やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 近年,歯科機器・材料の開発に伴って歯科医療も「アナログ・デンティストリー」から「デジタル・デンティストリー」に変革し,安全・安心な歯科医療の提供に大きく貢献している.患者にとっては,侵襲の少ない治療術式,適正な治療価格などの医療サービスの向上により安心して歯科医療を享受できるようになり,歯科医師にとっては,診断能力の向上,患者との円滑なコミュニケーション,治療にかかわるストレスの軽減,経費節減など,歯科技工士にとっては作業環境の改善,確実な歯冠修復物の製作,補綴装置の安全な設計,製作時間の短縮など多くのメリットをもたらしている.
 一方,歯冠修復物・補綴装置の成形加工法は多岐にわたり,一般工業界では既に多くの実績があるコンピュータを用いた加工技術が歯科技工にも取り込まれるようになってきている.一般工業界においてコンピュータ制御加工が導入されたのは,生産性の向上と価格低減,合理化を進めるとともに,金型業界における熟練職人の減少を補うためであったが,歯科技工においても新素材の開発によってこれまでの技能や技術だけでは対応できなくなり,CAD/CAMシステムによって大きな転換期を迎えている.
 20世紀における歯科医療の変遷をみると,ロストワックス法による精密鋳造の開発,陶材と金属の焼き付け技術,コンポジットレジンの光重合技術,レーザー溶接による接合技術,接着システムの確立など,画期的な術式によって歯科医療の体系を変革してきた.いずれの技術も成形加工法とそれを支える材料とが密接な関係にあり,新素材の開発によって新しい製作技術が生まれ,成形加工法が単純化され,高精度化してきた.CAD/CAMシステムの導入により,いままさに歯科技工が変わり,デジタル・デンティストリーが歯科医療を変えようとしている.
 そこで本書では,CAD/CAMシステムの基本的な原理・原則,歯科用CAD/CAMシステムの現状と使用される材料および臨床における可能性について,それぞれ造詣の深い執筆者にご執筆いただき,これまで断片的に掲載されてきた「歯科用CAD/CAMシステム」の基礎から臨床までを1冊にまとめた.今後ますます必要となる「CAD/CAMテクノロジー」の教育・研修用のテキストとしてはもちろん,これから臨床応用を試みようとする歯科医師や歯科技工士にとっても身近な教本的役割を担うことを期待している.
 歯科医療におけるCAD/CAMテクノロジーは加速度的に日々変革している.本書は現在までに研究,臨床応用されている話題についてまとめているが,今後も本書に対する読者諸兄の感想も参考にしながら,さらにトレンディな内容に改訂していきたいと考えている.
 ご執筆にご協力いただいた関係各位に厚く御礼申し上げる.
 2012年3月
 末瀬一彦
第1章 歯科用CAD/CAMシステムの現状と将来展望(末瀬一彦)
第2章 CAD/CAMシステムの基礎(村山 長)
 1 コンピュータと情報処理
 2 CAD/CAMシステムとは
 3 CAD/CAMシステムと関連システム
 4 CAD/CAMシステムの歴史
 5 さまざまな分野のCAD/CAMシステム
 6 三次元形状計測
 7 形状モデルの表現方法
 8 CADとは
 9 CAMとは
 10 CAEとは
 11 システム間のデータ交換
第3章 歯科用CAD/CAMシステム
 1 歯科用CAD/CAMシステムの分類(堀田康弘,宮ア 隆)
 2 スキャニングの方法(堀田康弘,宮ア 隆)
 3 口腔内スキャン(堀田康弘,宮ア 隆)
 4 CADにおける設計(荘村泰治)
 5 CAMの種類(荘村泰治)
 付 Lavaシステムによるスキャニング法(山田幸一)
第4章 これからの歯科用CAD/CAMシステム(オープンシステム)(今田智秀)
第5章 歯科用CAD/CAMシステムで使用する材料(伴 清治)
第6章 歯科用CAD/CAMシステムの臨床応用
 1 適合性(三浦宏之)
 2 強度(構造力学)(横山大一郎,新谷明一,新谷明喜)
 3 設計(渡辺俊介)
 4 CAD/CAMとインプラントの手術支援(十河基文,辻 貴裕,山羽 徹,大谷 昌)
 5 CAD/CAMと歯冠修復技工(中村隆志,宮前守寛)
 6 CAD/CAMと義歯技工(瀧 隆介)
 7 CAD/CAMとインプラント技工(山下恒彦)
第7章 適合と予後からみた歯科用CAD/CAMシステムの有用性についてのエビデンス(疋田一洋)

 参考文献
 索引