やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 日本の歯科医学・歯科医療は,ほとんど欧米の知識や技術の上に成り立っている.私たち臨床医は,これまでその知識や技術を輸入し学ぶことに多くの時間を費やしてきたが,その状況は今日も,大きく変わってはいない.しかしながら,歯質に強固に接着し,さよざまな特徴を有する機能性高分子である4-META/MMA-TBBレジンは,純粋に日本で生み出された材料であり,これを基にした接着歯学と接着歯科臨床は日本で育まれたものである.
 4-META/MMA-TBBレジンは,臨床的に画期的な材料でありながら,使いこなしが難しく,臨床医がその価値を十分に理解しているとはいえない.そんななかで何人かの同好の者が集まっては,こんな使い方をすれば非常によい効果が引き出せる,こういう使い方をすれば患者さんにもっと喜んでもらえる診療ができる,という雑談をしていた.臨床でもっと有効に使用するには,何を勉強しどのような技法を開発すればよいか,日本で生み出された接着材を活用してオリジナリティーの高い臨床を築きあげたい等々を語り合ううちに,雑談の場が発展して平成1年10月に接着臨床研究会が発足した.
 さいわいにも,この会は4-META/MMA-TBBレジンを開発した東京医科歯科大学名誉教授の増原英一先生ならびに東京医科歯科大学教授(医用器材研究所)の中林宣男先生,そして東京歯科大学教授の下野正基先生の懇篤な指導をいただくことができたため,今日まで発展的に続けることができた.
 このような経過のなかで,私たちの研究会は接着性レジンの歯髄に対する安全性,象牙質保護膜の生成,根管充填材としての有効性,破折歯根の接着保存など,多くの活用法をグループで検証し,その可能性を検索してきた.
 わずか6年足らずという短期間の研究会活動ではあるが,これまでに蓄積したノウハウを公にし,接着を歯科臨床に応用することの意義と方向性を世に問い,ご批判をいただきたいという趣旨で,過日,接着臨床研究会セミナーを開催した.幸い多数の参加者から高い評価をいただいたが,一方あまりにも盛りだくさんで消化しきれないとの苦言も頂戴した.
 そこで,早急に書籍のかたちにまとめられないかと検討したところ,医歯薬出版株式会社のご理解をいただくことができた.この本は,接着臨床研究会セミナーの講演内容を基に加筆訂正を行ったものを主とし,さらに新たに稿を起こしていただいたものを加えてまとめたものである.
 接着臨床研究会セミナーの企画・開催にあたっては,サンメディカル株式会社,そして企画・事務全般にわたって秋編集事務所の多大な協力を得た.その労を多とし,謝意を表したい.
 接着臨床研究会代表 眞坂信夫
はじめに

第1章 硬組織疾患治療の問題点
 1 患者の信頼とドクターの充足を求めて(眞坂信夫)
  症例1 歯質に含浸した接着性レジンが二次齲蝕防止に有効なことを示す実例(眞坂信夫)
  症例2 歯髄の保護・保存に有効であることを示す症例(眞坂信夫)
  症例3 根管穿孔歯の保存が可能であることを示す症例(眞坂信夫)
  症例4 歯根破折により脱落したポストクラウンを接着により再装着し,長期間保存できることを示す症例(眞坂信夫)
 2 脱落と二次齲蝕の調査から(豊島義博)
 3 エナメル質の生物学的な考察(下野正基)
第2章 超接着
 1 “超接着”―象牙質との接着機構が教えてくれること(中林宣男)
 2 接着をいかした齲蝕治療(安田 登)
  Discussion「露出象牙質の保護」について(下野正基)
  Discussion「人工エナメル質」について(中林宣男)
 3 有髄歯の支台築造(植野芳和)
  症例1 接着アマルガム支台築造(植野芳和)
  症例2 接着コンポジットレジン支台築造(植野芳和)
  Discussion「接着アマルガム」について(眞坂信夫)
第3章 歯髄の保護
 1 象牙質の生物学的な考察(下野正基)
 2 接着性レジンによる覆髄(眞坂信夫)
  症例1 若年者の暫間的直接覆髄の一例(三ツ木久弥)
  症例2 暫間的間接覆髄(植野芳和)
  症例3 高年齢者の直接覆髄(植野芳和)
  Discussion 歯髄保存療法と患者の年齢(下野正基/安田 登/植野芳和)
  症例4 歯根切除露髄面の直接覆髄(市村賢二)
  Discussion 「歯髄からの出血」について(市村賢ニ/安田 登/下野正基/眞坂信夫)
  症例5 止血の容易な経過良好例(眞坂信夫)
  症例6 止血が不完全だった経過不良例(眞坂信夫)
  症例7 止血の難しい露髄に応用するケミカルサージェリー(眞坂信夫)
  症例8 スポット露髄は条件がよい(眞坂信夫)
  症例9 成人の歯髄保存処置の齲窩底部の細菌検査(市村賢二)
第4章 歯根-歯根膜の保存
 1 軟組織とのハイブリッド(井上孝)
 2 失活歯のトラブルに接着をいかす(諸星裕夫)
  症例1 穿孔した髄床底の封鎖(諸星裕夫)
  症例2 残存歯質が薄い場合の接着支台築造(諸星裕夫)
  症例3 破折歯根の保存―毛髪様亀裂歯根(諸星裕夫)
  症例4 破折歯根の保存―新鮮破折歯根(諸星裕夫)
  症例5 破折歯根の接着再植法(諸星裕夫)
 3 垂直破折歯の接着保存(眞坂信夫)
 症例1 口腔内接着法の臨床例(眞坂信夫)
 症例2 再植を伴う接着法の臨床例(眞坂信夫)
 症例3 回転再植を伴う接着法の臨床例(眞坂信夫)
 4 根管充填における接着性レジンの応用
  症例1 経過不良症例の再根管治療(眞坂信夫)
  症例2 根尖が吸収し,アピカルシートをつくれない感染根管治療における根管充填(眞坂信夫)
  症例3 麻酔抜髄即時根充(眞坂信夫)
  Discussion「接着性レジンの細胞毒性について」(下野正基)
第5章 補綴における接着性レジンの応用
 1 セラミックスの接着に関する最近の進歩(松村英雄)
  Advice ポーセレンラミネートベニアの接着(諸星裕夫)
 2 金属の接着に関する最近の進歩(松村英雄)
  Advice 金属焼付ポーセレン冠の破折修理(安田 登)
 3 歯冠修復物の接着操作(諸星裕夫)
  Advice 私の歯冠修復物の接着操作(諸星裕夫)
  Advice 歯冠修復に接着材を用いると浮き上がりが心配(諸星裕夫)
  Advice 十分な操作時間を確保するために(諸星裕夫)
  Advice 硬化後の余剰レジンの除去をどうするか(諸星裕夫)
 4 動揺歯固定の耐久性について(三ツ木久弥)
  症例1 動揺歯暫間固定法(三ツ木久弥)
  症例2 メッシュ板による動揺歯固定法(市村賢二)
 5 接着ブリッジについて(眞坂信夫)
  症例1 純接着フリッジ(眞坂信夫)
  症例2 嵌合接着ブリッジ(眞坂信夫)
  症例3 嵌合接着ピンレーブリッジ(眞坂信夫)
  症例4 接着性レジン使用従来法ブリッジ(眞坂信夫)
  Advice 接着ブリッジの設計(三ツ木久弥)
 6 金属床のリベースや修理に接着性レジンを用いる場合の注意点(安田 登)

おわりに