やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 バイオセラミックマテリアルとは,生体機能を代行するセラミックスで,傷害を受けた組織の修復・機能回復を目的としており,主として非金属の無機物からなる.代表的なものとしては,ジルコニア,アルミナ,ケイ酸カルシウム,リン酸カルシウム,ハイドロキシアパタイト,Bioactive Glasses,Radiotherapy Glassesがある. もともとは1960年代の医科領域における研究が歯科領域にも応用され,インプラントや骨補填材として開発が進んでいた.その後,1990年代にTorabinejad教授によってケイ酸カルシウムに関するさまざまな研究が行われ,歯内療法分野では革新的でバイオセラミックマテリアルの代名詞となるMTAセメント(ProRoot MTA)が1998年に北米でデンツプライから発売された.そして,わが国では2007年に薬事承認が得られたが,覆髄材としての承認であり,それ以外は目的外使用となっている.
 現在では,このMTAセメントの特許が切れ,各メーカーがこぞって主成分であるケイ酸カルシウムを改良したバイオセラミック製品を開発・販売している.しかし,一言でバイオセラミックマテリアルと言っても,さまざまな成分構成となっており,その用途も多岐に渡る.さらに近年では,MTAセメントに関する書籍は多く発刊されているものの,その内容はエビデンスに基づくものとそうでないものとが混在し,整理が必要と言えるであろう.
 本書は,バイオセラミックマテリアルの定義から,その使用法をより臨床応用しやすいように解説し,さらに各使用目的に関するエビデンスを追記し,多くの臨床家の参考になるよう編集している.一人でも多くの歯科医師がバイオセラミックマテリアルに精通できるよう著者一同願うばかりである.
 2018年5月
 牛窪敏博
CHAPTER 01 バイオセラミックマテリアルの特徴〜MTAセメントの優れた性質とは〜
 (長谷川智哉・牛窪敏博)
 バイオセラミックマテリアルとは / MTAセメントの基本的性質 / 物理学的特性 / 生物学的特性 / なぜMTAセメントを選択するのか / 最後に
CHAPTER 02 パーフォレーションリペア(穿孔修復)
 (牛窪敏博)
 パーフォレーションとは / パーフォレーションの原因と予後 / パーフォレーションの診断と治療法 / まとめ
 Literature Review
CHAPTER 03 永久歯の根尖破壊への対応
 (~戸 良・横田 要)
 根尖破壊が生じている歯に根管充填を行う際の問題点 / 根尖破壊が起きた歯の根尖閉鎖の選択肢 / MTAセメントをアピカルプラグとして用いる利点 / MTAセメントでアピカルプラグを行う際の注意点 / まとめ
 Literature Review
CHAPTER 04 外科的歯内療法
 (山本信一)
 外科的歯内療法における逆根管充填の目的 / 逆根管充填材としてのバイオセラミックマテリアル / 臨床の実際 / MTAセメントの操作 / バイオセラミックマテリアルの今後
 Literature Review
CHAPTER 05 バイオセラミックシーラーを用いた根管充填
 (横田 要)
 根管充填の目的 / 根管充填に用いられる材料 / 根管充填の術式 / バイオセラミックシーラーを用いた根管充填 / まとめ
 Literature Review
CHAPTER 06 永久歯の生活歯髄保存療法
 (渡邉浩章)
 覆髄材としてのMTAセメント / MTAセメントを用いた生活歯髄保存療法 / MTAセメントを臨床応用する際の注意点 / まとめ
 Literature Review
CHAPTER 07 根未完成歯への応用
 (~戸 良)
 根未完成歯の治療法 / Apexogenesis / Apexification / ApexogenesisとApexificationの共通点と相違点 / Revascularization / まとめ
 Literature Review
CHAPTER 08 内部吸収と外部吸収への応用
 (山本信一)
 歯根吸収のメカニズム / 内部吸収 / 侵襲性歯頸部外部吸収 / まとめ
 Literature Review
CHAPTER 09 各バイオセラミックマテリアル製品の特徴
 (山村啓介)
 覆髄材 / 根管充填用シーラー / まとめ
 バイオセラミックマテリアル製品(覆髄材)製品一覧
Q&A MTAセメントに関する臨床上の疑問に答える

 Column
  専門教育と臨床経験により治療法に違いはあるのか?
  歯内療法における新しい材料と技術

 索引