やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂第2版の発刊によせて
 2009年6月に本ガイドラインの初版が発刊され5年が経過しました.近年,糖尿病と歯周病の関連についての基礎研究および臨床研究が年々活発となり,この5年間にも世界中から多くの研究成果が加わって,初版の記述をさらに強化する必要性が出てきました.そのため,2013年4月に私が日本歯周病学会理事長に就任すると同時にペリオドンタルメディシン委員会のミッションとして,西村英紀委員長に改訂第2版の編集をお願いしました.その後,担当委員の選定に続き,西村委員長の強力なリーダーシップにより迅速なメール会議や東京での検討会議などが頻繁に行われました.その間,メール会議での熱意あふれるディスカッションが繰り返された結果,内容の吟味が詳細な部分にまで及び,すばらしい改訂第2版ができあがったものと感じております.このようにして,私の任期中に作業が完了し,予定通り2015年度に発刊の見通しが立ちました.編集期間中,本ガイドラインの作成にご協力頂きました担当委員の皆様には心から感謝申し上げます.
 本ガイドラインでは,初版の内容に比べて糖尿病と歯周病の関連がさらに強く提示された感があります.特に,CQ1「歯周治療はHbA1cの改善に有効ですか?」の推奨度は,初版でのグレードC1から今回はグレードBへとレベルアップし,臨床現場での糖尿病患者さんへのモチベーションアップにつながる評価が得られました.このほか,ヘモグロビンA1c表示に関して,新しい基準(NGSP値)で記載されたことなど最新の医学知識に合わせた内容となりました.
 日本中のすべての歯科医療従事者が本ガイドラインを一読し,国民の口腔保健の向上および全身の健康維持に寄与するために,診療室の常備書籍として日々の臨床に活用して頂くことを強く希望いたします.
 平成26年12月
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
 理事長 永田俊彦


改訂第2版 序文
 本改訂第2版は平成21年6月発行の「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン」に最新のエビデンスに基づいた研究成果を盛り込み,改訂を加えたものである.改訂第2版の作業は主として日本歯周病学会のぺリオドンタルメディシン委員会(委員長:西村英紀)と用語委員会(委員長:吉成伸夫)が中心となって行った.改訂第2版は基本的に旧版を踏襲しているが,すべてのクエスチョン(Q),クリニカルクエスチョン(CQ)を見なおし,特に重要と判断されたQを追加するとともに,実用性に乏しいCQについては他と統合,もしくは不採用とした.とりわけ,歯周病は慢性疾患であり,長期にわたる包括的管理が重要であるとの観点から,モチベーション維持のための患者説明を念頭においてQを大幅に増やした.また,ヘモグロビンA1cの国際標準値導入の動きに合わせ,特に断っていない限り,改訂版では国際標準値で統一した.また,改訂作業を行う途中段階で発表された歯周治療によるヘモグロビンA1cの改善効果に否定的ないわゆるJAMA(Journal of the American Medical Association)論文についても取り上げ,ガイドライン改訂WGとしての見解をCQ内で詳細に記載しているので参照されたい.
 一方でこのたびの改訂では新たな課題も浮かび上がってきている.特に糖尿病患者に対する歯周治療における抗菌療法の併用効果については,明確なコンセンサスを導き出すことが困難であり,学会として取り組むべき重要課題の一つとすべきであるとの結論を得た.ただし,すでに学会から「歯周病患者における抗菌療法の指針」が発行された直後であるため,可能な限り整合性が取れるとともに,十分ではないものの既存の介入研究によるエビデンスを踏まえた表現を採用した.今後,ぺリオドンタルメディシン委員会が中心となって本邦から新たなエビデンスを導き出したいと考えている.
 最後に改訂第2版作成にあたり,専門の立場から的確かつクリティカルな批評を頂いた日本糖尿病学会(門脇孝理事長)の関係された先生方,ならびにインプラント関連のCQ作成において的確な助言を頂いた前インプラント委員会委員長の申 基赴ウ授に心より感謝申し上げたい.
 改訂版作成委員長
 西村英紀(ぺリオドンタルメディシン委員会)
 改訂第2版の発刊によせて
 改訂第2版 序文
 執筆者一覧
 エビデンスレベル―各研究へ付された水準
1 糖尿病患者における歯周病の病態
 Q1 糖尿病になると歯周病になりやすいですか?(石原裕一)
 Q2 糖尿病は歯周病を悪化させますか?(野口和行)
 Q3 歯周病を放置すると糖尿病になりやすいですか?(西村英紀)
 Q4 歯周病は血糖コントロールを悪化させさせますか?(西村英紀)
 Q5 歯周病を放置すると心血管病変や腎症などの糖尿病の合併症に罹りやすい,あるいはこれらを悪化させますか?(西村英紀)
2 歯周治療と糖尿病
1)歯周治療と糖尿病の状態
 CQ1 歯周治療はHbA1cの改善に有効ですか?(須田玲子)
 CQ2 血糖コントロールによって歯周病が改善しますか?(長澤敏行)
 CQ3 糖尿病患者に対して口腔清掃習慣を確立するような患者教育は,良好な血糖コントロールの維持に有効ですか?(三邉正人)
2)歯周治療と薬剤
 CQ4 糖尿病患者に対する歯周治療で,スケーリング・ルートプレーニング(SRP)単独療法と比べ,抗菌療法(局所あるいは経口)の併用は有効ですか?(三邉正人)
3)歯周基本治療
 CQ5 糖尿病患者に歯周基本治療を行う際,菌血症に対する対処が必要ですか?(中川種昭)
4)歯周外科治療
 CQ6 糖尿病患者に歯周外科治療等の観血的処置を行う際の血糖コントロールの目安はありますか?(須田玲子)
 CQ7 糖尿病患者の抜歯や歯周基本治療,歯周外科治療の際にワーファリンの服用は中止すべきでしょうか?(山田 聡)
 CQ8 糖尿病患者に外科処置を行うときには,より徹底した抗菌薬投与を選択すべきでしょうか?(松山孝司)
5)歯周組織再生療法,インプラント治療
 CQ9 糖尿病患者に歯周組織再生療法を行うと非糖尿病者と同等の治療結果を得ることができるでしょうか?(吉成伸夫)
 CQ10 糖尿病患者にインプラント治療を行うと非糖尿病者と同等の治療結果を得ることができるでしょうか?(吉成伸夫)
6)サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)
 CQ11 糖尿病があるとSPT期において歯周病が再発しやすいのでしょうか?(大石慶二,玉澤かほる)
 CQ12 糖尿病患者にSPTを行う際,その間隔は通常の歯周病患者に比べて短くすべきでしょうか?(大石慶二,玉澤かほる)
 CQ13 糖尿病患者のSPT期における血糖コントロールの目安はありますか?(大石慶二,玉澤かほる)