やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 1980 年代以降,急速に発展したコンピュータ,デジタル技術は,われわれの社会構造や生活のあり方に劇的な変化をもたらした.現代のコンピュータ,デジタル技術のグローバルな普及と発展については,誰しもが身近に感ずることであろう.
 人類の技術革命の視点から考えると,紀元前に農業による農業革命が起こり,その後18 世紀の産業革命に続き,今回のデジタルIT革命は3度目の歴史的技術革命ともいわれている.このグローバルな変化のなかで,世界中のあらゆる産業に構造変化が起きているが,当然のことながら医療分野にもその波が押し寄せてきている.矯正治療へのデジタル技術の応用はまだ初期の段階であるが,既存の矯正治療の概念や治療方法に大きなパラダイムの変化が起きることは避けられない事実であり,われわれ矯正歯科医もそのパラダイムシフトに対応してゆくことが求められていく.
 このデジタル矯正の黎明期にあたり,われわれはフルデジタルによるカスタムリンガル矯正のパイオニアとされる「Incognito」システムの概念および治療法について出版する機会を得た.われわれの蓄積してきたデジタル矯正臨床への知見が矯正治療の将来の発展に微力でも寄与できるのであれば,望外のよろこびである.
 2017 年8 月
 杉山晶二
 広瀬圭三
 居波 徹
1 加速するデジタル技術の臨床応用
  1.近年のデジタル技術の普及と汎用化の意味
  2.リンガル矯正の特性と,Incognito開発の意義―デジタル化によるソリューション
  3.Incognitoのもたらす患者と術者へのメリット
  4.Incognitoシステムのフィロソフィーと発展の経緯
2 ブラケット・チューブの構造特性
  1.リボンワイズシステムの特性
  2.広範なブラケットべースとロープロファイルブラケット
  3.各種製作オプションの選択
  4.デカルシフィケーション(思春期患者への適応)
  5.Incognitoシステム装置の金属組成
3 Incognitoの作製工程―アナログとデジタル
 1 印象採得
  1.アナログ:シリコーン印象
  2.デジタル:光学印象
 2 ラボへのケース情報の送付
  1.アナログ:航空便
  2.デジタル:Treatment Management Portal(TMP)
 3 工場での作製工程
  1.アナログ:石膏模型の作製とアナログセットアップおよびスキャニング
  2.デジタル:デジタルセットアップとセットアップチェック
  3.3Dプリンターによるブラケット・チューブの作製
  4.鋳造と研磨
  5.ベンディングロボットによるカスタムワイヤーの作製
  6.インダイレクトボンディングトレーの作製と装着
   COLUMN TMP―進化を続けるデジタル管理システム
4 歯列のデジタル化とデジタルセットアップ
  1.歯列のデジタル化
  2.アナログセットアップとデジタルセットアップ
  3.IncognitoシステムのセットアップチェックとTMP
  4.CBCT情報を取り入れた3Dデジタルセットアップ
5 インダイレクトボンディング法
  1.3 種類の間接法用トレー
  2.デジタル情報より作製されるクリアプレシジョントレーの優位性
6 リボンディング―使用材料とリボンディング工程
  1.ブラケット脱離調査
  2.脱離の原因と対応
7 各種結紮法と使用方法,効果
  1.シングルタイ
  2.オーバータイ(パワーチェーン)
  3.リンガルリガチャ
  4.スチールオーバータイ
  5.パワータイ
  6.スギヤマタイ
  7.ティップチェーンエラスティクス
8 非抜歯治療のプロトコール
 1 レベリングステージ
  1.最初のアポイントですべての歯にボンディング可能なケース
  2.最初のアポイントですべての歯にボンディングすることが不可能なケース
 2 上下顎関係改善のステージ
  1.Angle II級不正咬合
  2.Angle III級不正咬合
 3 空隙歯列治療時のラボオーダーフォーム
9 トルクコントロール
  1.ワイヤーの位置とトルクコントロール
  2.ワイヤーとブラケットの精密規格について
  3.結紮法とワイヤーサイズの差によるトルク伝達の影響
  4.リボンワイズワイヤーとエッジワイズワイヤーとの剛性比較
  5.リボンワイズワイヤーとエッジワイズワイヤーとの前歯部トルクの正確性の差
   COLUMN ティップバー
10 抜歯ケースのプロトコール
  1.日本人に多い抜歯症例
  2.レベリングとトルク確立のステージ
  3.抜歯スペースの閉鎖と上下顎関係改善のステージ
  4.フィニッシングとディテイリングのステージ
   アンマス牽引時のメカニクスパターン
11 ラボオーダーフォームの記載方法
  1.ラボオーダーフォーム
  2.患者情報と医院の情報
  3.赤枠内の記入
  4.アーチワイヤーの注文欄
  5.オプションに関する情報欄
12 装置撤去と保定装置
  1.装置の撤去法と使用器具
  2.保定装置の種類と装着
症例編
 CASE01 前歯部に叢生を伴う軽度のローアングルAngle I級非抜歯症例
 CASE02 前歯部開咬を伴うAngle II級抜歯症例
 CASE03 口蓋部のTAD(i-station)により水平的・垂直的固定を行ったAngle II級ハイアングル抜歯症例
 CASE04 上顎前歯部唇側傾斜を伴うAngle II級症例
 CASE05 著しい上下顎前歯部唇側傾斜を伴うAngle II級抜歯症例
 CASE06 思春期のAngle II級1 類抜歯症例
 CASE07 Angle II級1 類ハイアングル成人抜歯症例
 CASE08 開咬を伴うAngle II級2 類非抜歯症例
 CASE09 思春期のAngle II級2 類症例
 CASE10 骨格性下顎前突と左側偏位を伴うAngle III級外科抜歯症例
 CASE11 上顎前歯部叢生と反対咬合を伴うAngle III級抜歯症例
 CASE12 上下顎前歯部の叢生を伴うAngle III級抜歯症例

 Incognito治療の流れ
 Incognito Step by Stepの治療手順
 文献
 索引