やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

Preface
 マイクロスコープを用いたモダンテクニックのプロトコール下で行われる歯根端切除術は,近年,インプラントと並び最も「患者利益」に直結した歯科的革新の一つであったと言っても過言ではない.難治性の根尖性歯周炎で以前なら抜歯となっていた歯を,マイクロエンドサージェリーによって保存できる可能性が大幅に広がったことは,患者にとってまさしく福音であり,フェアに患者利益を追求できる臨床家にとってもたいへん有益なことであろう.
 歯根端切除術自体の歴史は古く,昔から行われている術式である.では,なぜ今,改めて注目を集めるようになってきたのだろうか?答えは明白であり,それは「劇的な成功率の向上」にほかならない.
 私が歯科大学の学生だった25年ほど前,日本では歯根端切除術は主に口腔外科で行われており,成功率は60%程度とそれほど高くなく,運が良ければ治癒する,どちらかと言えば対症療法的な処置と捉えられていたように記憶している.そして,現在においても,術者の多くは「結果としてできた病変の除去・掻爬」に処置の重点を置いており,「病変をつくった原因の除去」への意識が薄いことが,成功率を左右する第一の問題点と感じる.根尖性歯周炎は,ほぼ微生物が原因で発症する炎症性疾患であり,腫瘍ではない.病変自体は病因ではなく,感染の結果なのである.処置により病因が除去できなければ,当然,再発率は高く,成功率は低くなってしまう.
 さらに,成功率を左右してきたもう一つの大きな要因として,根尖性歯周炎が治癒しない原因がわかっていても,その問題を解決するための器具や環境が整っていなかったことが挙げられる.近年になり,その解決を切望した歯内療法専門医らが,マイクロスコープの導入,超音波チップや特殊器具の開発などを行い,モダンテクニックと言われるプロトコールを確立し,90%以上という高い成功率を達成したのである.
 本書では歯根端切除術の変遷から,モダンテクニックの詳細までを解説する.本書が安易な抜歯の風潮に危惧を感じている,すべての臨床家の一助になれば幸いである.
 2017年3月
 歯内療法専門医 石井 宏
Chapter 1 外科的歯内療法の目的
 1.外科的歯内療法の位置づけ
 2.外科的歯内療法が必要となる臨床的要因
 3.外科的歯内療法の適応症と意思決定
 4.外科的歯内療法の術式
 Column 歯内療法の成功率=歯を保存できる確率ではない?
Chapter 2 歯根端切除術の成功率
 1.歯根端切除術の歴史的変遷
 2.モダンテクニックと従来のテクニックにおける成功率の比較
 3.成功率に影響する要因
Chapter 3 歯根端切除術
 1.術前の注意事項
 2.ポジショニング
 3.局所麻酔
 4.切開・剥離
 5.骨削除
 6.掻爬
 7.根尖切除
 8.止血
 9.切断面の精査
 10.逆根管形成・洗浄・乾燥
 11.逆根管充填
 12.縫合
 13.術後の注意事項
Chapter 4 意図的再植術
 1.意図的再植術の有効性
 2.適応症と非適応症
 3.術式
 4.再植歯の歯根膜の活性度を保持するための要件
Chapter 5 術後評価
 1.術後の創傷治癒
 2.外科的歯内療法における成功の基準(Success Criteria)
 3.追加的治療介入の意思決定
Chapter 6 偶発症への対応
 1.局所麻酔時の偶発症
 2.審美障害
 3.骨削除・掻爬時の偶発症
 4.根尖切除・逆根管形成・逆根管充填時の偶発症
 5.上顎洞粘膜の傷害
 6.末梢神経の損傷
 7.薬剤関連性顎骨壊死
Chapter 7 歯内-歯周病変に対する外科的歯内療法・骨欠損への対応・歯根端切除術に伴うGTR法についての考察
 1.歯内-歯周病変に外科的歯内療法を行うタイミング
 2.歯内-歯周病変における外科的歯内療法の成功率
 3.骨欠損への対応
 4.歯根端切除術における遮断膜・骨補填材・成長因子の使用
 5.GTR法併用時の偶発症

 外科的歯内療法(モダンテクニック)に用いる器材
 索引