やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 レーザー(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)とは一定方向に進む単一の波長を持ったエネルギー密度の高い光,すなわち人工の光,電磁波であり,1917年にEinsteinによってその存在が予言されています.そして,1960年,Maimanによって初めてルビーレーザーが発振されました.
 歯科とレーザーの関係は,1964年にSternとSognnaesによりルビーレーザーをエナメル質と象牙質の蒸散に初めて用いた時にさかのぼります.1964年Stern,1965年Goldman,1968年山本らによりこのルビーレーザーがヒトの歯のう蝕病巣に照射されました.
 1990年代より歯科で本格的にレーザーが市販されるようになり,日本でも2008年には保険診療の一部にレーザー治療が収載され,現在,国内の歯科診療所においてレーザー装置は2〜3割設置されています.しかしながら,一部の臨床家ではレーザー導入後,臨床で使用しているものの使いこなすことができていないという不満があります.レーザーの特性が理解できず,レーザーを用いても従来の診療に比べ効率が下がってしまい,その結果,診療室の片隅に置かれホコリをかぶっていることを耳にします.
 今日,レーザーは歯科領域において,その優れた臨床的効果により有効な治療法のひとつとして認識されています.さまざまな高出力レーザーの特性を活かして,治療の効率化,治癒促進,疼痛緩和などを目的として,軟組織および硬組織のマネージメントに広く応用されています.そして,従来の術式にレーザー治療を併用することや従来の治療の代替治療として,その効果は周知されています.
 本書はレーザーで何ができるのか,どのように使用することができるのかを読者に伝える趣旨で構成し,今まで使用していなかったレーザー装置を再度症例によって選択し,使いこなし,当時高額で購入したレーザーを再び診療室で活躍させていただきたく,本書を企画しました.CHAPTERを1:『痛みを和らげるレーザー治療』,2:『外科的レーザー治療』,3:『こんな処置にも応用できるレーザー治療』に分け,更に症例ごとに“こんな時使ってみよう”,“術式とコツ”,“COLUMN”と日常臨床で多く経験する処置に対するさまざまなレーザーの使用方法を詳細に説明しており,即,実践に対応できるような構成を心掛けました.
 歯科治療にレーザーを応用することにより,従来の治療に比べて痛み,不快な振動や音,出血を軽減でき,処置部位を殺菌・無毒化することで診療効率を高め,より快適でやさしい治療が可能となり,さらには,術者の診療のストレスをも軽減することができます.
 歯科におけるレーザー治療は,いまだ発展途中ですが,今後,より多くの先生方に各種レーザーの優れた効果,適切な使用方法を理解し実際に臨床応用していただき,それによって患者さんにより質の高い歯科医療を提供できることを願っています.本書をレーザーを使用する歯科医師の先生方やそのスタッフの皆様に活用していただき,日常臨床におけるレーザー治療の一助となれば幸いです.
 最後に,本書の作成にご尽力いただいた医歯薬出版株式会社の大城惟克氏はじめ関係者の方々に深く感謝いたします.
 山口博康/小林一行
CHAPTER-1 痛みを和らげるレーザー治療
 (山口博康)
 1 Nd:YAGレーザーは表面麻酔に有効です
 2 Nd:YAGレーザーはラバーダム着脱時の痛みの緩和に有効です
 3 組織透過型レーザーは象牙質知覚過敏症の痛みの緩和に有効です
 4 組織透過型レーザーはTMJ治療に有効です
 5 組織透過型レーザーは矯正治療時に生じる痛みの緩和に有効です
 6 組織透過型レーザーはアフタ,口内炎,潰瘍性病変で生じる痛みの緩和に有効です
CHAPTER-2 外科的レーザー治療
 (小林一行)
 1 Nd:YAGレーザーは切除手術に有効です
 2 Er:YAGレーザーは組織付着療法に有効です
 3 Er:YAGレーザーは歯槽骨整形や歯槽骨切除,骨隆起除去に有効です
 4 Nd:YAGレーザーは遊離歯肉移植術に有効です
 5 Er:YAGレーザーは歯周組織再生療法に有効です
 6 レーザー照射は歯肉メラニン色素沈着除去に有効です
 7 Er:YAGレーザーは歯根尖切除術に有効です
CHAPTER-3 こんな処置にも応用できるレーザー治療
 (山口博康)
 1 Nd:YAGレーザーは歯肉圧排に有効です
 2 Nd:YAGレーザーは変色歯の漂白に有効です
 3 Nd:YAGレーザーは失活抜髄時のレーザー麻酔に有効です
 4 Nd:YAGレーザーはガッタパーチャ除去に有効です
 5 Nd:YAGレーザーとフッ化ジアンミン銀を併用することで感染歯質の固定が可能です
 6 Er:YAGレーザー照射によりバイオフィルム除去が可能です
 7 組織透過型レーザーは穿孔部肉芽の除去(穿孔部修復)に有効です

 さくいん