やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊の序
 わが国の超高齢社会において,平均寿命の延伸に伴って健康寿命をいかに長くすることができるかが,歯科医療に課せられた大きなミッションです.一方,疾病構造の変化,患者からのニーズの高まり,歯科医療器材の開発などが急速に進展してきたなかで,歯科医療関係者はこれらの変化に適切に対応し,国民にとって安全,安心,信頼される歯科医療を提供していかなければなりません.このような社会的背景に応えるべく,優秀な歯科技工士の養成が求められています.歯科技工士教育は,歯科技工士学校養成所指定規則に基づき,各養成機関が独自性,特色を発揮して教育カリキュラムを構築していかなければなりません.長年の懸案事項であった歯科技工士国家試験の全国統一化が平成28年2月の試験から実施されました.国家試験が全国統一されたことで試験の実施時期,内容などが極めて公平,公正な試験となり,歯科技工士教育の「スタンダード化」ができたことは,今後の歯科技工士教育の向上のためにも大きな意味があると考えられます.
 全国歯科技工士教育協議会は,平成26年11月に,歯科技工士教育モデル・コア・カリキュラムを作成しました.これは歯科技工士が歯科医療技術者として専門的知識,技術および態度をもってチーム医療に貢献できるよう,医療人としての豊かな人間形成とともに,これまでの伝統的な歯科技工技術を活かしながらも,新しく開発された材料,機器を有効に活用した歯科技工学を修得できるよう,すべての歯科技工士学校養成所の学生が身につけておくべき必須の実践能力の到達目標を定めたものです.また,全国統一化された国家試験の実施に伴って,平成24年に発刊された国家試験出題基準も近々に見直されることでしょう.さらに,これまで歯科技工士教育は「歯科技工士学校養成所指定規則第2条」によって修業年限2年以上,総時間数2,200時間以上と定められていますが,実状は2,500時間程度の教育が実施されています.近年,歯科医療の発展に伴って歯科技工技術の革新,新しい材料の開発などが急速に行われ,さらに医療関係職種との連携を可能とした専門領域での技術習得を十分に培った資質の高い歯科技工士を適正に養成していくためには,教育内容の大綱化・単位制を実施しなければなりません.
 歯科技工士教本は,これまで多くの先人のご尽力により,常に時代のニーズに即した教育内容を反映し,歯科技工士教育のバイブル的存在として活用されてまいりました.教本は,国家試験出題基準や歯科技工士教育モデル・コア・カリキュラムを包含し,さらに歯科技工士教育に必要と思われる内容についても掲載することによって,歯科技工士学校養成所の特色が発揮できるように構成されていますが,今回,国家試験の全国統一化や教育内容の大綱化・単位制への移行を強く意識し,改訂に努めました.特に大綱化を意識して教本の名称を一部変更しています.たとえば『歯の解剖学』を『口腔・顎顔面解剖学』,『歯科技工学概論』と『歯科技工士関係法規』を合本して『歯科技工管理学』と変更したように内容に準じて幅広い意味合いをもつタイトルとしていますが,国家試験出題基準などに影響はありません.また,各章の「到達目標」には歯科技工士教育モデル・コア・カリキュラムに記載しております「到達目標」をあてはめています.
 今回の改訂にあたっては,編集委員および執筆者の先生方に,ご多忙のなか積極的にご協力いただきましたことに改めて感謝申し上げます.編集にあたりましては十分配慮したところですが,不備,不足もあろうかと思います.ご使用にあたりましてお気づきの点がございましたらご指摘いただき,皆様方の熱意によりましてさらに充実した教本になることを願っています.
 本最新歯科技工士教本が,本教本をご使用になり学習される学生の方々にとって,歯科技工学の修得のためのみならず,学習意欲の向上に資することができれば幸甚です.
 最新歯科技工士教本の製作にあたりましては,全国歯科技工士教育協議会の前会長である末瀬一彦先生が,編集委員長として企画段階から歯科技工士教育の向上のために,情熱をもって編集,執筆を行っていただきました.末瀬先生の多大なるご尽力に心より感謝申し上げます.
 2017年1月
 全国歯科技工士教育協議会
 会長 尾ア順男




 近年,顎口腔系に関する広範囲な研究の進展とともに,顎口腔機能の不調に起因する全身疾患との関わり,高齢社会に対応できる多様な義歯,さらには機能の回復にとどまらない審美的な形態の回復による心のケアなど,臨床においては多くのことが求められるようになっている.機能および形態の回復のほとんどが人工材料・人工臓器によって行われる歯科医療の特殊性も相まって,歯科技工士には臨床の需要に応えられるだけの技術の研鑽と探求,歯科医師からの高度な指示や情報提供に対する理解力が必要となっている.
 歯科技工士教育にあって,専門分野の教育指針は,「専門的な知識・技術を養うとともに科学的思考力・洞察力を身につけさせ,さらに一人ひとりの主体性を尊重して,自ら考えて行動し実践できる能力・技術を養う」ことである.現在の指定規則によれば,「歯冠修復技工学」の教授時間は440時間(12単位)で総時間数の20%を占め,「有床義歯技工学」とともに歯科技工士教育のなかでも最もウェイトが大きい.現在,歯冠修復においては,接着歯学の確立により,間接的な修復処置に変わってコンポジットレジンなどによる口腔内での直接作業が主体となり,歯科技工の分野の割合は減少している.しかし,口腔の健康管理などに対する認識の高まりによって若年者の齲蝕罹患率は激減したものの,高齢者における齲蝕罹患率は依然高く,欠損修復は必ずしも減少していない.歯冠修復はまだまだ必要である.
 歯冠修復技工では,単に解剖学的な基本形態にそって製作するだけでなく,歯周組織との関係,咬合,審美性,全身状態などを把握して機能的な歯冠修復物を製作する必要がある.また,セラミックスやハイブリッド型コンポジットレジンなどの新素材の開発によって審美的要素のウェイトがますます増加しているほか,インプラント治療が日常臨床に取り込まれたことで,精度の高い,高度な技術も要求されている.一方で,生体情報のデジタル化や計測・加工技術の進歩,生体適合性に優れた材料の開発に伴って歯科医療の分野にもCAD/CAMシステムが導入され,歯科技工の複雑な部分を省力化させることが期待されている.技工作業の簡略化,合理化,精密化,均質化を目指して新たな体系化が迫られるなかで,歯冠修復技工学は重要な学問分野となるであろう.
 本教本の執筆にあたっては,これまでの先輩諸氏がご尽力された基本的内容については十分配慮するとともに,上記に述べた新しい分野についても言及し,現在の歯科医療に立ち向かう若い歯科技工士にとって必要最低限の知識を整理することを終始徹底した.歯科技工士国家試験も平成28年から全国統一試験として実施され,全国レベルで歯科技工士教育の水準が整い,そのレベルの向上が図られる.本教本も「歯科技工士教育モデル・コア・カリキュラム」や「出題基準」を包含するとともに,さらに幅広い知識の研鑽や活用に重点をおいている.指導者も学生も有意義に活用されることを望む.
 本教本のご執筆者および全国歯科技工士教育協議会の関係諸氏に心から感謝申し上げる.
 2017年2月
 末瀬一彦
1 歯冠修復技工学の概要
 (松村英雄)
 1 歯冠修復技工学の意義と目的
 2 臨床的価値
  1)顎口腔系の機能の回復と改善
  2)顎口腔系の審美性の回復と改善
  3)口腔衛生の管理
2 クラウンの概要と種類
 (五味治徳,雲野泰史)
 1 クラウンの概要
 2 歯冠修復物と部分被覆冠
  1)インレー,アンレー
  2)3/4クラウン,4/5クラウン,8/7クラウン
  3)プロキシマルハーフクラウン
  4)ピンレッジ
  5)ラミネートベニア
 3 全部被覆冠
  1)全部金属冠
  2)前装冠
  3)ジャケットクラウン
 4 継続歯(ポストクラウン)
3 ブリッジの概要と種類
 (松村英雄,下江宰司)
 1 ブリッジの概要
 2 ブリッジの特徴
  1)ブリッジの利点
  2)ブリッジの欠点
 3 ブリッジの構成要素
  1)支台装置
  2)ポンティック
  3)連結部
 4 ブリッジの種類
  1)固定性ブリッジ
  2)半固定性(可動性)ブリッジ
  3)可撤性ブリッジ
4 クラウンとブリッジの具備要件
 (末瀬一彦)
 1 生物学的要件
  1)歯および歯列との関係
  2)歯周組織との関係
  3)清掃性との関係
  4)機能の回復
  5)形態の回復
 2 構造力学的要件
  1)材料学的要件
  2)力学的安定性
  3)維持力
 3 化学的要件
  1)材料学的要件
  2)化学的安定性
 4 審美的要件
  1)材料学的要件
  2)形態
  3)排列(歯列との関係)
  4)色調
  5)心理的要件
5 クラウンとブリッジの製作
 1 臨床ステップの概要(新谷明一,雲野泰史)
 2 印象採得
  1)印象材の種類
  2)印象材の取り扱い
 3 研究用模型(スタディモデル)
 4 印象用トレー
  1)印象用トレーの目的
  2)印象用トレーの種類
  3)個人トレーの製作方法
 5 支台築造
  1)目的と意義
  2)種類と使用材料
  3)製作法
 6 テンポラリークラウン・ブリッジ
  1)意義と目的
  2)種類と使用材料
  3)要件
  4)製作法
 7 色調選択(シェードマッチング,シェードテイキング)
  1)色調選択の要件と方法
  2)色調選択時の注意点
  3)色調選択の手順
 8 作業用模型
  1)意義と目的
  2)作業用模型の構成
  3)作業用模型の要件
  4)作業用模型の特徴
  5)作業用模型の種類
  6)作業用模型の製作(歯型可撤式模型,ダウエルピンを使用した方法)
  7)歯型の辺縁形態
 9 咬合器への装着
  1)咬合平面板をもった平均値咬合器への模型の装着
  2)フェイスボウによる咬合器への上顎模型の装着
  3)咬合器に模型を装着する場合の注意点
 10 クラウンに与える咬合(末瀬一彦,藤田 暁)
  1)前歯部のクラウン
  2)臼歯部のクラウン
 11 ワックスアップ
  1)歯型への分離剤の塗布
  2)ワックスアップの方法
  3)ワックスアップ時の注意点
 12 埋没
  1)埋没の前準備
  2)埋没方法
 13 鋳造作業
  1)鋳造方法
  2)金属の融解方法
  3)鋳造時の金属の取り扱い
  4)鋳造体の清掃
 14 連結法
  1)ワンピースキャスト法(一塊鋳造法)
  2)鑞付け法
  3)溶接法
  4)鋳接法
 15 調整
  1)外面の調整
  2)内面の調整
  3)辺縁部の調整
  4)隣接面の調整
  5)咬合面の調整
 16 研磨
  1)研磨の意義と目的
  2)研磨器具と材料
  3)研磨材と研磨能率の関係
  4)研磨の方法
 17 試適・仮着・合着
  1)試適
  2)仮着
  3)合着
 18 レジン前装(松村英雄,下江宰司)
  1)前装部の形態
  2)前装部の維持形態,接着技法
  3)前装材の種類
 19 陶材の築盛・焼成
  1)陶材の種類
  2)陶材の築盛方法
  3)コンデンスの意義
  4)陶材の焼成
 20 クラウンの不具合の原因(末瀬一彦,藤田 暁)
  1)クラウンが適合不良になる原因
  2)クラウンの咬合が高くなる原因
6 歯冠修復物と部分被覆冠
 1 インレー,アンレー(五味治徳,雲野泰史)
  1)意義,特徴,適応用途
  2)メタルインレー,アンレー
  3)コンポジットレジンインレー,アンレー
  4)ポーセレンインレー,アンレー
  5)窩洞形態と構成要素
 2 3/4クラウン,4/5クラウン,7/8クラウン
  1)意義,特徴,適応用途
  2)支台歯形態
 3 プロキシマルハーフクラウン
  1)意義,特徴,適応用途
  2)支台歯形態
 4 ピンレッジ
  1)意義,特徴,適応用途
  2)支台歯形態
 5 ラミネートベニア(小峰 太,今井秀行)
  1)意義,特徴,適応用途
  2)支台歯形態
  3)製作上の注意点
7 全部被覆冠
 1 全部金属冠(新谷明一,雲野泰史)
  1)意義,特徴,適応用途
  2)支台歯形態
 2 前装冠(松村英雄,下江宰司)
  1)意義,特徴,適応用途
  2)支台歯形態
  3)レジン前装冠
  4)陶材焼付金属冠
 3 ジャケットクラウン(末瀬一彦,藤田 暁)
  1)意義,特徴,適応用途
  2)支台歯形態
  3)硬質レジンジャケットクラウン
  4)ポーセレンジャケットクラウン
  5)オールセラミッククラウン
8 ブリッジ
 1 支台装置(松村英雄,下江宰司)
  1)支台装置の種類
  2)支台装置の適応用途
 2 ポンティック
  1)ポンティックの要件と構造
  2)ポンティックの種類と形態
  3)ポンティックの適応用途
 3 連結法
  1)連結法の種類,適応用途
  2)連結部の要件
  3)連結部を含む歯列に与える咬合(末瀬一彦)
 4 ブリッジの製作法(松村英雄,下江宰司)
  1)ワンピースキャスト法による臼歯部全部金属ブリッジの製作法
  2)ワンピースキャスト法による前歯部陶材焼付金属ブリッジの製作法
 5 接着ブリッジの製作法(小泉寛恭,今井秀行)
  1)意義,特徴,適応用途
  2)支台歯形態
  3)接着ブリッジの製作と接着面処理法
9 インプラント
 (末瀬一彦)
 1 インプラントの概要
  1)インプラント体
  2)アバットメント
  3)上部構造(体)
 2 インプラントと生体
 3 インプラント治療の流れと歯科技工
 4 インプラントの種類
  1)インプラント体(フィクスチャー)の形状による分類
  2)埋入部位による分類
  3)埋入手術の回数による分類
  4)上部構造の固定方法による分類
 5 インプラントの咬合
 6 インプラント上部構造製作技工の注意点
10 CAD/CAMシステム
 (末瀬一彦)
 1 CAD/CAMシステムの構成
 2 CAD/CAMシステムの利点と欠点
 3 CAD/CAMシステムで使用される材料
 参考文献
 索引