やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第5版の発刊にあたって
 無歯顎補綴治療学における技能を修得するための模型実習書として,1974年に13大学が参加して本書の「第1版」が発刊されました.発刊の主旨は第1版序文をご参照下さい.これまでに3回の改訂が行われ,第2版では新たに4大学が加わり,大幅な加筆・修正を行い,第3版ではさらに6大学が参加して23大学となり,第4版では歯学教授要綱の改訂に対応して各章の見直しを行うとともに,写真の差し替えをはじめとする大幅な改訂がなされました.その後8年が経過し,この間,平成13年には歯学教育モデル・コア・カリキュラムが提示され,平成18年からは共用試験(CBT,OSCE)が実施されます.そこで,これらの変革に対応できる無歯顎補綴治療の実習書としての改訂が必要であると考えました.
 「第5版」では,無歯顎補綴診療の流れのなかで,義歯を製作するための各過程が治療のどの部分に位置づけられ,また製作された装置がどのように口腔内で使用されるのかを理解しやすくするために,姉妹編である「コンプリートデンチャークリニック」から診療術式を引用し,各章に配置しました.また,咬合器と人工歯は,新しい時代に対応した製品を使用しました.なお「第5版」には新たに6大学が加わり,27大学の教授により執筆されました.
 周知のごとく,無歯顎患者に対する歯科補綴治療はコンプリートデンチャーを用いる「口腔リハビリテーション」であり,治療用具としてのコンプリートデンチャーが大きな役割を演じるため,技術能力の養成がきわめて重要であります.本書は無歯顎補綴治療における手技を理解しやすく解説した実習書であり,歯学部学生や歯科技工士学校生,歯科衛生士学校生はもちろんのこと,研修歯科医師や臨床家の方がたへ有効に活用していただけるものと考えます.加えて本書は,わが国の歯科補綴学教育における実習指導書としてバイブル的な役割を担っているといっても過言ではなく,最新の歯学教授要綱に掲げられている「口腔疾患の予防と健康の保持・増進に寄与する人材の養成」に大きく貢献できるものと考えます.
 最後になりましたが,「第5版」の出版に当たりまして,新たにご執筆いただきました教授各位に心からお礼申し上げますとともに,ご協力いただきました医歯薬出版株式会社に感謝の意を表します.
 2005年3月
 編集委員  細井紀雄 早川巖 平井敏博 長岡英一 赤川安正

第1版 序文
 歯科補綴学を習得していくためには,その学理,関連する基礎歯学を熟知し,これらを基盤として診療面での臨床術式と模型上での技工術式を確実に実施することが重要であります.しかしながら,基礎学に引続き開講される最初の臨床学科の一つである無歯顎補綴は,講義,模型実習を別個のものとして考えたり,また,両者の関連性が不明確な状態で,その意義を正しく把握していないことが多いようです.
 本書は,このような場にある歯学生を対象として,無歯顎患者に対する義歯補綴の基礎的な製作術式を多くの写真により解説し,模型実習書として記したものであります.ここに執筆していただいた13歯科大学の補綴学教室はG?s? Simplex OU型咬合器を実習に使用し,ほぼ同様な実習を行っていることから,本咬合器の改良をはかるとともに,教育内容などについても意見の交換を行ってまいりました.
 そのことから,昭和46年11月より本書の計画が進められ,編集委員により1)大学間で異なる2,3の方法を同時に記述し,他の方法を同時に知る,2)臨床術式もその概略を示し,模型実習の各過程との関連性を知る,3)できるだけ用語の統一をはかる,4)組写真により解説する,などの方針により昭和47年5月より分担執筆が進められ,ここに本書が上梓する運びになりました.
 この13大学の有床義歯学担当者が,共通の場を持ち,協力して本書の完成をみたことは,誠に意義深いものがあると信じます.しかし,現今の出版事情,分担執筆,編集日時などのことより,内容に多少不統一な点がみられるので,つぎの機会にはさらに充実をはかり,的確なる指導書となることを願うものであります.また,本書は歯学生を主体として編集したものでありますが,日常の臨床とくに技術面に参考となることが多く,歯科医師,技工士のためにもよき指導書となることを確信いたします.
 なお,本書の計画,出版にあたり,その基因となった咬合器改良について,昭和41年よりご尽力いただいた,東京医科歯科大学 中澤 勇教授,林 都志夫教授,大阪歯科大学 中村俊一教授,大阪大学 河合庄治郎教授に心より感謝の意を表します.さらに,分担執筆を快く引受けられた各大学各位のご協力,ならびに快く咬合器改良を行っていただいた小貫医器有限会社 小貫 伸社長,本書出版に種々お骨折りいただいた医歯薬出版株式会社に感謝する次第です.
 1974年4月
 編集委員  津留宏道 平沼謙二 西浦恂 松本直之
第1章 概説
 A.無歯顎補綴とは
 B.無歯顎の特徴
  1 顔貌
  2 顎骨,顎堤粘膜
  3 顎関節,筋
  4 下顎位,下顎運動
  5 加齢に伴う機能的変化
 C.無歯顎患者の補綴治療
第2章 診察,検査,診断,前処置
 A.診察,検査
  1 一般的診察
  2 口腔ならびにその付近の診察
  3 画像検査
  4 使用中の義歯に関する観察
  5 印象域
  6 研究用模型の観察
 B.診断ならびに治療計画
 C.前処置
  1 外科的処置
  2 補綴的処置
  3 その他の前処置
第3章 概形印象,研究用模型と個人トレーの製作
 A.概形印象と研究用模型
  1 アルジネート印象
  2 モデリングコンパウンド印象
 B.個人トレー
  1 個人トレーの設計
  2 個人トレーの製作
第4章 精密印象と作業用模型の製作
 A.精密印象
  1 一般的な精密印象法
  2 ワンステップボーダーモルディングテクニック
  3 特殊な印象法
  4 ダイナミック印象法
  5 フレンジテクニック
 B.作業用模型の製作
  1 ボクシング
  2 作業用模型
  3 スプリットキャスト
第5章 顎間関係の記録
 A.咬合床の製作
  1 基礎床の製作
  2 咬合堤の製作
 B.仮想咬合平面の設定
  1 臼歯部人工歯を下顎から排列する場合
  2 臼歯部人工歯を上顎から排列する場合
 C.垂直的(上下的)顎間関係の記録
  1 垂直的顎間関係(咬合高径)の計測
  2 垂直的顎間関係(咬合高径)の記録
 D.水平的(前後的,左右的)顎間関係の記録
 E.標示線の記入
第6章 咬合器
 A.咬合器の種類
 B.平均値咬合器
  1 Gysi Simplex咬合器OU-H3型の各部の名称
  2 Gysi Simplex咬合器OU-H3型の運動要素
 C.半調節性咬合器
  1 ハノー咬合器H2O型
  2 ハノーモジュラー咬合器190
  3 スペイシー咬合器モービル
  4 プロアーチ咬合器IIG
第7章 模型の咬合器装着
 A.平均的位置への装着
  1 咬合器に直接装着する場合
  2 スプリットキャスト法の場合
 B.フェイスボウを用いた装着
  1 フェイスボウ
  2 フェイシャルタイプフェイスボウの場合
  3 イヤピースタイプフェイスボウの場合
 C.ゴシックアーチ描記と下顎模型の再装着
  1 描記装置の取り付け
  2 描記と下顎模型の再装着
 D.咬合器の顆路調節
  1 アルコン型半調節性咬合器
  2 コンダイラー型半調節性咬合器
第8章 前歯部人工歯の選択と排列
 A.前歯部人工歯排列の原則的事項
  1 リップサポートと顔貌の回復
  2 発語機能
 B.前歯部人工歯の選択
  1 人工歯の種類
  2 人工歯の選択基準
  3 人工歯選択の実際
 C.前歯部人工歯の排列
  1 下顎法
  2 上顎法
  3 試適と修正
第9章 臼歯部人工歯の選択と排列
 A.臼歯部人工歯排列の原則的事項
  1 臼歯部人工歯の排列位置
  2 咬合の平衡
 B.臼歯部人工歯の選択
  1 人工歯の種類
 C.臼歯部人工歯の排列
  1 咬頭歯を用いた両側性平衡咬合
  2 リンガライズドオクルージョン
  3 無咬頭歯を用いた片側性平衡咬合
  4 無咬頭歯を用いた両側性平衡咬合
  5 交叉咬合排列
第10章 ろう義歯の完成と試適
 A.ろう義歯の完成
  1 一般的な歯肉形成法
  2 機能的な歯肉形成法
 B.ろう義歯の試適
第11章 レジン重合と咬合器への再装着
 A.Tenchの歯型採得
 B.フラスク埋没とレジン重合
  1 埋没填入重合の器械器具
  2 加熱重合レジンの場合
  3 常温重合レジンの場合
 C.義歯の取り出しと研磨
  1 義歯の取り出し
  2 研磨
 D.咬合器への再装着
  1 スプリットキャスト法
  2 Tenchの歯型法
第12章 削合と義歯の完成
 A.フルバランスドオクルージョンの場合
  1 選択削合
  2 自動削合
  3 形態修正
 B.リンガライズドオクルージョンの場合
第13章 義歯装着,調整,患者指導
 A.装着と装着時の調整
 B.患者指導
 C.治療の評価
第14章 装着後の維持・管理
 A.リコール
 B.リライン
  1 直接法
  2 間接法
 C.修理
  1 義歯床の修理
  2 人工歯の修理
第15章 金属床義歯

・索引