はじめに
歯周組織は不思議である.
歯に付随して存在し,歯を失えば一緒にその存在が失せる.そうみれば,歯に忠誠つくすいとおしきものに映るが,ときとして歯周組織は自らの存在を失うのにもかかわらず自壊する.その不可思議な歯周組織の変容に対しては,いままで多くの研究者が取り組み,実際にその一部が明らかになってきた.
歯周組織はまた,単一の組織ではないこともこの不可思議の要因になっている.硬組織,軟組織そして線維などの性格がまったく異なる組織が混在し,一見すると別々の器官のようだが,実に合理的,周到なネットワークによってそれらが機能していることもわかってきている.
本書は,歯周組織の不思議を骨から眺めてみようというものである.この不思議の多くが包埋されている骨を注視することによって,歯周病の不思議もわかるのではないかというのがコンセプトの一つになっており,その仕組みに対して,さまざまな視点からの解明を試みている.
1章の「歯周組織の構造に関するエッセンス」では,歯の支持組織としての歯周組織の役割を,詳細な解剖学的な分析によってわかりやすく理解できるようになっている.その理解が一見とっつきにくい,2章の「骨代謝」というテーマも自分のものにすることができる.特にこの章では,CD-ROMを介し骨代謝の実態をビジュアル化してみることができるのも理解を深める手立てになろう.
この骨代謝を理解するということは,歯にかかわるすべての医療人にとって,全身の大いなる活動と歯,あるいは歯周組織の関係を理解することでもある.したがって,その後の章に続く細菌に対する歯周組織の反応や付着の問題,あるいは老化なども全身とのかかわりのなかで理解できるようになる.
さらに,この本では歯周組織と骨の基礎だけに限定せず,骨を介した歯周病の治療の最前線をも探ってみた.それは再生治療からインプラントまで多岐にわたるが,幸い歯周病の臨床の第一線で活躍している著者を得て,最新の情報,スキルを読者に提供することができた.
歯周病と歯周病に直接かかわる骨について基礎医学から最新の臨床までを網羅した本書によって,歯周病に対する系統だった知識を読者が得ることができたら,編著者として幸いである.
2002年7月 宮田 隆
付録 CD─ROM「骨の動態を見る」解説
(本CD-ROMを閲欄するには,起動後,画面左下の「Get Quick Time」をクリックし,Quick Timeをダウンロードして下さい)
●骨のミクロ動態
1.成長する指の骨
内軟骨性骨化による長管骨形成の動態図.中央の黒い部分が,石灰化したところ.これがある程度厚くなると,中に骨髄腔ができてくる.
2.頭蓋骨に流れる血液
頭蓋骨の表面に流れる血液.骨が血管に富んだダイナミックな生きた組織ということがわかる.
3.血管の新生
骨へと向かう血管の新しい形成を示した映像.
4.骨細胞の情報のやりとり〜ACAS〜
骨細胞同士は,それぞれを結んでいる骨突起をとおして物質をやりとりし,動的な情報伝達を行っている.
5.骨細胞と破骨細胞の接触
骨細胞と破骨細胞の,相互作用の様子.この相互作用は,それぞれにおいて常に一様のやりとりが発現するというわけではない.
6.骨細胞の脱分化
骨細胞は,骨突起をはずしてやると,ある分化過程までは再増殖する能力を持っている.
●骨形成
1.骨芽細胞が自らつくる骨基質に埋まる
骨芽細胞がコラーゲンを中心としたタンパク質を出して,骨基質をつくっていくところ.後に,骨基質にはCaが付着し,石灰化が起こる.
この石灰化した部分では,それに囲まれるようにして,その内側には,骨芽細胞が閉じこめられ,骨細胞へと分化していく.これらは,1 mm3の中に2万数千個存在し,それぞれが突起で結ばれている.
2.骨の中から,骨細胞を取り出したところ.
それぞれの骨細胞同士の間は骨突起で結ばれ,物質が行き来している(その様子は,「●骨のミクロ動態」中の「4.骨細胞の情報のやりとり〜ACAS〜」に示す).
●骨吸収
1.骨髄の細胞が融合して多核の大きな細胞になる
骨髄中にある破骨細胞の前駆細胞が融合して多核になり,破骨細胞が形成されていく過程を示したもの.破骨細胞が融合して形成されることを示したはじめての映像.
2.多核の大きな細胞が骨組織を溶かす I
破骨細胞が骨を盛んに溶解している様子が,動的にとらえられている.
3.多核の大きな細胞が骨組織を溶かす II
さらに詳細な,破骨細胞による骨溶解の様子.
歯周組織は不思議である.
歯に付随して存在し,歯を失えば一緒にその存在が失せる.そうみれば,歯に忠誠つくすいとおしきものに映るが,ときとして歯周組織は自らの存在を失うのにもかかわらず自壊する.その不可思議な歯周組織の変容に対しては,いままで多くの研究者が取り組み,実際にその一部が明らかになってきた.
歯周組織はまた,単一の組織ではないこともこの不可思議の要因になっている.硬組織,軟組織そして線維などの性格がまったく異なる組織が混在し,一見すると別々の器官のようだが,実に合理的,周到なネットワークによってそれらが機能していることもわかってきている.
本書は,歯周組織の不思議を骨から眺めてみようというものである.この不思議の多くが包埋されている骨を注視することによって,歯周病の不思議もわかるのではないかというのがコンセプトの一つになっており,その仕組みに対して,さまざまな視点からの解明を試みている.
1章の「歯周組織の構造に関するエッセンス」では,歯の支持組織としての歯周組織の役割を,詳細な解剖学的な分析によってわかりやすく理解できるようになっている.その理解が一見とっつきにくい,2章の「骨代謝」というテーマも自分のものにすることができる.特にこの章では,CD-ROMを介し骨代謝の実態をビジュアル化してみることができるのも理解を深める手立てになろう.
この骨代謝を理解するということは,歯にかかわるすべての医療人にとって,全身の大いなる活動と歯,あるいは歯周組織の関係を理解することでもある.したがって,その後の章に続く細菌に対する歯周組織の反応や付着の問題,あるいは老化なども全身とのかかわりのなかで理解できるようになる.
さらに,この本では歯周組織と骨の基礎だけに限定せず,骨を介した歯周病の治療の最前線をも探ってみた.それは再生治療からインプラントまで多岐にわたるが,幸い歯周病の臨床の第一線で活躍している著者を得て,最新の情報,スキルを読者に提供することができた.
歯周病と歯周病に直接かかわる骨について基礎医学から最新の臨床までを網羅した本書によって,歯周病に対する系統だった知識を読者が得ることができたら,編著者として幸いである.
2002年7月 宮田 隆
付録 CD─ROM「骨の動態を見る」解説
(本CD-ROMを閲欄するには,起動後,画面左下の「Get Quick Time」をクリックし,Quick Timeをダウンロードして下さい)
●骨のミクロ動態
1.成長する指の骨
内軟骨性骨化による長管骨形成の動態図.中央の黒い部分が,石灰化したところ.これがある程度厚くなると,中に骨髄腔ができてくる.
2.頭蓋骨に流れる血液
頭蓋骨の表面に流れる血液.骨が血管に富んだダイナミックな生きた組織ということがわかる.
3.血管の新生
骨へと向かう血管の新しい形成を示した映像.
4.骨細胞の情報のやりとり〜ACAS〜
骨細胞同士は,それぞれを結んでいる骨突起をとおして物質をやりとりし,動的な情報伝達を行っている.
5.骨細胞と破骨細胞の接触
骨細胞と破骨細胞の,相互作用の様子.この相互作用は,それぞれにおいて常に一様のやりとりが発現するというわけではない.
6.骨細胞の脱分化
骨細胞は,骨突起をはずしてやると,ある分化過程までは再増殖する能力を持っている.
●骨形成
1.骨芽細胞が自らつくる骨基質に埋まる
骨芽細胞がコラーゲンを中心としたタンパク質を出して,骨基質をつくっていくところ.後に,骨基質にはCaが付着し,石灰化が起こる.
この石灰化した部分では,それに囲まれるようにして,その内側には,骨芽細胞が閉じこめられ,骨細胞へと分化していく.これらは,1 mm3の中に2万数千個存在し,それぞれが突起で結ばれている.
2.骨の中から,骨細胞を取り出したところ.
それぞれの骨細胞同士の間は骨突起で結ばれ,物質が行き来している(その様子は,「●骨のミクロ動態」中の「4.骨細胞の情報のやりとり〜ACAS〜」に示す).
●骨吸収
1.骨髄の細胞が融合して多核の大きな細胞になる
骨髄中にある破骨細胞の前駆細胞が融合して多核になり,破骨細胞が形成されていく過程を示したもの.破骨細胞が融合して形成されることを示したはじめての映像.
2.多核の大きな細胞が骨組織を溶かす I
破骨細胞が骨を盛んに溶解している様子が,動的にとらえられている.
3.多核の大きな細胞が骨組織を溶かす II
さらに詳細な,破骨細胞による骨溶解の様子.
付録CD-ROM「骨の動態を見る」解説
1編 イントロダクション
1 歯周組織の構造に関するエッセンス(佐藤卓也,久米川正好)
はじめに
I 細菌感染・炎症の場としての歯周組織
II 組織再生の場としての歯周組織
III 咬合圧負担の場としての歯根膜・歯槽骨
まとめ
2 骨代謝を理解するために(羽毛田慈之)
はじめに
I 骨組織の発生と成長
II 骨形成系細胞の分化・機能とその調節機構
III 骨吸収系細胞の分化・機能とその調節機構
まとめ
3 歯周病原性細菌の歯槽骨吸収への関与(花澤重正)
はじめに
I 歯周病と炎症性サイトカイン
II 歯周病原性細菌と炎症性サイトカイン
III 歯周病原性細菌と骨吸収
まとめ
2編 歯槽骨吸収のメカニズムと再生のための足がかり
4 細菌感染に対する生体防御(辰巳順一)
はじめに
I 細菌からの防御メカニズム
II 炎症が進行すると,なぜ骨吸収が起こるのか?
III 破骨細胞による骨吸収は歯槽骨のどこから始まるのか?
5 歯周病のリスク因子――特に遺伝因子および環境因子――(高橋慶壮)
はじめに
I 歯周病のリスク因子
II 歯周病の遺伝因子
III 歯周病の遺伝研究の展望
IV 歯周病の環境因子
まとめ
6 歯周病原性細菌の付着を考える(落合邦康,武田宏幸)
はじめに
I 宿主への細菌の付着
II 細菌の定着
III 細菌の侵入
IV 歯周病原性細菌の付着機構を解析することの意義と展望
7 老化と骨代謝(高橋慶壮)
はじめに
I 老化
II 老化に伴う骨代謝の変化
III 骨粗鬆症
まとめ
8 骨吸収を抑制する薬物はないのか(辰巳順一,武田宏幸)
はじめに
I 骨粗鬆症と骨代謝改善薬
II 骨代謝改善薬をうまく利用して歯槽骨吸収も改善できないか?
III 骨代謝改善薬の歯周治療への応用と課題
IV 骨吸収抑制薬の臨床応用に関するまとめと新たな試み
3編 骨吸収の臨床的評価と再生のためのパラダイム
9 さまざまな骨欠損形態とX線像(申 基普j
はじめに
I 骨欠損の臨床診断
II 歯周病による骨欠損パターン
10 時間軸からとらえた骨代謝――骨代謝マーカーとよばれるもの(辰巳順一)
はじめに
I 骨代謝マーカー測定の歯科臨床上の意義を考える
II 歯周病の進行程度を把握するためのマーカー
III 歯周病の進行に伴う歯槽骨吸収との相同性が認められるマーカーについて
IV それぞれの骨代謝マーカー
まとめ
11 歯槽骨再生療法の歴史的変遷(奥田一博,吉江弘正)
はじめに
I 根面処理法
II 骨移植手術
III 組織再生誘導(GTR)法
IV エムドゲインィ法
まとめ
12 歯周組織再生と骨組織再生(新付着と骨組織の再生)(申 基普j
はじめに
I 歯周組織の再生療法
II 骨組織の再生療法
13 歯周組織再生のための組織工学と促進因子の臨床応用(辰巳順一,武田宏幸)
はじめに
I 組織工学を導入した組織再生を考える
II 組織工学の臨床応用に対する社会的背景
III 組織工学に用いることが可能な担体について
IV 組織工学に用いることが可能な促進因子について
V 組織工学に用いることが可能な細胞について
VI 歯周組織再生のための促進因子の臨床応用
VII 歯周組織再生を促す因子
VIII GTR法と促進因子の併用
まとめ
4編 インプラントと骨の科学
14 インプラント治療の考え方(宮田 隆)
はじめに
I インプラントの臨床応用の変遷
II インプラントと骨の考現学
15 オッセオインテグレーションとは(宮田 隆,小林之直)
はじめに
I オッセオインテグレーションの歴史
II オッセオインテグレーションの成立過程
III オッセオインテグレーション界面での代謝
IV GBR法とオッセオインテグレーション
まとめ
16 インプラントと骨反応(宮田 隆,小林之直)
はじめに
I インプラントの埋入と骨の初期変化
II インプラントとして機能後のインプラント周囲骨の変化
17 Peri-implantitisとは――歯周炎との違い(宮田 隆,小林之直)
はじめに
I Peri-implantitisの臨床症状
II 咬合性外傷とPeri-implantitis
1編 イントロダクション
1 歯周組織の構造に関するエッセンス(佐藤卓也,久米川正好)
はじめに
I 細菌感染・炎症の場としての歯周組織
II 組織再生の場としての歯周組織
III 咬合圧負担の場としての歯根膜・歯槽骨
まとめ
2 骨代謝を理解するために(羽毛田慈之)
はじめに
I 骨組織の発生と成長
II 骨形成系細胞の分化・機能とその調節機構
III 骨吸収系細胞の分化・機能とその調節機構
まとめ
3 歯周病原性細菌の歯槽骨吸収への関与(花澤重正)
はじめに
I 歯周病と炎症性サイトカイン
II 歯周病原性細菌と炎症性サイトカイン
III 歯周病原性細菌と骨吸収
まとめ
2編 歯槽骨吸収のメカニズムと再生のための足がかり
4 細菌感染に対する生体防御(辰巳順一)
はじめに
I 細菌からの防御メカニズム
II 炎症が進行すると,なぜ骨吸収が起こるのか?
III 破骨細胞による骨吸収は歯槽骨のどこから始まるのか?
5 歯周病のリスク因子――特に遺伝因子および環境因子――(高橋慶壮)
はじめに
I 歯周病のリスク因子
II 歯周病の遺伝因子
III 歯周病の遺伝研究の展望
IV 歯周病の環境因子
まとめ
6 歯周病原性細菌の付着を考える(落合邦康,武田宏幸)
はじめに
I 宿主への細菌の付着
II 細菌の定着
III 細菌の侵入
IV 歯周病原性細菌の付着機構を解析することの意義と展望
7 老化と骨代謝(高橋慶壮)
はじめに
I 老化
II 老化に伴う骨代謝の変化
III 骨粗鬆症
まとめ
8 骨吸収を抑制する薬物はないのか(辰巳順一,武田宏幸)
はじめに
I 骨粗鬆症と骨代謝改善薬
II 骨代謝改善薬をうまく利用して歯槽骨吸収も改善できないか?
III 骨代謝改善薬の歯周治療への応用と課題
IV 骨吸収抑制薬の臨床応用に関するまとめと新たな試み
3編 骨吸収の臨床的評価と再生のためのパラダイム
9 さまざまな骨欠損形態とX線像(申 基普j
はじめに
I 骨欠損の臨床診断
II 歯周病による骨欠損パターン
10 時間軸からとらえた骨代謝――骨代謝マーカーとよばれるもの(辰巳順一)
はじめに
I 骨代謝マーカー測定の歯科臨床上の意義を考える
II 歯周病の進行程度を把握するためのマーカー
III 歯周病の進行に伴う歯槽骨吸収との相同性が認められるマーカーについて
IV それぞれの骨代謝マーカー
まとめ
11 歯槽骨再生療法の歴史的変遷(奥田一博,吉江弘正)
はじめに
I 根面処理法
II 骨移植手術
III 組織再生誘導(GTR)法
IV エムドゲインィ法
まとめ
12 歯周組織再生と骨組織再生(新付着と骨組織の再生)(申 基普j
はじめに
I 歯周組織の再生療法
II 骨組織の再生療法
13 歯周組織再生のための組織工学と促進因子の臨床応用(辰巳順一,武田宏幸)
はじめに
I 組織工学を導入した組織再生を考える
II 組織工学の臨床応用に対する社会的背景
III 組織工学に用いることが可能な担体について
IV 組織工学に用いることが可能な促進因子について
V 組織工学に用いることが可能な細胞について
VI 歯周組織再生のための促進因子の臨床応用
VII 歯周組織再生を促す因子
VIII GTR法と促進因子の併用
まとめ
4編 インプラントと骨の科学
14 インプラント治療の考え方(宮田 隆)
はじめに
I インプラントの臨床応用の変遷
II インプラントと骨の考現学
15 オッセオインテグレーションとは(宮田 隆,小林之直)
はじめに
I オッセオインテグレーションの歴史
II オッセオインテグレーションの成立過程
III オッセオインテグレーション界面での代謝
IV GBR法とオッセオインテグレーション
まとめ
16 インプラントと骨反応(宮田 隆,小林之直)
はじめに
I インプラントの埋入と骨の初期変化
II インプラントとして機能後のインプラント周囲骨の変化
17 Peri-implantitisとは――歯周炎との違い(宮田 隆,小林之直)
はじめに
I Peri-implantitisの臨床症状
II 咬合性外傷とPeri-implantitis