やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書は,感染予防対策の基礎となる,「滅菌・消毒・洗浄の基本」について歯科医療従事者を対象に,図・表・イラストを多用し平易な言葉で解りやすく楽しく勉強できるように解説をした書である.
 「滅菌・消毒・洗浄」は,一見簡単そうに見えるが定義や基本が正確に理解されていないと難しい.また実際の正しい手順等も解っているようで解っていなかったり,的確に解説された書物も散見されない.
 確かに感染予防対策は複雑である.しかし,基本を正しく修得すれば,応用も可能である.つまり基本が何かを正しく理解できていれば,過剰な対策を実施しなくて済むし,肝心な対策がおろそかになったりはしない.
 本書では,「滅菌・消毒・洗浄」に関連する感染予防対策の基本的な考え方と手順やその理由を解りやすく記載している.情報には,「インフォメーション」と「インテリジェンス」がある.インフォメーションには,ガイドライン,文献,インターネット等があり,誰でも情報を得ようと思えば得られる.しかし,インテリジェンスは人と人を介してしか得られない具体的な情報で,研修会・ディスカッション・視察等から人を介してしか得られない.
 ICHG(Infection Control Hospital Group)研究会はこれまでに研修会,講演会,海外視察(質問,確認)を行い国際水準にそった感染予防対策の本を多数出版してきた.
 本書は,歯科医療関係の教育機関における教科書としても利用可能なように編集をした.基本は,一度正しく習得すれば一生使える知識として不可欠である.
 本書の記載はEBM(Evidence Based Medicine根拠に基づいた医療)の考え方を中心に以下の4項目に配慮を置いて作成した.
 1.患者が感染から保護されていること.
 2.医療従事者が感染から保護されていること.
 3.経済的・合理的な対策であること.
 4.環境に配慮した対策であること.
 また,総論的な基本に加え,具体的対策に関しても,その場,その場において的確な判断及び応用ができるように,考え方や理由を解説している.
 これら「滅菌・消毒・洗浄の基本」が,自然に身につき安全な事故のない高い水準の歯科医療が行われることを願ってやまない.
 2015年1月10日
 編者一同
1 患者主体の感染予防対策
 1 患者への情報提供
 2 患者の受け入れ
 3 守秘義務
 4 感染している歯科医療従事者
2 感染予防対策の基本
 1 感染リスクと対策のレベル
 2 感染のリンクと感染経路別予防対策
 3 標準予防策(ユニバーサルプレコーション)
  1−手洗い
   1)手洗いの分類
   2)手洗いの手順
   3)具体的方法
   4)手洗い時の注意
   5)手洗いに用いる液体石けんと消毒剤
   6)手荒れとその対策
  2−手袋,マスク,ゴーグルの使用
   1)手袋
   2)サージカルマスク
   3)ゴーグル
  3−白衣,プラスチックエプロン,靴,頭髪
   1)白衣
   2)プラスチックエプロン
   3)靴
   4)頭髪とひげ
 4 感染のハイリスク患者と歯科治療
  1−糖尿病
  2−血液透析
  3−高血圧症
  4−心内膜炎
  5−血液疾患と化学療法
3 歯科診療における感染予防対策の実際
 1 歯科診療における感染リスク
  1−治療の内容
  2−患者の口腔内の状況
  3−患者の全身的な条件
 2 歯科診療室における感染予防対策
  1−実際の手順
   1)日常的な口腔衛生管理の確立
   2)消毒剤による洗口
   3)口腔内及び患歯の消毒
  2−診療補助の役割分担
  3−歯科診療室のハードウェア
   1)一般的事項
   2)手洗い設備
   3)チェアーユニット等の大型機器
   4)チェアーユニットの水質
   5)洗浄滅菌処理の設備
   6)口腔外バキューム
   7)廃棄物専用ゴミ箱
4 滅菌消毒洗浄の基本
 1 歯科診療における感染リスク
  1−滅菌消毒洗浄の定義
  2−滅菌の基本的条件
  3−滅菌工程のモニタリング
  4−滅菌法
   1)高圧蒸気滅菌法(オートクレーブ)
   2)エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌法
   3)低温プラズマ滅菌法
   4)低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌法(LTSF滅菌法)
  5−温湯熱湯による消毒法
 2 消毒剤使用時の基本と留意点
  1−消毒剤の基本
   1)消毒の三要素
   2)消毒剤使用上の基本原則
   3)消毒剤の抗微生物スペクトルと適用範囲
   4)消毒剤の使用濃度
  2−消毒剤による消毒法
   1)アルコール類(消毒用エタノール)
   2)次亜塩素酸ナトリウム
   3)ポビドンヨード
   4)四級アンモニウム塩
   5)クロルヘキシジングルコン酸塩
 3 熱消毒について
 4 洗浄の基本
  1−使用部署での一次処理
   1)消毒が先か洗浄が先か
   2)一次処理と最終処理
  2−血液体液が付着した器具器械の洗浄方法
5 器具器械の滅菌消毒洗浄の実際
 1 器具器械の滅菌消毒洗浄の基本
 2 器具類の滅菌消毒処理の実際
  1)アプリケーター
  2)印象用スパチュラ
  3)印象用トレー
  4)エキスカベーター
  5)X線装置
  6)エバンス
  7)ガーグルベース
  8)カートリッジシリンジ
  9)ガラス練板
  10)キャビネット
  11)局所麻酔用カートリッジ
  12)金属スパチュラ
  13)クランプ
  14)クランプフォーセップス
  15)クレンザー
  16)口角鉤
  17)口腔外バキューム
  18)口腔内撮影用ミラー
  19)咬合紙ホルダー
  20)根管充填用ピンセット
  21)歯肉圧排器
  22)シャーカステン
  23)スケーラー
  24)スプレッダー
  25)スリーウェイシリンジ
  26)洗面台(手洗い器)
  27)探針
  28)チェアーユニット(スピットンを含む)
  29)超音波スケーラー
  30)流し台
  31)バーポイント類
  32)バキュームチップ
  33)歯ブラシ
  34)ハンドピース
  35)ピンセット
  36)リーマーファイル
  37)フィルムホルダー
  38)プライヤー類
  39)プラガー
  40)プラスチックスパチュラ
  41)プロフィーカップ,プロフィーブラシ
  42)ポケットプローブ
  43)ミラー
  44)ラバーダムパンチ
  45)ラバーダムフレーム
  46)ラバーボウル
  47)リガチャーディレクター
  48)練成充填器
  49)ワイヤーカッター
 3 印象体の消毒
6 口腔常在細菌叢と口腔ケア
 1 常在細菌叢,歯周病原性細菌
  1−口腔内の常在細菌叢
  2−口腔の環境と細菌の存在様式
  3−細菌叢の遷移
  4−口腔感染症と原因菌
  5−口腔内の日和見感染菌
  6−歯科治療とウイルス
 2 うがいと口腔内消毒
  1−うがい
  2−口腔内消毒
7 アメニティと環境整備
 1 診療部門の清掃
 2 診療環境と患者の安心
8 医療従事者の感染予防対策
 1 血液体液曝露事故対策
  1−血液体液曝露事故の定義
  2−血液体液曝露事故防止対策の基本
  3−血液体液曝露事故後の対応
  4−針刺し事故防止対策
   1)作業管理(針の取扱い方法)
   2)工学的管理
 2 針刺し切創事故による健康被害
  1−針刺し切創事故によって健康被害を生じる病原体
 3 針刺し切創事故発生後の管理
  1−事故直後の処置
  2−記録の作成報告
  3−フォローアップ計画
 4 歯科医療従事者の健康管理
  1)定期健診検診の受診義務
  2)感染の疑い又は罹患した場合の確実な受療
  3)就業制限並びに免疫状態に応じた適正部署への異動配慮
  4)危険を防止するための措置
9 廃棄物の処理
 1 感染性廃棄物と非感染性廃棄物
 2 感染性廃棄物の処理
  参考:一般医療機関における疾患別感染予防対策と消毒
   1)MRSA感染症
   2)結核
   3)クロイツフェルトヤコブ病
   4)HBV感染症,HCV感染症,HIV感染症
  編集後記

 コラム
  感染症法と歯科医療
  空気感染と飛沫感染
  目視できる血液の混入した唾液
  標準予防策(ユニバーサルプレコーション)における血液体液排泄物等の取扱いのポイント
  速乾性すり込み式手指消毒剤 エタノール+消毒有効成分の配合意義
  手袋を外した後に手を洗う理由
  手袋とパソコン
  微粒子マスクの選び方,つけ方
  歯科と心内膜炎
  唾液流量と薬剤
  口腔内管理と肺炎
  医療に供される水の種類
  ウォッシャーディスインフェクター食器洗い乾燥機
  生物学的モニタリング
  消毒剤の濃度表示について
  ホルマリンガス燻蒸は消毒には使用しない
  グルタラールフタラール過酢酸
  医薬品とは
  在宅歯科医療
  針刺し切創事故と組織的対応