はじめに
わが国は,高い教育・経済水準,保健・医療水準に支えられ,2007年に「超高齢社会」に突入し世界でも有数の長寿国となっています.一方で,人口の急速な高齢化とともに,生活習慣病に起因して認知症や寝たきり等の要介護状態等になる患者さんが増加し,深刻な社会問題となっています.21世紀のわが国をすべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会とするためには,生活習慣病等の発病を予防する「一次予防」に重点をおき,「健康寿命」の延伸を図っていくことが極めて重要です.歯科医療は「歯の健康」だけに焦点を合わせるのではなく,健康寿命を延ばすための医療として捉えられるようになりました.全身との関わりに特に関連の深い歯周病の予防や治療に積極的に取り組む必要性が強調されています.
このような状況の中で,どのように歯周病を予防したらよいのか,どこに受診したらよいのか等,多くの方々は歯周病・歯周治療に高い関心を持っています.そのような声に応えるべく,「シンプル歯周治療」を企画しました.
本書の制作にあたっては,執筆者全員が集合して本書の内容や執筆項目を吟味しコンセプトを確認したことが一番の特徴です.
“難しいことばを簡単なことばに”,“複雑なことをシンプルに”,“深い内容をやさしく表現”することが基本でしたが,本書を出版する大きな目的は,歯周治療について,歯科医師が患者さんや歯科衛生士さんに“やさしく語る”ことができる書籍を作ることでした.それは,現在多くの歯周病・歯周治療の書籍があり,いささか情報過多となっている歯周病治療のコンセプトを一度見直していただくことでした.
本書では歯周病の本質を明確にし,解説内容を絞りに絞り,二次的なことを削ぎ,一つの項目を語り過ぎない簡潔な内容となっています.それが本書のタイトルである「シンプル」の所以です.
副題の「患者さんに語る」にもいくつかの意味があります.文字どおり来院する歯周病患者さんに分かり易く,病気と治療の本質を伝え,患者さんが治療に前向きになってもらうために,歯科医師や歯科衛生士さんの“語る力”を養うことをめざしました.また,この語る力は,歯科診療を行うスタッフ間でも,医師や看護師,介護関係者との連携においても,きわめて重要になります.現在,エビデンス医療は必須のものですが,エビデンスを基にした心に響き,心に残るようなナラティブ(語り)も,もう一つの柱として大切です.
執筆者は,歯周病学・治療学の分野でまさしく次世代を担う方々であります.そのエネルギーあふれる若手・中堅による執筆内容は,同世代の歯科医師,歯科衛生士から,医療・介護関係者にも把握できる入門書として位置づけることもできる内容構成です.
最後に,われわれの希望を温かく受け入れ,単行本として具現化していただきました医歯薬出版のみなさんに感謝申し上げます.
2016年2月25日
編集 吉江弘正 和泉雄一
わが国は,高い教育・経済水準,保健・医療水準に支えられ,2007年に「超高齢社会」に突入し世界でも有数の長寿国となっています.一方で,人口の急速な高齢化とともに,生活習慣病に起因して認知症や寝たきり等の要介護状態等になる患者さんが増加し,深刻な社会問題となっています.21世紀のわが国をすべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会とするためには,生活習慣病等の発病を予防する「一次予防」に重点をおき,「健康寿命」の延伸を図っていくことが極めて重要です.歯科医療は「歯の健康」だけに焦点を合わせるのではなく,健康寿命を延ばすための医療として捉えられるようになりました.全身との関わりに特に関連の深い歯周病の予防や治療に積極的に取り組む必要性が強調されています.
このような状況の中で,どのように歯周病を予防したらよいのか,どこに受診したらよいのか等,多くの方々は歯周病・歯周治療に高い関心を持っています.そのような声に応えるべく,「シンプル歯周治療」を企画しました.
本書の制作にあたっては,執筆者全員が集合して本書の内容や執筆項目を吟味しコンセプトを確認したことが一番の特徴です.
“難しいことばを簡単なことばに”,“複雑なことをシンプルに”,“深い内容をやさしく表現”することが基本でしたが,本書を出版する大きな目的は,歯周治療について,歯科医師が患者さんや歯科衛生士さんに“やさしく語る”ことができる書籍を作ることでした.それは,現在多くの歯周病・歯周治療の書籍があり,いささか情報過多となっている歯周病治療のコンセプトを一度見直していただくことでした.
本書では歯周病の本質を明確にし,解説内容を絞りに絞り,二次的なことを削ぎ,一つの項目を語り過ぎない簡潔な内容となっています.それが本書のタイトルである「シンプル」の所以です.
副題の「患者さんに語る」にもいくつかの意味があります.文字どおり来院する歯周病患者さんに分かり易く,病気と治療の本質を伝え,患者さんが治療に前向きになってもらうために,歯科医師や歯科衛生士さんの“語る力”を養うことをめざしました.また,この語る力は,歯科診療を行うスタッフ間でも,医師や看護師,介護関係者との連携においても,きわめて重要になります.現在,エビデンス医療は必須のものですが,エビデンスを基にした心に響き,心に残るようなナラティブ(語り)も,もう一つの柱として大切です.
執筆者は,歯周病学・治療学の分野でまさしく次世代を担う方々であります.そのエネルギーあふれる若手・中堅による執筆内容は,同世代の歯科医師,歯科衛生士から,医療・介護関係者にも把握できる入門書として位置づけることもできる内容構成です.
最後に,われわれの希望を温かく受け入れ,単行本として具現化していただきました医歯薬出版のみなさんに感謝申し上げます.
2016年2月25日
編集 吉江弘正 和泉雄一
Prologue 「シンプル歯周治療」を読んでもらいたい人へ
(吉江弘正)
歯周治療は歯科衛生士におまかせでいいの?
高齢者・要介護者に力を入れようと考えている人へ!
患者さんはインプラント治療を望んでいるか?
医院経営における歯周治療とは!
I 進行しやすい歯周病か
1 歯周病のリスクパターン(多部田康一,吉江弘正)
歯周病進行の様式
歯周炎は歯周組織破壊の進行
2 検査の意味することは(高橋慶壮)
検査の意味することは
進行する人か否か,進行する部位か否か
3 リスク診断の重みづけ(三谷章雄)
リスクの重みづけ
TOPIC 歯周病リスク評価ツール
患者さんごとの治療の進め方
4 たばこの百害・過度のストレス(佐藤 聡)
たばこの百害
過度のストレス
たばこやストレスへの対策
5 糖尿病は歯周病を重症化させるか(三辺正人,工藤値英子)
糖尿病がなぜ怖いのか
糖尿病患者の歯周病対策
6 チームで取り組む歯周治療(和泉雄一,荒川真一)
歯科医師・歯科衛生士・医師のチーム
自己管理とプロフェッショナル管理
II 細菌・感染のコントロール
1 炎症の見極め(中島啓介,臼井通彦)
プラークと出血の関連
プラークがない炎症部位の対応は
2 見えるプラーク(石原裕一,吉成伸夫)
コンプライアンスからアドヒアランス(患者主導)へ
効果的なプラークコントロール
3 見えないプラーク(五味一博)
ポケット内細菌を減らすには
TOPIC 抗菌飲み薬
4 誰でもできるフラップ手術(今村健太郎,齋藤 淳)
迷わないフラップ手術
患者負担の軽減・治療の評価
TOPIC 骨移植材と保護膜を併用した歯周組織再生療法
III 力のコントロールと咬み合わせの回復
1 咬み合わせの力を見極める(坂上竜資)
フレミタス(突き上げ)を見逃さない
昼と夜のブラキシズム
2 回復法の選択(高橋慶壮)
回復法の選択
歯列矯正の選択(望ましい歯列の獲得)
ブリッジ,義歯の選択
インプラントの選択
IV インプラントへの対応
1 治療前の心がまえ(山本松男)
歯を失ったことの意味合い
歯周治療を終えてからのインプラントが望ましい
2 インプラント病変への適切な対応(古市保志)
よく噛めることを過信しないこと,念入りな手入れ
もし破壊が進んでしまったら
TOPIC インプラント周囲組織
V 治療をいつまで続けるのか
1 メインテナンスかSPTか(五味一博)
治癒と病状安定を見極める
患者が満足する歯科医院
2 歯科医師・スタッフと患者の意識改革(八重柏 隆)
進行部位を見つけるには
痛くならないための通院習慣
VI 予防と介護に向けて
1 小中高生・成人への健康啓発(梅田 誠)
健康観は子供時代が大切
成人期でも歯周病になりやすい時期がある
2 フレイル(虚弱)患者への歯周治療はどこが違う(吉成伸夫,石原裕一)
幅広いゆるいゴールの設定
要介護期への準備:感染除去とシンプルな口腔
3 喜ばれる訪問歯科治療の実際(両角祐子,佐藤 聡)
痛くなく,安全な口腔ケア(歯周ケア)
家族,支援者への会話も大切に
参考文献
索引
(吉江弘正)
歯周治療は歯科衛生士におまかせでいいの?
高齢者・要介護者に力を入れようと考えている人へ!
患者さんはインプラント治療を望んでいるか?
医院経営における歯周治療とは!
I 進行しやすい歯周病か
1 歯周病のリスクパターン(多部田康一,吉江弘正)
歯周病進行の様式
歯周炎は歯周組織破壊の進行
2 検査の意味することは(高橋慶壮)
検査の意味することは
進行する人か否か,進行する部位か否か
3 リスク診断の重みづけ(三谷章雄)
リスクの重みづけ
TOPIC 歯周病リスク評価ツール
患者さんごとの治療の進め方
4 たばこの百害・過度のストレス(佐藤 聡)
たばこの百害
過度のストレス
たばこやストレスへの対策
5 糖尿病は歯周病を重症化させるか(三辺正人,工藤値英子)
糖尿病がなぜ怖いのか
糖尿病患者の歯周病対策
6 チームで取り組む歯周治療(和泉雄一,荒川真一)
歯科医師・歯科衛生士・医師のチーム
自己管理とプロフェッショナル管理
II 細菌・感染のコントロール
1 炎症の見極め(中島啓介,臼井通彦)
プラークと出血の関連
プラークがない炎症部位の対応は
2 見えるプラーク(石原裕一,吉成伸夫)
コンプライアンスからアドヒアランス(患者主導)へ
効果的なプラークコントロール
3 見えないプラーク(五味一博)
ポケット内細菌を減らすには
TOPIC 抗菌飲み薬
4 誰でもできるフラップ手術(今村健太郎,齋藤 淳)
迷わないフラップ手術
患者負担の軽減・治療の評価
TOPIC 骨移植材と保護膜を併用した歯周組織再生療法
III 力のコントロールと咬み合わせの回復
1 咬み合わせの力を見極める(坂上竜資)
フレミタス(突き上げ)を見逃さない
昼と夜のブラキシズム
2 回復法の選択(高橋慶壮)
回復法の選択
歯列矯正の選択(望ましい歯列の獲得)
ブリッジ,義歯の選択
インプラントの選択
IV インプラントへの対応
1 治療前の心がまえ(山本松男)
歯を失ったことの意味合い
歯周治療を終えてからのインプラントが望ましい
2 インプラント病変への適切な対応(古市保志)
よく噛めることを過信しないこと,念入りな手入れ
もし破壊が進んでしまったら
TOPIC インプラント周囲組織
V 治療をいつまで続けるのか
1 メインテナンスかSPTか(五味一博)
治癒と病状安定を見極める
患者が満足する歯科医院
2 歯科医師・スタッフと患者の意識改革(八重柏 隆)
進行部位を見つけるには
痛くならないための通院習慣
VI 予防と介護に向けて
1 小中高生・成人への健康啓発(梅田 誠)
健康観は子供時代が大切
成人期でも歯周病になりやすい時期がある
2 フレイル(虚弱)患者への歯周治療はどこが違う(吉成伸夫,石原裕一)
幅広いゆるいゴールの設定
要介護期への準備:感染除去とシンプルな口腔
3 喜ばれる訪問歯科治療の実際(両角祐子,佐藤 聡)
痛くなく,安全な口腔ケア(歯周ケア)
家族,支援者への会話も大切に
参考文献
索引














