やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 われわれ歯科技工士は,歯科医師からの依頼を受け,さまざまな環境のなかで適切に対応することが不可欠である.補綴治療は,術式や技術の革新によって術後の予知性と審美性の両立が可能かつ容易となり,われわれには歯列の連続性を回復し顎口腔機能へアプローチしたうえで審美性を確立することが求められている.
 実際の臨床では,高精度の適合,歯周的なメインテナンスのためのサブジンジバルカントゥア,審美性,咬合,歯牙移動,材料など,包括的な知識と治療が要求される.また,歯科材料の目覚しい発展によって,外科術式や補綴の選択肢・優位性が向上したことは周知の事実で,特にCAD/CAMの進歩により,審美修復やインプラント修復の幅が大きくなり,その「引き出しの多さ」がさらに充実してきたことは言うまでもない.しかしながら,それらが先行するあまり,本来の「患者本位の歯科医療」が置き去りにされていないかを再考する必要もある.
 私は,審美(歯周,歯冠修復)・各種材料・咬合を包括的審美修復の構成因子に据え,日進月歩の技術に対して「変化」に富んだ対応をしたいと心がけている.チェアサイドとラボサイドの役割分担を明確にし,そして同じ意識で一人の患者,一つの模型に取り組まなければならないと考えている.
 本書は私がこれまで会得したことを,これから将来を担う若い歯科技工士や学生の皆さんの参考になるように,できるだけわかりやすく,ポイントを押さえることに注力してまとめたものである.
 序章では,私の歯科技工士人生が,多くの方々との出会いなしには成り立たないこと,それぞれの環境を精一杯生き抜いてきたことを綴っている.
 1章では,(株)カロス開業後に筒井昌秀氏・照子氏と巡り会ったなかで叩き込まれた,「力と炎症」のコントロールについての内容をおもに書き記している.限界運動と機能運動の違いなど当初は全く理解できない概念だったが,臨床や勉強を通じ少しずつ理解を深めていき,歯科技工士としてそれを具現化することで必死に導き出した内容である.
 2章では,審美修復を中心に書いている.私は審美修復には骨的環境の整備,軟組織的環境整備,歯冠修復的環境整備の3つの要因があり,それらが三位一体でなければならないと捉えている.そこにデジタル(CAD/CAM)が絡んでくるが,注意すべきは,デジタル(CAD/CAM)が歯科技工士のすべての仕事をこなしてくれるわけではないということである.効率化を図りながら,医療人としての知識や情報やスキルを持ち合わせていなければならない.私は幸運にもカタナプロダクションセンター(クラレノリタケデンタル,モリタとの共同事業)を営むことができたおかげで,デジタルに関する多くの情報を入手でき,それはこの瞬間も継続している.
 診査・診断・治療計画から,審美性と機能の回復,Longevityの確立のために,ラボサイドでいかに基本的なことに着目してチェアサイドをサポートしていくか,本書がそれらを見出すヒントになってほしいと願っている.
 2016年9月
 増田長次郎
序章 メッセージ-私の技工人生を振り返って
1章 機能を捉える:咀嚼運動から捉えた機能的咬合面形態のつくり方
 1.機能運動と限界運動の違い
 2.咀嚼運動とは
  1)咀嚼サイクル
  2)咀嚼パターン
  3)作業側・非作業側の時間差
  4)咀嚼運動と咬合面形態との調和(中枢と末梢の調和)
 3.咬合再構成における最適な下顎位の求め方
  1)機能と形態の評価の繰り返しによる下顎位の模索
  2)咬合を崩壊する因子とその除去
  3)リシェイピング
   (1)後天的因子のコントロール
   (2)クレンチングとグライディングの対応の違い
 4.機能的咬合面形態とは
  1)咬頭嵌合位の頬舌的安定
   ・Aコンタクト(A点)の設定基準
   ・Bコンタクト(B点)の設定基準
   ・Cコンタクト(C点)の設定基準
  2)咬頭嵌合位の近遠心的安定(クロージャーストッパーとイコライザー)
 5.機能的咬合面形態の構築
  1)機能的咬合面形態の構築方法
   ・削合していくことで咬合関係を構築していく方法
   ・高さを合わせて接触点を残していく方法
  2)機能的咬合面形態のチェックポイント
   ・機能的咬合面形態の修正例
 6.機能的咬合面形態を構築するAFM咬合器
  1)咬合器への模型の装着
   ・マウンティング用平面板を用いた上顎模型の装着
   ・フェイスボウトランスファーによる上顎模型の装着
 7.AFM咬合器を使用した機能的咬合面形態の構築
2章 色調を捉える:色調の捉え方と表現法
 1.オールセラミック修復の特徴と注意点
 2.オールセラミック修復における色調再現のためのポイント
  1)支台歯の材質と色調
  2)シェードテイキングのポイント
 3.PFZのレイヤリング法
  1)レイヤリング前の確認と準備
  2)レイヤリングの方法(基本築盛)
   症例 1
   症例 2
   症例 3
   サブジンジバルカントゥアによるゾーンコントロールの考え方
   症例 4
 4.プレスオンジルコニアの色調表現
 5.フルジルコニアクラウンの色調表現
   症例 1
   症例 2

 あとがき