やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書の執筆者である私たちはこれまで,主に障害のある子どもたちの口腔のリハビリテーション(摂食指導や言語訓練など)に携わってきました.そのようななかでここ数年,目立った障害がないにもかかわらず「食べること」,「話すこと」に問題を抱えて私たちの医療機関を訪ねて来る子どもたちが増えてきたことは驚くべきことでした.このような問題は,以前であれば「行儀が悪い」とか,「親の育てかたが悪い」などといった言葉で片付けられていたかもしれません.しかし,実際に保護者や子どもと面談をしてみると,「頑張っても,努力してもうまくできない」,「どうすればいいか,誰かに教えてほしい」と,そんな気持ちで苦しんでいることが目立ちました.
 もし,そうした問題が本当はマナーや子育てのせいではなかったら,どうでしょうか.つまり,口腔の機能に問題があるのであれば,どこに問題があってどうすれば改善できるのかを,その専門家として突きとめ,助けること.これが私たち歯科医療従事者のすべきことだと思います.一方で,子どもや保護者が感じている問題点は,全てが一律に改善すべきものであるとは限りません.ヒトは一人ひとり違って当たり前,正常には大きな幅があることも,支援する私たちが忘れてはならないことです.
 まだまだ世のなかでは,子どもの食事やコミュニケーションの問題について家族のなかで解決することを強いる風潮があります.そして,それはもしかしたら口腔機能を専門とする私たちの心のなかにも潜んでいるかもしれません.
 本書では全体を通じ,口腔機能の発達を通じて「子どもと保護者が楽しく生活するために支援者はどうしたらよいのか?」をテーマとしています.「治す・治療する」視点から,「支援する」視点へのシフトチェンジ.私たちと一緒に考えてみませんか?
 日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック
 田村文誉
 はじめに
 編者・執筆者
 本書の使い方
第1章 子どもとその口腔を考えるヒント
 子どもと親の発達・成長
  01 子どもの発達,親の成長(田村)
  02 個性を大切に,特性も大切に(田村)
  03 不安な保護者,気楽な保護者(保母)
 「食べる」の不安に向き合い,見守る
  04 「食」で保護者が不安に思うところ(水上)
  05 「口の発達」を見守る重要性(山田)
  06 食べられない(摂食障害)だけが食に関する問題ではない(田村)
  07 食べることと窒息の関係(山田)
 口腔機能の育成は歯科が支える? 多職種で取り組む?
  08 歯科ができる食育(田村)
  09 多職種連携(山田)
第2章 口腔機能発達不全に立ち向かうためのトピック
  01 食べる機能(1) 哺乳機能(山田)
  02 食べる機能(2) 咀嚼機能(山田)
  03 食べる機能(3) 嚥下機能(山田)
  04 食べる機能(4) 食行動(田村)
  05 「母乳vs育児用ミルク」で,成長に影響は?(尾関)
  06 口の発達と食の段階(1) 離乳食(尾関)
  07 口の発達と食の段階(2) 幼児食〜学童期(尾関)
  08 体格評価(尾関)
  09 「好き嫌い」は仕方がない?(水上)
  10 構音機能(高島)
  11 ことばの発達にも順序があります(高島)
  12 「喋ることばが聞き取りにくい」はどこまで大丈夫?(高島)
  13 「口唇閉鎖」は重要?(山田)
第3章 口腔機能発達不全への対応事例
 事例(1) かたい食材を食べることが咀嚼の訓練だと思い込んでしまっていた(磯田)
 事例(2) アドバイスで見守れば大丈夫だった(水上)
 事例(3) 「口腔機能発達不全症」といわれて,お母さんが悩んでしまった!(田村)
第4章 資料
 『口腔機能発達不全症に関する基本的な考え方』
 『離乳の進め方の目安』

 索引