やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4版序―装いを新たに―

 歯科における学理と実際,その関係は他の学系のそれ以上に重要視しなければならない事項であります.口腔の病変,病態の中で上下顎のすべての歯を失った無歯顎者の形態と機能の回復をはかる治療法としての補綴装置,すなわちコンプリートデンチャーの製作とその装着は歯学の最も特色とする領域であり,そのための技術能力の養成はきわめて重要であります.
 本書はこの無歯顎者治療として製作するコンプリートデンチャーの基本的な術式を理解しやすく解説した実習指導書であります.1974年に13大学の協力で初版を出版して以来,1980年にはさらに4大学の参加を得て大幅に改訂した第2版,1986年にはさらに6大学の参加を得て計23大学の協力により歯学教授要綱の改定に呼応して加筆,修正を加え第3版を出版しました.この第3版は完成された実習指導書として歯学部学生はもちろん,歯科技工士学校の参考書,卒直後教育への活用,臨床家への指標として原典的役割を果たしてきたと自負しています.
 さて,1994年に歯学教授要綱が歯科医学教授要綱として改定され,21世紀に向けての歯科医学教育の方向づけがされました.この要綱から全部床義歯補綴学の教育目的をみると“……,治療における基本的な補綴装置に関する理論および術式を理解させ,これらを修得するために,講義,基礎実習・示説,臨床実習を行う……”到達目標は“無歯顎患者の全身状態を把握し,無歯顎口腔と顎口腔系に関する診査,診断に基づく治療方針,治療法,患者指導,術後管理についての基本的な事項を修得させ,患者が快適で健康な生活を営める無歯顎補綴の本質を理解させる”と記載されています.また,実習教授項目のうち,基礎実習と示説については・175B 1) 診査・診断法と設計・175B 2) 下顎位と下顎運動の検査方法・175B 3) 処置方法と手順・175B 4) 印象法・175B 5) 顎間関係の記録法・175B 6) 義歯の製作法,があげられています.
 この教授要綱と日本補綴歯科学会の教育問題検討委員会資料を参考として本書の改定作業を進めることにしました.
 この第4版の改定作業は1993年3月後半から進められ,初版から編集委員として活躍された広島大学 津留宏道教授,筑波大学 根本一男教授のお2人のご定年,大阪歯科大学 西浦 恂教授のご逝去による3名の交代が行われ,新たに編集委員として鶴見大学 細井紀雄教授,大阪歯科大学 権田悦通教授,岡山大学 佐藤骼u教授が加わりました.編集の基本は初版時と同一ですが,各章の内容の見直しとそれに伴う写真の撮り直しなどの作業を進めることにしました.写真を撮り直すにあたり,統一をはかるため,新しい無歯顎実習用模型を製作し用いました.また,第3版では26章あった章を統合整理し23章としましたが,削除項目は本書の姉妹編である“コンプリートデンチャークリニック”に詳細に記されていることにより,割愛しました.
 編集委員の交代のほか,執筆いただいている教授の交代が9大学にあり,新たに北海道医療大学 平井敏博教授,北海道大学 川ア貴生教授,東北大学 渡辺 誠教授,奥羽大学 清野和夫教授,新潟大学 河野正司教授,松本歯科大学 五十嵐順正教授,朝日大学 藤井輝久教授,広島大学 赤川安正教授にお願いしました.また,九州歯科大学の守川雅男教授に新しくご参加いただき,23大学の協力の下で全面改訂の作業を進め,ここに装いを新たにした実習指導書を作り得たと確信しています.
 いうまでもなく,初版から執筆いただいている大学は実習用咬合器としてGysi Simplex型を使用していることから協力がはじまりましたが,その輪を広げてきたことは素晴らしいことであり,本書の誇りであります.
 ここに全面改訂による新しい第4版の出版に際し,第3版までの長期間ご盡力いただいた編集委員各位,ならびに執筆いただいた教授各位に心からお礼申し上げるとともに,新たに執筆下さいました各先生のご協力に対し感謝致します.
 また,咬合器改良などについて長年にわたり対応いただいている小貫医器 小貫伸社長,ならびに初版以来本書製作にご助力いただいている医歯薬出版株式会社に心より感謝致します.
 1996年3月20日 編集委員
1 概説……1
 A.無歯顎とは……1
   1.無歯顎の病態……1
   2.無歯顎補綴とは……2
   3.上顎の様相……3
   4.下顎の様相……4
   5.側頭下顎関節,下顎位,下顎運動……5
   6.咀嚼筋と表情筋……7
   7.顔貌の変化……9
 B.コンプリートデンチャーによる補綴治療……9
2 診査・診断……11
 A.無歯顎患者の診査……11
   1.一般的診査……11
   2.口腔ならびにその付近の診査……12
   3.エックス線診査……13
   4.旧義歯に対する観察……14
   5.研究模型による診査……14
     1)印象域……14
     2)研究模型上での診査……15
 B.診断ならびに治療計画(方針)……16
3 概形印象と研究模型……17
 A.アルジネート印象……17
   1.既製トレーの選択と適合,修正……17
   2.概形印象と研究模型の製作……18
 B.モデリングコンパウンド印象……19
   1.既製トレーの選択と適合,修正……19
   2.概形印象と研究模型の製作……20
 C.連合印象……22
4 個人トレー……23
 A.個人トレーの設計……24
 B.個人トレーの製作……25
   1.スペーサーなしの場合……25
   2.スペーサーありの場合……28
5 精密印象と作業模型……29
 A.精密印象……29
 B.作業模型の製作……30
6 咬合床の製作……33
 A.模型の診査……34
 B.基礎床の製作……35
 C.咬合堤の製作……37
7 顎間関係の記録……39
 A.仮想咬合平面の設定……40
   1.上顎咬合床から設定する場合……40
   2.下顎咬合床から設定する場合……44
 B.垂直的(上下的)顎間関係の記録……44
   1.垂直的顎間関係(咬合高径)の計測……45
   2.垂直的顎間関係(上下的)の記録……45
 C.水平的(前後的,左右的)顎間関係の記録……48
8 咬合器……51
 A.咬合器の種類……51
 B.平均値咬合器各部の名称……52
 C.Gysi Simplex OUII型咬合器の運動機構……53
   1.前方指導要素……53
   2.後方指導要素……53
 D.半調節性咬合器各部の名称……55
   1.Hanauモジュラー#190……55
   2.Hanau H2-O……55
   3.LL-85……56
   4.松風プロアーチII……56
9 模型の咬合器付着……57
 A.平均的位置への付着……57
   1.咬合器に直接付着する方法……57
   2.スプリットキャスト法……59
 B.フェイスボウを用いた付着……60
 C.ゴシックアーチ描記……65
   1.装置の取り付け……66
   2.描記法と下顎模型の再付着……67
 D.咬合器の顆路調節……68
   1.アルコンタイプ咬合器……69
   2.コンダイラータイプ咬合器……70
10 前歯部人工歯の選択と排列……71
 A.前歯部人工歯の選択……71
   1.人工歯の種類……71
   2.人工歯の選択基準……72
   3.人工歯選択の実際……73
 B.前歯部人工歯の排列……74
   1.下顎法……75
   2.上顎法……79
11 臼歯部人工歯の選択と排列……81
 A.臼歯部人工歯排列の原則的事項……81
   1.臼歯部人工歯の排列位置……81
   2.咬合の平衡……83
 B.臼歯部人工歯の選択……84
   1.材質……84
   2.形態……85
   3.大きさと色調……86
 C.臼歯部人工歯排列の実際……87
   1.咬頭歯を用いた両側性平衡咬合……87
   2.両側性平衡咬合のリンガライズドオクルージョン……98
   3.正常咬合排列用の人工歯を用いた交叉咬合排列……101
   4.無咬頭歯を用いた片側性平衡咬合……103
   5.無咬頭歯を用いた両側性平衡咬合……105
12 歯肉形成……107
 A.一般的な方法……108
 B.研磨面を機能的に形成する方法……112
13 蝋義歯試適……113
14 歯型採得……115
15 フラスク埋没とレジン重合……117
 A.埋没・重合の器械・器具……119
 B.加熱重合レジンの場合……120
   1.埋没の前準備…c120
   2.フラスク埋没……122
   3.流蝋……125
   4.レジン重合(湿熱法)……126
 C.常温重合レジンの場合……128
   1.流し込み法……128
   2.加圧注入法……130
16 義歯の取り出しと研磨……131
 A.義歯の取り出し……131
 B.義歯の研磨……133
17 義歯の試適と咬合器への再付着……135
 A.スプリットキャスト法……136
 B.Tenchの歯型法(リマウンティングレコード法)……137
 C.併用法(スプリットキャスト法とTenchの歯型法の併用)……140
18 削合……143
 A.フルバランスドオクルージョン……145
   1.選択削合……145
   2.自動削合……153
   3.形態修正……155
 B.リンガライズドオクルージョン……158
19 装着と観察……161
20 床裏装……163
 A.フラスク埋没による方法……163
 B.デュプリケーターによる方法……166
21 修理……167
 A.義歯床の破折修理……167
 B.人工歯の破折修理……169
 C.人工歯の追加修理……170
22 金属床……171
23 即時義歯……175

索引……179
付/器材一覧……189