序
わが国の口腔解剖学の分野においては,故藤田恒太郎名誉教授の名著『歯の組織学』や『歯の解剖学』があり,両書は長く世界の水準を超えた名著であった.したがって,昔は外国の同類書籍の翻訳などはあくり見られなかったものである.
現在では口腔組織学関係の参考書として評判の高いものの一つとして,'Orban's Oral Histology and Embryology' (口腔組織・発生学)がある.わが国の口腔組織学の教授要綱は,同書の各項目にほぼ等しくなっている.しかし,削減された授業時間数では,同書を教科書として使用できるほどの余裕はどこの大学でももてないのが普通である.
そこでわれわれは,Orbanのサブノート的教科書を目ざして,15回程度で口腔組織学を講義できるものを目標として,本書を編纂した.不要な部分はカットし,不足なところは追加講義してほしい.
本書の特徴は,歯学教授要綱にのっとってまとめたことや,付図にも他書に類をみないものを配図することができた点などである.たとえば,歯髄の年齢変化,乳歯と第一大臼歯の新産線の差,スティップリングの顕微鏡写真等々である.また脚注を多くして,エナメル,鞘,蕾などの説明を記したこと学生諸君の理解を助けるであろう.
臨床的応用を章末に付したことは,Orbanの方式にならったものである.今後,この臨床的応用の部の必要性がますます増加すると思われる.
一般に分担執筆は,各執筆者の考え方の差によって,簡略な部分や詳細にすぎる箇所ができたりするので,教科書として好ましくないといわれている.したがって,教科書の執筆者は単独か少数のほうがよいとされている.
本書は分担執筆ではあるが,そのようなことのないように各章のページ数を編集会議で十分検討し,各執筆者にはページ数を守るように努力していただきたい.その結果,各章がほぼ同程度の基準で編集できたものと思っている.とはいえ,最初から完全なものができるものではないので,同学の先輩,同僚の諸先生および読者諸兄からお気づきの点を遠慮なくご指摘いただければ幸いである.
本書の編集には思いのほか時間を要したが,この間,高橋常男助教授,岩井康智博士,佐藤敦子助教授らの多大なご協力を得て,このたびやっと完成することができた.ご協力に対して心から厚くお礼申し上げる.
最後になったが,本書の出版にあたっては医歯薬出版編集部の方々の努力に負うところも大きい.記して感謝の意としたい.
1993年3月
執筆者を代表して
三好作一郎
わが国の口腔解剖学の分野においては,故藤田恒太郎名誉教授の名著『歯の組織学』や『歯の解剖学』があり,両書は長く世界の水準を超えた名著であった.したがって,昔は外国の同類書籍の翻訳などはあくり見られなかったものである.
現在では口腔組織学関係の参考書として評判の高いものの一つとして,'Orban's Oral Histology and Embryology' (口腔組織・発生学)がある.わが国の口腔組織学の教授要綱は,同書の各項目にほぼ等しくなっている.しかし,削減された授業時間数では,同書を教科書として使用できるほどの余裕はどこの大学でももてないのが普通である.
そこでわれわれは,Orbanのサブノート的教科書を目ざして,15回程度で口腔組織学を講義できるものを目標として,本書を編纂した.不要な部分はカットし,不足なところは追加講義してほしい.
本書の特徴は,歯学教授要綱にのっとってまとめたことや,付図にも他書に類をみないものを配図することができた点などである.たとえば,歯髄の年齢変化,乳歯と第一大臼歯の新産線の差,スティップリングの顕微鏡写真等々である.また脚注を多くして,エナメル,鞘,蕾などの説明を記したこと学生諸君の理解を助けるであろう.
臨床的応用を章末に付したことは,Orbanの方式にならったものである.今後,この臨床的応用の部の必要性がますます増加すると思われる.
一般に分担執筆は,各執筆者の考え方の差によって,簡略な部分や詳細にすぎる箇所ができたりするので,教科書として好ましくないといわれている.したがって,教科書の執筆者は単独か少数のほうがよいとされている.
本書は分担執筆ではあるが,そのようなことのないように各章のページ数を編集会議で十分検討し,各執筆者にはページ数を守るように努力していただきたい.その結果,各章がほぼ同程度の基準で編集できたものと思っている.とはいえ,最初から完全なものができるものではないので,同学の先輩,同僚の諸先生および読者諸兄からお気づきの点を遠慮なくご指摘いただければ幸いである.
本書の編集には思いのほか時間を要したが,この間,高橋常男助教授,岩井康智博士,佐藤敦子助教授らの多大なご協力を得て,このたびやっと完成することができた.ご協力に対して心から厚くお礼申し上げる.
最後になったが,本書の出版にあたっては医歯薬出版編集部の方々の努力に負うところも大きい.記して感謝の意としたい.
1993年3月
執筆者を代表して
三好作一郎
序
第1章 顔面と口腔の発生……1
1 精子と卵子の形成……1
2 受精と着床……1
3 3層性胚盤の形成……2
4 神経管,神経堤の形成……5
5 口腔と鰓弓の形成……6
6 舌の形成……8
7 顔面の形成……9
8 口蓋の形成……9
9 歯槽突起と口唇の形成……11
10 上顎・下顎の発生……11
11 唾液腺の発生……11
12 甲状腺,胸腺,上皮小体(副甲状腺)の発生……11
13 下垂体前葉の発生……13
14 扁桃の発生……13
15 顎,顔面の奇形……13
第2章 歯の発生……15
1 歯堤と唇溝堤……15
2 歯胚……15
3 エナメル器の細胞……16
4 歯乳頭の細胞……20
5 歯嚢の細胞……20
6 歯堤の運命……20
7 唇溝堤(前庭堤)……22
8 Hertwig上皮鞘……22
9 象牙質の形成……22
10 エナメル芽細胞……23
11 エナメル質の発生……25
12 エナメル基質の石灰化とエナメル質の成熟……27
13 歯根の形成……27
14 歯の萌出と交換……27
15 萌出運動の機序……29
16 萌出時の組織像……29
17 歯の交換……30
18 破歯細胞……31
第3章 エナメル質……33
I エナメル質の物理的性質……33
II エナメル質の化学的性質……34
III エナメル質の組織構造……34
1 エナメル質小柱,小柱鞘,小柱間質……34
2 Retzius線と横紋,周波条……37
3 Hunter-Schreger線……40
4 エナメル叢……41
5 エナメル葉……42
6 エナメル紡錘……42
7 エナメル象牙境……43
8 歯小皮と被膜……43
9 加齢的変化……44
IV 臨床的応用……44
第4章 象牙質……47
I 象牙質の物理的・化学的性質……47
II 象牙質の組織構造……48
1 象牙細管……48
2 管周象牙質……49
3 管間象牙質……49
4 象牙前質……50
5 象牙芽細胞突起(Tomes線維・象牙線維)……51
6 外表象牙質と髄周象牙質……51
7 一次象牙質(原生象牙質)・二次象牙質……51
8 象牙質の成長線……51
9 球間象牙質……54
10 Tomes顆粒層……54
11 球間網……57
12 神経支配……57
13 その他の象牙質の痛覚伝導説……57
14 加齢および機能的変化……58
15 修復象牙質……58
16 死帯(不透明帯)……58
17 透明象牙質……58
III 臨床的応用……60
第5章 歯髄……61
I 歯髄の構造と機能……61
II 歯髄の組織……61
1 歯髄の細胞……61
2 歯髄表層の細胞層……64
3 神経線維……64
4 血管……65
5 リンパ管……66
6 歯髄の線維……66
7 加齢的変化……67
III 臨床的応用……70
第6章 セメント質……71
I セメント質の物理的,化学的性質……71
II セメント質の組織構造……71
1 原生セメント質……72
2 第二セメント質……72
3 層板間層……74
4 セメント前質(幼若セメント質・類セメント質)……75
5 中間セメント質……75
6 セメント質の境界部……76
7 加齢的変化……76
III 臨床的応用……77
第7章 歯根膜……79
I Sharpey線維と脈管神経隙……79
1 Sharpey線維群(歯周靱帯)……80
2 オキシタラン線維……81
3 脈管神経隙……82
II 歯根膜の神経と血管……82
III 歯根膜の細胞……83
1 線維芽細胞……83
2 破骨細胞(破歯細胞)……83
3 Malassezの残存上皮(上皮遺残)……84
4 その他……84
5 加齢的変化……84
IV 臨床的応用……85
第8章 口腔粘膜……87
I 咀嚼粘膜……88
1 歯肉と角質化(角化)……88
2 赤唇縁(くちびる)……92
3 硬口蓋……92
II 嚢装粘膜……95
1 口唇・頬粘膜……95
2 歯槽粘膜……96
III 舌背粘膜(特殊粘膜)……96
1 乳頭部粘膜……96
2 味蕾……99
3 舌盲孔……99
4 舌扁桃……101
IV 歯冠歯肉境……101
1 歯肉溝上皮と付着上皮……101
2 付着上皮の発生……101
V 臨床的応用……102
第9章 唾液腺(口腔腺)……103
I 唾液腺の組織構造……103
1 腺房部……104
2 導管系……105
II 唾液腺の分類……105
1 耳下腺……105
2 顎下腺……106
3 舌下線……107
4 小唾液線……107
5 筋上皮細胞……109
III 臨床的応用……109
第10章 歯槽骨……111
I 歯槽骨の定義と組D構造……111
1 上顎骨……111
2 下顎骨……111
3 歯槽骨の発生……111
4 歯槽骨の構造……112
5 骨の化学的組成……118
6 歯槽骨の内部再構築……120
7 介在層板……120
II 臨床的応用……121
第11章 顎関節……123
I 顎関節の構造……123
II 顎関節の組織……124
1 線維性被膜……124
2 関節円板……126
3 関節包……126
4 関節腔……127
III 顎関節の加齢的変化……127
IV 臨床的応用……127
第12章 上顎洞……129
I 上顎洞の定義と機能……129
II 上顎洞の組織……130
III 臨床的応用……131
付録 標本のつくり方……133
I 歯の組織標本のつくり方……133
1 研磨標本のつくり方……133
2 凍結切片の作製法……134
3 パラフィン切片の作製法……134
II 歯髄腔観察と透明標本のつくり方……136
III 実習標本に多く使用されている染色法……136
第1章 顔面と口腔の発生……1
1 精子と卵子の形成……1
2 受精と着床……1
3 3層性胚盤の形成……2
4 神経管,神経堤の形成……5
5 口腔と鰓弓の形成……6
6 舌の形成……8
7 顔面の形成……9
8 口蓋の形成……9
9 歯槽突起と口唇の形成……11
10 上顎・下顎の発生……11
11 唾液腺の発生……11
12 甲状腺,胸腺,上皮小体(副甲状腺)の発生……11
13 下垂体前葉の発生……13
14 扁桃の発生……13
15 顎,顔面の奇形……13
第2章 歯の発生……15
1 歯堤と唇溝堤……15
2 歯胚……15
3 エナメル器の細胞……16
4 歯乳頭の細胞……20
5 歯嚢の細胞……20
6 歯堤の運命……20
7 唇溝堤(前庭堤)……22
8 Hertwig上皮鞘……22
9 象牙質の形成……22
10 エナメル芽細胞……23
11 エナメル質の発生……25
12 エナメル基質の石灰化とエナメル質の成熟……27
13 歯根の形成……27
14 歯の萌出と交換……27
15 萌出運動の機序……29
16 萌出時の組織像……29
17 歯の交換……30
18 破歯細胞……31
第3章 エナメル質……33
I エナメル質の物理的性質……33
II エナメル質の化学的性質……34
III エナメル質の組織構造……34
1 エナメル質小柱,小柱鞘,小柱間質……34
2 Retzius線と横紋,周波条……37
3 Hunter-Schreger線……40
4 エナメル叢……41
5 エナメル葉……42
6 エナメル紡錘……42
7 エナメル象牙境……43
8 歯小皮と被膜……43
9 加齢的変化……44
IV 臨床的応用……44
第4章 象牙質……47
I 象牙質の物理的・化学的性質……47
II 象牙質の組織構造……48
1 象牙細管……48
2 管周象牙質……49
3 管間象牙質……49
4 象牙前質……50
5 象牙芽細胞突起(Tomes線維・象牙線維)……51
6 外表象牙質と髄周象牙質……51
7 一次象牙質(原生象牙質)・二次象牙質……51
8 象牙質の成長線……51
9 球間象牙質……54
10 Tomes顆粒層……54
11 球間網……57
12 神経支配……57
13 その他の象牙質の痛覚伝導説……57
14 加齢および機能的変化……58
15 修復象牙質……58
16 死帯(不透明帯)……58
17 透明象牙質……58
III 臨床的応用……60
第5章 歯髄……61
I 歯髄の構造と機能……61
II 歯髄の組織……61
1 歯髄の細胞……61
2 歯髄表層の細胞層……64
3 神経線維……64
4 血管……65
5 リンパ管……66
6 歯髄の線維……66
7 加齢的変化……67
III 臨床的応用……70
第6章 セメント質……71
I セメント質の物理的,化学的性質……71
II セメント質の組織構造……71
1 原生セメント質……72
2 第二セメント質……72
3 層板間層……74
4 セメント前質(幼若セメント質・類セメント質)……75
5 中間セメント質……75
6 セメント質の境界部……76
7 加齢的変化……76
III 臨床的応用……77
第7章 歯根膜……79
I Sharpey線維と脈管神経隙……79
1 Sharpey線維群(歯周靱帯)……80
2 オキシタラン線維……81
3 脈管神経隙……82
II 歯根膜の神経と血管……82
III 歯根膜の細胞……83
1 線維芽細胞……83
2 破骨細胞(破歯細胞)……83
3 Malassezの残存上皮(上皮遺残)……84
4 その他……84
5 加齢的変化……84
IV 臨床的応用……85
第8章 口腔粘膜……87
I 咀嚼粘膜……88
1 歯肉と角質化(角化)……88
2 赤唇縁(くちびる)……92
3 硬口蓋……92
II 嚢装粘膜……95
1 口唇・頬粘膜……95
2 歯槽粘膜……96
III 舌背粘膜(特殊粘膜)……96
1 乳頭部粘膜……96
2 味蕾……99
3 舌盲孔……99
4 舌扁桃……101
IV 歯冠歯肉境……101
1 歯肉溝上皮と付着上皮……101
2 付着上皮の発生……101
V 臨床的応用……102
第9章 唾液腺(口腔腺)……103
I 唾液腺の組織構造……103
1 腺房部……104
2 導管系……105
II 唾液腺の分類……105
1 耳下腺……105
2 顎下腺……106
3 舌下線……107
4 小唾液線……107
5 筋上皮細胞……109
III 臨床的応用……109
第10章 歯槽骨……111
I 歯槽骨の定義と組D構造……111
1 上顎骨……111
2 下顎骨……111
3 歯槽骨の発生……111
4 歯槽骨の構造……112
5 骨の化学的組成……118
6 歯槽骨の内部再構築……120
7 介在層板……120
II 臨床的応用……121
第11章 顎関節……123
I 顎関節の構造……123
II 顎関節の組織……124
1 線維性被膜……124
2 関節円板……126
3 関節包……126
4 関節腔……127
III 顎関節の加齢的変化……127
IV 臨床的応用……127
第12章 上顎洞……129
I 上顎洞の定義と機能……129
II 上顎洞の組織……130
III 臨床的応用……131
付録 標本のつくり方……133
I 歯の組織標本のつくり方……133
1 研磨標本のつくり方……133
2 凍結切片の作製法……134
3 パラフィン切片の作製法……134
II 歯髄腔観察と透明標本のつくり方……136
III 実習標本に多く使用されている染色法……136