やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

「歯周病の診断と治療の指針2007」の発刊によせて
 社会や文明の変化,進展に伴い,疾病は多様化し,人々の医療に対する期待や要望も大きなものになってきている.
 わが国では,医療の進歩や社会環境の充実により,世界有数の平均寿命に達するまでに至ったが,複雑化した医療技術における事故や混乱も多く生じている.
 このため,医学界においては多くの学会において早くから専門医制度を実施したり,学会独自の治療指針(ガイドライン)を作成して,これらの問題に対応している.一方,歯科界においてはこれらの取り組みが著しく遅れ,専門医制度も歯周病学会を含めて数学会が取得したに過ぎず,治療指針に至っては,ほとんどの学会がオリジナルなものを有していないのが現状である.しかし,多くの医療事故が生じたり,新しい医療技術や診断法の承認が必要になったりするときに,行政は学会の治療指針を重視する姿勢に大きく傾いている.
 このような時代背景を基に,日本歯周病学会においても,国民の80%が何らかのタイプの歯周病に罹患しているという事実や歯周病の発症,進行のリスクファクターに種族や遺伝が関与しているという報告,また歯周病と全身疾患との関係などの報告を受け,わが国独自の新しい歯周病の分類や診断と治療の指針を作成する必要性が高まっているといえる.
 これらのことを踏まえ,日本歯周病学会では医療委員会(伊藤公一委員長)を中心に歯周治療に対する学会による「歯周病の診断と治療の指針」の作成に着手した.
 その基本的考え方は以下の通りである.
 1.本指針は,日本歯周病学会が,昭和56年(1981)年5月に故木下四郎東京医科歯科大学歯学部教授を委員長として作成された「歯周疾患治療指針」および平成元年(1989年)3月に中村治郎鶴見大学歯学部教授を委員長として作成された「改訂歯周疾患治療指針」を基盤にしている.用語は「歯周病専門用語集」に準拠した.
 2.本指針は,多くの学会発表や論文発表を基に構築された最新の診断や治療法に基づいて国民の歯周病を克服し,多くの人々のQOLの向上に寄与することを目的としている.
 3.本指針は,多くの歯科医師や研修歯科医が歯周治療を実施する際の客観的な指標になることを目的としている.
 4.本指針は,各教育機関における歯周病学の講義や歯科医師国家試験の出題基準の参考になることを目的としている.
 5.本指針は,国際的にも通じるものであるとともに,国内の歯科的事情も十分に考慮したものとする.
 以上,日本歯周病学会独自の「歯周病の診断と治療の指針」に関する基本的な考え方を述べたが,本指針を基盤にして,適正な歯周治療が実施され,いつまでも自分自身の歯・口腔が健全に維持されることによる多くのメリットを国民が亨受することを希望するものである.
 平成19年3月
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
 理事長 野口俊英
1 歯周病とは
 1―歯周病の実態
  1)歯周病の定義
  2)歯周病の罹患状況
  3)受診状況
 2―歯周病の分類
  1)歯肉病変
   (1)プラーク性歯肉炎
   (2)非プラーク性歯肉病変
   (3)歯肉増殖
    a.薬物性歯肉増殖症
    b.遺伝性歯肉線維腫症
  2)歯周炎
   (1)慢性歯周炎
   (2)侵襲性(急速破壊性)歯周炎
   (3)遺伝疾患に伴う歯周炎
  3)壊死性歯周疾患
   (1)壊死性潰瘍性歯肉炎
   (2)壊死性潰瘍性歯周炎
  4)歯周組織の膿瘍
   (1)歯肉膿瘍
   (2)歯周膿瘍
  5)歯周-歯内病変
  6)歯肉退縮
  7)咬合性外傷
   (1)一次性咬合性外傷
   (2)二次性咬合性外傷
 3―歯肉炎の特徴
   (1)原因はプラークである
   (2)炎症は歯肉に限局している
   (3)歯肉ポケットが形成されるが,アタッチメントロスはない
   (4)プラークリテンションファクター(プラーク蓄積因子)によって増悪する
   (5)外傷性因子によって増悪しない
   (6)プラークコントロールによって改善する
   (7)歯周炎の前段階と考えられている
 4―歯周炎の特徴
   (1)歯肉炎が歯周炎に進行し,セメント質,歯根膜および歯槽骨が破壊される
   (2)アタッチメントロスが生じ,歯周ポケットが形成される
   (3)歯周ポケットが深くなると歯周病原細菌が増殖し,炎症を持続させる
   (4)プラークリテンションファクターによって増悪する
   (5)外傷性咬合が併発すると急速に進行する
   (6)全身的因子はリスクファクターとして働く
   (7)部位特異性がある
   (8)休止期と活動期がある
   (9)歯周炎が重度になると悪循環が生じ,さらに急速に進行しやすい
   (10)原因の除去により歯周炎は改善・進行停止する
   (11)歯周治療の一環として生涯にわたるサポーティブペリオドンタルセラピーおよびメインテナンスが不可欠である
 5―咬合性外傷の特徴
 6―全身疾患と歯周病
  1)遺伝的因子
  2)環境因子ならびに全身的因子
   (1)喫煙
   (2)ストレス
   (3)糖尿病
   (4)心臓病
   (5)肥満
   (6)呼吸器疾患
   (7)早期低体重児出産
  3)年齢,性別
  4)メタボリックシンドローム
2 歯周治療の進め方
 1―歯周治療の原則
  1)予防と治療の重要性
   (1)チームワークによる口腔衛生指導
   (2)プラークリテンションファクターの除去
   (3)歯周炎を増悪させる外傷性咬合の除去
   (4)対症療法を慎む
 2―歯周治療の進め方の基本
   (1)プラークコントロールの確立
   (2)検査に基づいた診断・治療計画と患者の同意
 3―歯周病における病状安定と治癒
   (1)プラーク性歯肉炎・軽度歯周炎
   (2)中等度以上の歯周炎
   (3)病状安定
   (4)治癒後の対応
3 歯周病の検査,診断,治療計画の立案
 1―歯周病の検査
  1)初診,医療面接
  2)歯周組織検査
   (1)歯肉の炎症
   (2)歯周ポケット
   (3)アタッチメントレベル
   (4)口腔衛生状態(O'Learyのプラークコントロールレコード)
   (5)歯の動揺度
   (6)エックス線写真による検査
   (7)咬合
   (8)根分岐部病変
    a.Lindheと Nymanの根分岐部病変分類
    b.Glickmanの根分岐部病変分類
   (9)プラークリテンションファクター(プラーク蓄積因子)
   (10)口腔内写真
   (11)スタディモデル
   (12)先進的検査
    a.プラークの細菌検査(歯肉縁下プラーク)
    b.歯周ポケット滲出液の検査
    c.唾液の検査
    d.血清の細菌抗体価検査
    e.その他の検査
 2―歯周病の診断
 3―治療計画の立案
  1)歯周基本治療(原因除去療法)
  2)歯周基本治療後の再評価検査
  3)歯周外科治療
  4)歯周外科治療後の再評価検査(部分的再評価)
  5)口腔機能回復治療
  6)サポーティブペリオドンタルセラピー移行前の再評価検査
  7)サポーティブペリオドンタルセラピー
  8)メインテナンス
4 患者の紹介と医療連携
  1)歯周病専門医,高次医療機関への患者の紹介
  2)医科との連携
   (1)当該疾患の診断,病状や処方薬剤についての照会
   (2)口腔内の観血処置に対する注意点に関する照会
5 応急処置
   (1)疼痛を主訴とした場合
   (2)炎症の急性期
6 歯周基本治療
 1―炎症に対する処置
  1)プラークコントロールはすべての治療に優先される
   (1)モチベーション(動機づけ)
   (2)セルフケア(歯肉縁上のプラークコントロール)
   (3)ブラッシング指導
   (4)プロフェッショナルケア(歯肉縁上および縁下のプラークコントロール)
  2)スケーリングおよびルートプレーニング
   (1)スケーリング・ルートプレーニングの意義と目的
   (2)スケーリング・ルートプレーニング時の注意事項
   (3)シャープニングの重要性
   (4)音波スケーラー,超音波スケーラー
   (5)スケーリング・ルートプレーニング後の象牙質知覚過敏
  3)局所性修飾因子の改善
  4)歯周ポケット掻爬
  5)局所薬物配送システム(local drug delivery system;LDDS)
  6)保存不可能な歯の抜去
 2―咬合性外傷に対する処置
  1)咬合調整と歯冠形態修正
  2)暫間固定
  3)プロビジョナルレストレーション
  4)ブラキシズムの治療
  5)歯周-矯正治療
7 歯周病のリスクファクターに対する管理
 1―全身的因子に対する管理
 2―環境因子に対する管理
   (1)喫煙に対する指導
   (2)ストレスに対する指導
8 歯周外科治療
 1―切除療法
  1)歯肉切除術
  2)歯肉弁根尖側移動術
 2―組織付着療法
  1)歯周ポケット掻爬(術)
  2)新付着手術(excisional new attachment procedure;ENAP)
  3)フラップ手術(歯肉剥離掻爬術)
   (1)ウィドマン改良フラップ手術
   (2)非移動型フラップ手術
 3―歯周組織再生療法
  1)歯周組織再生誘導(GTR)法
  2)エナメルマトリックスタンパク質(EMD)を応用した方法
  3)骨移植術
 4―歯周形成手術(ペリオドンタルプラスティックサージェリー,歯肉歯槽粘膜形成術)
  1)小帯切除術
  2)歯肉弁側方移動術
  3)歯肉弁歯冠側移動術
  4)歯肉弁根尖側移動術
  5)遊離歯肉移植術
  6)歯肉結合組織移植術
9 根分岐部病変の治療
10 歯周-歯内病変の治療
 1―歯周-歯内病変の分類(Weineの分類)
 2―検査項目
 3―治療の進め方
11 歯周病患者の咬合機能回復治療
 1―修復・補綴治療
  1)歯冠修復
  2)欠損歯列への対応
   (1)ブリッジ
   (2)可撤性部分床義歯
   (3)歯の再植
 2―歯列不正への対応
12 インプラント治療
 1―歯周病患者の咬合機能回復へのインプラント治療の利点
 2―歯周病患者へのインプラント治療に対する考慮
   (1)インプラント周囲粘膜炎・インプラント周囲炎に対する注意
   (2)インプラントへの外傷に対する注意
 3―歯周病学的見地からのインプラント周囲組織の特徴
 4―インプラント治療とメインテナンス
13 高齢者と有病者の歯周治療
 1―高齢者の歯周治療
 2―有病者の歯周治療
   (1)糖尿病患者
    a.1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)
    b.2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)
   (2)心疾患・循環器疾患患者(とくにワーファリンなどの抗凝固薬を服用中の患者)
   (3)高血圧症患者
   (4)透析患者
 3―在宅医療と歯周治療
  1)患者自身が口腔清掃できるケース
  2)一部介護が必要なケース
  3)口腔ケアに全介護が必要なケース
 4―女性に特有な歯周病
   (1)全般的な注意
   (2)妊婦の歯周治療
 5―喫煙と歯周病
14 サポーティブペリオドンタルセラピーとメインテナンス
 1―サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)
 2―メインテナンス