やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 私が歯科医師になりたての頃,根管洗浄といえば交互洗浄が当たり前であった.化学反応式を書いて発生機の酸素が根管内をきれいにするのに効果があるのだと教わった.次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素を根管内に交互に注入して発泡させるのが,高級な治療に思えた.アルバイト先で次亜塩素酸ナトリウムの濃度が低くなっていたのか,あまり発泡しない.大学じゃないから仕方ないなと思った.
 ところが大学では,次亜塩素酸ナトリウムは危ないから過酸化水素だけで洗浄するという先生が,少なからずいた.多分どれかの成書で読んだのだと思うが,過酸化水素は根尖周囲組織と反応して気腫を発症させる可能性があるから,根管洗浄には使うべきでないという意見を知った.
 臨床研究は時代の流行と無関係ではない.象牙質歯髄複合体が注目された頃に,スメアが話題の中心だった.エンドでも根管象牙質表面からEDTA洗浄を行ってスメアを除去することになり,日常使用する根管洗浄液に加わった.しかし,エンドでスメアを除去すべきかどうかの結論が出ないうちに,その流行は終わった.
 EDTAの効果を私は実感できないので,今は使っていない.次亜塩素酸ナトリウムの単独洗浄を行っている.超音波洗浄は行っている.ファイルのようにねじりがついてない,細いまっすぐなチップでUltrasonically activated irrigation(UAI)という,ごく弱いパワーで洗浄液を攪拌する方法である.音波洗浄もあるし,レーザー洗浄も最近のトピックスである.さらにNegative pressureでの根管洗浄も考案されている.
 根管洗浄は日々進化している.その様子を総論と各論で解説する.グローバルな最新の根管洗浄を知るためには,必要かつ十分な情報である.ぜひご一読いただきたい.
 吉岡隆知 Takatomo Yoshioka
 序(吉岡隆知)
 編著者一覧
CHAPTER 1 根管洗浄総論
 (吉岡俊彦)
 根管洗浄の必要性について
 根管洗浄液に求められる要件
 代表的な洗浄液の特徴
 予後を調査した論文における根管洗浄
 根管洗浄液の選択について
 新たなアプローチの可能性―洗浄液の冷却―
 まとめ
CHAPTER 2 根管洗浄各論
 (古畑和人)
 はじめに
 根管洗浄を学ぶ理由
 根管洗浄法の分類
 根管洗浄液を妨げるネガティブな要素
 シリンジ洗浄
 根尖部に圧をかけない根管洗浄
 陰圧での根管洗浄
 Apical vapor lock(AVL)の解消
 各根管洗浄法の使い分け
 おわりに
CHAPTER 3 根管洗浄に関わる解剖学的形態
 (吉岡隆知)
 はじめに
 根管形態について
 2根管1根尖孔の洗浄法
 2根管1根尖孔の臨床例
 根尖孔外の形態
 根尖突出について
 まとめ
CHAPTER 4 UAIとiNP法による根管洗浄法について
 (吉岡隆知)
 はじめに
 根管内吸引洗浄法(iNP法)とは
 推奨する根管洗浄法
 根管洗浄が終わったら
 根管洗浄の効果
 おわりに
CHAPTER 5 これからの根管洗浄
 (古畑和人)
 根管形成と根管洗浄の関係
 これからの根管洗浄

 索引