やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序

 21世紀を目前にして,今日,わが国は急速に高齢化社会へとシフトしつつあります.口腔の疾病構造の変化に加えて,保健・医療の実態の変化が確実に進んできており,現在,歯科医療および歯学教育は大きな転換期にあります.
 介護保険,包括化問題を含めた保険制度の見直しに始まり,歯科大学における教育システムの変革の問題,歯科治療の高度化・レベルアップの問題,それに伴う歯科医の質および数の問題,そして治療中心の歯科医療から予防・口腔保健主体の歯科医療への転換など,さまざまな課題を抱えています.
 一方,国民の“健康“に対する姿勢,考え方も変わりつつあります.ヘルスプロモーション,セルフケアの意識の高まりにより,“患者と医師の新しい関係”が徐々にではありますが,築かれつつあります.また,プロフェッショナルケアの担い手である歯科医の役割もますます重要になってきています.
 さて,歯周治療の今日までの変遷を見てみますと,従来は“対症療法”が基本であり,症状の改善にのみ主力が置かれていました.そのため,歯周炎(歯槽膿漏)とそれに引きつずく抜歯は,加齢とともに避けられない疾患・処置であると歯科医自身も考え,このことが永久歯喪失の主要な原因となっていました.
 しかし,現在では,プラーク病因説に基ずく歯周病の原因とその進展の機序が明らかになってきました.また,治療の成果を支える科学的根拠の検証が進むにつれ,特殊な歯周炎を除く歯周病の大部分は確実に予防可能な疾患であり,歯周初期治療の時期を失わない限り,治癒可能な疾患であると認識されてきています.
 この歯周治療のゴールは,患者自身によるプラークコントロール(ホームケア),歯科医のプロフェッショナルケア,そして公衆衛生を主体とするコミュニティーケアの三者が一体となってはじめて達成されるものです.
 本書第3版は,歯学部学生,研修医の方々,および若い歯科医の先生方にこれからの新しい歯周治療を理解してもらうためにまとめられたものです.新しい教授要綱,ガイドライン,および研修医の研修目標の内容をベースに,歯周病の最新の知見,技術,臨床上のヒントなど実際の臨床実習および臨床研修に役立つ内容を,わかりやすく解説しています.
 執筆者には,歯周病の基礎と臨床にそれぞれ造詣の深い第一線の先生方にお願いしました.先生方には要を得た原稿と症例を執筆いただき,心からお礼申し上げます.
 本書が少しでも歯科医療の向上,そして日々の診療に役立つことを編者一同,心から願っています.
 最後に,本書第3版の刊行に多大の尽力をいただいた医歯薬出版(株)編集部に深く感謝します.
 1998年4月 編者

序文

 十年一昔といわれるが,歯周治療は一昔前にくらべてずいぶん変わった.初期治療に始まって,再評価,歯周外科,最終治療,メインテナンスにいたる一連の流れは,歯周治療を対症療法から根治療法へと転換させたといっても過言ではない.
 それにともなって歯周治療の成書も花ざかりで,歯科医むけの雑誌にもしばしばとりあげられている.それらはそれぞれに特色があり有益であるが,歯学部学生の臨床実習や卒直後研修にとって内容が膨大でありすぎたり,難解すぎるきらいがある.
 本書の企画意図は,歯学部学生および卒直後の歯科医を対象として,新しい歯周治療の理解を深めることを目的としたものである.そのために,はじめに治療の流れに沿って重要事項を解説し,続いて臨床を行っていくうえでの必要な基礎知識についてのべ,最後に個々の症例についてとくに治療計画に力点をおいて解説するという構成をとった.そして“木を見て森を見ない“ことがないように,随所に“森”を配置し,“木”の理解をさらに深めるよう配慮した.
 本書作成にあたり,私立大学教授の先生方を中心に執筆を御依頼したところ,心よく引き受けていただき,精魂こめた原稿と症例写真を寄せていただいた.企画に沿った本ができあがったと自負するとともに,御礼を申しあげたい.
 しかし,編集の都合上,貴重な原稿,症例写真の部分的削除,変更を行わざるをえなかったことについておわびして,お許しを請う次第である.
 最後に,本書の出版に多大のご尽力をいただいた医歯薬出版編集部の牧野和彦氏,相川富美子氏に感謝する.
 1987年3月 長谷川紘司 岩山幸雄
1章 歯周治療とは ―― 1
 1 歯周治療とは……長谷川紘司…… 2
2章 歯周病の臨床病理 ―― 5
 1 プラーク……長谷川紘司…… 6
 2 炎症……池田克已・下島孝裕…… 8
 3 歯周ポケット……太田紀雄……14
 4 歯槽骨の吸収……栢 豪洋・藤村哲之……17
 5 咬合性外傷……岩山幸雄……18
3章 歯周病の診査 ―― 21
 1 診査総論……野口俊英・吉成伸夫……22
 2 顔面と頚部の診査……太田紀雄……25
 3 歯肉の病的変化……太田紀雄……26
 4 歯周ポケットの診査(ポケットプロービング)……太田紀雄……32
 5 アタッチメントレベル……岩山幸雄・白木雅文……36
 6 歯肉出血と排膿……岩山幸雄・白木雅文……38
 7 歯槽骨触診(骨サウンディング)……栢 豪洋・藤村哲之……40
 8 歯槽骨の病的形態……栢 豪洋・藤村哲之……41
 9 歯肉溝滲出液……岩山幸雄・渋谷俊昭……43
 10 付着歯肉の診査……野口俊英・稲垣幸司……45
 11 小帯と口腔前庭の診査……野口俊英・天埜克彦……47
 12 根分岐部の診査……野口俊英・吉成伸夫……48
 13 歯の動揺……野口俊英・山田章 三……50
 14 歯髄の診査……野口俊英・山田章 三……52
 15 歯の知覚過敏……野口俊英・石川和弘……54
 16 歯の咬耗,磨耗……野口俊英・稲垣幸司……56
 17 歯の病的移動……栢 豪洋・藤村哲之……57
 18 歯の接触関係と食片圧入……野口俊英・稲垣幸司……58
 19 ポケット内細菌叢の検査……長谷川紘司・小林 誠……60
 20 歯肉縁上プラークの診査……新井 高……62
 21 歯石の診査……新井 高……64
 22 口呼吸……加藤 X……65
 23 弄舌癖(舌習癖),職業性習癖……加藤 X……66
 24 ブラキシズム……池田克已・下島孝裕……67
 25 咬合性外傷の診査……岩山幸雄……69
 26 診査用模型による診査……栢 豪洋・藤村哲之……75
 27 エックス線診査……栢 豪洋・藤村哲之……76
 28 口臭の検査……山田 了・角田正健……80
 29 口腔病態写真診査……宮下 元……82
 30 全身的疾患と臨床検査……宮下 元・野口俊英……85
4章 歯周病の診断 ―― 87
 1 歯周膿瘍と歯肉膿瘍……堀 俊雄・出口眞二……88
 2 歯冠周囲炎,智歯周囲炎……堀 俊雄・出口眞二……89
 3 歯肉炎と歯周炎……堀 俊雄・出口眞二……90
 4 若年性歯周炎……上野和之……92
 5 咬合性外傷の診断……岩山幸雄……94
 6 廃用性歯周萎縮の診断……加藤 X……96
5章 予後の判定 ―― 97
 1 予後の判定……岩山幸雄……98
6章 治療計画のたて方 ―― 99
 1 治療計画のたて方……長谷川紘司…… 100
7章 歯周初期治療 ―― 105
 1 治療総論……長谷川紘司…… 106
 2 緊急処置……山田 了・森山貴史…… 112
 3 若年性歯周炎……上野和之…… 114
 4 糖尿病を有するケース……長谷川紘司…… 115
 5 有病者・高齢者のケース……長谷川紘司…… 116
 6 プラークコントロール……新井 高…… 118
  A.意 義…… 118
  B.方 法…… 118
  C.動機づけ…… 118
  D.ブラッシング…… 120
  E.歯間隣接面の清掃法…… 126
  F.口腔洗浄器…… 128
  G.化学的プラークコントロール…… 129
  H.歯周治療におけるプラークコントロール…… 129
 7 スケーリングとルートプレーニング……横田 誠・芳賀健輔…… 130
 8 歯周ポケット掻爬……横田 誠・久保田浩二…… 136
 9 不適切な修復物や補綴物の修正……山田 了・日高庸行…… 138
 10 齲蝕,歯髄疾患の処置……山田 了…… 141
 11 暫間固定……今井久夫・民上良徳…… 143
 12 治療用義歯……今井久夫・稲田芳樹…… 145
 13 歯頚部知覚過敏症……山田 了・山之内一也…… 147
 14 咬合調整……岩山幸雄…… 148
 15 習癖の改善……加藤 X…… 152
 16 食習慣の指導……岩山幸雄・長沢信五…… 153
 17 薬物療法……野口俊英・天埜克彦…… 154
8章 再評価 ―― 157
 1 再評価……村井正大…… 158
9章 歯周外科治療 ―― 161
 1 歯周外科治療の考え方……松江一郎・松江美代子…… 162
 2 歯周外科治療を行う際の考慮事項……上野和之…… 165
  A.適応例の選択と術前処置…… 165
  B.手術野の消毒と麻酔法…… 165
  C.歯肉弁の切開と弁の特徴…… 166
  D.歯周外科手術と縫合法…… 169
  E.歯周外科と歯周パック(歯周包帯)…… 169
  F.歯周外科処置後の投薬…… 172
  G.歯周外科と出血に対する処置…… 172
  H.歯周外科処置後の経過と術後管理…… 173
 I.歯周外科創傷の治癒…… 174
 3 歯周ポケット除去を目的とした手術法の選択……松江一郎・松江美代子…… 176
 4 歯周ポケット掻爬術……松江一郎・松江美代子…… 178
 5 新付着術(ENAP)……松江一郎・松江美代子…… 179
 6 歯肉切除術,歯肉整形術……松江一郎・松江美代子…… 182
 7 フラップ手術……村井正大…… 184
 8 歯周歯槽骨手術……村井正大…… 187
  A.歯槽骨整形術…… 187
  B.歯槽骨切除術…… 188
 9 骨移植……村井正大…… 191
 10 組織再生誘導法(GTR)……岡本 浩・佐藤 純…… 192
 11 歯肉歯槽粘膜形成術(MGS)……松江一郎・松江美代子…… 196
  A.総 論…… 196
  B.歯肉弁側方移動術…… 197
  C.両側乳頭歯肉弁移動術…… 198
  D.歯肉弁歯冠側移動術…… 198
  E.遊離歯肉移植術…… 198
  F.上皮下結合組織移植術…… 200
  G.小帯切除術…… 201
  H.歯肉弁根尖側移動術…… 201
  I.口腔前庭拡張術・口腔前庭開窓術…… 201
 12 根分岐部病変の処置……今井久夫・護邦忠弘…… 202
 13 歯周外科治療後の再評価……岡本 浩・鈴木史彦…… 205
10章 歯周病の最終治療 ―― 207
 1 咬合調整処置……岩山幸雄…… 208
 2 矯正治療……加藤 X…… 210
 3 歯冠修復処置……今井久夫・上田雅俊…… 212
 4 欠損補綴処置……今井久夫・上田雅俊…… 214
 5 最終固定……今井久夫・上田雅俊…… 216
 6 インプラント……岡本 浩・関野 愉…… 218
 7 最終治療後の再評価……今井久夫・上田雅俊…… 220
11章 特殊な歯周病の診断と治療法 ―― 223
 1 慢性剥離性歯肉炎……上野和之…… 224
 2 急性壊死性潰瘍性歯肉炎(ANUG)……上野和之…… 227
 3 薬物性歯肉増殖症……上野和之…… 229
  A.フェニトイン歯肉肥大(ダイランチン歯肉増殖症)…… 229
  B.ニフェジピン歯肉肥大…… 230
  C.シクロスポリン歯肉肥大…… 231
 4 歯肉線維腫症……上野和之…… 232
  遺伝性歯肉線維腫症…… 232
  特発性歯肉線維腫症…… 232
 5 急性ヘルペス性歯肉(口内)炎……上野和之…… 234
 6 ダウン症,パピヨン・ルフェーブル症候群……上野和之…… 235
  A.ダウン(Down)症…… 235
  B.パピヨン・ルフェーブル(Papillon-Lefe´vre)症候群……235
 7 Che´diak-Higashi症候群……岩山幸雄…… 237
12章 メインテナンス ―― 239
 1 メインテナンス……岡本 浩・塚原武典…… 240
13章 歯周病の再発 ―― 243
 1 歯周病の再発防止……岡本 浩・田代俊男…… 244
14章 歯周病の基礎知識 ―― 249
 1 歯周組織の構造……岩山幸雄…… 250
 2 咬合……岩山幸雄…… 253
 3 歯周組織の生理……横田 誠…… 257
  A.歯周組織の神経支配……257
  B.咀嚼と嚥下……258
 4 病因に対する考察……260
  A.局所的原因と全身的要因……池田克已・下島孝裕…… 260
  B.歯 石……山田 了…… 264
  C.歯周病変とホルモン……山田 了…… 265
  D.歯周病と免疫応答……岩山幸雄・渋谷俊昭…… 266
 5 歯周病の疫学に用いられる指数……堀 俊雄・出口眞二…… 269
 6 器具(インスツルメント)……山田 了・中川種昭…… 273
15章 症 例 ―― 281
 1 歯肉炎―軽度・中等度のケース……太田紀雄…… 282
 2 高度単純性歯肉炎……太田紀雄…… 283
 3 歯周炎(1)―中等度のケース……宮下 元…… 284
 4 歯周炎(2)―進行したケース1……宮下 元…… 286
 5 歯周炎(3)―進行したケース2……宮下 元…… 290
 6 歯周炎(4)―進行したケース3……宮下 元…… 292
 7 若年性歯周炎……宮下 元…… 296
 8 不適合修復物のケース……大野 誠…… 297
 9 咬合性外傷-特に二次性咬合性外傷……池田克已…… 298
 10 歯周ポケット掻爬術を行ったケース……岩山幸雄…… 300
 11 新付着術(ENAP)を行ったケース……岩山幸雄・白木雅文…… 301
 12 歯肉切除術を行ったケース……村井正大…… 302
 13 フラップ手術を行ったケース……村井正大…… 303
 14 口蓋裂溝を伴ったケース……岩山幸雄・勝谷芳文…… 304
 15 根分岐部病変の治療(1)―ファルカプラスティを行ったケース……今井久夫…… 305
 16 根分岐部病変の治療(2)―トンネリングを行ったケース……今井久夫…… 306
 17 根分岐部病変の治療(3)―歯根分割を行ったケース……長谷川紘司・鈴木基之…… 307
 18 根分岐部病変の治療(4)―歯根切除を行ったケース……長谷川紘司・鈴木基之…… 308
 19 根分岐部病変の治療(5)―ヘミセクションを行ったケース……長谷川紘司・鈴木基之…… 309
 20 固定(暫間,最終)を行ったケース……今井久夫…… 310
 21 歯肉歯槽粘膜形成術を行ったケース(1)―歯肉弁側方移動術……長谷川紘司・小林 誠…… 311
 22 歯肉歯槽粘膜形成術を行ったケース(2)―遊離歯肉移植術……長谷川紘司・小林 誠…… 312
 23 歯肉歯槽粘膜形成術を行ったケース(3)―小帯切除術……松江一郎・松江美代子…… 313
 24 歯肉歯槽粘膜形成術を行ったケース(4)―口腔前庭拡張術……松江一郎・松江美代子…… 314
 25 歯内-歯周関連病変のケース……岩山幸雄・長沢信五…… 315
 26 歯周膿瘍……栢 豪洋…… 316
 27 急性壊死性潰瘍性歯肉炎(ANUG)……宮下 元…… 317
 28 慢性剥離性歯肉炎……宮下 元…… 319
 29 フェニトイン歯肉増殖症……栢 豪洋…… 320
 30 歯肉線維腫症……宮下 元…… 321
 31 口呼吸を伴ったケース……加藤 X…… 322
 32 弄舌癖を伴ったケース……加藤 X…… 323
 33 ブラキシズムを伴ったケース……加藤 X…… 324
 34 MTMを行ったケース……池田克已・楠 公仁…… 325

文献 ―― 327
索引 ―― 333