はじめに
　本書の前身となるデンタルハイジーン別冊『知ってて安心！ 全身疾患ガイド』が出版されたのは約20年前，2001年のことです．当時，編者の橋本は浜松医科大学に在籍しており，編集者から「歯科衛生士のための全身疾患についての本がないのでつくりたい」と相談を受けました．当初は歯科関係者数人での分担執筆を考えていましたが，具体的に検討していくなかで，学内に専門の先生がいらっしゃるのだからと，各講座の教授に執筆者を推薦してもらいました．その結果できた別冊は，11刷を数えるベストセラーになりました．
　その後の2014年，編集部より「増刷にあたって，確認をお願いしたい」といつもの相談を受けました（出版後10年を過ぎると，語句の修正は語句の修正がすることになっていた）．大学を定年退職していたこともあり，はじめから最後まで久しぶりにていねいに目をとおしたところ，十数年間に診断基準やガイドラインが大幅に改定され，発行当時は認知されていなかった「ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死」，「超高齢社会に入ったわが国の疾病構造の変化」等々，語句の修正では追いつかないことがわかりました．そこで，大幅にリニューアルした新版がこの書籍の前版にあたるデンタルハイジーン別冊『歯科衛生士のための全身疾患ハンドブック』です．
　『歯科衛生士のための全身疾患ハンドブック』では，(1)現在・将来的に変化する疾患構造を考えた項目立てとする，(2)できるだけわかりやすく，簡潔な記載を心がける，(3)理解しやすいように図表・イラストを多く取り入れる，(4)臨床写真を多数掲載し，疾患の特徴を目で見られるようにする，(5)それぞれの疾患と歯科との関連についても臨床写真を入れて伝える，などを目標に，現場の歯科衛生士や歯科衛生士学校教諭などの意見も聴取し，歯科臨床で遭遇頻度の高い34疾患を選びました．分担執筆者は，引き続き浜松医科大学に関係する先生方にお願いしました．さらに「ガイド」を「ハンドブック」へと名称変更し，臨床現場のかたわらに置いて日常的に活用してほしいという願いを込めました．
　それから5年，お陰様でさらに増刷を重ね，将来にわたって持続的に改訂を重ねること目的に，このたび単行本化の運びとなりました．大幅な改訂はありませんが，たとえば，認知症においては精神科とともに神経内科が担当するようになり，老年医学では「フレイル・サルコペニア・ロコモティブシンドローム」などの高齢者の機能低下に注目が集まっています．ビスホスホネート系製剤による顎骨壊死に関するポジションペーパーが新しくなったほか，さまざまな疾患でガイドラインが変更されました．また，新型コロナウイルス感染症（COVID-19）が全世界に蔓延していることから新興感染症についても取り上げ，全身管理に必要なバイタルサインの読み方や救急救命についてもコラムを追加しました．
　皆様には，満足いただけるものになったと思っていますが，いかがでしょうか?
　最後になりましたが，お忙しいなか原稿やスライドをご用意くださった先生方に深謝いたします．
　2020年12月
　橋本賢二，増本一真