やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

■推薦の言葉
 現在,わが国の乳児死亡率の低さは世界でもトップクラスであり,また歯科でいえば,乳歯のむし歯は激減しています.これらは全国的な乳幼児健診の実施や母子健康手帳などを活用した保健行動の啓発と,小児医療水準の向上に負うところが大きいと考えられます.
 一方では,わが国における少子化はまだまだ進行中で,子どもの育つ環境はここ数年間でも大きく変わってきています.厚生労働省の「健やか親子21」の課題でもある“子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減”は,母子保健の大きな目標でもあります.
 このような状況のなかで,従来行われてきた歯科健診などの口腔保健施策も「本当に親子の役に立っているのか」,「健診が子育て支援の場になっているのか」という視点からの見直しが必要となってきています.そして,健診などの場で専門家の意見に食い違いがみられることが親の育児不安を増大させていることも事実です.また最近は,食を単なる「食栄養」としてばかりでなく,食生活における食,そしてさらに食文化における食としてとらえる時代となり,「食育」として厚生労働省,文部科学省が中心となって国をあげて食を巡る諸問題が取り上げられています.
 「食」は生物としての人間が生きるための基本であり,その導入部門が口であり歯です.それだけに口や歯にかかわることは医学の各分野において共通の問題であり,特に乳幼児期は小児歯科と小児科との関係が深いのです.そして乳幼児健診の場においては,歯や口の健康についての共通認識をもつことが必要であるにもかかわらず,従来まで必ずしも親密な関係を有していなかったことが反省されます.
 そのようななか,日本小児歯科学会の学術委員会と地域保健委員会が中心となり,本書がまとめられました.健診関係者が本書を活用することによって,口を通じた育児支援が実践され,親と子の健やかな成育が保障されることを切に願います.
 また,本書が乳幼児の歯科健診に携わる保健・医療関係者ばかりでなく,学校や保育園,幼稚園などで子どもの口腔保健に関係している人々にも活用されることによって,乳幼児の口と歯の健康を確立していただきたいものです.
 2005年5月
 日本保育園保健協議会会長
 巷野悟郎

■はじめに
 歯科医師をはじめとした子どもの口と歯の健康にかかわる人々の共通理解を深めるために,3年ほど前から日本小児歯科学会の学術委員会と地域保健委員会が中心となって計画を進めてきた「乳幼児の口と歯の健診ガイド」が,このたび出版の運びとなりました.
 これまで,子どもの口腔の健全な育成を願う気持ちは同じであるにもかかわらず,立場の違いから表現が異なったり,一方的な指導などにより保護者の方々に育児不安を引き起こす結果となることもありました.そこで,本書を参考に診査し,相談にのっていただくことにより,保護者の方々の育児不安を解消したり,育児支援に少しでも役立てていただければ,という思いで企画立案されたものです.このガイドブックだけでは不十分とのご意見もあるかと思いますが,時代の変遷とともに本書が改訂されることを願っております.
 本書が,厚生労働省の目指す「健やか親子21」の中の“子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減”などに役立ち,歯科医療関係者のみならず,保育園・幼稚園・学校などで子どもの歯と口の健康に携わっている皆さまの参考図書として活用されることを切望します.
 2005年5月
 日本小児歯科学会会長
 大東道治
 ・推せんの言葉
 ・はじめに

1章 乳幼児の口腔保健の考え方
 1 母子保健の流れと乳幼児健診のあり方
  1.母子保健の考え方も変わってきました
  2.いま,なぜ育児支援が必要なのでしょうか
  3.育児支援型の乳幼児健診を実践するために
   1)継続的な健診・支援を行う/ 2)自由度のある公的健診にする/ 3)母親に対する保健サービスの拡充をはかる/ 4)地域における保健と教育の連携を深める
 2 いま,乳幼児歯科健診に求められるもの
  1.育児支援としての歯科健診
  2.育児支援を実践できる健診関係者像
  3.育児支援・生活支援型の口と歯の健診
 3 乳幼児期における口の健康の意義
  1.なぜ,歯科保健でなく口腔保健なのでしょう
  2.心身の発育と口の機能発達
  3.口の機能発達を支えるもの
 4 保護者への働きかけ
  1.何が育児不安を生じさせているのでしょう
  2.育児不安を解消するアプローチ
  3.育児支援としての保護者への働きかけ
 5 関連他職種との連携
  1.乳幼児を取り巻く環境
  2.口腔保健の維持・向上のための関連専門職種との連携
2章 乳幼児の口腔健康診査のポイント
  ・健診時の心構え
  ・母子健康手帳の使いかた
  ・母子健康手帳のみかた・書きかた
  ・口腔の模式図・乳歯列の模式図
  ・乳歯の萌出時期の図・萌出時期
 1 乳児の口腔健康診査
  基本的な考え方/(1)歯の状態/(2)歯肉・粘膜の状態/(3)口の機能の状態/(4)歯ならび・かみ合わせの状態/(5)歯の汚れの状態/(6)その他23
 2 1歳6か月児の口腔健康診査
  基本的な考え方/(1)歯の状態/(2)歯肉・粘膜の状態/(3)口の機能の状態/(4)歯ならび・かみ合わせの状態/(5)歯の汚れの状態/(6)その他27
 3 3歳児の口腔健康診査
  基本的な考え方/(1)歯の状態/(2)歯肉・粘膜の状態/(3)口の機能の状態/(4)歯ならび・かみ合わせの状態/(5)歯の汚れの状態/(6)その他31
 4 4〜5歳児の口腔健康診査
  基本的な考え方/(1)歯の状態/(2)歯肉・粘膜の状態/(3)口の機能の状態/(4)歯ならび・かみ合わせの状態/(5)歯の汚れの状態/(6)その他35
3章 相談・保健指導のQ&A―こんな質問に こんな答え方―
 1 哺乳,離乳・卒乳,哺乳ビンの中止
  寝つきが悪く夜泣きをするため,添い寝をして母乳を与えてしまいます.やめるべきでしょうか.また,むし歯を予防する方法はありますか
  ゴム乳首で授乳すると,かむ力が弱くなったり,十分に発達しないと聞き,心配です.かむ力を強くするゴム乳首があるのでしょうか
  離乳のモグモグ期(中期)にスプーンで離乳食を与えていますが,こぼしたり吐き出したりして離乳が思いどおりに進みません.どのような注意が必要でしょうか
 2 口の癖(指しゃぶり,おしゃぶり,口唇閉鎖不全)
  3歳半になりましたが指しゃぶりがやめられません.上の前歯が前のほうへ出てきたようで,歯ならびが心配です.大丈夫でしょうか
  2歳を過ぎてもおしゃぶりを離せません.このまま使っていてもよいのでしょうか
  4歳になります.鼻も詰まっていないのにいつも口をポカンと開けているのですが,放っておいてもよいのでしょうか
 3 舌小帯と上唇小帯
  《舌小帯》
   生後1か月の新生児です.舌が短いような気がしますが,授乳には特に支障をきたしていません.心配ないでしょうか
   5歳の子です.舌で上唇をうまくなめられず,舌を前に突き出すと先端がハート型にくびれます.このまま様子をみていてよいのでしょうか
  《上唇小帯》
   1歳6か月の子ですが,上唇小帯が前歯のすぐ近くまで伸び,前歯にすき間があります.心配ないでしょうか
   2歳6か月の子ですが,上唇小帯が前歯の間まで伸びていて歯みがきがしにくくて困っています.どうしたらよいでしょうか
 4 歯みがき
  どうしたら歯みがきの習慣がつくのでしょうか
  子ども一人に歯みがきを任せておいてよいものでしょうか
  子どもに歯みがきをしようとすると嫌がります.どうしたらよいでしょうか
 5 食べ方
  4歳児です.よくかまないで食べているようなのですが,大丈夫でしょうか
  食べものを口にためてなかなか飲み込まないようですが,心配ないでしょうか
  好きなものしか食べないので心配です.どうしたらよいでしょうか
 6 食生活習慣
  赤ちゃんに母乳を与える間隔はどのくらいがよいのでしょうか
  2歳児ですが,寝る前に何か食べたがります.食べたあとそのまま寝てしまうこともあるので,むし歯になりそうで心配です.どうしたらよいでしょうか
  4歳児ですが,朝食を取らないことが多いので心配しています.毎日,朝食を取らせるにはどうしたらよいでしょうか
  5歳児です.食事の量が少なめなので気になっています.しっかりと食べさせるにはどうしたらよいでしょうか
 7 乳歯の変色・着色
  3歳児ですが,ほかの子どもたちと比べると,前歯の表面が茶色くなっているようにみえます.特に歯ぐきに近いところが濃くなっています.むし歯でしょうか
  4歳児です.3か月前に転んで上の前歯2本をぶつけました.2本とも色が変わり,しばらくして左のほうはもとに戻りましたが右は戻りません.放っておいてもよいものでしょうか
  5歳児です.奥歯の溝で黒くなっているところがあります.むし歯でしょうか
 8 フッ化物を応用したむし歯予防
  フッ化物を使うとむし歯にならないのでしょうか
  むし歯予防のために家庭でフッ化物洗口をしたいのですが,どのようにするのでしょうか
  フッ化物歯面塗布は,何歳からしてもらうとよいのでしょうか
  歯科医院で買ったフッ化物配合歯みがき剤はどのように使用するのでしょうか
 9 代用糖の応用
  砂糖(スクロース)はなぜむし歯をつくりやすいのでしょうか
  子どものむし歯菌は親からうつるのでしょうか
  代用糖はどのように利用すればよいのでしょうか
 10 歯ならび,かみ合わせ
  前歯がデコボコに生えてきました.このままで心配ないでしょうか
  かみ合わせが反対になっています.このままでよいのでしょうか
  前歯の歯ならびにすき間があり,気になります.放っておいてもよいのでしょうか
 11 重症むし歯
  2歳児です.便秘がひどく,乳酸菌飲料を1日に6〜7回飲ませています.むし歯がひどいのでやめるようにいわれましたが,便秘のほうが心配です
  3歳児健診で,重症むし歯のため治療を受けるよういわれました.でも,怖い思いをさせて,生えかわる乳歯を治す必要があるのでしょうか
  5歳児で自閉症です.多数のむし歯があり全身麻酔で治療を受けました.特定メーカーのリンゴジュース以外の飲みものは,水を含めていっさい受け付けません.また,すぐにむし歯ができてしまいそうで心配す.どうしたらよいでしょうか
4章 障害・疾患のある子ども
 1 障害児・有病児への対応
  1.健診における障害児・有病児のとらえ方
   1)子どもの障害や疾患を認識している保護者への対応
   2)子どもに障害や疾患があるのではないかと不安な状態の保護者への対応
  2.障害児の歯科的特徴
   1)それぞれの障害によくみられる歯科的特徴や傾向
   2)障害児に共通してみられやすい歯科的特徴
  3.有病児の歯科的特徴
   1)それぞれの疾患によくみられる歯科的特徴や傾向
   2)有病児に共通してみられやすい歯科的特徴
 2 障害児・有病児の口腔保健
  1.障害児の口腔保健
   1)障害児の歯科保健指導
   2)摂食・嚥下障害に対する指導
  2.有病児の口腔保健
   1)先天性心疾患の子どもへの対応
   2)血友病の子どもへの対応
   3)白血病の子どもへの対応
5章 歯の外傷
 1 診査・診断
  1.歯の位置がずれている(陥入,転位など)
  2.歯が欠けている(破折)
  3.歯の色が変わっている(変色)
  4.歯肉が腫れている(膿瘍形成)
  5.歯がなくなっている(歯の喪失)
  6.歯がかみ合わなくなっている(低位咬合)
  7.歯が動いている(動揺)
  8.かむと痛みがある(咬合痛)
 2 処置と経過
  1.外傷に対する応急処置と治療
   1)応急処置の基本
   2)歯が折れたとき(破折)
   3)歯がずれたりぐらぐらするとき(動揺,転位,歯の根の破折,歯槽骨の骨折)
   4)歯がめり込んだとき(陥入)
   5)歯が抜け落ちたとき(脱落)
   6)口の中の傷について
  2.処置とその後の注意点
   1)歯の変色
   2)歯髄壊死と歯周組織の炎症.
   3)永久歯への影響

コーヒーブレイク
 「健やか親子21」と日本小児歯科学会
 要観察歯:CO(シーオー)について
 小児科と小児歯科の保健検討委員会

 ・文献
 ・索引
 ・執筆者一覧