やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 『チャートでわかる顎関節症の診断と治療』が発刊されたのは1998年のことです.この本は,当時東京医科歯科大学歯学部第2口腔外科において用いていた診断と治療システムを歯科医院と専門病院との連携に置き換えたものであり,歯科医院における顎関節症診療を体系化した画期的なものでした.理論的背景は可能な限り省略し,それまで顎関節症に触れてこられなかった先生方を対象とした実践的なマニュアル本を目指したものでした.お蔭をもちまして第7刷まで増刷をさせていただきました.
 その後十余年が経過しましたが,チャートによる診療体系の基本は変わることなく臨床で活用できており,改めてこのチャートによる診療体系の有用性を実感しております.しかしながら,新たな知見も加わり,治療法も若干は変わってきております.また日本顎関節学会を中心に診療ガイドラインが示され,症型の呼称などの整合性を図る必要も生じてまいりました.そこで今回全面改訂をさせていただくことになりました.
 改定にあたっては,旧本と同様に歯科医院におけるマニュアル本という基本概念は踏襲し,なおかつ理論的背景や,踏み込んだ専門的知識も掲載しました.引用文献に関しては,顎関節症という疾患概念も症型分類も日本独自のものであることを考慮し,また人種や食生活文化も微妙に影響している可能性もあることから,日本人を対象とした研究結果,特に専門学会誌である日本顎関節学会雑誌については,全誌を再チェックし可能な限り引用しています.歯科医院の先生方のみならず,専門医をめざす大学病院などの若い先生方にも興味をもっていただける内容となっております.
 なお本文については,旧本と同様に歯界展望に6回にわたり連載させていただきました(歯界展望Vol.118 No1〜Vol.118 No16<2011年7月〜2011年12月>).そこに,「ちょっと詳しく」欄,新たな図表,症例,スプリントの製作工程などを加筆させていただきました.症例はすべて実在のものですが,1次治療から大学病院で行った症例も含まれています.本書の趣旨にあわせて,1次治療を歯科医院で行い専門的治療から大学病院で行った形式に変更してあります.
 顎関節は,左右の関節と歯で位置が規制されています.歯の知識や歯の診療なくして顎関節の診療はできません.しかし昨今は,心身医学療法や認知行動療法に注目が集まりつつあり,このままでは歯・咬合・顎運動のスペシャリストである歯科医師の担当する疾患から遠ざかっていってしまいます.もう一度,顎関節症は歯科医師の担当する疾患であることを再認識していただき,本書が皆さんのお役に立てることを願っております.
 最後に,旧本の著作のご指導をいただいた榎本昭二東京医科歯科大学名誉教授,写真や症例の提供をいただいた坂本一郎先生(練馬区開業,埼玉医科大学非常勤講師),塚原宏泰先生(千代田区開業,東京医科歯科大学臨床教授)に感謝いたします.また本チャートによる診断治療体系の確立に尽力いただいた森田伸先生,宮村寿一先生,依田泰先生,阿部正人先生ほか,東京医科歯科大学,東京大学,埼玉医科大学のすべての諸先生方にも改めて感謝いたします.
 2012年正月
 著者
 序
 チャート一覧
CHAPTER 1 顎関節症と他疾患との鑑別
 1 鑑別診断のポイントと誤診されやすい疾患
  1)顎関節症の三大症状があるか 2)X線画像をチェック 3)顎関節症には腫脹がみられない 4)他の関節にも症状がないか 5)安静時痛,鋭痛,激痛,部位不定な痛みは顎関節症ではない 6)鑑別が困難な開口制限
   [ちょっと詳しく]
    「顎関節症」の疾患名 茎状突起過長症とeagle syndrome 顎関節症との境界が不明確な疾患
CHAPTER 2 顎関節症の症型分類と発症要因
 1 顎関節症の症型分類
 2 新1次診断チャートによる症型診断
 3 顎関節症の発症要因と咬合
   [ちょっと詳しく]
    症型別頻度 複合型について 両側症例について 咬耗の著しい歯列は顎関節症になりやすいか? 顎関節症は女性に多いのか?
CHAPTER 3 下顎頭変形の診査
 1 顎関節症IV型の病態
 2 顎関節症IV型の臨床症状
 3 下顎頭変形診査の実際
  1)診査には特殊な画像診断機器が必要か? 2)少しの工夫でパノラマX線撮影が見やすくなる 3)X線写真での下顎頭変形の有無の読影法
 4 下顎頭変形の種類
   [ちょっと詳しく]
    クレピタス音の病態〜骨変形と関係するか〜 下顎頭形態変化の種類による違い Avascular Necrosisと離断性骨軟骨炎Osterochondritis Dissecans
CHAPTER 4 クローズドロックの診査
 1 顎関節症IIIb型の病態
 2 クローズドロックの臨床的特徴
 3 クローズドロックの陳旧化
 4 クローズドロックの診査の実際
  1)開口制限の有無を診査する 2)開口制限直前までのクリックを診査する
   [ちょっと詳しく]
    なぜ関節円板は前方に転位することが多いのか 復位性円板前方転位クリックのクローズドロックへの移行率
CHAPTER 5 関節雑音と円板整位下顎位の診査
 1 関節雑音の種類と発生機序
  1)歯科医院で治せる音:復位性円板前方転位クリック 2)歯科医院で治せない音
   (1)結節性雑音(エミネンスクリック) (2)開校時の円板後方転位に伴う関節雑音 (3)陳旧性非復位性円板前方転位に伴う関節雑音 (4)そのほかの関節雑音
 2 関節雑音を呈する顎関節症の症型
 3 関節雑音診査の実際
 4 円板整位下顎位の有無
  1)円板整位下顎位とは 2)円板整位下顎位の診査の実際
   [ちょっと詳しく]
    閉口障害(閉口時のひっかかり) 非復位性円板前方転位で関節雑音を有する頻度 側方転位 後方転位 V型の概念とIII型の矛盾
CHAPTER 6 関節部痛および筋痛の診査
 1 顎関節症I型の病態
 2 顎関節症におけるI型以外の筋痛
 3 顎関節症II型の病態
 4 I型とII型の症型診断基準
 5 関節部痛診査の実際
  1)疼痛部位の診査 2)部位以外の疼痛診査
   [ちょっと詳しく]
    筋拘縮 joint effusion〜関節痛と関連?〜
CHAPTER 7 咀嚼筋障害に対するI型治療チャート
 1 治療チャートの基本概念
 2 咀嚼筋障害に対するI型治療チャート
  1)I型治療チャートの流れ 2)大開口訓練 3)I型の薬物療法 4)スタビライゼーションスプリント
   (1)有用性 (2)作用機序 (3)材質 (4)製作法 単純挙上から (5)装着時期 (6)調整方法
   [ちょっと詳しく]
    対症療法と原因療法 顎関節症と筋弛緩薬 顎関節症と抗うつ薬 スタビライゼーションスプリント推奨に対する初期治療診療ガイドラインのエビデンス スプリントの合併症
CHAPTER 8 スタビライゼーションスプリントの制作法
CHAPTER 9 顎関節症I型症例
 症例1-1 夕方になると痛くなるI型
 症例1-2 自主的開口制限による咬筋拘縮のI型
 症例1-3 起床時にだるいI型
 症例1-4 I型と1次診断された耳鳴り,頭痛を伴う心身症
 症例1-5 I型と1次診断された脳頭蓋底腫瘍
 症例1-6 I型と1次診断された咀嚼筋腱腱膜過形成症
CHAPTER 10 関節包・靱帯障害に対するII型治療チャート
 1 II型治療チャートの流れ
 2 顎関節痛と薬物療法
 3 単純挙上型とスタビライゼーションスプリント
   [ちょっと詳しく]
    顎関節症に対するNSAIDsの臨床研究 ヒアルロン酸の顎関節腔注入療法
CHAPTER 11 顎関節症II型症例
 症例2-1 消炎鎮痛剤で改善したII型
 症例2-2 低位咬合の義歯があるII型
 症例2-3 咬合時痛の強いII型
 症例2-4 咬合の違和感を伴ったII型
   [ちょっと詳しく]
    顎関節症における臼歯部開咬 顎関節症は慢性疾患か?
CHAPTER 12 復位性円板前方転位クリックに対するIIIa型治療チャート
 1 復位性円板前方転位クリックの治療の必要性
 2 IIIa型治療チャートの流れ
 3 円板整位運動療法
  1)練習方法 2)観察方法 3)臨床成績
 4 前方整位型スプリント
  1)製作法 2)装着時間 3)次回来院時の調整法
 5 咬合再建
  1)円板整位下顎位の習慣化と咬合再建の是非 2)仮再建 3)最終補綴
   [ちょっと詳しく]
    クリックの自然経過〜若年者のクリックは自然消失しやすいか?〜 円板前方転位の原因となる悪癖除去 前方整位型スプリントの治療成績と再発
CHAPTER 13 前方整位型スプリントの制作法
CHAPTER 14 顎関節症IIIa型症例
 症例3-1 円板整位運動療法で改善したIIIa型
 症例3-2 習慣性間歇ロックのIIIa型
 症例3-3 前方整位型スプリントで対応したIIIa型
 症例3-4 咬合再建したIIIa型(間歇的クローズドロック)
 症例3-5 クリック音がないためIIIa型に1次診断されない間歇ロック
   [ちょっと詳しく]
    間歇ロックの臨床像 円板転位があっても関節雑音がない場合もある
CHAPTER 15 クローズドロックに対するIIIb・IV型治療チャート
 1 顎関節症IIIb・IV型の治療目標〜2つのゴール〜
 2 IIIb型・IV型治療チャートの流れ
 3 マニピュレーションテクニック
 4 下顎頭可動化訓練
  1)側方,前方運動 2)大開口 3)手指による前方牽引 4)3 指挿入による強制開口
 5 再診時のチェック項目と効果的な訓練のコツ
 6 専門病院におけるクローズドロックの2 次治療
  1)パンピングマニピュレーション 2)上関節腔洗浄療法 3)手術療法
   [ちょっと詳しく]
    クローズドロックに対する円板復位の是非 非復位性円板転位における関節円板形態変化と線維性癒着 顎関節症IV型はすべてが陳旧性クローズドロックか?〜下顎頭骨形態変化と関節円板転位の合併率〜 薬物療法とロック解除 可動化訓練の臨床成績 円板後部組織の偽円板化の仮説 上関節腔洗浄療法の作用機序と治療における位置づけ
CHAPTER 16 パンピングマニピュレーションの実際
 1 刺入時に起きるトラブルと対処法
  1)浅側頭動脈への穿刺 2)顔面神経麻痺 3)中耳および中頭蓋損傷 4)疼痛性ショック 5)パンピング不能
CHAPTER 17 顎関節症IIIb型・IV型症例
 症例4-1 マニピュレーションで円板整復したIIIb型
 症例4-2 パンピングマニピュレーションで円板整復したIIIb型
 症例4-3 咬合再建が必要だったIIIb型
 症例4-4 関節リウマチに併発したIIIb型症例
 症例4-5 下顎頭可動化訓練で改善したIV型
 症例4-6 下顎頭可動化訓練に難渋したIV型
   [ちょっと詳しく]
    ロック解除後のスプリント装着と再ロック 関節リウマチにおける顎関節症候 下顎頭可動化訓練の臨床成績(開口量の推移とクレピタスの残存)
CHAPTER 18 その他の顎関節症に対するV型治療チャート
CHAPTER 19 顎関節症V型症例
 症例5-1 エミネンスクリック
 症例5-2 滑液性音が疑われたStuck Disk
 症例5-3 反対側のクローズドロックに起因したV型
 症例5-4 閉口障害を呈した円板後方転位
   [ちょっと詳しく]
    Stuck Disk
 
 【巻末付録】
  円板整位運動療法
  下顎頭可動化訓練
 索引