やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 本書の前身「カスタムメードタイプマウスガードのつくり方」が発刊されてから,12 年が経ちました.その間,スポーツ外傷から顎口腔領域を保護する目的で着用するマウスガード(MG)の予防効果が広く認識され,各コンタクトスポーツでその使用が普及し始めました.特に,コンタクトスポーツの代表の一つであるラグビーフットボールでは,日本ラグビーフットボール協会が,全国高等学校ラグビーフットボール大会での MG使用の疫学調査における予防効果を高く評価し,U-15 ジュニアラグビーまで MG装着をいち早く義務化しました.その影響もあり,他のコンタクトスポーツにおいても MGの使用が推奨されはじめ,その普及率は年々上昇傾向にあります.
 しかし残念なことに,これらのスポーツで使う MGとしてカスタムメイドタイプが推奨されてはいますが,いまだ既成の MGが使われることも少なくないという現実があります.一部のスポーツ用品や健康グッズを扱う(ネット)業者などの行っているMG販売によるものも,形態的には一見良好ですが,咬合調整の不備など,さまざまな問題を含んでいます.
 日本スポーツ歯科医学会では,専門的立場から歯科医師によって提供されるカスタムメイドタイプの MGの使用は,適合性や正しい咬合調整により安定した顎位を得られることで,はじめてその使用効果が得られるものと考えております.
 「カスタムメードタイプマウスガードのつくり方」は,韓国においても翻訳出版されて,大変好評を博しました.その後,筆者らは,これまでのカスタムメイドタイプMGの使用効果をより高めるための工夫を行い,ハード&スペースタイプという新しいタイプの MGを開発しました.これは,保存・補綴処置を受けた歯,特に前歯部を保護するための MGで,臨床的にも評価が高く,現在注目されています.
 そこで,ハード&スペースタイプ MGの製作法について紹介するとともに,咬合の回復が難しいと思われる部分に事前に補充材を築成しておくバキュームタイプの改良型一枚法 MGの製作法,およびボクシング競技用あるいは上下総義歯装着者がコンタクトスポーツを行う場合の義歯の代わりとして外傷予防,顎位の安定,顎関節の保護等のため使用する上下一体型 MGの製作法についても紹介します.このタイプは下顎骨骨折を起こした場合などの対応として,フェイスガードと組み合わせて使用することで,上下顎が固定され早期にフィールド復帰することが可能となります.
 さらに,顎骨骨折への対応としてのフェイスガードの製作法や,近年,選手の身体の大型化から“睡眠時無呼吸症候群”の選手も見られるようになり,その対応としてのスリープスプリント製作法についても解説しました.
 本書が,スポーツデンティストを目指す多くの臨床家のお役に立つことができれば幸いです.
 最後に,本書の発行にあたりご協力をいただきました東京歯科大学水道橋病院歯科技工室の歯科技工士 大野かをる氏に感謝申し上げます.
 2014年8月31 日
 石上惠一
マウスガードの基礎知識
I マウスガード
II 顎口腔領域のスポーツ外傷
 スポーツ外傷とその影響
 脳振盪
 歯の外傷
 下顎骨骨折
III マウスガードの種類と特徴
 市販マウスガード
  ストックタイプ
  マウスフォームドタイプ(ボイルアンドバイトタイプ)
 カスタムメイドタイプのマウスガード
  ラミネートタイプマウスガード
  バキュームタイプマウスガード
  改良型一枚法マウスガード
  ハード&スペースタイプマウスガード
  上下一体型マウスガード
IV 各種スポーツとマウスガード
 マウスガード装着の義務化
 危険度の高いスポーツ種目におけるマウスガードの留意点
  ボクシング,空手
  ラグビー
  ラクロス
  サッカー
  アメリカンフットボール
V フェイスガードおよびスリープスプリント
  フェイスガード
  スリープスプリント
マウスガードのつくり方
I マウスガード製作の前準備
 問診
  一般的事項
  歯科疾患,スポーツ外傷の既往歴
 スポーツ競技の内容
  スポーツ競技の種類,ポジション
  スポーツ競技のプレー経験とレベル
 マウスガードについての希望
  ラミネートタイプかバキュームタイプか
  マウスガードの色
  マウスガードに入れる名前,ロゴなど
 検査
 前処置
 設計
  基本形態と改良点
  マウスガードの厚み
  ・前歯部唇側面
  ・咬合面
  ・臼歯部J側面および舌側面
  マウスガードの硬さ軟らかさ
 印象採得
 模型の製作
II ラミネートタイプマウスガードの製作
  (1)1層目の作製
  (2)2層目のラミネート
  (3)2層目の形態修正
  (4)2層目の咬合調整
  (5)2層目の研磨・仕上げ
  (6)マウスガードの試適・最終調整
  (7)マウスガードの最終仕上げ
  (8)ラミネートタイプマウスガードの完成
III ハード&スペースタイプマウスガードの製作
 外傷の予防効果の強化
 ハード&スペースタイプマウスガードの製作法
  (1)1層目の作製
  (2)2層目のラミネート
  (3)3層目のラミネート
  (4)ハード&スペースタイプマウスガードの完成
IV バキュームタイプマウスガードの製作
  (1)前準備
  (2)吸引成型〜最終調整
  (3)バキュームタイプマウスガードの完成
V 改良型一枚法マウスガードの製作
  (1)前歯部への EVA材補填
  (2)マウスガード材(EVA材)の吸引成型
  (3)改良型一枚法マウスガードの完成
VI 上下一体型マウスガードの製作
  (1)1層目の作製
  (2)2層目のラミネート
  (3)上下一体型マウスガードの完成
  ・スポーツスプリントの調整ポイント
VII ラミネートタイプとバキュームタイプのちがい
  (1)加圧成型と吸引成型
  (2)適合性
  (3)臼歯部咬合面の厚み
VIII マウスガード材の再利用,再生法
IX フェイスガードの製作
  (1)前準備・印象採得
  (2)作業模型の作製
  (3)1層目の作製
  (4)2層目のラミネート
  (5)3層目のラミネート
  (6)フェイスガードへの衝撃吸収材の貼付
  (7)ヘッドキャップへの固定用ホールの作製
  (8)フェイスガードの完成
X スリープスプリントの製作
  (1)睡眠時無呼吸症候群について
  (2)睡眠時無呼吸症候群の治療の流れ
  (3)スリープスプリントの製作
  (4)スリープスプリントの完成
XI マウスガードの使用と管理
  (1)マウスガードの使用
  (2)マウスガードの管理
  (3)使用上の注意点

 ケーススタディ
  (1)下顎前突の症例-上顎のマウスガードで下顎前歯を被覆できない場合
  (2)前歯部の開咬症例
  (3)叢生の症例
  (4)歯の欠損がある症例
  (5)硬いボールやパックを使うスポーツの場合
  (6)歯間に空隙がある場合
  (7)歯科矯正を行っている場合
  (8)小児の場合

 マウスガード器材・取扱会社一覧
 索引