やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

美味しく食べて元気で健康に暮らすために
 私たち歯科医師は「むし歯と歯周病が歯を失うおもな疾患だ」と考え,長い間,2つの病気との戦いに取り組んできました.その結果,現在はかなりなところまでむし歯と歯周病をコントロールできるようになったのですが,最近,「どうも原因はその2つだけではなさそうだ」ということが少しずつわかりはじめてきました.
 それがこの本のメインテーマである「力の問題」なのです.
 「噛む」ということは,「咀嚼」という生きるうえで必要な人間の基本行為です.そのため,それが「害を及ぼす」とは誰も考えませんでしたし,むしろ,なんでも力強く噛めることが,歯の健康をあらわすバロメータだと思っていました.
 確かに,若いうちは歯もそれを支える骨も弾力性に富んでいて,少しくらいの無理にも十分に耐えられるのですが,歳を重ねると,その幅がだんだんと小さくなって,やがて歯や骨に悪影響を及ぼしはじめます.歯が割れたり,詰め物がはずれたり,義歯が壊れたり,骨が吸収したりするのです.
 歯に加わる「力」が原因で,そうしたことが起こるということには,「気づきはじめた」という段階で,まだまだわからないことがたくさんあります.この分野の研究はまだ緒についたばかりなのです.ですから,その「力」を減少させる根本的な治療法は,残念ながらまだありません.
 しかし,だからといって歯を失う原因をみすみす放置することはできません.多くの臨床所見が,大きな「力」はまちがいなく歯を失う一因であることを示しているのですから…….
 歯科医師の使命は,まず「歯を守る」ことです.治療法は確立されていなくても,歯を守るために必要なさまざまな対処法について考えています.
 そこで,この本では,まずはむし歯と歯周病で歯を失わないようにするための対策を述べ,その後,「力」についての注意点を記しました.
 お一人おひとり,患者さんのお口の中の状態は異なっています.ですから,「あなたにとって,どんな対処法が必要なのか?」という診断がまず必要です.さまざまな症状から「力が強いのではないか?」と疑いをもたれたら,大事に至らないうちに,是非,歯科医師のチェックを受けていただきたいと思います.
 この本が,食べるためにも,会話するときにも,そして全身の健康にも深く結びついている「歯」を守るための一助となればと願っています.
 2013年 初夏の日に 鈴木 尚
 美味しく食べて元気で健康に暮らすために

歯を失う3つのリスク
 1.歯はだいじ
 2.歯を失う3つの原因
 3.あなたは何タイプ?
 4.カリエスタイプの防護作戦
 5.ペリオタイプの防護作戦
歯の大敵・「力」を知ろう
 6.パワータイプって?
 7.左右どちらで噛む?
 8.硬い食べ物が好き!/しっかり噛みたいという「噛み癖」
 9.食いしばり
 10.歯ぎしり
 11.口の外側から「力」を観察してみよう
 12.口の中の「力」の微候を見てみよう
 13.歯の数が少ないと「力」に負ける
「力」で歯を失わないために
 14.噛む力の強さに気づこう!/セルフコントロールが鍵
 15.今できる対策を実行しよう
 16.ぜひ早めの治療とチェックアップ来院を!

 おわりに/手入れし,いたわって使ってください