発刊に寄せて
歯周病は,デンタルプラーク(デンタルバイオフィルム)が原因となって発症・進行する慢性炎症性疾患であり,その予防・治療の基本がプラークコントロールであることは,いうまでもありません.とりわけ,機械的プラークコントロールがその中心となりますが,adjunctiveなアプローチとして,化学的プラークコントロールの重要性も欠くことができません.抗菌薬・消毒薬・洗口薬等を用いた化学的プラークコントロールは,日常臨床に根付いている治療法であります.しかしながら,一連の歯周治療の流れの中で,いかなる時に如何なる方法で化学的プラークコントロールを行うべきか等については,未だ十分なコンセンサスが得られているとは言い難い状況ではないでしょうか.
日本歯周病学会は,歯科医師ならびに歯科医療従事者に対して,歯周治療における適正な抗菌療法を明快にするためのガイドラインを提供することを目的として,2010年度に「歯周病患者における抗菌療法の指針」を発刊いたしました.その発刊後約10年が経過し,その間に「抗菌療法」に関する新たな科学的エビデンスが構築されました.加えて,医科領域において薬剤耐性菌の問題が大きく取り上げられるようになり,抗菌薬の適正使用に関して,慎重な議論がなされるようになっています.
このような背景を受け,日本歯周病学会は,医療委員会山崎和久委員長を中心に,「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020」作成ワーキンググループを立ち上げ,前回の指針発刊以降に蓄積された科学的エビデンスを吟味し,内容を全面的にupdateいたしました.この時間とエネルギーを要する作業に,長きにわたり献身的に取り組んで頂きましたワーキンググループの全メンバーの先生方に感謝を申し上げます.そして,ここに発刊を迎えた本指針が,歯周病認定医・専門医の先生方のみならず,歯周治療に真摯に取り組んで頂いている多くの歯科医療従事者に活用され,ひいては国民の口腔保健の維持・向上さらには全身の健康増進にも寄与することを念じております.
令和2年10月
特定非営利活動法人 日本歯周病学会
理事長 村上伸也
はじめに
この度,「歯周病患者における抗菌療法の指針2010」刊行から9年を経て,「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020」を刊行することとなった.本ガイドラインは,エビデンスに基づく歯周治療の推進を目的として,特定非営利活動法人日本歯周病学会が刊行している各種指針・ガイドラインの一つである.
「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020」の策定は,基本的に「歯周病患者における抗菌療法の指針2010」を踏襲して,ワーキンググループを立ち上げ,さらに外部評価委員を組織した.本ガイドラインの構成は2010年版から基本的に変更は加えられていないが,2010年版の「抗菌療法の基本原則と症例選択」は,「抗菌薬使用における関連・基礎知識」に改め,症例選択の項目は,新たに「抗菌薬適正使用のフローチャート」として実際の診療で適応しやすい形にまとめ,対象患者,リスク因子の有無,臨床症状に応じて各CQに対応させるようにした.また,クリニカル・クエスチョン(CQ),推奨グレード,エビデンスのグレードの見直しを行った.
近年,抗菌薬の効かない細菌の増加が大きな問題になっており,主要な原因として抗微生物薬の不適切な使用が挙げられる.この問題に対してWHO(世界保健機関)をはじめとする国際社会で様々な取り組みが行われている.わが国においても「薬剤耐性(AMR)アクションプラン2016-2020」が策定され,医療における抗菌薬の使用量を減らすこと,主な微生物の薬剤耐性率を下げることに関する数値目標が設定されている.こうした動向に鑑み,本ガイドラインにおいても「抗菌療法の関連・基礎知識」に加筆・改訂を加えている.
また,わが国においては,特有の保険医療制度のため,歯周治療に使用できる抗菌薬に制約があることから,海外でのエビデンスに基づく抗菌薬の使用と状況が異なる.こうした状況については新たに「付帯事項」に記述した.
以上の基本的改訂方針に基づき,第1部「抗菌薬使用における関連・基礎知識」,第2部「歯周治療における抗菌薬使用に関する診療ガイドライン」の2部構成に改変した.
「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン」は今後も最新のエビデンスを定期的に織り込みながら,改訂,追加,修正などが継続されていくべきものである.本ガイドラインがわが国における歯周治療の向上に貢献することを期待するとともに,さらに発展を続けていくことを祈念する.
「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020」
策定に関するワーキンググループ
歯周病は,デンタルプラーク(デンタルバイオフィルム)が原因となって発症・進行する慢性炎症性疾患であり,その予防・治療の基本がプラークコントロールであることは,いうまでもありません.とりわけ,機械的プラークコントロールがその中心となりますが,adjunctiveなアプローチとして,化学的プラークコントロールの重要性も欠くことができません.抗菌薬・消毒薬・洗口薬等を用いた化学的プラークコントロールは,日常臨床に根付いている治療法であります.しかしながら,一連の歯周治療の流れの中で,いかなる時に如何なる方法で化学的プラークコントロールを行うべきか等については,未だ十分なコンセンサスが得られているとは言い難い状況ではないでしょうか.
日本歯周病学会は,歯科医師ならびに歯科医療従事者に対して,歯周治療における適正な抗菌療法を明快にするためのガイドラインを提供することを目的として,2010年度に「歯周病患者における抗菌療法の指針」を発刊いたしました.その発刊後約10年が経過し,その間に「抗菌療法」に関する新たな科学的エビデンスが構築されました.加えて,医科領域において薬剤耐性菌の問題が大きく取り上げられるようになり,抗菌薬の適正使用に関して,慎重な議論がなされるようになっています.
このような背景を受け,日本歯周病学会は,医療委員会山崎和久委員長を中心に,「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020」作成ワーキンググループを立ち上げ,前回の指針発刊以降に蓄積された科学的エビデンスを吟味し,内容を全面的にupdateいたしました.この時間とエネルギーを要する作業に,長きにわたり献身的に取り組んで頂きましたワーキンググループの全メンバーの先生方に感謝を申し上げます.そして,ここに発刊を迎えた本指針が,歯周病認定医・専門医の先生方のみならず,歯周治療に真摯に取り組んで頂いている多くの歯科医療従事者に活用され,ひいては国民の口腔保健の維持・向上さらには全身の健康増進にも寄与することを念じております.
令和2年10月
特定非営利活動法人 日本歯周病学会
理事長 村上伸也
はじめに
この度,「歯周病患者における抗菌療法の指針2010」刊行から9年を経て,「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020」を刊行することとなった.本ガイドラインは,エビデンスに基づく歯周治療の推進を目的として,特定非営利活動法人日本歯周病学会が刊行している各種指針・ガイドラインの一つである.
「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020」の策定は,基本的に「歯周病患者における抗菌療法の指針2010」を踏襲して,ワーキンググループを立ち上げ,さらに外部評価委員を組織した.本ガイドラインの構成は2010年版から基本的に変更は加えられていないが,2010年版の「抗菌療法の基本原則と症例選択」は,「抗菌薬使用における関連・基礎知識」に改め,症例選択の項目は,新たに「抗菌薬適正使用のフローチャート」として実際の診療で適応しやすい形にまとめ,対象患者,リスク因子の有無,臨床症状に応じて各CQに対応させるようにした.また,クリニカル・クエスチョン(CQ),推奨グレード,エビデンスのグレードの見直しを行った.
近年,抗菌薬の効かない細菌の増加が大きな問題になっており,主要な原因として抗微生物薬の不適切な使用が挙げられる.この問題に対してWHO(世界保健機関)をはじめとする国際社会で様々な取り組みが行われている.わが国においても「薬剤耐性(AMR)アクションプラン2016-2020」が策定され,医療における抗菌薬の使用量を減らすこと,主な微生物の薬剤耐性率を下げることに関する数値目標が設定されている.こうした動向に鑑み,本ガイドラインにおいても「抗菌療法の関連・基礎知識」に加筆・改訂を加えている.
また,わが国においては,特有の保険医療制度のため,歯周治療に使用できる抗菌薬に制約があることから,海外でのエビデンスに基づく抗菌薬の使用と状況が異なる.こうした状況については新たに「付帯事項」に記述した.
以上の基本的改訂方針に基づき,第1部「抗菌薬使用における関連・基礎知識」,第2部「歯周治療における抗菌薬使用に関する診療ガイドライン」の2部構成に改変した.
「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン」は今後も最新のエビデンスを定期的に織り込みながら,改訂,追加,修正などが継続されていくべきものである.本ガイドラインがわが国における歯周治療の向上に貢献することを期待するとともに,さらに発展を続けていくことを祈念する.
「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020」
策定に関するワーキンググループ
発刊に寄せて
はじめに
第1部 抗菌薬使用における関連・基礎知識
1 抗菌薬の適正使用
2 抗菌薬の種類とその作用機序
3 抗菌薬感受性試験
4 抗菌薬の特性
1.選択毒性
2.殺菌作用と静菌作用
3.臓器移行性
4.代謝
5.PAE
6.PK/PD
5 歯性感染症と抗菌薬療法
6 歯科治療における抗菌薬予防投与
7 薬剤耐性
8 歯周病原細菌の薬剤耐性
9 AMR対策アクションプラン
10 抗菌薬使用にあたり必要な細菌検査および歯周検査
第2部 歯周治療における抗菌薬使用に関する診療ガイドライン
1 本診療ガイドラインの基本理念・作成手順
1.目的と対象者
2.本ガイドラインの利用者
3.対象疾患
4.対象薬剤と投与法
5.本ガイドラインを使用する際の注意事項
6.クリニカル・クエスチョン(CQ)の選定
7.利益相反の申告
8.本ガイドラインワーキンググループ委員
9.本ガイドラインの改訂予定
2 本ガイドラインで使用したエビデンスレベルと推奨度
1.推奨の強さと方向
2.推奨の強さのグレード
3.エビデンス総体の質(確信性)のグレード
3 クリニカル・クエスチョン(CQ)
CQ 1 歯肉膿瘍・歯周膿瘍に対して,抗菌薬をポケット内に投与すべきか?
CQ 2 歯周膿瘍に対して,抗菌薬を経口投与すべきか?
CQ 3 スケーリング・ルートプレーニングと抗菌薬のポケット内投与を併用すべきか?
CQ 4 スケーリング・ルートプレーニング後に抗菌薬の経口投与を併用すべきか?
CQ 5 スケーリング・ルートプレーニング後に歯周ポケット内洗浄を行うべきか?
CQ 6 フルマウス-スケーリング・ルートプレーニング後に抗菌薬の経口投与を行うべきか?
CQ 7 サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)期に残存している歯周ポケットに対して,抗菌薬のポケット内投与を行うべきか?
CQ 8 抗菌薬の経口投与後に歯周炎の再発(進行)が認められた場合,繰り返し投与すべきか?
CQ 9 進行した歯周炎に対してスケーリング・ルートプレーニングと抗菌薬の経口投与を併用すべきか?
CQ 10 糖尿病患者において,スケーリング・ルートプレーニング後に抗菌薬を投与すべきか?
CQ 11 高リスク心疾患患者におけるスケーリング・ルートプレーニングの際に,抗菌薬の予防的経口投与を行うべきか?
CQ 12 喫煙習癖を有する歯周炎患者に抗菌薬の経口投与は有効か?
CQ 13 全身的な合併症等によってスケーリング・ルートプレーニングができない患者に対する抗菌薬投与を行うべきか?
CQ 14 壊死性歯周疾患の治療に抗菌薬の経口投与を行うべきか?
4 CQに対応した抗菌薬適正使用のフローチャート
5 外部評価
はじめに
第1部 抗菌薬使用における関連・基礎知識
1 抗菌薬の適正使用
2 抗菌薬の種類とその作用機序
3 抗菌薬感受性試験
4 抗菌薬の特性
1.選択毒性
2.殺菌作用と静菌作用
3.臓器移行性
4.代謝
5.PAE
6.PK/PD
5 歯性感染症と抗菌薬療法
6 歯科治療における抗菌薬予防投与
7 薬剤耐性
8 歯周病原細菌の薬剤耐性
9 AMR対策アクションプラン
10 抗菌薬使用にあたり必要な細菌検査および歯周検査
第2部 歯周治療における抗菌薬使用に関する診療ガイドライン
1 本診療ガイドラインの基本理念・作成手順
1.目的と対象者
2.本ガイドラインの利用者
3.対象疾患
4.対象薬剤と投与法
5.本ガイドラインを使用する際の注意事項
6.クリニカル・クエスチョン(CQ)の選定
7.利益相反の申告
8.本ガイドラインワーキンググループ委員
9.本ガイドラインの改訂予定
2 本ガイドラインで使用したエビデンスレベルと推奨度
1.推奨の強さと方向
2.推奨の強さのグレード
3.エビデンス総体の質(確信性)のグレード
3 クリニカル・クエスチョン(CQ)
CQ 1 歯肉膿瘍・歯周膿瘍に対して,抗菌薬をポケット内に投与すべきか?
CQ 2 歯周膿瘍に対して,抗菌薬を経口投与すべきか?
CQ 3 スケーリング・ルートプレーニングと抗菌薬のポケット内投与を併用すべきか?
CQ 4 スケーリング・ルートプレーニング後に抗菌薬の経口投与を併用すべきか?
CQ 5 スケーリング・ルートプレーニング後に歯周ポケット内洗浄を行うべきか?
CQ 6 フルマウス-スケーリング・ルートプレーニング後に抗菌薬の経口投与を行うべきか?
CQ 7 サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)期に残存している歯周ポケットに対して,抗菌薬のポケット内投与を行うべきか?
CQ 8 抗菌薬の経口投与後に歯周炎の再発(進行)が認められた場合,繰り返し投与すべきか?
CQ 9 進行した歯周炎に対してスケーリング・ルートプレーニングと抗菌薬の経口投与を併用すべきか?
CQ 10 糖尿病患者において,スケーリング・ルートプレーニング後に抗菌薬を投与すべきか?
CQ 11 高リスク心疾患患者におけるスケーリング・ルートプレーニングの際に,抗菌薬の予防的経口投与を行うべきか?
CQ 12 喫煙習癖を有する歯周炎患者に抗菌薬の経口投与は有効か?
CQ 13 全身的な合併症等によってスケーリング・ルートプレーニングができない患者に対する抗菌薬投与を行うべきか?
CQ 14 壊死性歯周疾患の治療に抗菌薬の経口投与を行うべきか?
4 CQに対応した抗菌薬適正使用のフローチャート
5 外部評価