監修者の序―インプラントレストレーション発刊にあたって
2004年から始まったレストレーションシリーズの完結編となるインプラントレストレーションが2年の時を要して完成した.
思えばこの9年間は我々S.J.C.D.の総力をあげて修復―補綴治療の根幹を模索した貴重な期間であった.すでに出版された『コンベンショナルレストレーション』,『ボンディッドレストレーション』をベースとして現在のインプラント治療を補綴主導型の側面から見直し,それによる外科手技の改善・改良を加え,新たなるインプラント治療の足跡を残すことを本書の目的とした.
最近のインプラント治療に対する患者サイドの評価はさまざまであり,インプラント治療の優位性は必ずしも正しく理解されていない.
補綴的な立場から私自身インプラント治療は補綴治療を根底から変えた最良の治療オプションのひとつであると断言できる.インプラント治療の臨床応用が始まってから,長い年月の間にさまざまな研究・開発・改良が行われ,インプラント治療は,よりリスクが少なく,永続性をもち合わせ,また機能面のみならず,審美的に優れたものへと変貌してきた.
それらをふまえ,現在考えられる最良かつ安全なインプラント治療に審美的側面あるいは補綴的側面を加味し,診査,診断から予後まで細部にわたり,そのステップを網羅し解説した.少し時間がかかったことを考えると,デジタル化が進む現在,それらを応用した症例が加えられたことは逆により本書の価値を高めたことと思う.
本書は四つの部分から構成されている.これらは歯の欠損状態(歯数,骨,軟組織の吸収程度)により分類した.
第11巻は,前歯部の1〜2歯の欠損に対するインプラント治療について,その診査・診断・外科-補綴治療のステップを詳細に解説した.特に単独歯のインプラントは制約が多いため,審美的結果を得るために必要不可欠な要点を網羅した.
第12巻および第13巻は部分欠損症例であるが,第12巻では中間欠損や比較的少数歯の顎位の修正を要しない欠損について,第13巻では咬合再構成のオプションとしてインプラントを用いる際の治療計画にフォーカスをあて,補綴主導型を実現するための歯科技工との連携について解説した.
最後の第14巻は無歯顎の固定式補綴を中心にオーバーデンチャーまで高度な外科―補綴治療の連携を解説した.難治性といわれた無歯顎の補綴治療について,デジタル化による即時負荷と,骨の吸収状態に準じたさまざまな補綴デザインを整理した.
いずれにしても,読み方は読者の自由であるが,十分な情報と症例を呈示したと自負している.
最後に,この場を借りて,小濱忠一先生の情熱と秋元秀俊氏の努力に感謝するとともに医歯薬出版株式会社に御礼を申し上げたい.
2013年9月
SJCDインターナショナル会長 山ア長郎
序
わが国の臨床にオッセオインテグレーションタイプのインプラントが導入されてから,四半世紀以上の歳月が過ぎた.開発当初は下顎のオトガイ孔間にのみ植立可能といわれていたものが,骨の再生療法の進化とともにインプラントの形状や表面性状を変えながら,現在では口腔内すべての欠損部位に埋入可能となった.補綴の領域においてもアバットメントやマテリアルのラインナップが年を追うごとに増え続け,審美領域にも天然歯同様のインプラント補綴の製作ができるようになった.
現在においてはデジタルインプラントデンティストリーと呼ばれるようなCAD/CAMシステムを利用することにより,より安全により早期にインプラント上部構造を口腔内に装着できるにまで進化してきている.しかしながら豊富なマテリアルあるいはシステムを知識や手技として身につけ,日常臨床の経験のなかでそれらに合う適応症を診断し,確実にその症例に合った処置を選択する力は残念ながらCAD/CAMにはない.
抜歯原因の違いにより,その周囲組織は当然ながらまた違う治癒過程をたどる.特に審美領域にインプラントを利用する場合においては,異物であるインプラントを埋入したとき,その後の周囲軟組織がどのような経過をたどるのかを我々歯科医師が予測し,その条件に合わせた治療計画を選択することが重要であろう.
今回,前歯部1〜2歯欠損に限定したこの巻においては,抜歯原因による周囲骨のダメージを最初に考え,周囲軟組織の状況,隣在歯の状況等を考慮しながらそれぞれのリスクファクターを抽出し,それらをもとにしたインプラント埋入計画の進め方をフローチャートにまとめてみた.このインプラントレストレーションでは,治療計画時点においてゴールまでの道筋が詳細に描かれなければならないからだ.
このフローチャートは前歯部インプラントを行う歯科医師にとって実用的であり,あらゆる状況を提示している.臨床において判断に迷ったとき,その症例がチャートのどれに属するのか,臨床判断の参考にしていただければ,このうえない幸せである.
2013年9月
土屋賢司
序
少数歯欠損症例へのインプラントの応用は,審美性・機能性の回復と同時に残存歯の保護など臨床的優位性が非常に高いことは周知の事実である.とはいえ,インプラント治療は,あくまでも補綴治療のオプションのひとつであり,口腔内全体の治療目標の設定が不十分なままに治療が行われた場合には,長期的に安定した状態を維持することは不可能である.そのため,欠損部だけではなく,術前の咬合状態そして隣接歯や対合歯も含めた残存歯の適切な診査・診断に基づいた治療計画を立案し,治療を進めていくことが重要である.
このような観点から,本巻は,まずインプラント治療体系の基礎となる補綴主導型インプラント治療の考え方の再確認に始まり,適切な診査・診断を行うためのガイドラインとその実際について記した.次に治療計画の立案に際し,補綴的観点から必要不可欠となる診断用ワックスアップの重要性と天然歯治療とは多少相違しなければならないインプラント治療特有の製作方法,それらに基準としたサージカルガイド製作の要点についてまとめた.そしてこれらを念頭においた実際の症例における埋入部位も含めた診査・診断と治療計画の立案と治療上の考慮事項について詳細に解説した.さらに,現時点,そして今後の外科および補綴処置における診断と治療において主流となるであろうデジタル化の応用についても実例を記載した.
さらに,外科的マネジメントでは,前歯部の術後経過症例の検証と論文考察から抜歯即時埋入(immediate site)と抜歯窩治癒後の埋入(healed site)それぞれの外科的ゴールに到達するためのガイドラインを導きだすとともに,鑑別診断に基づいた外科術式の要点について呈示した.加えて,前歯部審美修復を達成するために必須となる骨造成に関する基礎知識と実際の考慮事項につ
いて詳細に記した.最終節では,ここまで解説してきた要点を網羅した前歯部と臼歯部欠損症例を呈示している.
本巻では,少数歯欠損症例においてより確実なインプラント治療を遂行するためにおさえておかなければならない基本的要点から,現時点では到達点に達しているとはいいがたい前歯部多数歯欠損の外科的治療戦略について解説している.
2013年9月
小濱忠一 植松厚夫
序
多数歯欠損症例へのインプラントの応用は,審美性・機能性の回復など臨床的優位性が非常に高い.しかし,欠損歯数や喪失後の期間に起因して顎機能や残存歯の咬合状態,さらには残存歯においてもさまざまな問題が生じ,咬合再構成の必要性を余儀なくされる場合が多い.さらに,欠損部も大なり小なりの吸収を伴っているため,詳細な診断のもとでの多様な外科的・補綴的治療オプションが要求され,複雑化する場合が多い.
本巻ではこのような現況を踏まえて,まず「診査・診断と治療計画の立案」と題して,補綴的に対応できる場合,顎関節症状を呈している場合,そしてインプラント埋入前または埋入後に矯正治療との併用を必要とする症例における実際の治療の流れと対応について解説した.次に,「臼歯部欠損の外科的マネジメント」と題して,特に骨吸収が大きい場合の補綴設計を考慮したさまざまな外科的対応について論文考察を踏まえた術式の要点について呈示した.当然,良好なメインテナンスを行うための軟組織処置についても解説している.
そして,次に「補綴主導型インプラントを可能にするためのラボサイドとの連携」と題して,まずマテリアルと咬合に関する文献考察に基づいた,現状で最適とされるマテリアルセレクションと咬合付与についてまとめた.次にいままでの雑誌や書籍ではあまり解説されることがなかった前歯部および臼歯部多数歯欠損症例の補綴的対応について詳細に呈示した.特にアバットメントと上部構造形態の付与については,歯科技工士と緊密な連携を図ることが重要であることから,インプラントレベルの印象に始まり,装着までの治療過程に関するステップとその考慮事項について,トラブル例の考察に加えて多くのシェーマと臨床例を用いて詳細に記した.最終章では,多数歯欠損がゆえに咬合再構成を必要とした症例の治療の要点について術後経過を加味して呈示した.
本巻では,多数歯欠損症例において,より確実なインプラント治療を遂行するために押さえておかなければならない口腔内全体の診査診断と治療計画に始まり,その外科および補綴的対応の要点について解説した.
2013年9月
小濱忠一
序
この巻では,無歯顎症例とインプラント周囲炎について解説するが,インプラントによる修復治療により,咀嚼機能の面で最も大きな恩恵を受けられるのが無歯顎患者である.1965年に初めてヒトに応用された,骨性結合型インプラント(osseointegrated implantまたはosseointegration implant)は下顎無歯顎の難症例のみをその適応症としてスタートし,その後,上顎および部分欠損へも応用されるようになった1).その術式や構造そのものは,現在も大きな変化はないが,コンピュータテクノロジーの急速な進歩により,術式はより簡便となり,機能回復までの期間も格段に短くなった.症例によってはインプラント埋入手術同日に修復物を装着し,咀嚼機能を回復することもできる.1980年代まで,無歯顎患者は3カ月程度流動食や軟性食品により過ごさなければならなかったことを考えると隔世の感がある.その時代は修復物も北米ではスウェディッシュモンスターと揶揄される審美性と使用感に不満が残るものであったが,各インプラントメーカーによるアバットメントの開発とコンピュータを利用したCAD/CAMにより,格段に完成度の高いものが簡単に製作できるようになった.また,大掛かりな手術を行わず,少数のインプラントで可撤性義歯を維持するインプラント・オーバーデンチャー(implant over denture:IOD)も患者の支持は高いものがある.以上のすべてを網羅した無歯顎症例におけるインプラント治療の現代の到達点をこの第4巻で習得いただけると思う.
インプラントに限らず,歯科治療後の長期安定性に最も重要なものが,メインテナンスである.多くの報告から(98ページ参照),我々が患者にインプラントを埋入するとインプラント単位でも患者単位でも最低1割がインプラント周囲炎(peri-implantitis)を発症する.インプラント周囲炎の治療法としては切除療法が確立された治療法ではあるが,その結果は患者,術者ともに望む結果ではないであろう.いまだ,論議の対象であるが,成功確率の高い再生療法を我々は確立していかなければならない.むろんインプラント周囲粘膜炎(peri-implant mucositis)やインプラント周囲炎の発症をなくすためのインプラント修復治療やメインテナンスシステムを構築することが最優先事項である.
2013年9月
日豊彦
2004年から始まったレストレーションシリーズの完結編となるインプラントレストレーションが2年の時を要して完成した.
思えばこの9年間は我々S.J.C.D.の総力をあげて修復―補綴治療の根幹を模索した貴重な期間であった.すでに出版された『コンベンショナルレストレーション』,『ボンディッドレストレーション』をベースとして現在のインプラント治療を補綴主導型の側面から見直し,それによる外科手技の改善・改良を加え,新たなるインプラント治療の足跡を残すことを本書の目的とした.
最近のインプラント治療に対する患者サイドの評価はさまざまであり,インプラント治療の優位性は必ずしも正しく理解されていない.
補綴的な立場から私自身インプラント治療は補綴治療を根底から変えた最良の治療オプションのひとつであると断言できる.インプラント治療の臨床応用が始まってから,長い年月の間にさまざまな研究・開発・改良が行われ,インプラント治療は,よりリスクが少なく,永続性をもち合わせ,また機能面のみならず,審美的に優れたものへと変貌してきた.
それらをふまえ,現在考えられる最良かつ安全なインプラント治療に審美的側面あるいは補綴的側面を加味し,診査,診断から予後まで細部にわたり,そのステップを網羅し解説した.少し時間がかかったことを考えると,デジタル化が進む現在,それらを応用した症例が加えられたことは逆により本書の価値を高めたことと思う.
本書は四つの部分から構成されている.これらは歯の欠損状態(歯数,骨,軟組織の吸収程度)により分類した.
第11巻は,前歯部の1〜2歯の欠損に対するインプラント治療について,その診査・診断・外科-補綴治療のステップを詳細に解説した.特に単独歯のインプラントは制約が多いため,審美的結果を得るために必要不可欠な要点を網羅した.
第12巻および第13巻は部分欠損症例であるが,第12巻では中間欠損や比較的少数歯の顎位の修正を要しない欠損について,第13巻では咬合再構成のオプションとしてインプラントを用いる際の治療計画にフォーカスをあて,補綴主導型を実現するための歯科技工との連携について解説した.
最後の第14巻は無歯顎の固定式補綴を中心にオーバーデンチャーまで高度な外科―補綴治療の連携を解説した.難治性といわれた無歯顎の補綴治療について,デジタル化による即時負荷と,骨の吸収状態に準じたさまざまな補綴デザインを整理した.
いずれにしても,読み方は読者の自由であるが,十分な情報と症例を呈示したと自負している.
最後に,この場を借りて,小濱忠一先生の情熱と秋元秀俊氏の努力に感謝するとともに医歯薬出版株式会社に御礼を申し上げたい.
2013年9月
SJCDインターナショナル会長 山ア長郎
序
わが国の臨床にオッセオインテグレーションタイプのインプラントが導入されてから,四半世紀以上の歳月が過ぎた.開発当初は下顎のオトガイ孔間にのみ植立可能といわれていたものが,骨の再生療法の進化とともにインプラントの形状や表面性状を変えながら,現在では口腔内すべての欠損部位に埋入可能となった.補綴の領域においてもアバットメントやマテリアルのラインナップが年を追うごとに増え続け,審美領域にも天然歯同様のインプラント補綴の製作ができるようになった.
現在においてはデジタルインプラントデンティストリーと呼ばれるようなCAD/CAMシステムを利用することにより,より安全により早期にインプラント上部構造を口腔内に装着できるにまで進化してきている.しかしながら豊富なマテリアルあるいはシステムを知識や手技として身につけ,日常臨床の経験のなかでそれらに合う適応症を診断し,確実にその症例に合った処置を選択する力は残念ながらCAD/CAMにはない.
抜歯原因の違いにより,その周囲組織は当然ながらまた違う治癒過程をたどる.特に審美領域にインプラントを利用する場合においては,異物であるインプラントを埋入したとき,その後の周囲軟組織がどのような経過をたどるのかを我々歯科医師が予測し,その条件に合わせた治療計画を選択することが重要であろう.
今回,前歯部1〜2歯欠損に限定したこの巻においては,抜歯原因による周囲骨のダメージを最初に考え,周囲軟組織の状況,隣在歯の状況等を考慮しながらそれぞれのリスクファクターを抽出し,それらをもとにしたインプラント埋入計画の進め方をフローチャートにまとめてみた.このインプラントレストレーションでは,治療計画時点においてゴールまでの道筋が詳細に描かれなければならないからだ.
このフローチャートは前歯部インプラントを行う歯科医師にとって実用的であり,あらゆる状況を提示している.臨床において判断に迷ったとき,その症例がチャートのどれに属するのか,臨床判断の参考にしていただければ,このうえない幸せである.
2013年9月
土屋賢司
序
少数歯欠損症例へのインプラントの応用は,審美性・機能性の回復と同時に残存歯の保護など臨床的優位性が非常に高いことは周知の事実である.とはいえ,インプラント治療は,あくまでも補綴治療のオプションのひとつであり,口腔内全体の治療目標の設定が不十分なままに治療が行われた場合には,長期的に安定した状態を維持することは不可能である.そのため,欠損部だけではなく,術前の咬合状態そして隣接歯や対合歯も含めた残存歯の適切な診査・診断に基づいた治療計画を立案し,治療を進めていくことが重要である.
このような観点から,本巻は,まずインプラント治療体系の基礎となる補綴主導型インプラント治療の考え方の再確認に始まり,適切な診査・診断を行うためのガイドラインとその実際について記した.次に治療計画の立案に際し,補綴的観点から必要不可欠となる診断用ワックスアップの重要性と天然歯治療とは多少相違しなければならないインプラント治療特有の製作方法,それらに基準としたサージカルガイド製作の要点についてまとめた.そしてこれらを念頭においた実際の症例における埋入部位も含めた診査・診断と治療計画の立案と治療上の考慮事項について詳細に解説した.さらに,現時点,そして今後の外科および補綴処置における診断と治療において主流となるであろうデジタル化の応用についても実例を記載した.
さらに,外科的マネジメントでは,前歯部の術後経過症例の検証と論文考察から抜歯即時埋入(immediate site)と抜歯窩治癒後の埋入(healed site)それぞれの外科的ゴールに到達するためのガイドラインを導きだすとともに,鑑別診断に基づいた外科術式の要点について呈示した.加えて,前歯部審美修復を達成するために必須となる骨造成に関する基礎知識と実際の考慮事項につ
いて詳細に記した.最終節では,ここまで解説してきた要点を網羅した前歯部と臼歯部欠損症例を呈示している.
本巻では,少数歯欠損症例においてより確実なインプラント治療を遂行するためにおさえておかなければならない基本的要点から,現時点では到達点に達しているとはいいがたい前歯部多数歯欠損の外科的治療戦略について解説している.
2013年9月
小濱忠一 植松厚夫
序
多数歯欠損症例へのインプラントの応用は,審美性・機能性の回復など臨床的優位性が非常に高い.しかし,欠損歯数や喪失後の期間に起因して顎機能や残存歯の咬合状態,さらには残存歯においてもさまざまな問題が生じ,咬合再構成の必要性を余儀なくされる場合が多い.さらに,欠損部も大なり小なりの吸収を伴っているため,詳細な診断のもとでの多様な外科的・補綴的治療オプションが要求され,複雑化する場合が多い.
本巻ではこのような現況を踏まえて,まず「診査・診断と治療計画の立案」と題して,補綴的に対応できる場合,顎関節症状を呈している場合,そしてインプラント埋入前または埋入後に矯正治療との併用を必要とする症例における実際の治療の流れと対応について解説した.次に,「臼歯部欠損の外科的マネジメント」と題して,特に骨吸収が大きい場合の補綴設計を考慮したさまざまな外科的対応について論文考察を踏まえた術式の要点について呈示した.当然,良好なメインテナンスを行うための軟組織処置についても解説している.
そして,次に「補綴主導型インプラントを可能にするためのラボサイドとの連携」と題して,まずマテリアルと咬合に関する文献考察に基づいた,現状で最適とされるマテリアルセレクションと咬合付与についてまとめた.次にいままでの雑誌や書籍ではあまり解説されることがなかった前歯部および臼歯部多数歯欠損症例の補綴的対応について詳細に呈示した.特にアバットメントと上部構造形態の付与については,歯科技工士と緊密な連携を図ることが重要であることから,インプラントレベルの印象に始まり,装着までの治療過程に関するステップとその考慮事項について,トラブル例の考察に加えて多くのシェーマと臨床例を用いて詳細に記した.最終章では,多数歯欠損がゆえに咬合再構成を必要とした症例の治療の要点について術後経過を加味して呈示した.
本巻では,多数歯欠損症例において,より確実なインプラント治療を遂行するために押さえておかなければならない口腔内全体の診査診断と治療計画に始まり,その外科および補綴的対応の要点について解説した.
2013年9月
小濱忠一
序
この巻では,無歯顎症例とインプラント周囲炎について解説するが,インプラントによる修復治療により,咀嚼機能の面で最も大きな恩恵を受けられるのが無歯顎患者である.1965年に初めてヒトに応用された,骨性結合型インプラント(osseointegrated implantまたはosseointegration implant)は下顎無歯顎の難症例のみをその適応症としてスタートし,その後,上顎および部分欠損へも応用されるようになった1).その術式や構造そのものは,現在も大きな変化はないが,コンピュータテクノロジーの急速な進歩により,術式はより簡便となり,機能回復までの期間も格段に短くなった.症例によってはインプラント埋入手術同日に修復物を装着し,咀嚼機能を回復することもできる.1980年代まで,無歯顎患者は3カ月程度流動食や軟性食品により過ごさなければならなかったことを考えると隔世の感がある.その時代は修復物も北米ではスウェディッシュモンスターと揶揄される審美性と使用感に不満が残るものであったが,各インプラントメーカーによるアバットメントの開発とコンピュータを利用したCAD/CAMにより,格段に完成度の高いものが簡単に製作できるようになった.また,大掛かりな手術を行わず,少数のインプラントで可撤性義歯を維持するインプラント・オーバーデンチャー(implant over denture:IOD)も患者の支持は高いものがある.以上のすべてを網羅した無歯顎症例におけるインプラント治療の現代の到達点をこの第4巻で習得いただけると思う.
インプラントに限らず,歯科治療後の長期安定性に最も重要なものが,メインテナンスである.多くの報告から(98ページ参照),我々が患者にインプラントを埋入するとインプラント単位でも患者単位でも最低1割がインプラント周囲炎(peri-implantitis)を発症する.インプラント周囲炎の治療法としては切除療法が確立された治療法ではあるが,その結果は患者,術者ともに望む結果ではないであろう.いまだ,論議の対象であるが,成功確率の高い再生療法を我々は確立していかなければならない.むろんインプラント周囲粘膜炎(peri-implant mucositis)やインプラント周囲炎の発症をなくすためのインプラント修復治療やメインテナンスシステムを構築することが最優先事項である.
2013年9月
日豊彦
■11巻 1〜2歯中間欠損症例
単独歯インプラントの適応症
1 上顎前歯の欠損補綴―ブリッジかインプラントか(新藤有道)
2 抜歯原因と抜歯窩の条件による治療選択(土屋賢司)
3 抜歯窩の治癒機転(組織的変化と実際)(構 義徳)
参考文献
予知性を高める術式の選択
1 垂直的骨吸収の大きな破折歯の抜歯窩のマネジメント(構 義徳)
2 骨吸収のない破折歯の抜歯即時埋入インプラント(構 義徳)
3 事故外傷の中切歯の抜歯後インプラントレストレーション(林 丈裕)
4 失活変色歯の抜歯即時埋入インプラント(松尾幸一)
5 歯肉縁下齲―挺出による垂直的増大と結合組織移植による水平的増大(中田典光)
参考文献
欠損部歯槽堤の分類と単独歯インプラント
1 欠損部歯槽堤への単独歯インプラント(大河原純也)
参考文献
単独歯インプラントの上部構造
1 上部構造の固定―スクリューリテイニングか,セメントリテイニングか(林 丈裕)
2 前歯部単独歯インプラントのためのカスタムアバットメント(高橋 健)
3 ティッシュスカルプティングからカスタムインプレッションまで(松尾幸一/土屋賢司/高橋 健)
4 単独歯インプラント修復のためのカスタムアバットメントの製作(高橋 健)
ガイデッドサージェリー
1 単独歯インプラントのガイデッドサージェリー(松川敏久)
応用臨床例
1 抜歯窩のマネジメントによる前歯部単独歯インプラントの二つの治療計画(土屋賢司)
索引
■12巻 部分欠損症例1
補綴主導型インプラント治療とは
1 外科主導型と補綴主導型インプラント治療の相違点(瀬戸延泰)
2 少数歯欠損における診査・診断の要点(植松厚夫)
参考文献
補綴主導型インプラント治療を成功に導くための診査・診断と治療計画
1 補綴主導型インプラント治療のための診断用ワックスアップ(山ア 治/小濱忠一)
2 補綴主導型インプラント治療のデジタル化の進展(相原英信)
参考文献
前歯部欠損症例の外科的マネジメント
1 治療計画と外科処置の目標設定(小濱忠一/橋 聡)
2 インプラント周囲組織の特徴と外科処置の予知性(小濱忠一/橋 聡)
3 条件別外科的治療戦略(橋 聡/小濱忠一)
4 前歯部多数歯欠損症例における外科処置の留意事項(橋 聡/日高豊彦)
5 前歯部におけるインプラントサイトの造成(名取 徹/橋 聡)
参考文献
応用臨床例
1 コンピュータガイドシステムを用いた前歯部多数歯欠損のインプラントレストレーション(原田和彦)
2 下顎片側遊離端欠損のインプラントレストレーション(植松厚夫)
索引
■13巻 部分欠損症例2
診査・診断と治療計画の立案
1 咬合崩壊症例における治療ゴールの設定と治療戦略(小濱忠)
2 補綴的対応で咬合再構成可能な症例の治療計画と治療のポイント(今本道也)
3 顎機能障害を有する症例の治療計画と治療のポイント(今井俊広)
4 歯列不正を有する症例の治療計画と治療のポイント(北園俊司)
参考文献
臼歯部欠損症例の外科的マネジメント
1 補綴設計基準とインプラントの埋入(寺門正徳)
2 インプラントサイトにおける骨の高さ不足への対応(寺門正徳)
3 臼歯部インプラント周囲組織の外科的改善(中田典光/大河原純也)
参考文献
補綴主導型インプラントを可能にするためのラボサイドとの連携
1 上部構造の材料と設計(千葉豊和/十河厚志/小濱忠一)
2 前歯部インプラント補綴を成功に導くためのキーポイント(千葉豊和/小濱忠一)
3 臼歯部上部構造の製作から装着まで(千葉豊和/十河厚志/小濱忠一)
参考文献
応用臨床例
1 中間歯欠損にインプラントを応用した症例(小原正嗣)
2 咬合平面の改善を要する症例における臼歯部インプラントの治療計画(西 耕作)
3 遊離端欠損症例への対応(今本道也)
4 すれ違い咬合への対応(西 耕作)
参考文献
索引
■14巻 無歯顎症例
無歯顎症例の診断と治療計画
1 無歯顎補綴におけるインプラント(寺西邦彦)
2 無歯顎インプラント補綴のための顎位の決定(寺西邦彦)
3 無歯顎症例の分類とインプラント補綴設計(山ア長郎)
参考文献
Class I:軽度骨吸収無歯顎症例のインプラント補綴
1 インプラントレストレーションの選択基準(日豊彦)
2 サブストラクチャーの必要性を判断する(日豊彦)
参考文献
Class II+Class III: 中等度〜重度骨吸収無歯顎症例のインプラント補綴
1 歯根形態付き上部構造のインプラントブリッジ(山ア長郎)
2 サブストラクチャー付きインプラントブリッジ(山ア長郎)
インプラント・オーバーデンチャー
1 インプラント・オーバーデンチャーの意義(寺西邦彦)
参考文献
メインテナンスケアとインプラント周囲病変
1 インプラントレストレーションのメインテナンス(千葉豊和)
2 インプラント周囲組織のリスクアセスメント(高橋 聡)
3 インプラント周囲炎の治療(高橋 聡)
参考文献
索引
■別巻 ガイドライン
1 インプラントの外科術式(阿部雅子/日豊彦/宮澤 仁)
2 インプラントの補綴術式(日豊彦)
参考文献
単独歯インプラントの適応症
1 上顎前歯の欠損補綴―ブリッジかインプラントか(新藤有道)
2 抜歯原因と抜歯窩の条件による治療選択(土屋賢司)
3 抜歯窩の治癒機転(組織的変化と実際)(構 義徳)
参考文献
予知性を高める術式の選択
1 垂直的骨吸収の大きな破折歯の抜歯窩のマネジメント(構 義徳)
2 骨吸収のない破折歯の抜歯即時埋入インプラント(構 義徳)
3 事故外傷の中切歯の抜歯後インプラントレストレーション(林 丈裕)
4 失活変色歯の抜歯即時埋入インプラント(松尾幸一)
5 歯肉縁下齲―挺出による垂直的増大と結合組織移植による水平的増大(中田典光)
参考文献
欠損部歯槽堤の分類と単独歯インプラント
1 欠損部歯槽堤への単独歯インプラント(大河原純也)
参考文献
単独歯インプラントの上部構造
1 上部構造の固定―スクリューリテイニングか,セメントリテイニングか(林 丈裕)
2 前歯部単独歯インプラントのためのカスタムアバットメント(高橋 健)
3 ティッシュスカルプティングからカスタムインプレッションまで(松尾幸一/土屋賢司/高橋 健)
4 単独歯インプラント修復のためのカスタムアバットメントの製作(高橋 健)
ガイデッドサージェリー
1 単独歯インプラントのガイデッドサージェリー(松川敏久)
応用臨床例
1 抜歯窩のマネジメントによる前歯部単独歯インプラントの二つの治療計画(土屋賢司)
索引
■12巻 部分欠損症例1
補綴主導型インプラント治療とは
1 外科主導型と補綴主導型インプラント治療の相違点(瀬戸延泰)
2 少数歯欠損における診査・診断の要点(植松厚夫)
参考文献
補綴主導型インプラント治療を成功に導くための診査・診断と治療計画
1 補綴主導型インプラント治療のための診断用ワックスアップ(山ア 治/小濱忠一)
2 補綴主導型インプラント治療のデジタル化の進展(相原英信)
参考文献
前歯部欠損症例の外科的マネジメント
1 治療計画と外科処置の目標設定(小濱忠一/橋 聡)
2 インプラント周囲組織の特徴と外科処置の予知性(小濱忠一/橋 聡)
3 条件別外科的治療戦略(橋 聡/小濱忠一)
4 前歯部多数歯欠損症例における外科処置の留意事項(橋 聡/日高豊彦)
5 前歯部におけるインプラントサイトの造成(名取 徹/橋 聡)
参考文献
応用臨床例
1 コンピュータガイドシステムを用いた前歯部多数歯欠損のインプラントレストレーション(原田和彦)
2 下顎片側遊離端欠損のインプラントレストレーション(植松厚夫)
索引
■13巻 部分欠損症例2
診査・診断と治療計画の立案
1 咬合崩壊症例における治療ゴールの設定と治療戦略(小濱忠)
2 補綴的対応で咬合再構成可能な症例の治療計画と治療のポイント(今本道也)
3 顎機能障害を有する症例の治療計画と治療のポイント(今井俊広)
4 歯列不正を有する症例の治療計画と治療のポイント(北園俊司)
参考文献
臼歯部欠損症例の外科的マネジメント
1 補綴設計基準とインプラントの埋入(寺門正徳)
2 インプラントサイトにおける骨の高さ不足への対応(寺門正徳)
3 臼歯部インプラント周囲組織の外科的改善(中田典光/大河原純也)
参考文献
補綴主導型インプラントを可能にするためのラボサイドとの連携
1 上部構造の材料と設計(千葉豊和/十河厚志/小濱忠一)
2 前歯部インプラント補綴を成功に導くためのキーポイント(千葉豊和/小濱忠一)
3 臼歯部上部構造の製作から装着まで(千葉豊和/十河厚志/小濱忠一)
参考文献
応用臨床例
1 中間歯欠損にインプラントを応用した症例(小原正嗣)
2 咬合平面の改善を要する症例における臼歯部インプラントの治療計画(西 耕作)
3 遊離端欠損症例への対応(今本道也)
4 すれ違い咬合への対応(西 耕作)
参考文献
索引
■14巻 無歯顎症例
無歯顎症例の診断と治療計画
1 無歯顎補綴におけるインプラント(寺西邦彦)
2 無歯顎インプラント補綴のための顎位の決定(寺西邦彦)
3 無歯顎症例の分類とインプラント補綴設計(山ア長郎)
参考文献
Class I:軽度骨吸収無歯顎症例のインプラント補綴
1 インプラントレストレーションの選択基準(日豊彦)
2 サブストラクチャーの必要性を判断する(日豊彦)
参考文献
Class II+Class III: 中等度〜重度骨吸収無歯顎症例のインプラント補綴
1 歯根形態付き上部構造のインプラントブリッジ(山ア長郎)
2 サブストラクチャー付きインプラントブリッジ(山ア長郎)
インプラント・オーバーデンチャー
1 インプラント・オーバーデンチャーの意義(寺西邦彦)
参考文献
メインテナンスケアとインプラント周囲病変
1 インプラントレストレーションのメインテナンス(千葉豊和)
2 インプラント周囲組織のリスクアセスメント(高橋 聡)
3 インプラント周囲炎の治療(高橋 聡)
参考文献
索引
■別巻 ガイドライン
1 インプラントの外科術式(阿部雅子/日豊彦/宮澤 仁)
2 インプラントの補綴術式(日豊彦)
参考文献