることを願うとともに,より分かりやすく,かゆいところに手のとどくような書になるよう,今後も改善を重ねていきたいと考えている.本書に対して諸君の忌憚のない意見をよせてほしい.一年後,諸君が無事に臨床研修を終え,一人の歯科医師として自立し,「この本から学ぶことはもうなにもない」と嘯きながら旅立っていく暁には,手垢にまみれた本書がぼろぼろになって捨てられることを願っている.
 平成18年3月
 監修者 竹原直道
     廣藤卓雄
 臨床研修歯科医システムの概要
第1章 研修歯科医の心構え
 1 臨床研修のクリニカルポリシー
 2 歯科医師のマナー
 3 歯科医師と患者さん
 4 歯科医師とコデンタルスタッフ
 5 診療前の準備・心構え
 6 診療後の情報整理・評価
第2章 医療保険制度を知る
 1 医療保険制度の仕組み
 2 保険診療の流れ
 3 診療録(カルテ)の書き方
第3章 感染対策
 1 感染対策の基本
 2 診療器具,機材の消毒法・滅菌法
第4章 医療面接の仕方
 1 患者さんの悩みを聴取する方法
 2 患者さんに説明する
 3 患者さんに動機づけする
第5章 診査・診断・処置方針
 1 口腔内・口腔外診査
 2 デンタルエックス線写真撮影法
 3 パノラマエックス線写真撮影法
 4 口腔内カラー写真撮影法・保存法
 5 スタディモデルによる診査
 6 習癖の診査
 7 痛みの診査・診断・処置方針
 8 う蝕の診査・診断・処置方針
 9 歯髄炎の診査・診断・処置方針
 10 歯根膜炎の診査・診断・処置方針
 11 歯周組織の診査・診断・処置方針
 12 顎関節症の診査・診断・処置方針
 13 不正咬合の診査・診断・処置方針
 14 口腔乾燥症の診査・診断・処置方針
第6章 局所麻酔法
 1 浸潤麻酔法
 2 伝達麻酔法
第7章 投薬の基本知識
 1 抗菌薬の投薬法
 2 鎮痛薬の投薬法
 3 外用薬の投薬法
 4 小児への投薬法
 5 妊婦・授乳婦への投薬法
 6 有病・高齢者への投薬法
第8章 う蝕修復処置法
 1 切削器具の使い方
 2 切削器具使用時のポジショニング
 3 初期う蝕の処置
 4 軟化象牙質の除去(う蝕検知液の使用法)
 5 覆髄(歯髄保護処置)
 6 グラスアイオノマーセメント修復
 7 コンポジットレジン修復
 8 インレー用の窩洞形成
 9 インレー窩洞の印象採得
 10 インレー装着
第9章 歯内療法
 1 防湿法
 2 生活歯髄切断法
 3 麻酔抜髄法
 4 失活抜髄法
 5 電気的根管長測定法
 6 インレー・クラウン・ポストコアの除去法
 7 感染根管処置法
 8 歯肉息肉除去
 9 根管貼薬の選択基準
 10 側方加圧充填
 11 垂直加圧充填
第10章 歯周治療
 1 歯周治療の流れ
 2 歯口清掃指導法(プラークコントロール)
 3 Professional Tooth Cleaning(PTC)
 4 暫間固定(TFix)
 5 超音波・エアスケーラーの使用法
 6 シャープニングの方法
 7 スケーリング・ルートプレーニングの方法
 8 歯周ポケット掻爬の方法
 9 歯周疾患に対する薬剤の応用法
 10 咬合調整・歯冠形態修正
 11 辺縁性歯周炎の急性発作時の対応
 12 知覚過敏に対する治療
 13 歯周外科療法
第11章 口腔外科手術
 1 口腔内切開の基本
 2 縫合法の基本
 3 術後処置(抜糸,洗浄)
 4 抜歯
 5 切開排膿術
第12章 口腔粘膜疾患
 1 アフタ性口内炎への対応
 2 口腔カンジダ症への対応
 3 口腔癌の疑いのある症例への対応
 4 粘液嚢胞への対応
第13章 歯冠補綴
 1 メタルコアの形成・印象採得・装着
 2 レジンコアの製作法
 3 テンポラリークラウンの製作法
 4 クラウンの歯冠形成
 5 部分被覆冠の歯冠形成
 6 生活歯の歯冠形成
 7 歯冠形成後の印象・咬合採得
 8 歯冠補綴物の装着
 9 クラウンの脱離への対応
第14章 欠損補綴
 1 欠損補綴の選択基準
 2 欠損補綴の流れ
第15章 ブリッジ
 1 ブリッジ設計の基本
 2 ブリッジのための歯冠形成
 3 ブリッジのための印象・咬合採得
 4 ブリッジの装着
第16章 部分床義歯
 1 不適合義歯への対応
 2 部分床義歯の設計
 3 部分床義歯の印象採得
 4 部分床義歯の咬合採得
 5 部分床義歯の試適
 6 部分床義歯の装着
 7 部分床義歯の床裏装
 8 部分床義歯の修理
第17章 全部床義歯
 1 小さすぎる外形の全部床義歯への対応
 2 義歯装着時の痛みへの対応
 3 顎堤の診査
 4 旧義歯を活用して顎位を修正する方法
 5 ティシュコンディショニングの方法
 6 全部床義歯の印象採得1(概形印象)
 7 全部床義歯の印象採得2(精密印象)
 8 全部床義歯の咬合採得
 9 ろう義歯の試適
 10 全部床義歯の装着
 11 全部床義歯の床裏装
 12 全部床義歯の修理
第18章 小児の歯科治療
 1 小児患者への対応
 2 小児に対する口腔衛生指導
 3 小児に対するフッ化物応用
 4 乳歯・幼若永久歯のシーラント
 5 乳歯の修復処置
 6 乳歯の歯髄処置
 7 小児のう蝕治療における継続管理の流れ
 8 乳歯の抜歯
 9 保隙装置の装着
 10 外傷への対応
第19章 予防・管理
 1 予防・管理のしくみ
 2 う蝕の予防・管理
 3 歯周疾患の予防・管理
第20章 事故と対策
 1 医療安全について
 2 医療事故が起きたときの対応
 3 歯科診療中の針刺し事故対策
 4 薬剤アレルギー
 5 薬剤による皮膚・粘膜の刺激
 6 誤飲事故
 7 バーによる損傷
 8 上顎洞穿孔
 9 抜歯中に根尖が破折したときの対応
 10 難抜歯のための抜歯中止時の対応
 11 皮下気腫
 12 髄床底穿孔時の対応
 13 抜歯後異常出血のときの対応
 14 ドライソケットの治療
 15 顎関節脱臼
第21章 情報検索ほか関連事項
 1 パソコンを使った情報検索
 2 EBM:文献検索とその応用
 3 技工指示書の書き方
 4 ブリッジの適応一覧
 5 処方せんの書き方
 6 投薬・注射・麻酔の保険請求について
 7 診療情報提供書(紹介状・照会状)の書き方
 8 臨床検査値の読み方
DVD解説
 普通抜歯
 フラップ手術
 付録 歯科診療報酬点数早見表