序文
著者らがインプラント術前CT検査に関わるようになって,かれこれ十数年が経つ.以前は,CT検査のお願いに菓子折持参で行く時代だったが,ここ数年は,CTが導入されている医院も珍しくない.そして,インプラント治療の発展とCT検査の急速な普及に伴い,いまでは「インプラント術前にCT撮らないなんて時代後れ」と,誰もが認めるところである.
インプラント術前CT検査が普及する一方で,危惧すべき問題も生じている.たとえば,CT検査は行っているものの,画像データを十分反映することなく,漫然と埋入しているケースや,自院にCTを導入しているものの,被曝の正当化や検査の必要性を吟味することなく,ただ闇雲に撮影しているケースである.本来,“診断の手段”であるべきCT検査は,「とにかく撮影しておけば大丈夫」というように,目的化しているのだ.CT検査から得られた情報を活用する術が,未だ標準化されておらず,これでは,CT検査は“診断の手段”になり得ない.
治療の失敗は主に,ドリリングミスによる血管や神経の損傷と,不適切な咬合負荷によるインプラント周囲炎や脱落である.前者は,顎骨の形態や骨量が正しく把握されていないことが原因であり,後者は,顎骨の咬合負荷や骨質が正しく評価されていないことが原因である.つまり,画像データが正しく活用されていないことが,多くの医療事故を生み続けているのだ.CT検査を蔑ろにしてきたことに対して,われわれはもっと危機感を持ち,真摯に向き合わなくてはならない.
一部の医院における,杜撰な治療実態や医療事故が明るみになるニュースに,残念な気持ちを抱えているのは,著者らだけではないだろう.さらに残念なことに,全体から考えれば稀で偏ったこのような事例が,患者に不安を与え,社会的不信感を招いていることは,紛れもない事実である.自院の成功例を喧伝し,治療の安全性を声高に叫ぶばかりでは,失墜した信頼を取り戻すことはできない.だが,まずはじめにわれわれが取り戻すべきものは,質の高い診断に重きを置く,医療人としての基本姿勢である.
著者らは,「正しいインプラント術前CT検査とは何か」というテーマについて,長年にわたって研鑽を積んできた.診療放射線技師,歯科放射線科医,インプラント治療医それぞれの立場から,CT撮影や画像処理の必要性,画像解析や診断の重要性,ステントの必要性や治療の安全性を本書で述べている.さらに,当たり前と思われがちな基礎的な内容から,CT画像の成り立ちに関する高度なことまで,明日からの臨床に役立つよう,わかりやすくまとめた.本書を手にとった皆様に,これまでとはひと味違うCT活用術が身につき,インプラント治療の主軸となる診査・診断の一助となれば,このうえない幸せである.
2013年3月
稲垣 将文
小川 洋一
高村 宗俊
著者らがインプラント術前CT検査に関わるようになって,かれこれ十数年が経つ.以前は,CT検査のお願いに菓子折持参で行く時代だったが,ここ数年は,CTが導入されている医院も珍しくない.そして,インプラント治療の発展とCT検査の急速な普及に伴い,いまでは「インプラント術前にCT撮らないなんて時代後れ」と,誰もが認めるところである.
インプラント術前CT検査が普及する一方で,危惧すべき問題も生じている.たとえば,CT検査は行っているものの,画像データを十分反映することなく,漫然と埋入しているケースや,自院にCTを導入しているものの,被曝の正当化や検査の必要性を吟味することなく,ただ闇雲に撮影しているケースである.本来,“診断の手段”であるべきCT検査は,「とにかく撮影しておけば大丈夫」というように,目的化しているのだ.CT検査から得られた情報を活用する術が,未だ標準化されておらず,これでは,CT検査は“診断の手段”になり得ない.
治療の失敗は主に,ドリリングミスによる血管や神経の損傷と,不適切な咬合負荷によるインプラント周囲炎や脱落である.前者は,顎骨の形態や骨量が正しく把握されていないことが原因であり,後者は,顎骨の咬合負荷や骨質が正しく評価されていないことが原因である.つまり,画像データが正しく活用されていないことが,多くの医療事故を生み続けているのだ.CT検査を蔑ろにしてきたことに対して,われわれはもっと危機感を持ち,真摯に向き合わなくてはならない.
一部の医院における,杜撰な治療実態や医療事故が明るみになるニュースに,残念な気持ちを抱えているのは,著者らだけではないだろう.さらに残念なことに,全体から考えれば稀で偏ったこのような事例が,患者に不安を与え,社会的不信感を招いていることは,紛れもない事実である.自院の成功例を喧伝し,治療の安全性を声高に叫ぶばかりでは,失墜した信頼を取り戻すことはできない.だが,まずはじめにわれわれが取り戻すべきものは,質の高い診断に重きを置く,医療人としての基本姿勢である.
著者らは,「正しいインプラント術前CT検査とは何か」というテーマについて,長年にわたって研鑽を積んできた.診療放射線技師,歯科放射線科医,インプラント治療医それぞれの立場から,CT撮影や画像処理の必要性,画像解析や診断の重要性,ステントの必要性や治療の安全性を本書で述べている.さらに,当たり前と思われがちな基礎的な内容から,CT画像の成り立ちに関する高度なことまで,明日からの臨床に役立つよう,わかりやすくまとめた.本書を手にとった皆様に,これまでとはひと味違うCT活用術が身につき,インプラント治療の主軸となる診査・診断の一助となれば,このうえない幸せである.
2013年3月
稲垣 将文
小川 洋一
高村 宗俊
序文
執筆協力
第1章 ゴールを見据えたインプラント治療計画の立案
トップダウントリートメントのためのCT検査
ゴールを見据えた適切なCT検査
(1)補綴要素:適切な咬合荷重が負荷されること
(2)歯周要素:適切な歯周環境が付与されること
(3)外科要素:安全な埋入手術が行われること
・コラム 1 パノラマエックス線写真で画像解析するリスク
第2章 CT撮影と診断用ステント製作
CT撮影に診断用ステントはなぜ必要か
1)インプラント治療の成功と予知性
2)診断用ステントの必要性
上部構造とインプラントの三次元的関係
咬合とバイオメカニクス
埋入ポジションと歯周環境
1)メンテナンスビリティを考えたインプラントの歯周環境とは
2)臼歯部における歯周環境を考慮したインプラントの治療計画を考える
ステント製作方法
1)診断用ワクシング
2)レジンアップ
3)ガッタパーチャ挿入
4)造影剤の塗布
ステントの必要条件
1)CT撮影時のステント状態を反映する再現性
2)顎骨との三次元的位置関係を反映する,角度・位置的エックス線造影法
3)治療ゴールとなる上部構造を反映する,形態的エックス線造影性
第3章 CT画像の基礎知識
画像処理・解析,読影・画像診断
CT画像について必要な知識とは?
CT値(ハンスフィールドユニット)
ウィンドウレベル/ウィンドウワイズ(WL/WW)について
組織間の濃度差(コントラスト分解能)
解像度(空間分解能)
FOV(撮像範囲)
アーチファクト(障害陰影・虚像)
1)メタルアーチファクト
2)モーションアーチファクト
・コラム 2 CT値・コントラスト分解能・解像度(空間分解能)
・コラム 3 メタルアーチファクト
第4章 CT撮影の基礎知識
適切なCT撮影を行うには
撮影依頼施設を選ぶ際のポイント(他施設に依頼する場合)
1)依頼する施設のCT装置の性能について
(1)マルチスライスとシングルスライスの違い
(2)最小撮影スライス厚の違い
2)技師のインプラント術前CT検査に対する知識について
3)読影の有無について
撮影施設との情報交換
依頼方法(検査依頼票)について
検査結果のアウトプットについて
(1) DICOMデータ
(2)フィルム
(3) PCソフト(簡易Viewer付きCD-ROM)
・コラム 4 コミュニケーションは重要!
・コラム 5 CT撮影とホスピタリティー
・コラム 6 外部からの検査依頼に対して,体制が確立しているのか
医科用CTの撮影条件と画像処理
撮影条件と画像処理
自院で歯科用CT撮影
1)頭部固定とモーションアーチファクト
2)そのほかのモーションアーチファクト発生要因
3)撮影時の注意点
第5章 CTの画像処理・解析
MPRとは
画像処理技術「MPR」について
正確な画像処理・画像解析を行うには
Oblique MPRと頬舌断面像
1)正しい頬舌断面像の近遠心的角度とは?
2)Oblique MPRで正確な頬舌断面像を
(1)まず近遠心的位置の設定
(2)次に歯槽骨の長軸に対し垂直な角度に断面を調整
(3)最後に近遠心的角度を長軸に対し平行な断面上で調整
Curved MPRとパノラマ断面像
パノラマ断面像の特徴
きれいなパノラマ断面像を描出するためには
1)ラインを描く位置
2)ラインの形状
3)頭部の角度
Oblique MPRとCurved MPRについての整理
Curved MPRで頬舌断面像を作る
第6章 CTの画像診断
インプラント術前CT検査の流れ
CT画像診断の現状と対策
上下顎共通の診断項目
1)骨量
2)骨質
3)隣在歯の歯軸(近遠心的埋入角度・位置)
4)骨形態と顎骨の傾き(頬舌的埋入角度・位置)
5)抜歯窩の骨化程度
6)病変の有無(上顎洞炎や埋伏歯など)
上下顎それぞれの診断項目
1)上顎前歯部の形態
2)上顎洞,鼻腔底,切歯管の位置,形態
3)上顎臼歯部の形態
4)上歯槽管の走行
5)下顎臼歯部の形態
6)下歯槽管の走行
7)オトガイ孔,栄養管,舌孔の位置,形態
第7章 最終診断と外科用ステント製作
治療計画の立案
1)解剖学的な安全を考えた局所的な診断
2)残存歯,インプラント,頭蓋骨を考えた全体的診断
(1)残存歯とインプラントの関係
(2)インプラントとインプラントの関係
(3)頭蓋骨とインプラントの関係
診断用ステントから外科用ステントへの改造
第8章 ガイデッドサージェリーの臨床応用
ガイデッドサージェリーと診断用ステント
ガイデッドサージェリーの臨床応用
パイロットデンチャー製作の必要性
索引
執筆協力
第1章 ゴールを見据えたインプラント治療計画の立案
トップダウントリートメントのためのCT検査
ゴールを見据えた適切なCT検査
(1)補綴要素:適切な咬合荷重が負荷されること
(2)歯周要素:適切な歯周環境が付与されること
(3)外科要素:安全な埋入手術が行われること
・コラム 1 パノラマエックス線写真で画像解析するリスク
第2章 CT撮影と診断用ステント製作
CT撮影に診断用ステントはなぜ必要か
1)インプラント治療の成功と予知性
2)診断用ステントの必要性
上部構造とインプラントの三次元的関係
咬合とバイオメカニクス
埋入ポジションと歯周環境
1)メンテナンスビリティを考えたインプラントの歯周環境とは
2)臼歯部における歯周環境を考慮したインプラントの治療計画を考える
ステント製作方法
1)診断用ワクシング
2)レジンアップ
3)ガッタパーチャ挿入
4)造影剤の塗布
ステントの必要条件
1)CT撮影時のステント状態を反映する再現性
2)顎骨との三次元的位置関係を反映する,角度・位置的エックス線造影法
3)治療ゴールとなる上部構造を反映する,形態的エックス線造影性
第3章 CT画像の基礎知識
画像処理・解析,読影・画像診断
CT画像について必要な知識とは?
CT値(ハンスフィールドユニット)
ウィンドウレベル/ウィンドウワイズ(WL/WW)について
組織間の濃度差(コントラスト分解能)
解像度(空間分解能)
FOV(撮像範囲)
アーチファクト(障害陰影・虚像)
1)メタルアーチファクト
2)モーションアーチファクト
・コラム 2 CT値・コントラスト分解能・解像度(空間分解能)
・コラム 3 メタルアーチファクト
第4章 CT撮影の基礎知識
適切なCT撮影を行うには
撮影依頼施設を選ぶ際のポイント(他施設に依頼する場合)
1)依頼する施設のCT装置の性能について
(1)マルチスライスとシングルスライスの違い
(2)最小撮影スライス厚の違い
2)技師のインプラント術前CT検査に対する知識について
3)読影の有無について
撮影施設との情報交換
依頼方法(検査依頼票)について
検査結果のアウトプットについて
(1) DICOMデータ
(2)フィルム
(3) PCソフト(簡易Viewer付きCD-ROM)
・コラム 4 コミュニケーションは重要!
・コラム 5 CT撮影とホスピタリティー
・コラム 6 外部からの検査依頼に対して,体制が確立しているのか
医科用CTの撮影条件と画像処理
撮影条件と画像処理
自院で歯科用CT撮影
1)頭部固定とモーションアーチファクト
2)そのほかのモーションアーチファクト発生要因
3)撮影時の注意点
第5章 CTの画像処理・解析
MPRとは
画像処理技術「MPR」について
正確な画像処理・画像解析を行うには
Oblique MPRと頬舌断面像
1)正しい頬舌断面像の近遠心的角度とは?
2)Oblique MPRで正確な頬舌断面像を
(1)まず近遠心的位置の設定
(2)次に歯槽骨の長軸に対し垂直な角度に断面を調整
(3)最後に近遠心的角度を長軸に対し平行な断面上で調整
Curved MPRとパノラマ断面像
パノラマ断面像の特徴
きれいなパノラマ断面像を描出するためには
1)ラインを描く位置
2)ラインの形状
3)頭部の角度
Oblique MPRとCurved MPRについての整理
Curved MPRで頬舌断面像を作る
第6章 CTの画像診断
インプラント術前CT検査の流れ
CT画像診断の現状と対策
上下顎共通の診断項目
1)骨量
2)骨質
3)隣在歯の歯軸(近遠心的埋入角度・位置)
4)骨形態と顎骨の傾き(頬舌的埋入角度・位置)
5)抜歯窩の骨化程度
6)病変の有無(上顎洞炎や埋伏歯など)
上下顎それぞれの診断項目
1)上顎前歯部の形態
2)上顎洞,鼻腔底,切歯管の位置,形態
3)上顎臼歯部の形態
4)上歯槽管の走行
5)下顎臼歯部の形態
6)下歯槽管の走行
7)オトガイ孔,栄養管,舌孔の位置,形態
第7章 最終診断と外科用ステント製作
治療計画の立案
1)解剖学的な安全を考えた局所的な診断
2)残存歯,インプラント,頭蓋骨を考えた全体的診断
(1)残存歯とインプラントの関係
(2)インプラントとインプラントの関係
(3)頭蓋骨とインプラントの関係
診断用ステントから外科用ステントへの改造
第8章 ガイデッドサージェリーの臨床応用
ガイデッドサージェリーと診断用ステント
ガイデッドサージェリーの臨床応用
パイロットデンチャー製作の必要性
索引