やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


咬合・補綴がわからないまま歯科医になってしまった人へ
 著者らは2011年に『補綴臨床テクニカルノート〜クラウン・ブリッジ編〜』を医歯薬出版(株)から世に出す機会を得た.
 幸いにも読者の方々からご好評を頂戴し,床義歯編あるいは咬合編は続いて出版されるのか,などのお問い合わせを頂戴した.
 時期を空けずに出版する予定であったが,今日に至ってしまったことをお詫びしたい.
 補綴臨床は種々の技術の集合から成り立っており,どのステップも精緻な技術が必要であることは言うまでもない.
 これら数多くの精緻な技術は,教科書の中にそのすべてが網羅されることは困難であることから,卒前あるいは卒後の臨床実習の中で習得してきた.
 しかし,昭和58年以降に歯科医師国家試験に実習が課せられなくなってからは,臨床実習就中患者さんを介した臨床技術の修得が減少してきたことは否めない.その結果,教科書に書かれていない臨床技術を得る機会がほとんどなくなってしまっている.
 よく「技術は盗め」と言われる.大工さんや職人さんは,親方やベテラン職人の仕事ぶりを見ながら技術を盗むイメージがある.われわれ医療関係者も同様である.
 また,先輩や同僚と臨床・症例について話してみることで,耳からも技術が得られるものだ.個人で学ぶことができることは限られている.他の人と話すことで,自分とは違った視点や知識を得ることができる.これら臨床技術的なヒントを自ら実践することによって「自家薬籠中のもの」にすることができる.
 本書でもクラウン・ブリッジ編と同様に,新潟大学で研究・臨床を共にしてきた金田 恒博士が共著者となってくださり,彼女の知識に裏付けされたスケッチ力によって素晴らしい説明画を描いてくださった.写真よりも注目点が明確になっており,読者諸氏には理解を深めるのに大いに役立ってくれるものと思う.
 2015年4月
 河野正司
 序
I 臨床への姿勢について
 1.床義歯の救急処置
  1)レジン床にひびが入った
  2)レジン床が2分割してしまった
   (1)割れた2片の破断面を元の状態に組み合わせられる場合
   (2)割れた2片を破断面で元の状態に組み合わせ難い場合
   (3)接合後の処理
   〈直接リライン法〉
 2.補綴治療の大きな効果
  1)義歯による顔貌の回復
  2)噛んで認知症を予防し,健康寿命を延伸
 3.義歯装着は口腔内の環境改善に大きく寄与する
  1)ヒトは左右の歯を乗り換えながら食物を粉砕している
  2)自由咀嚼と片側咀嚼によるピーナッツ咀嚼回数試験
  3)欠損部に義歯を装着しないと
  4)義歯により誤嚥性肺炎の発生率は低下する
II 床義歯に生じやすいトラブル
 1.新義歯が装着できない
  1)装着方向に一致していない義歯構成要素
   (1)義歯の装着方向は咬合平面に垂直方向か?
   (2)支台歯歯頸部のアンダーカットにも注意
  2)咬合が高すぎて装着できない義歯
   (1)床義歯レジン重合法のいろいろ
   (2)レストが支台歯から浮き上がっている義歯
   (3)レストは適合するが咬合が高すぎる義歯
   〈咬合のチェック方法〉
  3)咬合接触が不均衡で装着できない床義歯
   (1)閉口時に均等な咬合接触が得られない床義歯
   (2)床粘膜が顎堤に適合不良で咬合が不調和な床義歯
 2.咬合時に生じる「疼痛」
  1)義歯床粘膜面のレジンパールに起因する疼痛
   (1)レジンパールとは
   (2)レジンパールの発見方法
   (3)床粘膜面のレジン粗面は滑らかにする
  2)レストの機能低下による義歯床の沈下
   (1)クラスプ・レストの変形によるレスト機能の低下
   〈必要な対策〉
   (2)レストの摩耗によるレスト機能の低下
   〈必要な対策〉
   (3)支台歯の動揺・移動により,支持力が機能しない
   (4)床の沈下によりクラスプ腕がともに沈下し,支台歯の辺縁歯肉を機械的圧迫
  3)義歯床の不適合による疼痛
   (1)顎堤粘膜の厚さは一様ではない
   (2)義歯床への負荷の加わりかたによっても異なる
   〈必要な対策〉
 3.咬合時の「疼痛」を未然に防ぐための注意点
  1)装着,試適時にレストの適合を見る
  2)床義歯の定期検査は必要
  3)支台歯のPメンテ
III 治療中に起きやすい偶発事故
 1.「誤嚥・誤飲」の事故
  1)「誤嚥・誤飲」の機構
   (1)嚥下の機構
   (2)誤嚥の機構
  2)誤嚥・誤飲の症状と対応
   (1)発生頻度から見る
   (2)初期対応の方法
   (3)臨床症状
   (4)エックス線検査も必要
   (5)消化管への落下
   (6)肺内などへの落下
  3)誤嚥・誤飲に対する予防対策
   (1)統計的報告から学ぶ
   (2)一般的な対策
 2.床義歯誤嚥の危険性
  1)クラウン・ブリッジより重篤な症状になりやすい
  2)安全なクラスプの交換修理・追加法
   (1)レジン・ジグで追加クラスプを定位・固定する
   (2)追加するクラスプ脚部を安全に義歯床に取り込むために
 3.回転切削時の偶発事故
   (1)タービンには要注意
   (2)事故例を見る
   (3)対策
 4.印象採得による残存歯の偶発抜歯
  1)発生しやすい状況
   (1)孤立した動揺歯は要注意
   (2)ゴム質弾性印象材の使用は要注意
  2)予防対策
   (1)印象法の必要精度を確認しよう
   (2)ゴム質弾性印象材の撤去困難例
   (3)ゴム質弾性印象材の非常撤去方法
IV 補綴治療による咬合の回復
 1.補綴装置は固定性か可撤性か?
  1)患者さんの希望を的確に聞き出すこと
  2)患者さんの治療対象部位は,クラウン・ブリッジによるか床義歯によるか?
   (1)中間欠損症例
   (2)中間欠損+遊離端欠損症例
 2.咬合の安定を求めて
  1)欠損歯列の診断
   (1)ドイツの補綴学者アイヒナーが提唱した分類とは
   (2)アイヒナーの欠損様式の分類と咬合の安定
   (3)欠損歯数と咬合の安定の関係
  2)注意を要する欠損歯列
   (1)すれ違い咬合への対応
   (2)咬合支持組織の違いと咬合の安定・平衡
  3)咬合の安定回復を目指して補綴法の選択
 3.床義歯が長期間機能するために
  1)義歯に必要な三要素
  2)三要素とその力の大きさ
 4.歯列の変化と口腔ケアへの対応
  1)残存歯の変化に対して
  2)オーラルケアの容易な補綴装置
   (1)有利な可撤性の床義歯
   (2)可撤性ブリッジ
  3)義歯装着による効果的な嚥下の遂行
Column 義歯の三要素と床義歯の設計
 1.支持─遊離端義歯におけるレストの作用
  1)遊離端床の沈下に対して「近心レスト」は効果的
   (1)咬合時の遊離端床の沈下の様相
   (2)支台歯に加わる負荷の様相
  2)遊離端床の回転離脱に対して「近心レスト」は効果的
 2.把持─把持効果を高める大連結子と間接維持装置
 3.維持─維持腕の利用するアンダーカットについて
  1)装着方向により支台歯のアンダーカットは変化する
  2)ニアゾーン(near zone)とファーゾーン(far zone)について
  3)装着方向を規定するガイド面
 4.クラスプの設計とアンダーカットの位置
  1)アンダーカットがファーゾーンにある症例
  2)アンダーカットがニアゾーンにある症例
 5.拮抗腕について
  1)危険なジグリング・フォース(jiggling force)とは
  2)ジグリング・フォースの発生を抑えるには

 索引