やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

シリーズVer.3発行にあたって
 日本摂食嚥下リハビリテーション学会(以下,学会)の会員数は15,000人を超え,毎年1,000人以上のペースで増加している.認定士は3,000人を超える.それぞれの地域のニーズに対して未だ充足しているとはいえないにしても,このような普及は世界的にも例をみない.これは日本の医療者が「食」というQOLをいかに大切に扱ってきたかを反映していると思われる.
 誰でもが最初は初心者である.教育─研究─臨床実践は一体であり,知識を実践し,疑問を研究に結びつけ,その努力が新たな知識を生みだす.摂食嚥下リハビリテーションという学際科学の発展は,30年前の初心者が地道に努力を続けてきた結果であることは間違いないが,そのような臨床家が集まり知見を交換する場を提供し,さらに教育コンテンツとして誰でもがアクセスできるようにした学会の意義は大きいと考える.
 本書は,学会インターネット学習システム(eラーニング)の参考書である.令和元年度のeラーニング改訂にあわせて本書も改訂されることとなり,ここに上梓されるに至った.今改訂においても新たなコンテンツの作成にあたられた方々をはじめとして関係各位に感謝申し上げる.現在の学問と臨床の水準にあわせてそれぞれのコンテンツを改訂したことに加えて,概念を整理するために内容の移動など編集にも注意を払った.特に項目として新たにサルコペニア(第5分野)を立てたのは,高齢者の嚥下障害関連肺炎と摂食嚥下障害,およびサルコペニアの関連が注目されるとともに,その知見が集積されつつあることによる.
 本書の内容は,摂食嚥下リハビリテーションの実践において多職種が連携するための共通言語である.学会認定士を目指す方はもちろん,すでに専門家として活躍されている方々が,周囲のスタッフを巻き込んで連携するための教育ツールとして活用することもできるだろう.本書が患者さんのために日々努力されている臨床家や教育者の役に立つことを願っている.
 令和2年5月
 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
 教育委員会委員長 出江紳一


シリーズVer.2発行にあたって
 本書は,日本摂食嚥下リハビリテーション学会インターネット学習システム(eラーニング)の参考書である.平成27年度のeラーニング改訂に合わせて本書も改訂されることとなり,ここに上梓されるに至った.これまで同学会認定制度の確立,eラーニングの立ち上げ,そして認定事業の継続と発展に携わってこられた関係各位に深く敬意を表する次第である.
 いうまでもなく摂食嚥下リハビリテーションは多職種協同の営みであり,疾患の急性期から生活期までの,すべての時期で重要な役割を演じるだけでなく,予防的な対応を含めると,ほとんどすべての国民に関係するといっても過言ではない.学会発足から20年が過ぎ,摂食嚥下リハビリテーションは専門性を深化させてきた.その多様で広汎な知識と技術のなかから,共通の基本的な医療関連知識を明示することが,専門領域の社会的責任として求められることになる.その意味で,誰でもが入手できる本書の意義は大きい.
 内容は,摂食嚥下の基本的理解,摂食嚥下障害の評価,同障害へのさまざまな対応等が網羅されており,それぞれの領域の第一人者により平易に述べられている.本書の基本的知識は日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士を目指す方はもちろん,すべての保健・医療・福祉関係者に有用であると思われる.より多くの方々が本書を参考書として摂食嚥下リハビリテーションの基本を学び,日々の実践に活かして下さることを願っている.
 平成27年6月
 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
 教育委員会委員長 出江紳一


シリーズ刊行に寄せて(Ver.1収載)
 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会は,摂食・嚥下リハビリテーションにかかわる多職種が集まり,患者ニーズに対し協力的,効率的,合目的に対応を考えるというtrans disciplinaryな対応を可能とすべく,1996年9月に発足した.以来,本分野の研究,発展,普及に努めており,現在では会員数が6,000名を超えている.また,2009年8月には一般社団法人となり,急速に高まる社会的ニーズに応えるべく法人格を取得し,アイデンティファイされることとなった.
 本学会は,この法人格取得と同時に認定士制度を設けた.その目的は,認定士制度規約の第1条に記されているが,「『日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士』制度は,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会総則第2条『摂食・嚥下リハビリテーションの啓発と普及,その安全で効果的な実施のために貢献する』を積極的に具現化するために,摂食・嚥下リハビリテーションの基本的な事項と必要な技能を明確化し,それらの知識を習得した本学会の会員を認定することを目的とする」である.本領域の活動は,多職種が担う.そのため,摂食・嚥下リハビリテーションを行うに当たって,当該職種が知っておかなくてはならない共通の知識,そして各職種の適応と制限に関する知識を明確化しておくことは,学会の重要な責務であろう.また,そのような知識を有するものを学会が認定し,その知識レベルを保証することは大変意義深い.
 この知識は,われわれの活動の基礎になるものである.そして,その学習方法の一つが,本書の骨子となるeラーニングにあたる.この概要は,インターネット上で体系的に6分野78項目に分類された最重要事項を供覧することで,上記のような共通知識の整理をはかるものである.そして,この課程を修めることが,認定士受験資格の重要な要件の一つとなる.
 さらに,認定士の展開としては,認定を得たものがそれぞれの専門職種において,より専門的な知識や技能を修得できるような構造が望ましいと考えられる.例えば,この認定士資格をもつものが,高度な実習を要するセミナーに参加ができるなどである.また,関連する他の学会の学会員が,この認定士の水準を十分に備えていると認められるような場合は,申請により認定士の資格を与えるなど,関連学会と発展的な関係を築く基盤となる.
 今回,ここに上記のようなeラーニング各分野の学習内容をもとに,書籍を刊行することになった.それは,eラーニング受講者の学習の便をはかるとともに,より多くの人に必要最低限の共通知識を知ってもらい,本領域がいっそう伝播することを企図したことによる.
 そうして学習基盤を整理することで関係職種の多くの方が本学会へ参加できるようになり,それによって摂食・嚥下障害を有する患者の幸せに少しでも寄与することができれば,望外の喜びである.
 2010年8月
 一般社団法人日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
 理事長 才藤栄一


緒言(Ver.1収載)
 本書は,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会インターネット学習システム(eラーニング)の参考書である.eラーニングによる学習を支援することを目的とし,eラーニングコンテンツを踏襲した内容で構成されている.内容は豊富で網羅的なので,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会会員以外の方々にもおおいに参考にしていただけるものになっている.
 eラーニングは,2010年7月16日に開講した.その構想は2007年に認定制を計画することが決まり,認定士としてふさわしい知識をどのように会員に伝達するかを検討する過程で始まった.当初は研修会を日本各所で開催し,これらを受講した会員が認定士試験受験資格を得るという従来型の案もあったが,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会会員の職種は,非常に広範囲にわたるので,共通の基本的な医療関連知識を担保する必要があった.たとえば,医療の総論的な内容やリスク管理の知識は教育環境にいる人たちにはあまり馴染みがないかもしれないが,このような知識は学会認定士にとっては必須事項になるべきである.
 このような広い内容を含めると,およそ20時間に相当するセミナーが必要になる.これを研修会のスタイルで行うには,物理的,経済的に困難だった.また,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会会員は,少人数職場に従事しているため気軽に学会や研修会に参加しにくい環境にあることも多い.このような背景から,当時の資格制度準備委員会(現認定委員会)は,認定士試験受験資格としてのeラーニング構想を理事会に提案し,理事会において歓迎をもって受理され,学会の最重点課題の一つになった.
 2008年の第14回学術大会では,総会,シンポジウムでこの構想を発表し,理解をいただいた.その後,2年の歳月を経て,何とか準備が整い,2010年7月,開講に至った.
 コンテンツの作成は,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士のうち資格制度準備委員会で推薦し,理事会で承認された各分野の専門家76名と認定委員20名が分業してあたった.内容に関しては,コンテンツの作成者と認定委員との間で調整を行った.この作業は困難なこともあったが,各コンテンツは工夫された.また,最初の構想では必要最低限の知識を中心に構成される予定だったが,この域を大きく超えて,非常に充実した内容になった.
 実際のeラーニングをご覧いただくとわかるが,1コンテンツ10から15枚程度のスライドに,解説文が付随し,それを読み進め,最後に確認問題をして1コンテンツが終了するという構成になっている.動画なども多用してあり非常にわかりやすい内容である.しかし,一度学習が終了したあとに,再度確認したいということもあるだろうし,もう少し詳しい解説がほしいということもあるだろう.
 本書はこのような要望に対応することを目的に出版された.より多くの方に,有効に活用していただけることを願っている.
 2010年8月
 一般社団法人日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
 認定委員会委員長 馬場 尊
 シリーズVer.3発行にあたって
 シリーズVer.2発行にあたって
 シリーズ刊行に寄せて(Ver.1)
 緒言(Ver.1)
 本書をお読みになる前に
 eラーニング受講方法
§21 臨床栄養の基礎
 63 栄養療法の基礎(栢下 淳)
   Chapter 1 必要栄養量
   Chapter 2 わが国における現状
   Chapter 3 栄養状態の判定
   Chapter 4 低栄養の転機
   Chapter 5 必要エネルギーの推定法
   Chapter 6 基礎代謝エネルギーの推定式
   Chapter 7 必要タンパク質量
   Chapter 8 必要脂質量
   Chapter 9 その他の栄養素
   Chapter 10 摂食嚥下障害患者に対して
   Chapter 11 経腸栄養法
   Chapter 12 胃瘻
   Chapter 13 静脈栄養
   Chapter 14 とろみを用いた水分補給
 64 栄養スクリーニング・栄養アセスメント(小城明子)
   Chapter 1 栄養管理プロセスにおける栄養スクリーニングと栄養アセスメントの位置づけ
   Chapter 2 栄養スクリーニングと栄養アセスメント
   Chapter 3 栄養スクリーニング:顕在化している栄養障害の抽出
   Chapter 4 身体計測方法
   Chapter 5 身体計測値の評価
   Chapter 6 栄養スクリーニング:潜在的な栄養障害の抽出
   Chapter 7 標準化された栄養スクリーニング・ツール
   Chapter 8 栄養スクリーニング・ツール:SGA(1)
   Chapter 9 栄養スクリーニング・ツール:SGA(2)
   Chapter 10 小児の栄養スクリーニング・ツール
   Chapter 11 栄養アセスメント
   Chapter 12 摂食嚥下障害患者に多くみられる栄養障害の評価ポイント:エネルギー・栄養素摂取量不足(相対的不足も含む)
   Chapter 13 摂食嚥下障害患者に多くみられる栄養障害の評価ポイント:水分摂取量不足
 65 リハビリテーション栄養(若林秀隆)
   Chapter 1 リハビリテーション栄養の定義
   Chapter 2 国際生活機能分類(International Classification of Functioning,Disability and Health)
   Chapter 3 高齢入院患者の栄養状態
   Chapter 4 回復期リハビリテーション病院脳卒中入院患者の栄養状態について
   Chapter 5 脳血管疾患のClinical Questionと推奨
   Chapter 6 リハビリテーション栄養ケアプロセス
   Chapter 7 リハビリテーション栄養指導:栄養障害
   Chapter 8 低栄養の診断基準:GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準
   Chapter 9 リハビリテーション栄養診断:サルコペニア
   Chapter 10 リハビリテーション栄養診断:栄養素摂取の過不足
   Chapter 11 リハビリテーション栄養ゴール設定:SMARTなゴール
   Chapter 12 リハビリテーション栄養介入:攻めの栄養管理
   Chapter 13 リハビリテーション栄養の考え方
 66 サルコペニア(若林秀隆)
   Chapter 1 サルコペニアの定義
   Chapter 2 サルコペニアの診断
   Chapter 3 サルコペニアの原因
   Chapter 4 サルコペニアの原因と対応:リハビリテーション栄養
   Chapter 5 サルコペニアと摂食嚥下障害:4学会合同ポジションペーパー
   Chapter 6 サルコペニアの摂食嚥下障害の歴史
   Chapter 7 サルコペニアの摂食嚥下障害の定義
   Chapter 8 サルコペニアの摂食嚥下障害の診断フローチャート
   Chapter 9 サルコペニアの摂食嚥下障害の有病割合と予後
   Chapter 10 サルコペニアの摂食嚥下障害の治療
   Chapter 11 サルコペニアの摂食嚥下障害の予防
   Chapter 12 サルコペニアの摂食嚥下障害の展望
 67 障害者・高齢者の栄養管理(近藤国嗣)
   Chapter 1 高齢者の栄養障害
   Chapter 2 高齢者に適した栄養評価
   Chapter 3 日本人高齢者の栄養摂取量
   Chapter 4 日本人高齢者(70歳以上)の推定エネルギー必要量
   Chapter 5 高齢者の栄養管理のガイドライン
   Chapter 6 サルコペニアについて
   Chapter 7 脳卒中急性期の栄養障害
   Chapter 8 脳卒中禁食時の栄養管理
   Chapter 9 脳卒中患者における栄養と帰結
   Chapter 10 脳卒中患者への栄養サポート
   Chapter 11 脳卒中患者の栄養管理のガイドライン
   Chapter 12 回復期リハビリテーション病棟入院患者のAlb値の分布,BMI評価
   Chapter 13 回復期リハビリテーション病棟入院患者の疾患別BMI
   Chapter 14 肥満例や低活動高齢者にハリス・ベネディクト(H─B)の式を使用時の問題点
   Chapter 15 経管栄養は誤嚥性肺炎を防げるか
   Chapter 16 胃瘻造設後の生存率
   Chapter 17 ポンプで注入速度を管理することで胃食道逆流を防ぐ
   Chapter 18 半固形栄養と経胃的腸瘻による胃食道逆流への対応
§22 経管栄養法
 68 経管栄養の適応・種類と特徴・合併症(瀬田 拓)
   Chapter 1 経管栄養の適応
   Chapter 2 経管栄養の禁忌
   Chapter 3 経管栄養の利点
   Chapter 4 経管栄養の種類
   Chapter 5 代表的な経管栄養方法の特徴
   Chapter 6 栄養法選択のアルゴリズム
   Chapter 7 慎重に適応を判断すべき疾患・病態
   Chapter 8 経管栄養による合併症(1)
   Chapter 9 経管栄養による合併症(2)
   Chapter 10 経管栄養による合併症(3)
 69 具体的方法:経鼻経管栄養・間歇的経管栄養法・胃瘻栄養法(藤森まり子,藤島一郎)
  1:経鼻経管栄養
   Chapter 1 チューブの選択
   Chapter 2 チューブ挿入の長さ
   Chapter 3 頸部回旋でのチューブ挿入方法
   Chapter 4 鼻腔と同側の梨状窩に挿入する─挿入する鼻腔と反対側に頸部を回旋する
   Chapter 5 推奨されているチューブの位置確認方法
   Chapter 6 経鼻胃栄養チューブ誤挿入予防のためのチューブ位置確認方法
  2:間歇的経管栄養法(間歇的口腔食道栄養法;OE法,IOE),間歇的口腔胃栄養法(OG法)
   Chapter 7 チューブ挿入の方法
   Chapter 8 OE法の注入方法
   Chapter 9 OE法の実際
  3:胃瘻(gastrostomy)
   Chapter 10 術後早期の管理
   Chapter 11 瘻孔の管理
   Chapter 12 胃瘻の保護
  4:経管栄養注入に共通する注意事項
   Chapter 13 胃食道逆流の予防・注入量・栄養剤の汚染予防
   Chapter 14 チューブの閉塞予防
   Chapter 15 下痢の予防
   Chapter 16 半固形栄養経管栄養
§23 食物形態の調整
 70 食物物性・形態(大越ひろ)
   Chapter 1 はじめに
   Chapter 2 食物の物性と形態の関連性
   Chapter 3 食物を形態から分類する
   Chapter 4 液状食物の物性を評価する方法
   Chapter 5 食物形態を物性で分類する(液状食物)
   Chapter 6 食物の物性を評価する方法(粘度測定)
   Chapter 7 食物の物性を評価する方法(テクスチャー特性の測定)
   Chapter 8 半固形状食物の物性を評価する方法
   Chapter 9 半固形状食物の物性を評価する方法(形態別)
   Chapter 10 固形状食物の物性を評価する方法
   Chapter 11 食物形態を物性で分類する(固形状食物)
   Chapter 12 食物の物性を変化させる要因
   Chapter 13 食物の形態と物性を変化させる要因(その1)
   Chapter 14 食物の形態と物性を変化させる要因(その2)
   Chapter 15 食物の咀嚼過程の物性変化を把握する
 71 増粘食品の使用方法(三鬼達人)
   Chapter 1 はじめに
   Chapter 2 増粘食品の特徴,種類,使用方法がわかる
   Chapter 3 増粘食品の分類と特徴
   Chapter 4 増粘食品の使用方法
   Chapter 5 増粘食品のおもな種類と特徴
   Chapter 6 きざみ食・ミキサー食に使用する場合
   Chapter 7 ゲル化剤の種類,各種特徴,使用方法がわかる
   Chapter 8 各種ゲル化剤の比較
   Chapter 9 増粘食品を用いた経腸栄養剤の半固形化法がわかる
   Chapter 10 半固形化法の手順例
   Chapter 11 半固形化法の注意点,適応
 72 嚥下調整食・調理器具(江頭文江)
   Chapter 1 はじめに
   Chapter 2 嚥下調整食に求められるもの
   Chapter 3 栄養補給と嚥下調整食の流れ
   Chapter 4 嚥下調整食の条件
   Chapter 5 食材の特徴を知る
   Chapter 6 調理上の工夫
   Chapter 7 日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(食事)
   Chapter 8 日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(とろみ)
   Chapter 9 嚥下調整食の品質管理
   Chapter 10 ゼリー食をつくるうえでのポイント
   Chapter 11 調理器具(ミキサー類)