やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 本書は歯内療法学を学ぶ歯科学生と臨床研修医が,近代的な歯内療法学を理論的に理解し,実際の臨床に役立つ知識と技術を習得するための教科書として執筆,編集されたものである.
 歯内療法は歯科治療のなかでも最も重要な基本的な治療のひとつであり,高齢社会を迎えた現在,歯を保存して口腔機能や審美性を良好に保ち,質の高い生活を送るうえできわめて大切である.とくに患者が最も関心をもつ歯の痛みの除去に深く関与するとともに,補綴治療など他の歯科治療を成功させる基盤となるものであり,長期的には全身の健康にも大きな影響を与える.歯科医療の水準を高め国民(患者)の信頼を得て歯科治療を行っていくには,歯内療法の重要性を認識し,質の高い治療を確実に行うことが大切である.
 わたくしはこのような考えのもとに歯内療法学の講義と実習指導を30年間担当してきたが,学生教育のレベルアップには優れた教科書がぜひとも必要であると痛感していた.しかし,残念ながらわが国には歯内療法に関して学生教育に最適といえる教科書がないのが現状である.近年わが国でも海外の翻訳書をはじめ,歯内療法に関する書籍は多数出版されているが,これらは日本の実状に合致せず,学生にわかりにくかったり,臨床を中心にある部分のみに片寄っていたり,重要事項の記載が明確でなかったりして,学生の参考書としては優れていても教科書として適切なものがきわめて少ないの現状である.
 そこで,歯内療法学を学ぼうとする歯科学生や臨床研修医にとってわかりやすく臨床に役立つ教科書を出版したいと考え,全国の歯科大学および歯学部で歯内療法の教育を担当している先生方に分担していただき,“歯学生のための歯内療法学”の企画編集に取り組んだ.
 本書の執筆と編集にあたっては,上述した目標が達成できるよう次のような方針をとった.
 1.学生が歯内療法学の基本事項を理論的に十分理解し,そのうえで臨床技術の知識を得て実施・練習できるようにする.とくにわかりやすい文と図を組み合わせる.
 2.学生が理解しやすいように歯内療法を大きく2つに分け,まず基礎編(総論)として歯内療法に関する解剖,病理,病態,診査・診断,治療法の基本的考えなどについて学び,次に臨床編(各論)として実際の診査・診断と各種治療法について学ぶ.
 3.歯内療法学のなかで臨床的に最も頻度が高く,重要な分野(根管治療と根管充填など)については,現在,臨床的に適切と考えられている基本的な方法を中心に理論と技術を組み合わせて詳述する.
 4.近年,重要視されてきている歯内療法の新しい分野(外科的治療法,根尖未完成歯の治療法など)についても,わかりやすく記載する.
 5.特殊な事項や卒後に研修すべきと思われる事項は,本文と区別し「参考」として解説を加える.
 本書はこのような基本方針のもと,学生の教科書としてわかりやすく,しかも全体の統一をとるため,各執筆者には数回にわたって修正と加筆をお願いし,予定の時間をはかるに超えた3年余りの時間をかけて完成したものである.ご協力をいただいた各分担執筆者およびその協力者の皆様に深く感謝申し上げる.本書が全国の歯科学生や臨床研修医諸君の教科書として歯内療法学の理解と技術の向上に役立てば,執筆者一同たいへん幸せである.
 最後になりましたが,本書の出版にあたりご尽力いただいた医歯薬出版株式会社の皆様に厚く感謝いたします.
 2000年1月1日 加藤 X
I編 総論
1章 歯内療法学の意義と目的 加藤 X……3
 I 歯内療法学とは……3
  I・1 目的……3
  I・2 臨床的意義……5
 II 歯内療法の発展(歴史)……5
  II・1 古代,中世,近世の歯内療法(歯痛の治療)……5
  II・2 近代歯内療法の発達……6
  II・3 歯性病巣感染と現代歯内療法学の発展……6
2章 歯髄と根尖歯周組織の構造と機能 天野義和……8
 I 歯質……9
  I・1 エナメル質……9
  I・2 象牙質……9
   1 象牙質の形成……9
   2 象牙質の構造……9
   3 象牙質の機能と特徴……14
   4 象牙質の知覚(象牙質の神経支配)……14
 II 歯髄……16
  II・1 歯髄の基本成分……16
   1 細胞……16
   2 線維……18
   3 基質(細胞間質)……19
   4 歯髄の表層の状態……19
   5 歯髄の脈管と神経……19
   6 歯髄腔……21
   7 根尖孔……25
  II・2 歯髄の変化……26
   1 加齢的変化……26
   2 歯髄の退行性変化……26
 III 根尖歯周組織……27
  III・1 根尖歯周組織の機能と特徴……27
  III・2 根尖歯周組織の構造……28
   1 セメント質……28
   2 歯根膜……29
   3 歯槽骨……31
3章 歯髄と根尖歯周組織の疾患 長岡成孝……33
 I 歯質の疾患(歯の硬組織疾患)……33
  I・1 う蝕……33
  I・2 歯の形態異常……36
  I・3 歯の形成不全……38
  I・4 咬耗症,摩耗症……38
  I・5 歯の外傷……39
  I・6 歯の化学的損傷―酸蝕症……40
 II 歯髄疾患……40
  II・1 歯髄疾患の特徴と分類……40
  II・2 歯髄充血……44
  II・3 急性歯髄炎……45
   1 急性単純性歯髄炎……46
   2 急性化膿性歯髄炎……47
  II・4 慢性歯髄炎……49
   1 慢性閉鎖性歯髄炎……49
   2 慢性潰瘍性歯髄炎……49
   3 慢性増殖性歯髄炎……50
  II・5 歯髄壊死……51
  II・6 歯髄壊疽……52
  II・7 歯髄の退行性変性……53
  II・8 上行(昇)性歯髄炎……54
  II・9 特発性歯髄炎……55
  II・10 内部吸収……55
 III 根尖性歯周組織疾患……56
  III・1 根尖性歯周組織疾患の特徴と分類……56
  III・2 急性根尖性歯周炎……60
   1 急性単純性根尖性歯周炎……60
   2 急性化膿性根尖性歯周炎(急性歯槽膿瘍)……61
  III・3 慢性根尖性歯周炎……63
   1 慢性単純性根尖性歯周炎……64
   2 慢性化膿性根尖性歯周炎(慢性歯槽膿瘍)……64
   3 歯根肉芽腫……66
   4 歯根嚢胞……68
  III・4 感染根管……70
  III・5 歯内-歯周疾患……72
  III・6 歯性上顎洞炎……75
  III・7 歯根の外部吸収……75
  III・8 腫瘍……76
4章 歯髄疾患と根尖性歯周組織疾患の診査・診断と治療の基本……77
 I 診査・診断と治療法の概念……松尾敬志・恵比須繁之……77
  I・1 歯内療法における診査法……78
  I・2 歯髄疾患の診断と治療法の基本(概念)……79
  I・3 根尖性歯周組織疾患の診断と治療法の基本(概念)……80
 II 滅菌および消毒法……82
  II・1 無菌的処置法……82
  II・2 ラバーダム防湿法……89
  II・3 仮封法……94
 III 診査・診断法……96
  III・1 問診……96
  III・2 仮の診断……98
  III・3 臨床診査……98
  III・4 臨床診査法各論……98
 IV 歯質の疾患の治療法……天野義和……104
  IV・1 う蝕……104
  IV・2 その他の歯質の疾患と治療法……112
 V 歯髄の除痛法……114
  V・1 麻酔除痛法(局所麻酔法)……115
  V・2 薬物塗布法……120
  V・3 精神的鎮静法……120
  V・4 その他の方法……121
II編 各論
5章 歯髄疾患の診査・診断と治療法……125
 I 歯髄疾患の診査・診断,治療の基本的考え……小鷲悠典……125
  I・1 歯髄疾患の診査……125
  I・2 歯髄疾患の診断……125
  I・3 歯髄疾患治療の基本的考え方……129
 II 歯髄保存療法……130
  II・1 歯髄鎮痛消炎療法……130
  II・2 覆髄法……130
 III 歯髄切断法……137
  III・1 生活歯髄切断法……137
  III・2 失活歯髄切断法……141
 IV 抜髄法……141
  IV・1 抜髄法の種類……141
  IV・2 適応症と禁忌症……142
  IV・3 抜髄のための器材準備……142
  IV・4 術式……143
 付 知覚過敏症の治療……長岡成孝……146
   1.原因……146
   2.象牙質知覚過敏症における痛みの発生メカニズムとその特徴……146
   3.病態……147
   4.治療法……148
6章 根尖性歯周組織疾患の診査・診断と治療法 永井淳・金子憲章 ……150
 I 根尖性歯周組織疾患の診査・診断,治療法の基本的考え……150
  I・1 根尖性歯周組織疾患の診査……150
  I・2 根尖性歯周組織疾患の診断……152
  I・3 根尖性歯周組織疾患の治療の基本的な考え方……155
 II 急性根尖性歯周炎の治療法……155
  II・1 急性単純性(漿液性)根尖性歯周炎の治療法……156
  II・2 急性化膿性根尖性歯周炎の治療法……156
  II・3 フェニックス膿瘍の治療法……157
 III 慢性根尖性歯周炎の治療法……157
  III・1 慢性単純性(漿液性)根尖性歯周炎の治療法……158
  III・2 慢性化膿性根尖性歯周炎(慢性歯槽膿瘍)の治療法……158
  III・3 歯根肉芽腫の治療法……159
  III・4 歯根嚢胞の治療法……160
7章 根管治療 加藤 X・川浪雅光……162
 I 根管治療の意義と目的……162
  I・1 根管治療の目的と定義……162
  I・2 根管治療の理論と原則……162
  I・3 根管治療の適応症と禁忌症の判定……163
  I・4 感染根管と抜髄根管……165
  I・5 感染根管の内容物と細菌感染……165
  I・6 根管治療を成功させるための注意事項……167
 II 根管治療の基本的な進め方と使用器具……167
  II・1 根管治療の基本的な進め方……167
  II・2 根管治療に用いられる器械・器具……168
  II・3 根管の拡大・形成用器具の国際規格および使用法……171
   1 歯内療法器具の国際規格……171
   2 根管の拡大・形成用具の基本的な使用法……172
  II・4 根管治療の準備……173
 III 髄腔開拡(歯冠部の処置)……174
  III・1 髄腔開拡の目的と意義……174
  III・2 髄腔開拡の準備と考慮すべき事項……174
  III・3 髄腔開拡の術式……176
 IV 根管長の測定……180
  IV・1 根管長測定の順序……181
  IV・2 根管長の測定方法と測定装置……181
 V 根管の拡大・形成……185
  V・1 根管拡大・形成の基本原則……185
  V・2 スタンダード(標準的)な根管拡大・形成法……186
   1 強い弯曲や狭窄のない根管の拡大・形成法……186
   2 狭窄根管の拡大・形成法(弯曲のない場合)……189
   3 弯曲根管の拡大・形成法……189
  V・3 ステップバック形成法……191
  V・4 その他の拡大・形成法……192
  V・5 電動装置を用いた根管拡大・形成法……193
  V・6 根管の洗浄と根管の化学的清掃・拡大法……194
 VI 根管の消毒……195
  VI・1 根管消毒の意義……195
  VI・2 根管消毒剤の選択……196
  IV・3 根管消毒剤の種類と特徴……197
 VII 根管治療の効果判定と根管内容物の検査……200
  VII・1 臨床症状の変化による判定……200
  VII・2 根管内容物の検査による判定……201
 VIII 根管治療に対する根尖歯周組織の反応……203
 IX 根管治療の補助療法……203
  IX・1 イオン導入法……204
  IX・2 根管通過法……204
8章 根管充填 加藤 X・川浪雅光……205
 I 根管充填の意義と目的……205
  I・1 意義と目的……205
  I・2 根管充填を成功させるには……209
 II 根管充填の適応時期(の判定)……209
 III 根管充填材(剤)とその特徴……210
  III・1 根管充填材の理想的性質(条件)……210
  III・2 根管充填材(剤)の分類とその特徴……211
 IV 根管充填に用いる器材……216
 V 根管充填法……218
  V・1 ガッタパーチャポイントによる根管充填法(固形材による根管充填法)……219
  V・2 銀ポイント(固形材)による根管充填法……228
  V・3 糊剤による根管充填法……229
  V・4 即時根管充填法……230
 VI 根管充填後の治癒経過と予後……231
  VI・1 根尖部創傷の治癒機転(修復メカニズム)……231
  VI・2 治癒に影響する因子……233
  VI・3 治癒成績判定の基準と時期……235
  VI・4 根管充填後の治癒成績(予後成績)……235
9章 根尖未完成歯の治療法 栢 豪洋・藤村哲之……237
 I 間接覆髄,とくに暫間的間接覆髄(IPC)……237
 II 直接覆髄……238
 III 生活歯髄切断……239
 IV アペキシフィケーションとアペキソゲネーシス……240
  IV・1 アペキシフィケーション……240
  IV・2 アペキソゲネーシス(根尖発育術)……241
10章 外科的歯内療法 川浪雅光・加藤 X……243
 I 意義と目的……243
 II 外科的治療法の種類と術式……243
  II・1 外科的排膿法……244
  II・2 根尖外科療法(根尖外科手術)……244
  II・3 根尖外科手術(根尖掻爬術,根尖切除術)の術式……248
  II・4 ルートセパレーションとヘミセクション……250
  II・5 再植術……251
  II・6 歯内骨内インプラント……253
11章 歯の外傷の治療法 中江英明・恵比須繁之……254
 I 歯の外傷の原因……254
  I・1 事故によって生じる外傷……254
  I・2 咬合力によって起こる外傷……254
 II 分類……255
 III 外傷歯の診査および診断……256
  III・1 主訴……256
  III・2 現病歴……256
  III・3 全身的な既往歴……257
  III・4 臨床診査……257
  III・5 X線検査……258
 IV 外傷歯に対する治療法……258
  IV・1 亀裂歯……258
  IV・2 臨床歯冠破折……258
  IV・3 歯根破折……260
  IV・4 歯冠―歯根破折……263
  IV・5 歯の脱臼と嵌入……263
12章 歯内療法時の偶発症の予防と治療 天野義和……264
 I 偶発的露髄……264
 II 髄室壁と髄床底の穿孔……264
  II・1 歯髄腔穿孔および開拡時の穿孔……264
  II・2 根管壁の穿孔……266
 III 治療用器具の根管内破折……267
 IV 治療用器具(リーマーやファイルなど)の嚥下と吸引……268
 V 器具・薬品の落下・溢出……269
 VI 残髄と残髄炎……270
 VII 医原性歯根膜炎……271
  VII・1 治療用器具(リーマー,ファイルなど)の根尖孔外への溢出……271
  VII・2 根管消毒剤・清掃剤の溢出……272
  VII・3 過剰根管充填……272
 VIII 皮下気腫……273
 IX 感染症患者治療時のリーマー,ファイル,注射針などによる手指の穿刺……274
13章 歯内・歯周病変および歯根吸収 小鷲悠典……275
 I 歯内・歯周病変……275
  I・1 歯内・歯周病変の分類……275
  I・2 歯肉・歯周病変の診断と治療……277
 II 歯根の外部吸収・内部吸収・セメント質添加……279
  II・1 歯根の外部吸収……279
  II・2 歯根の内部吸収……280
  II・3 セメント質添加……281
14章 歯内療法後の管理……283
 I 歯冠修復時の注意事項……加藤 X……284
 II 変色歯の漂白……松田浩一……285
  II・1 変色の原因……285
  II・2 無髄歯に対する漂白法……285
  II・3 有髄歯に対する漂白法……287
  II・4 家庭で行う漂白法……287

文献……289
索引……291