やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 本書は筆者にとって5冊めの単行本である.1冊めは1977年に出版した『金属焼付ポーセレンの理論と実際』である.2冊めと3冊めは1982年から'83年にかけて出版した『セラモメタルテクノロジーI,II』である.4冊めは1992年に出版した『セラモメタルそのデザインと構造』である.
 筆者の考えを体系的にまとめた『セラモメタルテクノロジーI,II』を出版してから,すでに12年以上が経過した.幸いにして前3書は数か国語に翻訳され,多くの読者に読んでいただいていると聞いている.筆者にとっては,日本語版出版当時には思いもよらなかったことであり,ありがたく思っている.
 これまでの単行本はその書名からも明らかなとおり,金属焼付ポーセレンについて,多角的に検討を行ったものであった.しかし,この間の歯科界の進歩は急速であった.従来の金属焼付ポーセレンやジャケットクラウンに加えて,オールセラミッククラウンやポーセレンラミネートベニア,ポーセレンインレーが新しい技法として登場し,臨床に応用されるようになってきた.これらは修復材料の進歩とともに,接着技術の進歩に負うところが大きい.
 本書はこのような歯料医学の発展を受けて,金属焼付ポーセレンからオールセラミックにいたるまで,広く応用可能な「審美の回復」と「機能の回復」の理論と技術について解説している.全体を Part 1〜3 までの三部構成とし,全部で7章からなっている.
 Part1では,焼付用ポーセレンや高強度ポーセレン(HSP) を用いた臨床例を示し,多様な修復法の実際を解説している.1章ではいくつかの症例を用いて臨床対応について解説した.2章では1つの症例を用いて,オールセラミックからポーセレンラミネートベニア,ポーセレンインレーまで詳しくその術式を解説した.さらに章末ではコンピュータグラフィックス(CG) を用いて,ポーセレンラミネートベニアの支台歯形態について解説を行った.
 Part2では,機能の回復と審美の回復という視点から,多角的に歯の形についての検討を行っている.3章では機能の回復と歯の形,4章では審美の回復と歯の形,5章ではポーセレンの光の透過度の基準化とポーセレン築盛法との関連,6章では患者,歯科医師,歯科技工士のコミュニケーションのあり方について述べた.
 Part3では,自分自身の見聞に基づいて,金属焼付ポーセレンの歴史についてふれた.7章では,なぜ,どのようにして金属焼付ポーセレンが誕生したのか,金属焼付ポーセレンの開発と普及にかかわった多くの人々について,自分自身が知りえた範囲内で記述したつもりである.
 なお,“The Harmonzed Ceramc Grafft”という書名には,筆者の思いをいささか込めたつもりである.ハーモナイズド Harmonzedには「調和のとれた」という意味がある.これには「口腔内で調和のとれた」という意味と,「患者,歯科医師,歯科技工士」そして,その他の歯科医療関係者の「調和のとれた人間関係」という意味が込められている.グラフィティ Grafftには精密な線刻という意味や壁面にスプレーなどで画かれた現代アートという意味などがある.時代を映像的に切り取ることにより,過去と現在を結びつけ,未来を見すえることができたら,という思いをこの言葉に託したつもりである.
 最後に,本書が出版されるにあたっては,多くの方々のご協力をいただいた.そのすべての方々についてふれることはできないが,下記にお名前をあげ,特に感謝の意を表したい.
 筆者にアメリカ留学の機会を与えて下さった愛歯技工専門学校および創設者鹿毛俊吾先生,ポーセレン科でご指導いただいた中村廣次先生,先生には7章の取材にもご協力いただいた.1章,2章,6章でともに仕事をさせていただいた中原悦夫先生,藤沢幸三郎先生,池田和己先生,熊谷崇先生,河野正清先生,松尾通先生,真坂信夫先生.常に筆者によきアドバイスをしてくださっている Dr.ゴールドスタイン,Dr.スマイゲル.7章にお名前をあげさせていただいた方々には,自分の人生において知り合うことができた「良き人々」として,深い感謝の意を表したい.
 写真や資料をご提供いただいたり,本書出版をご支援くださったのはつぎの方々である.愛歯技工専門学校校長大宅公生先生,教務主任阿部八郎先生,前教務主任児玉二三夫先生,同校旧職員,現職員の先生方には直接的,あるいは間接的に多くのご支援をいただいた.そして行岡医学技術専門学校上野乃武彌先生,石福金属興業(株).7章の基礎となるご指導をいただいたのは丸森賢二先生である.取材にご協力いただいた(株)アイズ・インターナショナル遠山誠一氏.
 本書はまたつぎの方々の力によるところが大きい.7章の取材と草稿をまとめてくれたライター服部和都氏,英文資料の翻訳をしてくれた(有)ハナケン羽持健氏,写真撮影をしてくれたカメラマン中野昭夫氏,CGを制作してくれた塚本正幸氏,本文レイアウトと装丁をしてくれた篠崎博氏,模型製作や撮影協力をしてくれたクワタカレッジの各職員.そして筆者を常にはげましてくれた医歯薬出版株式会社編集担当吉原巌氏,彼の筆者に勝るとも劣らない情熱がなかったならば,本書はこのような形で世に出ることはなかったであろう.
 1995年11月15日 桑田正博
Part 1 セラミックレストレーションの臨床
1章 セラミックレストレーションによるトータルハーモニーを求めて 2
   金属焼付ポーセレンとするか,ポーセレンラミネートベニアとするか……2
   ラミネート技法の応用例(近世)4
   症例 1:切端部レジンの変色をポーセレンラミネートベニアで修復した例……6
   症例 2:上顎の正中離開をポーセレンラミネートベニアで修復した例……6
   症例 3:審美性/イルージョン,位置,大きさ,形……9
   症例 4:オールセラミッククラウンとポーセレンラミネートが同一口腔内に隣接する場合……12
   症例 5:隣接面齲蝕をポーセレンラミネートで修復する場合……12
   症例 6:矯正歯科医,歯周病専門医,補綴歯科医,歯科技工士のチームアプローチにより患者の歯科的 QOLが著しく改善された例……16
2章 オールセラミックレストレーション,クラウン,ラミネートベニア,インレー……32
   はじめに……32
   高強度オールセラミック(HSP)システム……32
   HSPによる前歯部オールセラミッククラウンの製作法……33
   HSPによる臼歯部オールセラミッククラウンの製作法……51
   ポーセレンラミネートベニアの製作法……55
   ポーセレンインレーの製作法……60
   前歯部ポーセレンラミネートベニアの形態……66
   ポーセレンラミネート法の今日の特徴……66
   ポーセレンラミネートベニアの支台歯形態とベニアの特徴……66
Part 2 機能と審美の回復を求めて
3章 機能の回復と歯の形……72
   はじめに……72
   スリープレーンコンセプト……72
   カントゥアガイドライン……74
   マージン形態と新しい三角構造の理論……75
   金属焼付ポーセレンの場合……76
   オールセラミッククラウンやポーセレンラミネートベニアの場合……76
   新しい三角構造の理論とポーセレンのサポーティングエリアとの関係……77
   スリープレーンコンセプト,カントゥアガイドライン,三角構造の理論を応用した支台歯形成法……79
   計画用ワックスクラウンの製作……81
   なぜ計画用ワックスクラウンを作るのか……81
   機能的な計画用ワックスクラウンの製作法……81
   アンテリアガイダンスの与え方……87
   下顎臼歯部オクルーザルプレーンの設定と咬頭展開角の形成……89
   ファンクショナルガイドの製作……91
   機能的なポーセレンの築盛法……93
   F.G.P.テクニックを応用した上顎臼歯部の製作……96
   ポーセレンの築盛形成……96
   付・オクルージョンと咬合器/咬合器とは何か……105
4章 審美の回復と歯の形……106
   機能回復から色彩へ……106
   色について考える……106
   形がさきか,色がさきか……106
   自然界の美しさと人工的な美しさ……106
   空間と立体的な造形とはどんな関係になっているか……109
   人間の歯らしい歯とは何か……110
   自然の物を見分ける力……110
   「歯らしさ」とは何か……110
   歯に関係する比率について考える……111
   歯と比率……111
   歯の実際の寸法比率と見かけの比率……112
   口唇と歯の関係……116
   歯の表面性状について考える……117
   半透明性と色について考える……118
   半透明性について……118
   色について……118
   錯覚(イルージョン)について考える……123
   錯覚とは何か……123
   歯の形態に錯視効果をどう利用するか……128
5章 アナトミカルシェーディングテクニックの新展開 色・ポーセレンの知識とその応用……132
   ASテクニックとは何か……132
   応用範囲を広げたASテクニック……135
   ポーセレンの透過度の基準化はなぜ可能か……136
   透過度の基準化によるASテクニックの応用法……141
   色の対比と色の性質……142
   色の対比と色の性質のASテクニックへの活用法……143
   まとめに代えて……146
6章 患者,歯科医師,歯科技工士のナイスコミュニケーション トータルバランスの回復をめざして……148
   よいコミュニケーションは共通の言葉から……148
   患者と歯科医師,歯科技工士の出会い……148
   患者からの情報の取得とその伝達……149
   顔の観察とシェードテイキング……150
   情報をラボ作業にどのように活用するか……151
   シェードテイキングと情報をいかした技工操作……152
Part 3 金属焼付ポーセレンはどのようにして誕生したか
7章 私説・金属焼付ポーセレンの歴史……158
   歯科技工と出会う……158
   愛歯の学生生活……158
   鹿毛俊吾先生……159
   ポーセレン科……160
   荒木紀男先生……161
   金属焼付ポーセレン……162
   竹中健吾先生……163
   マウントバーノンデンタルラボラトリー164
   ロバート・パリーシ……168
   セラミキャストへ……169
   セラミキャスト……171
   アメリカンソメクラフト……174
   金属焼付ポーセレン開発物語……179
   Dr.スカイラー189
   Dr.ワーグマン……195
   Dr.ストラスバーグ……197
   Dr.スタイン……199
   Dr.P.K.トーマス……200

参考文献……202
付録 金属焼付ポーセレンおよび高強度ポーセレン(HSP)のUS特許……204
   Glossary/用語解説……206
索引……208