やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 歯科臨床の究極は種々の修復物によって欠損または喪失した歯および顎骨などの機能,形態を維持,回復させることにあるといっても過言ではない.
 修復物製作に使用される材料はきわめて多岐にわたるが,素材としては有機物,無機物,金属に大別される.
 歯科理工学はこれらの材料の種類,性質,取り扱い方を学ぶ学問であるが,本書ではそのなかの金属について述べている.すなわち,金属および合金の種類,性質,取り扱い方について解説しているが,本書の主たる目的が歯科技工士教育の一端を担うことにあるので,金属材料の本質ということよりもむしろ金属の加工法にはどのような方法があり,どのようにすればより優れた加工ができるかという観点から述べた.
 歯科技工における金属加工法には鋳造,鑞付け,溶接,熱処理,研磨などがあり,そのうち鋳造は歯科理工学から独立して歯科鋳造学として一学科をなしていたが,今回の歯科技工士教育教授要綱の改定により,再び歯科鋳造学が歯科理工学に包含されることになった.このことの得失については論じないが,制度の改変は時代に応じてなされなければならないし,ときに必要である.ただし,重要なことは制度の改変があっても学問の根幹は決して変わるものではなく,たゆまざる進歩のなかにも正しい理念,理論が存在し,それぞれが脈々と積み重ねられていくことを忘れてはならない.
 歯科技工がときに手先の仕事に過ぎないと認識されることがあり,それを全面的に否定するものではないが,材料の加工とくに金属を加工するのにさいして材料,すなわち金属の本質および加工法の理論を熟知することは,よりよい修復物を得るための最短の道であることは自明である.歯科技工を行うため本書を利用されるにあたって,著者らの意をくんでいただければこれに勝る喜びはない.
 本書は森が7章,石綿が6章,その他を長谷川が担当した.本書の骨子となった数々の実験結果,論説を発表された研究者に対して心からの敬意と感謝の意を表するとともに,あらゆる協力を惜しまなかった愛知学院大学歯学部歯科理工学講座,愛知学院大学歯学部歯科技工部,東京医科歯科大学歯科技工士学校の諸氏に対して深謝する.
 1995年3月20日 長谷川二郎
1 金属1
 1.原子の結合…1
 2.金属結合と金属結晶…1
  1.金属結合…1
  2.金属結晶…3
 3.純金属と合金…3
  1.純金属…3
  2.合金…4
  3.合金の種類…4
 チェックポイント…11
2 歯科用合金13
 1.歯科用合金の用途と所要性質…13
 2.加工用合金の用途と所要性質…13
 3.鋳造用合金の用途と所要性質…14
 4.前装冠用合金の所要性質…14
  1.陶材前装冠用合金〔陶材溶着(焼付)用合金〕…14
  2.レジン前装冠用合金…15
 5.鑞付け用合金…15
 鑞付け用合金の種類…15
 チェックポイント…16
3 貴金属系合金17
 1.金合金…17
  1.鋳造用金合金…17
  2.加工用金合金…21
  3.陶材溶着冠用金合金…21
 2.銀合金…22
 鋳造用銀合銀…23
 チェックポイント…24
4 非貴金属系合金25
 1.ニッケルクロム鉄合金…25
 2.コバルトクロム合金…26
  1.鋳造用コバルトクロム合金…26
  2.加工用コバルトクロム合金…28
  3.陶材溶着冠用コバルトクロム合金…28
 3.ニッケルクロム合金…29
  1.鋳造用ニッケルクロム合金…29
  2.陶材溶着冠用ニッケルクロム合金…29
 4.チタン合金…30
 5.その他の合金…31
 チェックポイント…31
5 歯科鋳造33
 1.鋳造の基礎…34
  1.金属の融解…34
  2.溶融金属の流動性…35
  3.金属の凝固…35
  4.結晶粒と結晶粒界…37
  5.金属の鋳造収縮…37
  6.鋳造体の内部応力…38
  7.溶融金属のガス吸収…39
 2.模型…39
  1.模型製作…39
  2.複模型製作…40
 3.原型製作…42
  1.原型材料の所要性質…42
  2.蝋型採得…42
  3.スプルー…43
  4.湯だまり…43
  5.エアベント…44
 4.鋳型の製作…45
  1.鋳型材の所要性質…45
  2.鋳型材の種類…46
  3.鋳型材の性質…50
 5.埋没操作…56
  1.埋没装置…57
  2.埋没法…59
 6.鋳型の加熱…59
  1.加熱開始時期…59
  2.加熱速度と加熱時間…59
  3.加熱温度と鋳造時温度…59
  4.再加熱…60
 7.鋳造用合金と融解…62
  1.鋳造用合金の所要性質…62
  2.鋳造用合金の種類…62
  3.融解熱源…63
  4.融解雰囲気…63
 8.鋳造…65
  1.鋳造機の種類…65
  2.鋳造方法…65
  3.鋳込み温度…68
  4.鋳造体の後処理…69
 チェックポイント…70
6 歯冠修復物の鋳造71
 1.作業模型の製作…72
  1.作業模型とは…72
  2.作業模型の構成…72
  3.作業模型の要件…72
  4.模型材の種類…73
  5.模型材の取り扱い…73
  6.分割復位式模型の製作…74
 2.原型材料と蝋型形成…78
  1.インレーワックスの種類と使用法…78
  2.パターン用レジンの用途…78
  3.蝋型形成の実際…79
 3.スプルーの植立…83
  1.クラウンのスプルー植立…83
  2.ブリッジのスプルー植立…84
 4.鋳型製作…86
  1.埋没前準備…86
  2.円錐台の選択…87
  3.リングの選択…87
  4.鋳型材の選択…88
  5.ライニング(裏装,リングへの内張り)…89
  6.混水比…90
  7.界面活性剤…90
  8.鋳型材の練和…91
  9.埋没操作…91
 5.鋳型の加熱…93
  1.埋没後のリングの保管…93
  2.鋳型の加熱工程…94
 6.合金の融解,鋳造…95
  1.安全対策…95
  2.融解の前準備…95
  3.融解操作と鋳造の実際…96
 7.鋳造後の処理…98
  1.鋳型の冷却…98
  2.鋳型材の除去…98
  3.酸処理(酸洗い)…99
  4.熱処理(メタルコアの場合)…99
  5.研磨…100
 チェックポイント…102
7 有床義歯の鋳造103
 1.作業模型に求められる要件…105
  1.模型材の性質…105
  2.作業模型の種類と構成…106
  3.作業模型の形態的要件…106
 2.複模型に求められる要件…107
  1.複印象材の要件…108
  2.複模型の要件…108
 3.キャストクラスプの製作…110
  1.作業模型の前処理…110
  2.複印象採得…111
  3.複模型の製作…112
  4.蝋型の形成…114
  5.スプルーの植立(スプルーイング)…116
  6.鋳型の製作…117
  7.鋳型の加熱…118
  8.融解,鋳造…118
  9.鋳造体の後処理…119
 4.フレームワークの製作…122
  1.作業模型の前処理…123
  2.複印象採得…125
  3.複模型の製作…127
  4.蝋型の形成…128
  5.スプルーの植立…129
  6.鋳型の製作…130
  7.鋳型の加熱…131
  8.融解,鋳造…132
  9.鋳造体の後処理…133
 チェックポイント…136
8 鋳造欠陥とその対策137
 1.鋳造体の外部欠陥…137
  1.鋳造体が原型形状を再現していない…137
  2.鋳造体が変形している…139
  3.鋳造体表面に突起が生じている…140
  4.鋳造体表面が粗造である…142
  5.鋳造体表面にしわがある…143
  6.鋳造体表面にくぼみがある…143
  7.鋳造体表面に着色がある…144
  8.鋳造体に亀裂がある…144
 2.鋳造体の内部欠陥…146
  1.鋳造体に異物の混入がある…146
  2.鋳造体に巣または気泡がある…146 
  3.鋳造体が不均質である…147
 3.鋳造精度…147
 4.鋳造欠陥と鋳造条件との関係…151
 チェックポイント…151
9 鑞付け153
 1.鑞付けと溶接,鋳接…153
  1.鑞付け…153
  2.溶接…153
  3.鋳接…153
 2.鑞付けの機構…154
 3.鑞付け用材料…155
  1.鑞…155
  2.フラックス…155
  3.鑞付け用埋没材…155
  4.熱源…156
 4.鑞付けの実際…156
  1.固定鑞付け…156
  2.自在鑞付け…158
  3.点溶接…158
 チェックポイント…158
10 合金の熱処理159
 1.熱処理法…159
 2.相変態と熱処理…160
  1.固溶体の溶解度の変化に基づく場合…160
  2.規則・不規則格子変態に基づく場合…161
 3.歯科用合金の熱処理…162
  1.硬化熱処理…162
  2.軟化熱処理…163
 4.炭素鋼の熱処理…163
  1.焼なまし…163
  2.焼入れ…164
  3.焼もどし…164
 チェックポイント…165
11 金属および合金の塑性加工法167
 1.塑性加工…167
 2.塑性変形…168
 3.金属の硬化…168
  1.加工硬化…169
  2.加工硬化の機構…170
 4.焼なましと再結晶…170
 チェックポイント…171
12 金属材料の腐食173
 1.腐食の形態と様式…173
 2.電気化学的腐食…174
  1.異種電極電池…174
  2.酸素濃淡電池…175
 3.腐食の分類と原因…175
  1.全面腐食…175
  2.孔食…175
  3.粒界腐食…175
  4.応力腐食…176
  5.変色…176
 4.腐食の抑制要素…176
  1.分極…176
  2.不動態…177
  3.作用限…178
  4.表面状態…178
 5.口腔内の腐食…178
  1.口腔液…178
  2.金属相…178
  3.異種金属の接触…178
 チェックポイント…179

付表…180
参考図書…185
講義の進め方目安例…186
さくいん…187