やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 わが国における認知症患者の急激な増加を受け,2015年に認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)が発表され,「認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて」のテーマのもと,7つの柱が提示されました.この柱の2つ目には,「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供」が掲げられ,そのなかには「歯科医師の認知症対応力向上研修実施」が明文化されました.このことにより,歯科医療従事者は認知症の人の口腔健康管理を継続的・適切に行うことが公的に求められたといえます.
 高齢期の口腔保健に目を転じてみましょう.歯科医療の進歩や8020運動などの口腔保健活動の成果により,高齢者の口腔環境は向上しました.しかし,歯科インプラントなどの高度な医療を受けている場合も多く,現在の高齢者の口腔内環境は多様性を増しているといえます.一方,高齢期になると認知症の発症率は高まり,さらにはその症状の進行によって口腔のセルフケアや歯科受診が困難となり,結果として口腔内に多くのトラブルを抱える可能性が高い状況となっています.
 こうした状況を受け,3年間の作成期間を経て,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「認知症の容態に応じた歯科診療等の口腔管理及び栄養マネジメントによる経口摂取支援に関する研究」におけるガイドライン作成班による『認知症の人への歯科治療ガイドライン』が日本老年歯科学会と合同で2019年6月に発刊されました.
 そして,本書『歯科医院で認知症の患者さんに対応するための本』は,本ガイドラインをふまえ,日常の歯科臨床において実際に認知症の人に対応するための基本知識と実践のためのポイントを,症例などを通して分かりやすく提示することを目的として編集されました.
 本書を日常臨床のかたわらにお読みいただき,歯科と認知症の人がつながる一助となれば執筆者一同,望外の喜びです.
 令和元年8月
 執筆者一同
 はじめに
 執筆者一覧
 本書の読み方・使い方/『認知症の人への歯科治療ガイドライン』について
1章 認知症の基本と取り巻く制度
 1 認知症の基本
  学習編:知っておきたい病態とその症状(粟田主一)
  臨床の実際編:歯科臨床での気付きと連携の芽(枝広あや子)
 2 認知症を取り巻く諸制度-社会でいかに支えるか
  学習編(木下朋雄)
  臨床の実際編(高田 靖)
  歯科医師会の取り組み(小玉 剛)
2章 認知症の患者さんに対する接遇とケア
 1 接遇について
  学習編(山田律子)
  臨床の実際編(高城大輔)
 2 口腔衛生管理について
  学習編(武井典子・小原由紀)
  臨床の実際編(白部麻樹)
3章 認知症の患者さんへの歯科治療
 1 治療可否のみきわめについて(平野浩彦・枝広あや子)
 2 治療計画の考え方について
  学習編(深井穫博)
  臨床の実際編(枝広あや子)
 3 う蝕処置について
  学習編(櫻井 薫)
  臨床の実際編(福島正義)
 4 外科治療について
  学習編(渡邊 裕)
  臨床の実際編(本橋佳子・森美由紀)
 5 補綴の考え方について
  学習編(中島純子・市川哲雄)
  臨床の実際編(中島純子・高城大輔・木幸子)
4章 認知症の患者さんへの嚥下・栄養・緩和ケア
 1 摂食嚥下について
  学習編:評価の原点・4つの視点(大石善也)
  臨床の実際編(野原幹司)
 2 栄養アセスメントについて
  学習編(大塚 礼・本川佳子)
  臨床の実際編(田中弥生・本川佳子)
 3 緩和ケアについて
  学習編(平原佐斗司)
  臨床の実際編(島田千穂)
  臨床の実際編:緩和ケアにおける歯科医療のありかた(枝広あや子)

 『認知症の人への歯科治療ガイドライン』目次