やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 リハビリテーション医学は,機能低下や機能障害などを運動機能訓練によって回復させ,ADL(Activities of Daily Living,日常生活動作)を向上させる療法です.この分野は治療医学,予防医学に次いで“第三の医学”と呼ばれています.成人や高齢者の機能低下に対しては,医師とともに言語聴覚士,作業療法士,理学療法士,介護福祉士など多職種が協力して役割を担っています.
 歯科界に目を向けると,現状では一部の歯科医師や歯科衛生士が,高齢者を対象にした口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションを担当しているにすぎません.しかしながら,平成30年4月の歯科診療報酬の改定で,新たに子どもの口腔機能発達不全症から成人や高齢者の口腔機能低下症まで,ライフステージ別の口腔機能管理を推進するように点数化がなされました.これを機に,口腔機能に対する機能訓練への関心はますます高まっていくでしょう.
 超高齢社会のなかで“オーラルフレイル”の徴候を示す患者さんへの対策として,口腔機能訓練の効果が認識されています.また,MCI(Mild Cognitive Impairment,軽度認知障害)に対して,口腔機能訓練を行うことが認知機能の維持・向上に効果があるというエビデンスが示されてきました.さらに,若年者の口腔機能の発達不全に対しても,口腔機能の健全な発達を促そうという流れが生まれました.つまり,現代は乳幼児期・学童期から成人,高齢期をとおして,口腔機能の維持・向上へのアプローチを行うことが必要とされる時代なのです.これらは少子高齢社会を迎えた私たちが直面する課題です.
 MFT(Oral Myofunctional Therapy,口腔筋機能療法)は従来,小児歯科,矯正歯科分野でおもに指導されてきた口腔機能訓練の一種です.口腔機能訓練では他職種との連携が必要となりますが,今後,口腔の専門家である歯科医師や歯科衛生士がその中心となって担うことが求められています.なぜなら,口腔機能は,人間が生きるために欠かせない“食べる”“のみ込む”“話す”“呼吸をする”ことを担うものであり,口腔機能訓練により健康寿命の延伸に寄与することは歯科の大切な役割だからです.
 本書では読者が理解しやすいように,ライフステージ別の口腔機能に関する諸問題をQ&A形式で取りあげました.臨床に役立つヒントとして,“口腔機能をどのように育成していくか”“口腔機能をどのように見て,どのような訓練を行うか”などを,発達段階やライフステージ別に構成してあります.また,関連書籍としてははじめて,MFTのエクササイズでつかわれる筋肉について,機能解剖の視点からお2人の先生方にご解 説いただくなど,口腔機能に関連する幅広いトピックスを取り扱っています.
 今後,口腔機能訓練が歯科医療の付加価値を高め,健康支援の手段としてますます活用されることを期待しております.本書が読者の皆様のご参考になれば,執筆者一同の望外の喜びです.
 平成30年11月 編者一同
 序文
 執筆者一覧
INTRODUCTION ライフステージに合わせたMFTの活用
 01 MFTの基礎知識
 02 ライフステージに応じたMFTの活用
CHAPTER 1 MFTに必要な基礎知識
 01 MFTを行ううえで知っておきたい摂食嚥下の基礎知識〜「食べる機能」の発達を中心に
 02 MFTに必要な解剖学的知識
 03 MFTにかかわる筋肉
CHAPTER 2 Q&Aで解説!ライフステージからみた口腔機能〜対応・アプローチのヒント
 乳幼児期 乳幼児期の口腔機能とMFT
  01 乳幼児期の口腔機能を診療室でどのようにチェックしますか?
  02 乳幼児の指しゃぶりに対してどのようなアドバイスをしますか?
  03 口がポカンと開いている乳幼児にはどのように対応しますか?
  04 乳幼児の小帯付着異常に対してどのように対応しますか?
  05 早期対応が必要な乳幼児の不正咬合にはどのようなものがありますか?
 学齢期 学齢期の口腔機能とMFT
  01 口がポカンと開いている子どもが増えているって本当ですか?
  02 学童期の舌小帯付着異常に対してどのように対応しますか?
  03 学童期の指しゃぶりへの対応は幼児と同じでいいですか?
  04 MFTの指導効果を妨げる高口蓋・狭窄歯列を拡大するタイミングは?
  05 低位舌の子どもに有効なMFTは?
  06 乳歯から永久歯への交換期に出現する一過性の口腔習癖への対応は?
  07 口腔習癖と不正咬合は関係しますか?
  08 爪かみのある子どもにどう対応をしたらよいですか?
  09 舌癖除去装置はどのような場合に使ったらよいですか?
  10 噛む訓練をすることで歯並びは変わりますか?
  11 気にすべき発音の誤りにはどのようなものがありますか?
  12 子どもの発音に対するアプローチはどのように行えばいいですか?
  13 「子どもの食べ方が悪い」と相談された場合にどのようにアドバイスをすればよいですか?
  14 鼻咽頭疾患と口腔習癖は関係がありますか?
  15 アデノイド肥大の患者さんにはどのように対応しますか?
  16 気がかりな行動をする子どもにはどのように対応しますか?
  17 口唇裂・口蓋裂の子どもにはどのようなMFTを活用しますか?
  18 ダウン症の子どもには,どのようにMFTを指導しますか?
  19 障がい児のよだれには,どのように対応しますか?
  20 子どもの指導時の保護者への対応は?
  21 非協力的な子どものやる気を引き出すには?
 成人期 成人の口腔機能とMFT
  01 成人へのMFTはどのように行いますか?
  02 ブラキシズムのある患者さんにどのように対応しますか?
  03 舌側矯正治療中の患者さんにMFTを指導する際の注意点は?
  04 外科的矯正治療の顎矯正手術にMFTはなぜ必要なのですか?
  05 歯周治療にMFTはどのように役に立ちますか?
  06 MFTにはアンチエイジング効果もありますか?
  07 舌が大きい人・大きく見える人にはどのように対応しますか?
 高齢期 高齢者の口腔機能とMFT
  01 通院可能な高齢者の機能低下をどのように防ぎますか?
  02 高齢者のドライマウス,舌痛症に口腔周囲筋のトレーニングは有効ですか?
  03 義歯の状態から口腔機能をどのようにみますか?

 COLUMN
  食育〜噛む側からのアプローチ
  態癖と不正咬合
  MFT〜睡眠時無呼吸症候群のための新補助療法
  オーラルフレイルと口腔機能低下症
  私が見てきた日本のMFTの発展

 付録 レッスンプログラム(舌小帯付着異常・低位舌・外科的矯正治療)