やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 義歯装着者にとって,使い慣れた義歯の機能が低下せず,いつまでもよく噛めて健康を維持できることが理想である.しかし,現実は,加齢による生体の変化と義歯の疲労,劣化,破折,摩耗などが進行するので,義歯の機能を恒常的に保つのはむずかしい.最も大きな変化は顎堤の吸収による義歯の適合不良であり,痛い,ゆるい,噛めないなどの症状となって現れる.不適合な義歯を使用し続けると下顎位が変化したり,顎関節にも影響を及ぼす.リライニング(床裏装)やリペアー(修理)を的確に行うことによって,顎口腔系に調和してきた義歯の機能期間をさらに延長でき,高齢義歯患者の健康保持にとって朗報となる.
 従来,リライニングやリペアーは,補綴治療においてともすればマイナーな領域と考えられていたが,義歯の機能期間の延長,通院回数の減少,治療時間の短縮,医療費の軽減などを考慮すると,もっと重要視されてよい時期にきている.そればかりか新義歯は患者がそれを受け入れ,口腔内の環境に適合するまでにかなりの調整を余儀なくされる場合がある.患者の病態を十分に把握して,リライニング,リペアーか再製作すべきかの見極めが重要である.高齢者にとっては,リライニング,リペアーによって再生した義歯のほうが,機能的にも審美的にもよい結果を生むことが多い.
 本書はこのような背景のもとに企画されたものであるが,コンプリートデンチャーのリライニング,リペアーを中心にオーバーデンチャーや移行義歯など,コンプリートデンチャーに準ずる症例を対象とし,典型的なパーシャルデンチャーのリライニング,リペアーは他の機会にゆずることにした.
 単に新材料を裏装して再適合を図ればよいのではなく,適切な義歯床の形態と咬合のもとにリライニングされてこそ義歯はよみがえるのである.すなわち,不適合義歯→適合試験→前処置→リライニング→負担圧分布の均一化→咬合力の回復という一連の流れになる.そこで,本書においても診査,診断,前処置の各項目にもかなりのスペースを割いた.また,最近,軟質リライニング材が数多く開発され,臨床応用されているので,直接法,間接法に分けて記述した.さらに関連する項目として,低位咬合,義歯による痛み,顎関節症への対応を取り上げた.
 快適な食生活を保障することが患者の健康を維持,増進し,QOLを高めることになるので,本書がそれに寄与することができれば望外の喜びである.
 最後に,本書の出版にあたり,直接リベース,義歯床の適合試験の創始者であり,ご指導いただいた鶴見大学尾花甚一名誉教授に深謝するとともに,編集,執筆者各位,そして医歯薬出版株式会社の編集担当者にお礼申し上げます.
 平成9年 盛夏 細井紀雄
1章 義歯装着後に生じるさまざまな変化……1
 1 義歯装着後に生じるさまざまな変化……2
  1.義歯床にみられる変化……2
   1)不適合……2
   2)破折,破損……3
  2.人工歯にみられる変化……3
   1)咬耗,摩耗……3
   2)脱落……3
   3)破折,破損……3
  3.咬合位の変化……4
  4.生体にみられる変化……5
   1)下顎位の変化……5
   2)痛み……6
    (1) 床下粘膜の痛み……6
    (2) 顎関節の痛み……6
   3)圧痕……7
   4)フラビーガム……7
   5)義歯性線維腫……8
   6)支台歯の破折,齲蝕,喪失……8
2章 コンプリートデンチャーのリライニング……9
 1 義歯床の不適合の原因……10
  1.歯槽骨の吸収と顎堤の形態変化……10
  2.義歯の移動,変位……11
    ワンポイント・リサーチ:上顎義歯に対する下顎義歯の水平的移動量……13
 2 診査・診断……14
  1.口腔内の診査……14
   1)上顎の解剖学的ランドマーク……14
   2)上顎の床縁決定に有効な口腔の機能運動……15
   3)下顎の解剖学的ランドマーク……16
   4)下顎の床縁決定に有効な口腔の機能運動……16
  2.義歯の診査……17
   1)義歯床基底面の適合診査……17
   2)義歯床縁・床翼の診査……19
   3)人工歯・咬合面の診査……20
  3.咬合と咀嚼機能の診査……21
  4.下顎位,下顎運動の診査……23
   1)下顎位の診査……23
    (1) 顔貌と義歯……23
    (2) 咀嚼側……23
    (3) 下顎頭の形態と位置……25
   2)下顎運動の診査……26
    (1) ゴシックアーチによる診査……26
    (2) 下顎運動測定装置による診査……27
    (3) 筋電図による診査……27
 3 前処置……29
  1.義歯の清掃……29
  2.咬合調整……32
  3.床縁,床翼の調整……34
  4.粘膜調整(ティッシュコンディショニング)……36
 4 直接法リライニング……41
  1.直接法リライニング材……41
   1)化学重合型レジン……41
   2)光重合型レジン……43
  2.化学重合型レジンによるリライニング……44
   1)低刺激型(トクソーリベース)……44
  3.光重合型レジンによるリライニング……49
    ワンポイント・リサーチ:リライニング材の接着強度……51
 5 間接法リライニング……52
  1.フラスキング法……52
   1)上顎金属床義歯のリライニング……52
   2)マイクロ波重合によるリライニング……57
   3)射出填入法によるリライニング……59
  2.ノンフラスキング法……62
  3.ポリスルホン床義歯のリライニング……64
 6 軟質裏装材によるリライニング……66
  1.軟質裏装材……66
   1)アクリル系軟質裏装材……66
   2)シリコーン系軟質裏装材……66
   3)フッソ系軟質裏装材……67
   4)ポリオレフィン系軟質裏装材……67
  2.間接法リライニング……68
   1)シリコーン系軟質裏装材によるリライニング……68
   2)アクリル系軟質裏装材によるリライニング……70
   3)ポリオレフィン系軟質裏装材による新義歯へのリライニング……71
  3.直接法リライニング……73
   ワンポイント・リサーチ:義歯床下粘膜の負担圧分布……77
   臨床ヒント:適合診査材についての一言メモ……78
3章 コンプリートデンチャーのリベース……79
 1 リベース(改床,床交換法,復床法)80
   適応症……80
   前処置……80
   印象法……80
   技工操作のポイント……80
   リベース法の分類……81
  1.石膏コアを用いたリベース……81
   1)フラスキング法……81
   2)ノンフラスキング法……84
    ワンポイント・リサーチ:義歯の機能評価……86
    臨床ヒント:義歯を長期間,機能させるために―金属床義歯の活用―……88
4章 コンプリートデンチャーのリペアー……89
 1 義歯床のリペアー90
  1.床破折の原因……90
   1)顎堤の形態的変化……90
   2)人工歯の摩耗と床の劣化……90
  2.リペアーの方法……90
  3.筆積み法によるリペアー……91
  4.補強線の埋入によるリペアー……92
 2 人工歯のリペアー……94
  1.破折,脱落の原因……94
  2.リペアーの方法……95
   1)人工歯の交換……95
   2)硬質レジンによるリペアー……97
  3.咬合面再形成……98
   1)直接法……99
   2)間接法……101
5章 パーシャルデンチャーのリライニング&リペアー……103
 1 直接法リライニング……104
 2 支台歯,支台装置のリペアー……109
  1.支台装置のリペアー……109
   1)レジン床義歯のクラスプ修理……109
   2)金属床義歯のクラスプ修理……112
  2.支台歯のリペアー……113
   1)クラウンの再製作……113
   2)コーピングへの変更……116
 3 人工歯のリペアー……118
  1.人工歯の咬耗と破折……118
  2.金属歯へのリペアー……118
 4 義歯床のリペアー……121
  1.レジン床の単純な破折の修理……121
  2.レジン床の複雑な破折や,補強線を必要とする修理……122
  3.金属床の破折の修理……123
 5 オーバーデンチャーへの移行……126
6章 リライニングによる低位咬合への対応……129
 1 低位咬合への対応……130
  1.低位咬合の診査,診断……130
  2.リライニングによる低位咬合の改善……130
7章 義歯による痛みへの対応……135
 1 義歯による痛みへの対応……136
  1.痛みの原因……136
   1)静的な痛み……137
   2)動的な痛み……137
  2.痛みへの対応……137
   1)新義歯による痛みへの対応……138
    (1) 新義歯装着日の痛み……138
    (2) 新義歯装着後の痛み……138
    (3) どうしても取れない痛み……139
   2)旧義歯による痛みへの対応……139
    (1) 顎堤の吸収変化……140
    (2) 咬合の変化と咀嚼側……141
8章 顎関節症への対応……143
 1 顎関節症への対応……144
  1.診査……145
   1)問診……146
   2)視診,触診,聴診,運動診査……146
   3)画像審査……147
  2.診断と治療……147
   1)運動痛を主訴とする患者の治療……148
    (1) 診断と治療方針……149
    (2) 治療……150
   2)自発痛を主訴とする患者の治療……153

索引……155