やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序 統計って何?なぜ学ぶ必要があるの?
 「統計」って何だろう.
 統計という言葉がつく単語をいくつ知っていますか?たとえば,ニュースなどでも「経済統計」や「商業統計」などという言葉は頻繁に出てきます.人口でも「人口統計」とか「静態統計」あるいは「動態統計」などという言葉が使われています.これらの言葉からもわかるように,統計というのは,いろいろな物事の傾向や性質をあらわしたり,比較したりすることです.実際に,最近よく耳にする「少子高齢化社会」(子どもが少なくて,高齢者が多いという社会構造)はどうしてわかるのかといえば,人口統計があるからなのです.私たち歯科の仕事では,自分のフィーリングで話をすることが許されない場合も多くあります.集団の特性を知るためには,どうしても統計が必要になります.
 いま,皆さんの住んでいる町の中学1年生のむし歯の数(治療していないむし歯の本数+治療の終わっている歯の本数+むし歯で抜いた歯の本数)が,日本の中学1年生と比べて多いのか少ないのかを知りたいとします.最初に,皆さんの町の中学1年生と日本の中学1年生が,「平均として一人で何本のむし歯をもっているか」を調べればよいのですね.でも,「平均として一人で何本のむし歯をもっているか」などと長い言葉をいつも使うわけにはいきません.そこで,専門家は<DMFT指数(一人平均DMF歯数)>という独特の言葉を使います.このような言葉を“統計用語”などということもあり,理解しておくことが必要です.
 さて,皆さんの町の中学1年生のむし歯の数を調べて<DMFT指数>がわかったら,全国の<DMFT指数>は文部科学省の学校保健統計調査結果の12歳の値をみればよいので,比較することが可能になり,多いのか少ないのかを判断することができます.フィーリングではわかりませんね.さらに,皆さんの町と隣の町の中学1年生の<DMFT指数>を比べて,どちらが多いといえるでしょう.このような疑問に対しても,統計は答えを出してくれます.
 普段,皆さんが「正しいと思う」というようないい方をしますが,これも統計です.「10回のうち8〜9回は正しい」といっているので,正しいという基準を示しているのです.たとえば,「皆さんの町の中学1年生の<DMFT指数>は,隣町の<DMFT指数>よりも少ないと判断しても,100回のうち間違うことは5回以下です」というように確かさをつけて表現できます.これもフィーリングではわかりませんね.
 統計には,数学のような式が出てきたりもしますが,統計学は数学そのものではありません.最初からアレルギーを起こすことのないようにお願いします.
 2008年10月
 安井利一
VISUAL MANUAL
第1章 グラフを読む
 ・集団全体の特徴をとらえるにはグラフを読む
  (1)変化を読む―時系列の比較
   ・折れ線グラフ1 ・折れ線グラフ2
  (2)比べて読む―数値の比較
   ・単純比較棒グラフ ・積み上げ棒グラフ
  (3)占める割合を読む―構成比率の比較
   ・円グラフ ・帯グラフ(横内訳棒グラフ)
  (4)変化と比較を読む
   ・レーダーチャート(クモの巣グラフ)
第2章 グラフをつくる
 ・集団の特徴をもっともよく表現できるグラフをつくる
  (1)変化をみたい場合
   ・折れ線グラフ (例)Step1 データをそろえる/Step2 グラフをつくる
  (2)比較をしたい場合
   ・棒グラフ(単純比較棒グラフ) (例)Step1 データをそろえる/Step2 グラフをつくる
   ・積み上げ棒グラフ (例)Step1 データをそろえる/Step2 グラフをつくる
  (3)占める割合をみたい場合
   ・円グラフ(パイグラフ) (例)Step1 データをそろえる/Step2 グラフをつくる
   ・帯グラフ (例)Step1 データをそろえる/Step2 グラフをつくる
  (4)変化をみて比較したい場合
   ・レーダーチャート (例)Step1 データをそろえる/Step2 グラフをつくる
  (5)データのばらつきを知りたい場合
   ・散布図 (例)Step1 データをそろえる/Step2 グラフをつくる
第3章 データを解析する
 I.集団の特性を統計的につかむ
  度数分布表・ヒストグラム
   (例)Step1 データをそろえる/Step2 グラフをつくる/Step3 データを解析する
 II.集団の違いを統計的に示す方法を知る
  (1)相関
   (例)Step1 データをそろえる/Step2 相関図(散布図)をつくる/Step3 データを解析する
  (2)χ2(カイ二乗)検定
   (例)Step1 データをそろえる/Step2 データを解析する
  (3)平均値の差の検定(t検定)
   (例)Step1 データをそろえる/Step2 グラフをつくる/Step3 データを解析する
  (4)リスク分析―相対危険度
   (例)Step1 データをそろえる/Step2 データを解析する
  (5)リスク分析―オッズ比
   (例)Step1 データをそろえる/Step2 データを解析する
  付(1)探索的データ解析―箱ひげ図
   (例)Step1 グラフをつくる/Step2 データを解析する
  付(2)探索的データ解析―パーセンタイル曲線
   (例)Step1 平均値曲線で表現してみる/Step2 パーセンタイル曲線でみてみる/Step3 データを解析する
第4章 歯科の指標をマスターする
 I.疾患数量化の基本概念
  (1)数量化
  (2)指 数
  (3)指 標
 II.う蝕に関する指標
  (1)DMF index
   1)永久歯:DMF
   2)乳歯:def,dmf,df
  (2)う蝕に関する表現法
   1)永久歯列
   2)乳歯列
  (3)第一大臼歯の健康度に関する指標(dental health capacity:DHC)
  (4)relative increment of decay index(RID index)
  (5)根面う蝕に関する指標
 III.歯周疾患に関する指標
  (1)歯肉炎に関する指標
   1)PMA index
   2)gingival index(GI)
  (2)歯周炎に関する指標
   1)periodontal index(PI)
   2)periodontal disease index(PDI)
   3)gingival bone count(GB count)
   4)community periodontal index(CPI)
 IV.口腔清掃状況の指標
   1)oral hygiene index(OHI)
   2)oral hygiene index-simplified(OHI-S)
   3) patient hygiene performance(PHP)
   4)plaque index(PlI)
   5)plaque control record(PCR)
   6)Ainamoの口腔清掃状況の指標
 V.歯のフッ素症の指標
  (1)Deanの分類
 VI.その他の口腔疾患の指標
  (1)不正咬合
ADVANCE MANUAL
第1章 統計のしくみを理解する
 I.集団の調べ方を学ぶ(統計調査)
  1. 調査にあたって
   1)目的
   2)対象
   3)方法
   4)評価.
   5)評価「
   6)計画法
   例題
 II.集団から対象を選ぶ(標本抽出)
  1. データの集め方
   1)母集団と標本
   2)標本抽出法の種類
 III.データの種類を知る
  1. 量的データ
  2. 質的データ
  3. 数量化
 IV.集団の形をみきわめる(性格を知る:分布と偏り)
  1. 分布の形
  2. 分布の中心を表すもの(代表値)
   1)代表値の種類
   2)代表値の選択と利用
  3.分布の広がりを表すもの(散布度)
   1)平均偏差
   2)分散
   3)標準偏差
   4)変動係数
   5)標準誤差
   6)信頼区間
  4.データの分布(理論分布)
   1)正規分布
   2)正規分布の利用
   例題
   3)その他の分布
 V.集団を表す(グラフ)
  1. 図表化
   1)表の作成方法と留意点
  2. データの種類とグラフの作成
   1)数値の比較-棒グラフ-
   2)時系列の比較-折れ線グラフ-
   3)構成比率の比較-円グラフ・帯グラフ-
   4)相対比較の比率-レーダーチャート(クモの巣グラフ)-
第2章 集団の違いをみる(検定)
 I.仮説検定
  1. 仮説検定の手順
   1)帰無仮説,対立仮説の設定
   2)有意水準(危険率)の設定と検定法の選択
   3)検定統計量の計算と有意点の算出
   4)帰無仮説の棄却・採択の判定
  2. 仮説検定の判定
 II.平均値の差の検定
  1. 統計量の計算
  2. 自由度
  3. F検定(等分散の検定)
  4. スチューデントのt検定
  5. ウェルチのt検定
  6. 対応のあるt検定
 III.百分率の差の検定
  1. 適合度の検定
  例題
  2. 分割表の検定
 IV.相関分析
  1. ピアソンの積率相関係数
  2. スピアマンの順位相関係数
  3. 回帰式
第3章 疫学を知る
 I.疫学とは
  1. 定義
  2. 目的
 II.疫学と倫理
  1. 疫学の倫理的ポイント
  2. 倫理
  3. 疫学研究における倫理
 III.疫学の研究方法
  1. 疫学の方法論
  2. 記述疫学
  3. 分析疫学
  4. 介入研究
 IV.スクリーニング
  1. スクリーニング検査法
   1)スクリーニング実施の条件
   2)スクリーニング検査の評価
 V.EBM
  1. EBMとは
  2. EBMと臨床研究
  3. バイアスの除去とマスキング
   1)選択バイアス
   2)測定バイアス
  4. 交絡と除去方法
   1)研究デザインにおける交絡のコントロール
   2)データ分析における交絡のコントロール
第4章 歯科保健医療情報
 I.歯科保健医療情報について
 II.デンタルインフォマティックス
  1.デンタルインフォマティックスの定義
  2.臨床医学とは何?
 III.データベース
  1.データベースとは
  2.データベースマネージメントシステム
  3.データウエアハウス
 IV.電子カルテ
  1.電子カルテとは
  2.電子カルテの目標
  3.電子カルテとコンピュータネットワーク

 付表1 F分布表 付表2 t分布表 付表3 χ2(カイ二乗)分布表
 文献
 索引