やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 「歯周病治療のストラテジー」は,今までの歯周治療の教科書や,トピックスに関する単行本,症例集とは,コンセプトの異なる書物です.
 第一の特徴は,「治療のアセスメント」,「治療ナビゲーション」,「ミレニアム歯周治療」,「シニアのための歯周ケア」より構成された,実学ワールドへの招待となっています.
 そのため,本書は初めから順に読んでいくものではなく,臨床現場から生ずる疑問や治療学における知的好奇心を基に,アウトラインチャートを参考にして読者自身が選択した地点からスタートし,網の目のごとく関連した世界へ広がっていく読み物です.なによりもまず,次ページの見開きのアウトラインチャートを十分にご覧ください.
 第二の特徴は,「何をもって歯周治療の成功とするか?」,「科学と経験との融合は可能か?」,「歯周治療の進化の果ては?」,「超高齢社会で歯周治療は生き残れるか?」という,重大かつ難題なテーマに焦点を当てたことです.
 これらの疑問は,1999年に発刊した「歯周病診断のストラテジー」以来,編者二人が常に議論し続けてきたテーマでもあります.
 第三の特徴は,本年4月に行われた社会保険診療報酬の改定と深く結びついていることです.治療学と診療報酬は別のものであるという常識をブレイクする礎となるべき現象と受けとめたいと思います.
 「かかりつけ歯科医機能」,「歯科訪問診療の適正化」,「高次歯科治療を担う病院歯科」,「歯周疾患の指導管理評価の見直し」は,まさに本書で学術的背景と臨床実践のもとに構築されたものの具現化であるといっても過言ではありません.
 そして,最後の特徴は,本書を構成する30章の執筆者のレベルの高さです.現在,第一線で臨床と研究を自ら実践し,かつリードしている大学の臨床医,研究者ならびに開業医の先生方です.
 まさしく,日本を代表するエキスパートであるといえましょう.
 また,本書のイラスト,レイアウト,チャート,リンクボタンとその斬新さは目を見張るものがあり,担当した医歯薬出版の鈴木トキ子氏,水島健二郎氏ならびに関係各位にも感謝申し上げます.
 それでは,「歯周病治療のストラテジー」という実学ワールドへの扉を開いていただきましょう!
 平成14年7月
 吉江弘正 宮田 隆
第1編 治療のアセスメント
第1章 歯周組織からみたアセスメント 奥田一博・吉江弘正
 (1) 基本治療後の外科処置,非外科処置の選択基準
 (2) 再生手術と除去手術の選択
 (3) 固定をするかしないかの基準は
第2章 疾患活動性・感受性からみたアセスメント 吉野 宏・栗原英見
 (1) 疾患活動性の指標
 (2) 治療による疾患活動性の変化の評価
 (3) 歯周炎感受性と治療に対する応答性
 (4) 治療によって疾患感受性は改善できる?できない?
第3章 歯周・咬合コンプレックスからみたアセスメント 宮田 隆
 (1) 歯周・咬合コンプレックスからみた歯周病の進行とは
 (2) 歯周・咬合コンプレックスの臨床症状のもつ意味
 (3) 歯周組織にとって調和のとれた咬合とは
 (4) 時間軸をふまえた歯周・咬合コンプレックスの治療効果とは
第4章 審美からみたアセスメント 瀬戸延泰
 (1) 審美的歯頸ライン
 (2) 歯周組織と補綴物との生物学的・審美的調和
 (3) ブラックトライアングルの臨床的意味
第5章 メインテナンス・ライフステージからみたアセスメント 川浪雅光・西岡敏明
 (1) 炎症の再発と関連する因子のアセスメント
 (2) 咬合性外傷の再発と関連する因子のアセスメント
 (3) 年齢からみたアセスメント
 (4) メインテナンスプログラムの進め方
第6章 全身リスクファクターからみたアセスメント 平尾紘一
 (1) 脳卒中(発生の機序とその予防)
 (2) 高血圧および関連疾患
 (3) 糖尿病
第7章 ライフスタイル特に食生活からみたアセスメント 江澤庸博
 (1) 成人病から生活習慣病へ
 (2) ライフスタイル
 (3) 健康とは全体である

第2編 治療ナビゲーション
第1章 歯周組織からみた治療ナビゲーション 松崎正樹
 (1) 診査・診断・治療計画をたてるプロセス
 (2) 歯周炎の治療選択と治療の実際
 (3) 除去手術と再生手術
第2章 疾患活動性・感受性からみた治療ナビゲーション 高柴正悟・峯柴淳二
 (1) 活動性と感受性の分類
 (2) 活動性と感受性を考慮した治療のストラテジー
 (3) 活動性と感受性を考慮した治療のストラテジーによる治療例
第3章 歯周・咬合コンプレックスからみた治療ナビゲーション 鈴木 尚
 (1) 咬合性外傷への対応―1歯単位の病態
 (2) 咬合性外傷への対応―欠損歯列での病態
 (3) 咬合性外傷への対応―広範な形態変化を伴った歯列
 (4) 広範なアタッチメントロスを生じた歯周組織に付与すべき咬合
 (5) 歯周病に対する安定した下顎位の付与
 (6) 歯周病と顎関節症状への対応
第4章 審美からみた治療ナビゲーション 日高豊彦・土屋賢司
 (1) 審美的歯頸ライン
 (2) 歯周組織と修復物との生物学的・審美的調和
 (3) ブラックトライアングル
 (4) 歯肉の頂点と高さ
第5章 メインテナンス・ライフステージからみた治療ナビゲーション 丸森英史
 (1) 患者さんは物語をもっている
第6章 全身リスクファクターからみた治療ナビゲーション 村上伸也・北村正博
 (1) 循環器系疾患患者の歯周治療
 (2) 糖尿病患者と歯周病
第7章 ライフスタイルからみた治療ナビゲーション 谷口威夫
 (1) ライフスタイルを変えるための医療者側の条件
 (2) 歯科医療に対する不信感を取り除き価値観を高める
 (3) プラークコントロール
 (4) 食生活の改善
 (5) 運動および禁煙
 (6) ブラキシズム

第3編 ミレニアム歯周治療
第1章 ペリオドンタルメディスン 山崎和久・中島貴子
 (1) 全身疾患のリスクファクターとしての歯周病
 (2) 冠動脈性心疾患と歯周病
 (3) 歯周病と動脈硬化症に共通する免疫応答と遺伝的要因
 (4) 糖尿病・肥満と歯周病
 (5) 歯周病が関連するその他の疾患
第2章 オリエンタルメディスン 宮田 隆
 (1) 西洋医学と東洋医学
 (2) 中医学からみた歯周病とは
 (3) 中医学による歯周病の治療
 (4) 歯周病と清熱剤
第3章 局所・全身薬物治療 福田光男・野口俊英
 (1) 歯周病治療に用いられる薬物
 (2) 薬物の投与法の種類
 (3) 将来期待される薬物を用いた治療
第4章 インプラント周囲炎(ペリインプランタイティス)の治療 宮田 隆
 (1) ペリインプランタイティスの治療上知っておきたいこと
 (2) ペリインプランタイティスの原因と治療
 (3) ペリインプランタイティスの治療のオプション
 (4) ペリインプランタイティスへの対策
第5章 レーザー治療皆川 仁
 (1) 各種レーザーの特性と注意点
 (2) 歯周炎の処置への応用
 (3) 歯周外科での応用
 (4) インプラントにおける応用
 (5) 急性症状における処置への応用
第6章 ペリオドンタルプラスティックサージェリー申 基^
 (1) 術後の辺縁歯肉の位置や形態のコントロール
 (2) 審美性追求のためのソフトティッシュマネジメント
第7章 ペリオドンタルマイクロサージェリー 鈴木真名
 (1) ペリオドンタル}イクロサージェリー
第8章 GTR法・骨移植法と新展開 三辺正人・児玉利朗
 (1) 歯周組織再生に関する創傷治癒の概念
 (2) GTR法と骨移植法のコンセンサス
 (3) GTR法,骨移植法の治療効果
 (4) GTR法,骨移植法に用いられる生体材料
 (5) 再生に影響を及ぼす因子とその臨床的対処法
 (6) GTR法,骨移植法の新展開(今後の問題点と新しい治療法)
第9章 分化成長因子・エナメルタンパクを用いた再生治療木下淳博・小田 茂
 (1) 各種分化成長因子の歯周治療への応用
 (2) rhBMP-2の歯周治療への応用
 (3) エナメルタンパクの応用と臨床再生効果
第10章 ティッシュエンジニアリング 畠賢一郎・上田 実
 (1) 歯科領域とティッシュエンジニアリング
 (2) ティッシュエンジニアリングによる口腔粘膜再建
 (3) ティッシュエンジニアリングの骨組織への応用
第11章 歯周病の遺伝子診断 安孫子宜光
 (1) 細菌側のDNA診断と意義
 (2) 宿主側の遺伝子診断と意義
 (3) 遺伝子多型,変異からみる歯周病の疾患感受性
第12章 ワクチン・サイトカイン・遺伝子治療 小林哲夫・吉江弘正
 (1) ワクチンによる歯周病原性細菌の排除
 (2) 経鼻ワクチンによる歯周病の予防
 (3) サイトカイン療法による炎症の改善
 (4) カテプシンC遺伝子の変異と若年性歯周炎

第4編 シニアのための歯周ケア
第1章 エイジングと歯周ケア 植田耕一郎・野村修一
 (1) 加齢に伴う口腔,摂食・嚥下機能の変化
 (2) 高齢者の口腔・歯周ケア
 (3) 高齢者に対する歯周ケアの今後の展望
第2章 ヘルシーシニアの歯周ケア 野村慶雄・梶原定江
 (1) ヘルシーシニアの口腔内
 (2) ヘルシーシニアの歯周治療
 (3) ヘルシーシニアのメインテナンス
第3章 障害者の歯周ケア 清水良昭・安井利一
 (1) 知的障害者の歯周ケア
 (2) ダウン症候群
 (3) てんかん
 (4) 自閉症
 (5) 脳性麻痺患者
 (6) 障害者の歯周ケアの実際
第4章 要介護高齢者における歯周ケア 米山武義
 (1) 要介護高齢者の口腔内の現状を知る
 (2) 介護現場での歯周ケアの導入
 (3) 歯周ケアの局所的効果
 (4) 歯周ケアと誤嚥性肺炎の予防
 (5) 医療の原点としての歯周ケア