最新歯科衛生士教本の監修にあたって─歯科衛生学の確立へ向けて─
生命科学や科学技術を基盤とした医学・歯学の進歩により,歯科衛生士養成を目的とした教育内容の情報量は著しく増加し,医療分野の専門化と技術の高度化が進んでいます.この間,歯科衛生士の養成教育にも質的・量的な充実が要求され,たび重なる法制上の整備や改正が行われてきました.平成17(2005)年4 月には,今日の少子高齢化の進展,医療の高度化・多様化など教育を取り巻く環境の変化に伴い,さらなる歯科衛生士の資質向上をはかることを目的として,歯科衛生士学校養成所指定規則の改正が行われ,平成22(2010)年にすべての養成機関で修業年限が3 年制以上となり,平成25(2013)年3 月の卒業生はすべて3 年以上の教育を受けた者となりました.
21 世紀を担っていく歯科衛生士には,さまざまな課題が課せられています.今日では,健康志向の高まりや口腔機能の重要性が叫ばれるなか,生活習慣病としてのう蝕や歯周病はもちろん,全身疾患,摂食・嚥下障害を有する患者や介護を要する高齢者の増加に対して,これまで以上に予防や食べる機能を重視し,口腔と全身の関係を考慮し他職種と連携しながら対応していくことが求められています.また,新しい歯科材料の開発やインプラントなどの高度先進医療が広く普及するに伴って患者のニーズも多様化しつつあり,それらの技術に関わるメインテナンスなどの新たな知識の習得も必須です.歯科衛生士には,こうした社会的ニーズに則したよりよい支援ができる視点と能力がますます必要になってきており,そのためには業務の基盤となる知識と技術の習得が基本となります.
平成25 年に設立50 周年を迎えた全国歯科衛生士教育協議会では,このような社会的要請に対応すべく,活動の一環として,昭和47(1972)年,本協議会最初の編集となる「歯科衛生士教本」,昭和57(1982)年修業年限が2 年制化された時期の「改訂歯科衛生士教本」,平成3(1991)年歯科衛生士試験の統一化に対応した「新歯科衛生士教本」を編集しました.そして今回,厚生労働省の「歯科衛生士の資質向上に関する検討会」で提示された内容および上記指定規則改正を踏まえ,本協議会監修の全面改訂版「最新歯科衛生士教本」を発刊するに至りました.
本シリーズは,歯科衛生士の養成教育に永年携わってこられ,また歯科医療における歯科衛生士の役割などに対して造詣の深い,全国の歯科大学,歯学部,医学部,歯科衛生士養成機関,その他の関係機関の第一線で活躍されている先生方に執筆していただき,同時に内容・記述についての吟味を経て,歯科衛生士を目指す学生に理解しやすいような配慮がなされています.
本協議会としては,歯科衛生士養成教育の充実発展に寄与することを目的として,平成22(2010)年3 月に「ベーシック・モデル・カリキュラム」を作成し,3 年制教育への対応をはかりました.その後,平成24(2012)年3 月には,著しく膨大化した歯科衛生士の養成教育を「歯科衛生学」としてとらえ,その内容を精選し,歯科衛生士としての基本的な資質と能力を養成するために,卒業までに学生が身に付けておくべき必須の実践能力の到達目標を提示した「歯科衛生学教育コア・カリキュラム」を作成したところです.今後の歯科衛生士教育の伸展と歯科衛生学の確立に向け,本シリーズの教育内容を十分活用され,ひいては国民の健康およびわが国の歯科医療・保健の向上におおいに寄与することを期待しています.
最後に本シリーズの監修にあたり,多くのご助言とご支援.ご協力を賜りました先生方,ならびに全国の歯科衛生士養成機関の関係者に心より厚く御礼申し上げます.
2013 年8 月
全国歯科衛生士教育協議会会長
眞木 吉信
発刊の辞
今日,歯科衛生士は,高齢社会に伴う医療問題の変化と歯科衛生士の働く領域の拡大などの流れのなか,大きな転換期に立たされています.基礎となる教育に求められる内容も変化してきており,社会のニーズに対応できる教育を行う必要性から2005(平成17)年4 月に歯科衛生士学校養成所指定規則が改正され,歯科衛生士の修業年限は2 年以上から3 年以上に引き上げられ,2010 年4 月からは全校が3 年以上となりました.
また,「日本歯科衛生学会」が2006 年11 月に設立され,歯科衛生士にも学術研究や医療・保健の現場における活躍の成果を発表する場と機会が,飛躍的に拡大しました.さらに,今後ますます変化していく歯科衛生士を取り巻く環境に十分対応しうる歯科衛生士自身のスキルアップが求められています.「最新歯科衛生士教本」は上記を鑑み,前シリーズである「新歯科衛生士教本」の内容を見直し,現在の歯科衛生士に必要な最新の内容を盛り込むため,2003 年に編集委員会が組織されて検討を進めてまいりましたが,発足以来,社会の変化を背景に,多くの読者からの要望が編集委員会に寄せられるようになりました.そこで,この編集委員会の発展継承をはかり,各分野で歯科衛生士教育に関わる委員を迎えて2008 年から編集委員の構成を新たにし,改めて編集方針や既刊の教本も含めた内容の再点検を行うことで,発行体制を強化しました.
本シリーズでは「考える歯科衛生士」を育てる一助となるよう,読みやすく理解しやすい教本とすることを心がけました.また,到達目標を明示し,用語解説や歯科衛生士にとって重要な内容を別項として記載するなど,新しい体裁を採用しています.
なお,重要と思われる事項については,他分野の教本と重複して記載してありますが,科目間での整合性をはかるよう努めています.
この「最新歯科衛生士教本」が教育で有効に活用され,歯科衛生士を目指す学生の知識修得,および日頃の臨床・臨地実習のお役に立つことを願ってやみません.
2013 年8 月
最新歯科衛生士教本編集委員会
松井恭平* 合場千佳子 遠藤圭子 栗原英見 高阪利美
白鳥たかみ 末瀬一彦 田村清美 戸原 玄 畠中能子
福島正義 藤原愛子 前田健康 眞木吉信 升井一朗
松田裕子 水上美樹 森崎市治郎 山田小枝子 山根 瞳
(*編集委員長,五十音順)
第2版 執筆の序
活力ある高齢社会の実現に向けて,今,歯科衛生士の在り方が問われています.
歯科領域以外に医科,介護,福祉,保健の分野から,歯科衛生士の職能に寄せる期待が日に日に膨らんでいるのです.それは高齢者にとって,口腔機能や口腔衛生が健康長寿には欠かせないということが,職域を超えて社会的に認められてきたからです.
高齢者歯科を65 歳以上といったくくりのみで他科と区別すると,高齢者は心身機能にあまりにも個人差があるために,かえって高齢者歯科の有り様が不明確になるように思います.
そこで本著の特徴として,高齢者を取り巻く環境,加齢に伴う心身機能の変化に続いて高齢者に多く発生する疾患,それもがん以外に,脳血管疾患,認知症,パーキンソン病といった,むしろ高齢者には一般的であるはずのところの疾患について言及しています.高齢者に発生する全身的な問題を提起し,それら各々への歯科衛生士の対応について,特に口腔ケア,摂食・嚥下リハビリテーションに軸足を置きながら歯科衛生士の取り組む考え方と具体的な口腔機能評価,手技について紹介しています.このあたりが高齢者歯科を位置づけるには,最も色合いの濃くなるところだと思うのです.
したがって,本書は歯科衛生士教本の枠をさらに広げて,すでに社会で活躍されている歯科衛生士さんが,現場で高齢者の問題に直面したとき,本書を紐解けばそこに解決の糸口が見いだせるような実践書の意味あいも強くもっています.
また,3 人に1 人が65 歳以上になり,山間地域によっては全戸高齢者であるような時代ですが,大半は日常生活を自立し,元気に過ごされている高齢者であるということを忘れてはなりません.教本とする場合には,とかく負の問題点を列記していくので,「高齢者→弱者→病人・障害者」といった構図になりがちです.しかし,歯科は本来健康な人の健康をより維持・増進させていく役割があるはずです.
高齢者であることに誇りがもてる,そうした超高齢社会の構築に向けて,21 世紀に夢を馳せる歯科衛生士の育成が急務です.そのために本書が教育,臨床の現場に必携となることと信じています.
2013 年8 月
執筆者代表 植田耕一郎
第1版 執筆の序
わが国は高齢社会を迎え,社会生活に関連するすべての分野で,その対応が急がれています.最近の研究では,全身の健康に口腔の健康が広く深く関わっていることが明らかになっています.高齢者における口腔の健康維持増進については,とくに重要であることが叫ばれています.一方,歯科衛生士を目指す学生諸君にとって「高齢者の口腔保健」を学習しやすい教科書が少なく,歯科衛生士業務に就いてからの臨床が,即ち教科書となりがちでした.
このような背景のもとに,歯科衛生士の教育の場において高齢者の歯科医療に関する専門の教科書が是非必要との願いから本書が生まれました.
この本にはいくつかの特徴があります.
・執筆者の多くが歯科衛生士であり,歯科衛生士の視点から将来歯科衛生士になる学生のために必要な情報が記載されています.
・高齢者を対象とした歯科医療についての教科書であり,高齢者歯科学といった学問の書籍ではありません.
・患者さんが中心にいて,歯科衛生士,歯科医師などの歯科医療従事者がその患者さんの生活全体の質を上げるのにどのような医療・保健サービスを行うかをベースにした内容にしたいとの思いから執筆されています.
・高齢者の歯科医療に関わる技術的な知識はもちろん,種々の病気と付き合いながら生活していることが多い高齢者の心と身体にどう接するかなど,人をみる視点から記述されています.
・高齢者の生活の場へのかかわりが増すことが考えられるため,他業種の人たちとの連携がスムーズに行えるよう配慮されています.
・歯科衛生士を目指す学生が,新しい分野である高齢者の歯科医療についてどこまでの範囲で学ぶかを,各章の最初に到達目標として記載し,また文章もわかりやすく,簡潔を旨として学生を主体とした体裁としました.
新しいこれからの歯科医療領域である要介護を含めた高齢者の歯科医療に対して,行間にある執筆者の思いをも読み取っていただき,将来の糧になる知識と技術と態度を培うために活用していただけたら幸いです.
平成15 年3 月
執筆者一同
生命科学や科学技術を基盤とした医学・歯学の進歩により,歯科衛生士養成を目的とした教育内容の情報量は著しく増加し,医療分野の専門化と技術の高度化が進んでいます.この間,歯科衛生士の養成教育にも質的・量的な充実が要求され,たび重なる法制上の整備や改正が行われてきました.平成17(2005)年4 月には,今日の少子高齢化の進展,医療の高度化・多様化など教育を取り巻く環境の変化に伴い,さらなる歯科衛生士の資質向上をはかることを目的として,歯科衛生士学校養成所指定規則の改正が行われ,平成22(2010)年にすべての養成機関で修業年限が3 年制以上となり,平成25(2013)年3 月の卒業生はすべて3 年以上の教育を受けた者となりました.
21 世紀を担っていく歯科衛生士には,さまざまな課題が課せられています.今日では,健康志向の高まりや口腔機能の重要性が叫ばれるなか,生活習慣病としてのう蝕や歯周病はもちろん,全身疾患,摂食・嚥下障害を有する患者や介護を要する高齢者の増加に対して,これまで以上に予防や食べる機能を重視し,口腔と全身の関係を考慮し他職種と連携しながら対応していくことが求められています.また,新しい歯科材料の開発やインプラントなどの高度先進医療が広く普及するに伴って患者のニーズも多様化しつつあり,それらの技術に関わるメインテナンスなどの新たな知識の習得も必須です.歯科衛生士には,こうした社会的ニーズに則したよりよい支援ができる視点と能力がますます必要になってきており,そのためには業務の基盤となる知識と技術の習得が基本となります.
平成25 年に設立50 周年を迎えた全国歯科衛生士教育協議会では,このような社会的要請に対応すべく,活動の一環として,昭和47(1972)年,本協議会最初の編集となる「歯科衛生士教本」,昭和57(1982)年修業年限が2 年制化された時期の「改訂歯科衛生士教本」,平成3(1991)年歯科衛生士試験の統一化に対応した「新歯科衛生士教本」を編集しました.そして今回,厚生労働省の「歯科衛生士の資質向上に関する検討会」で提示された内容および上記指定規則改正を踏まえ,本協議会監修の全面改訂版「最新歯科衛生士教本」を発刊するに至りました.
本シリーズは,歯科衛生士の養成教育に永年携わってこられ,また歯科医療における歯科衛生士の役割などに対して造詣の深い,全国の歯科大学,歯学部,医学部,歯科衛生士養成機関,その他の関係機関の第一線で活躍されている先生方に執筆していただき,同時に内容・記述についての吟味を経て,歯科衛生士を目指す学生に理解しやすいような配慮がなされています.
本協議会としては,歯科衛生士養成教育の充実発展に寄与することを目的として,平成22(2010)年3 月に「ベーシック・モデル・カリキュラム」を作成し,3 年制教育への対応をはかりました.その後,平成24(2012)年3 月には,著しく膨大化した歯科衛生士の養成教育を「歯科衛生学」としてとらえ,その内容を精選し,歯科衛生士としての基本的な資質と能力を養成するために,卒業までに学生が身に付けておくべき必須の実践能力の到達目標を提示した「歯科衛生学教育コア・カリキュラム」を作成したところです.今後の歯科衛生士教育の伸展と歯科衛生学の確立に向け,本シリーズの教育内容を十分活用され,ひいては国民の健康およびわが国の歯科医療・保健の向上におおいに寄与することを期待しています.
最後に本シリーズの監修にあたり,多くのご助言とご支援.ご協力を賜りました先生方,ならびに全国の歯科衛生士養成機関の関係者に心より厚く御礼申し上げます.
2013 年8 月
全国歯科衛生士教育協議会会長
眞木 吉信
発刊の辞
今日,歯科衛生士は,高齢社会に伴う医療問題の変化と歯科衛生士の働く領域の拡大などの流れのなか,大きな転換期に立たされています.基礎となる教育に求められる内容も変化してきており,社会のニーズに対応できる教育を行う必要性から2005(平成17)年4 月に歯科衛生士学校養成所指定規則が改正され,歯科衛生士の修業年限は2 年以上から3 年以上に引き上げられ,2010 年4 月からは全校が3 年以上となりました.
また,「日本歯科衛生学会」が2006 年11 月に設立され,歯科衛生士にも学術研究や医療・保健の現場における活躍の成果を発表する場と機会が,飛躍的に拡大しました.さらに,今後ますます変化していく歯科衛生士を取り巻く環境に十分対応しうる歯科衛生士自身のスキルアップが求められています.「最新歯科衛生士教本」は上記を鑑み,前シリーズである「新歯科衛生士教本」の内容を見直し,現在の歯科衛生士に必要な最新の内容を盛り込むため,2003 年に編集委員会が組織されて検討を進めてまいりましたが,発足以来,社会の変化を背景に,多くの読者からの要望が編集委員会に寄せられるようになりました.そこで,この編集委員会の発展継承をはかり,各分野で歯科衛生士教育に関わる委員を迎えて2008 年から編集委員の構成を新たにし,改めて編集方針や既刊の教本も含めた内容の再点検を行うことで,発行体制を強化しました.
本シリーズでは「考える歯科衛生士」を育てる一助となるよう,読みやすく理解しやすい教本とすることを心がけました.また,到達目標を明示し,用語解説や歯科衛生士にとって重要な内容を別項として記載するなど,新しい体裁を採用しています.
なお,重要と思われる事項については,他分野の教本と重複して記載してありますが,科目間での整合性をはかるよう努めています.
この「最新歯科衛生士教本」が教育で有効に活用され,歯科衛生士を目指す学生の知識修得,および日頃の臨床・臨地実習のお役に立つことを願ってやみません.
2013 年8 月
最新歯科衛生士教本編集委員会
松井恭平* 合場千佳子 遠藤圭子 栗原英見 高阪利美
白鳥たかみ 末瀬一彦 田村清美 戸原 玄 畠中能子
福島正義 藤原愛子 前田健康 眞木吉信 升井一朗
松田裕子 水上美樹 森崎市治郎 山田小枝子 山根 瞳
(*編集委員長,五十音順)
第2版 執筆の序
活力ある高齢社会の実現に向けて,今,歯科衛生士の在り方が問われています.
歯科領域以外に医科,介護,福祉,保健の分野から,歯科衛生士の職能に寄せる期待が日に日に膨らんでいるのです.それは高齢者にとって,口腔機能や口腔衛生が健康長寿には欠かせないということが,職域を超えて社会的に認められてきたからです.
高齢者歯科を65 歳以上といったくくりのみで他科と区別すると,高齢者は心身機能にあまりにも個人差があるために,かえって高齢者歯科の有り様が不明確になるように思います.
そこで本著の特徴として,高齢者を取り巻く環境,加齢に伴う心身機能の変化に続いて高齢者に多く発生する疾患,それもがん以外に,脳血管疾患,認知症,パーキンソン病といった,むしろ高齢者には一般的であるはずのところの疾患について言及しています.高齢者に発生する全身的な問題を提起し,それら各々への歯科衛生士の対応について,特に口腔ケア,摂食・嚥下リハビリテーションに軸足を置きながら歯科衛生士の取り組む考え方と具体的な口腔機能評価,手技について紹介しています.このあたりが高齢者歯科を位置づけるには,最も色合いの濃くなるところだと思うのです.
したがって,本書は歯科衛生士教本の枠をさらに広げて,すでに社会で活躍されている歯科衛生士さんが,現場で高齢者の問題に直面したとき,本書を紐解けばそこに解決の糸口が見いだせるような実践書の意味あいも強くもっています.
また,3 人に1 人が65 歳以上になり,山間地域によっては全戸高齢者であるような時代ですが,大半は日常生活を自立し,元気に過ごされている高齢者であるということを忘れてはなりません.教本とする場合には,とかく負の問題点を列記していくので,「高齢者→弱者→病人・障害者」といった構図になりがちです.しかし,歯科は本来健康な人の健康をより維持・増進させていく役割があるはずです.
高齢者であることに誇りがもてる,そうした超高齢社会の構築に向けて,21 世紀に夢を馳せる歯科衛生士の育成が急務です.そのために本書が教育,臨床の現場に必携となることと信じています.
2013 年8 月
執筆者代表 植田耕一郎
第1版 執筆の序
わが国は高齢社会を迎え,社会生活に関連するすべての分野で,その対応が急がれています.最近の研究では,全身の健康に口腔の健康が広く深く関わっていることが明らかになっています.高齢者における口腔の健康維持増進については,とくに重要であることが叫ばれています.一方,歯科衛生士を目指す学生諸君にとって「高齢者の口腔保健」を学習しやすい教科書が少なく,歯科衛生士業務に就いてからの臨床が,即ち教科書となりがちでした.
このような背景のもとに,歯科衛生士の教育の場において高齢者の歯科医療に関する専門の教科書が是非必要との願いから本書が生まれました.
この本にはいくつかの特徴があります.
・執筆者の多くが歯科衛生士であり,歯科衛生士の視点から将来歯科衛生士になる学生のために必要な情報が記載されています.
・高齢者を対象とした歯科医療についての教科書であり,高齢者歯科学といった学問の書籍ではありません.
・患者さんが中心にいて,歯科衛生士,歯科医師などの歯科医療従事者がその患者さんの生活全体の質を上げるのにどのような医療・保健サービスを行うかをベースにした内容にしたいとの思いから執筆されています.
・高齢者の歯科医療に関わる技術的な知識はもちろん,種々の病気と付き合いながら生活していることが多い高齢者の心と身体にどう接するかなど,人をみる視点から記述されています.
・高齢者の生活の場へのかかわりが増すことが考えられるため,他業種の人たちとの連携がスムーズに行えるよう配慮されています.
・歯科衛生士を目指す学生が,新しい分野である高齢者の歯科医療についてどこまでの範囲で学ぶかを,各章の最初に到達目標として記載し,また文章もわかりやすく,簡潔を旨として学生を主体とした体裁としました.
新しいこれからの歯科医療領域である要介護を含めた高齢者の歯科医療に対して,行間にある執筆者の思いをも読み取っていただき,将来の糧になる知識と技術と態度を培うために活用していただけたら幸いです.
平成15 年3 月
執筆者一同
序章 高齢者歯科と歯科衛生士の役割
(1)─はじめに
1.高齢者歯科と歯科衛生士
2.医療連携
3.本書の使い方
I編 高齢者をとりまく社会と環境
1章 高齢社会と健康
(1)─人口の高齢化
(2)─総人口・少子化・高齢者の人口・高齢化率
(3)─寿命と死因
1.平均寿命・健康寿命
2.死因の変遷
(4)─歯科疾患実態調査からみた高齢者の特性
1.残存歯数
2.未処置歯数・喪失歯数・歯周ポケット
(5)─高齢者の健康
2章 高齢者にかかわる法制度
(1)─老人保健・医療・福祉対策の経緯
1.戦前・戦後から1982 年(昭和57)までの取り組み
2.老人保健法による2007 年(平成19)までの取り組み
3. 2006 年(平成18)の医療制度改革と2008 年(平成20)からの健診(検診)等の取り組み
4.ゴールドプラン21 の経緯
(2)─介護保険制度
1.介護保険制度の概要
1)保険者
2)被保険者
3)給付の手続きと内容
4)地域支援事業
3章 高齢者の居住形態・施設および入院設備の特徴
(1)─高齢者の居住場所を規定する要件
1.健康状態
2.家族との同居・独居
3.性別・職歴・生活歴
4.経済状況
5.地域
(2)─高齢者の居住する場所と設備の特徴
1.一般住宅・高齢者向け住宅
1)一般住宅
2)グループハウス
3)シルバーハウジング
4)サービス付き高齢者向け住宅
2.高齢者施設
1)特別養護老人ホーム
2)養護老人ホーム
3)軽費老人ホーム(ケアハウス)
4)有料老人ホーム
5) グループホーム
3.介護保険制度で規定された介護保険施設
1)介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
2)介護老人保健施設
3)介護療養型老人保健施設
4)介護療養型医療施設
5)地域密着型介護老人福祉施設
4.病床
Coffee Break 地域包括ケアと歯科衛生士
II編 加齢による身体的・精神的変化と疾患
1章 加齢に伴う身体的機能の変化
(1)─全身的な変化
1.老化とは
2.加齢に伴う全身的な変化
1)筋力の加齢変化
2)骨の加齢変化
3)内臓機能の加齢変化
Coffee Break 高齢者と脱水
Coffee Break 歯科治療中の配慮
4)感覚の加齢変化
Coffee Break 高齢者の白内障
(2)─口腔・咽頭領域の加齢変化
1.歯と咬合
1)歯数の減少
2)摩耗・咬耗
3)歯髄腔の狭窄(象牙質の二次的添加)
4)歯根透明象牙質の出現
5)セメント質の肥厚
2.顎骨の加齢変化
1)下顎骨の形態変化
2)上顎骨の形態変化
3.顎関節の加齢変化
4.口腔,咽頭,喉頭の生理的加齢変化
1)口腔粘膜の加齢変化
2)唾液腺の加齢変化
3)咀嚼機能の加齢変化
Coffee Break “のど仏”の位置の加齢変化
4)咽頭の構造と加齢変化
2章 高齢者の精神・心理的変化
(1)─老化による心理的変化
1.老化や疾患による身体の不具合
2.脳の老化
3.喪失体験によるストレス
4.死生観の変化
(2)─老化以外の心理的変化ーうつ・せん妄
1.うつ
2.せん妄
(3)─高齢者の精神・心理的変化をふまえたコミュニケーションとは
3章 高齢者に多い全身疾患・障害および口腔疾患
(1)─主たる死因となる疾患
1.悪性腫瘍
1)がん治療の基本
Coffee Break がん化学療法による口腔粘膜炎
2.脳血管障害
1)脳卒中
Coffee Break 放射線治療による顎骨骨髄炎・骨壊死
2)脳卒中と口腔疾患
3.心臓病
1)心臓病の種類
2)心臓病と口腔疾患
4.肺炎
1)誤嚥性肺炎
2)脳卒中・心臓病の治療と人工呼吸器関連肺炎
5.パーキンソン病
1)病状
2)パーキンソン病の治療
3)パーキンソン病と口腔疾患
Coffee Break 口腔機能障害を起こす病態─球麻痺と仮性球麻痺
6.認知症
1)認知症とはどういう状態か
2)認知症の精神症状
3)認知症の重症度
4)認知症と間違われやすい症状
5)認知症の診断
6)認知症の治療・ケア
7.高血圧症
8.糖尿病
(2)─高齢者に特有な口腔の疾患
1.根面う蝕
1)根面う蝕のリスク因子
2)根面う蝕への対処
2.歯周病
1)高齢者における歯周病
2)歯周病と全身との関係
3.Tooth Wear(トゥース・ウェア)
4.高齢者における咬合の崩壊と義歯補綴治療の重要性
5.高 齢者に多いその他の口腔疾患
1)口腔カンジダ症
2)扁平苔癬
3)口腔白板症
4)口腔がん
5)剥離性歯肉炎,天疱瘡,類天疱瘡
III編 高齢者の状態の把握
1章 高齢者の生活機能の評価
(1)─生活・ADL評価
1.ADL(日常生活動作)とは
2.障害に関する分類
3.ADLの評価
1)Barthel Index
2)FIM
4.IADL(手段的日常生活動作)の評価
1)IADL Scale
2)老研式活動能力指標
5.BDRの評価
6.QOLの評価
1)SF-36
2)EQ-5D
3)GOHAI
7.介護者の評価
1)Zarit介護負担尺度
2)BIC-11
(2)─認知機能の評価
1.認知機能とは
2.認知機能評価の必要性と留意点
3.認知機能の評価方法
4.認知機能の評価スケール
1)質問式スケール
2)観察式スケール
2章 高齢者歯科と臨床検査
(1)─バイタルサイン
1.脈拍
1)脈拍の診察方法
2)不整脈の種類
2.呼吸
1)呼吸の診察方法
2)呼吸の種類
3)経皮的動脈酸素飽和度(SpO2)
3.血圧
4.体温
(2)─血液検査
1.感染に関わる主な検査値
1)ヘモグロビン(Hb)
2)白血球数(WBC)
3)C反応性タンパク(CPR)
2.血液凝固に関わる主な検査値
1)血小板数(Plt)
2)プロトロンビン国際標準化比(PT〈-INR〉)
3.肝機能に関わる主な検査値
1)AST(GOT),ALT(GPT)
2)γ-GTP
3)HBs抗原/ 抗体・HCV抗体
4.腎機能に関わる主な検査値
1)血中クレアチニン(Cr)・血中尿素窒素(BUN)
2)腎糸球体濾過量(GFR)
5.体液に関わる主な検査値
1)ナトリウム(Na)
2)カリウム(K)
3)ヘマトクリット(Ht)
3章 高齢者の栄養状態
(1)─低栄養になりやすい高齢者の栄養評価
1.栄養スクリーニング
1)SGA
2)MNA-SF
2.栄養評価
1)身体計測
2)検査値
3)エネルギーバランスと口腔機能訓練
4)エネルギー必要量
(2)─経口摂取の代償による水分・栄養摂取法
1.投与ルートの種類と選定
2.経管栄養
1)経管栄養の種類
2)経鼻経管栄養
3)胃瘻
3.静脈栄養
4章 高齢者の薬剤服用
(1)─高齢者における薬物に影響を与える因子
1.生体構成成分の変化
2.薬物の体内分布の変化
3.循環・腎・肝機能の低下と薬物の吸収と排泄の変化
(2)─薬物に対する反応性の変化
(3)─薬物の相互作用
(4)─服薬管理
(5)─薬物治療上の注意点
(6)─頻用される代表的な薬剤の口腔に関する副作用
1.薬剤の副作用による例
2.口腔乾燥
1)薬剤の副作用による口腔乾燥に対するアプローチ
IV編 口腔のケア
1章 高齢者に対する口腔のケア
(1)─口腔のケアにおける高齢者の特徴
1.通院条件の悪化
2.ケア自立度の低下
3.摂食・嚥下障害
4.加齢に伴う変化
1)歯肉退縮
2)口腔乾燥症(ドライマウス)
3)口腔機能の低下(口腔の廃用)
(2)─口腔のケア用品
1.セルフケア用品
2.介助によるケアと使用する用品
1)用いる器材
2)口腔のケア・アセスメント票
Coffee Break 「ディスポーザブル・ブラシ」
2章 有病高齢者への口腔のケア
(1)─急性期の口腔衛生管理
1.周術期における口腔機能管理
2.病態の把握
3.感染防止
4.口腔衛生管理の実際
1)口腔清掃器具
2)口腔アセスメント
3)口腔衛生管理
4)口腔衛生管理終了後
(2)─留意すべき全身疾患と口腔衛生管理
1.虚血性心疾患への対応
2.脳血管疾患への対応
3.化学・放射線療法を受けている患者への対応
Coffee Break 急性期からの口腔のケア
4.高血圧症への対応
5.糖尿病への対応
6.気管挿管患者への対応
事例
3章 要介護高齢者への口腔のケア
(1)─要介護高齢者における口腔のケアの意義
1.要介護高齢者への対応
1)問診内容の把握
2)コミュニケーションのはかり方
3)口腔清掃の自立度の確認
4)口腔周囲の感覚異常の確認
2.要介護高齢者にみられる機能障害とその対応
1)口腔粘膜疾患への対応
2)口腔乾燥症への対応
3)剥離上皮への対応
4)粘膜が易出血性の場合の対応
5)口臭への対応
6)オーラルジスキネジアへの対応
7)開口障害への対応
8)摂食・嚥下障害への対応
9)口腔ケアへの拒否がある患者への対応
(2)─要介護高齢者に対する歯科治療の目標設定と目安
(3)─臨床現場における歯科衛生士の役割
1.口腔のケアの実際
1)病院や施設で実際によくみられる患者の口腔内の状態と注意点
2)口腔のケアの手法の例とポイント
3)唾液の排出方法
Coffee Break 病棟看護師とのかかわりのなかで
V編 摂食・嚥下リハビリテーション
1章 高齢者のリハビリテーションの概要
(1)─リハビリテーション医学とは
(2)─障害のみかた
1.国際障害分類(ICIDH)
2.国際生活機能分類(ICF)
(3)─チーム医療
(4)─高齢者の特徴とリハビリテーション上の問題点
1.老化
2.併存疾患
3.退院後の問題
2章 摂食・嚥下の評価と対応
(1)─診察
1.観察
2.診察
1)全身状態の把握
2)栄養摂取状況の聴取
3)口腔,咽頭機能の評価
(2)─スクリーニングテスト
1.反復唾液嚥下テスト(RSST)
2.改訂水飲みテスト(MWST)
3.段階的フードテスト(FT)
4.頸部聴診
5.咳テスト
(3)─嚥下内視鏡検査(VE)と嚥下造影検査(VF)
1.嚥下内視鏡検査
2.嚥下造影検査
3章 誤嚥性肺炎の予防のための訓練
(1)─誤嚥と誤嚥性肺炎─誤嚥性肺炎発症のバランス
(2)─嚥下訓練
1.間接訓練
1)嚥下機能に関する間接訓練
2)呼吸機能に関する間接訓練
2.直接訓練
1)Think swallow(嚥下の意識化)
2)Effffff ortful swallow(努力嚥下)
3)頸部前屈嚥下
4)頸部回旋嚥下
5)一側嚥下
6)リクライニング
(3)─食事支援
(4)─誤嚥,窒息の対応法
1.誤嚥への対応
1)経過観察
2)ドレナージ
2.窒息への対応
4章 在宅訪問歯科診療における摂食・嚥下リハビリテーション
(1)─在宅における摂食・嚥下リハビリテーションの特徴
1.病院や施設との主な共通点,相違点
1)主な共通点
2)主な相違点
(2)─在宅での摂食・嚥下リハビリテーションにおける歯科の役割
1.歯科治療
2.口腔のケア
3.口腔機能の診査・診断
4.嚥下診察・検査
(3)─在宅の摂食・嚥下リハビリテーションにおける歯科衛生士の役割
1.バイタルサインの確認
2.診療のフォロー
3.摂食・嚥下リハビリテーションの実施
4.口腔のケアの実施
5.他職種との連携
1)歯科が行う在宅嚥下診療の実際
事例 1
事例 2
5章 介護施設における摂食・嚥下リハビリテーション
(1)─介護保険施設に入居する高齢者について
1.介護保険施設と入居者の概要
2.介護保険施設入居者の摂食・嚥下機能
(2)─介護保険施設における摂食・嚥下障害者に対するリハビリテーション
1. 介護保険施設における患者のおかれているステージと目標設定
Coffee Break 介護保険施設における摂食・嚥下障害者に対するサービス
Coffee Break 栄養ケアマネジメント(経口維持加算,経口移行加算)
2.環境の考慮
(3)─介護保険施設における摂食・嚥下リハビリテーションの導入効果
(4)─事例からみる歯科衛生士の役割
事例
VI編 高齢者に関わる医療と介護
1章 在宅訪問診療の概要
(1)─在宅医療の背景
1.在宅医療とは何か
2.病院での医療の普及と死亡場所の変化
(2)─医療と患者意識の変化
(3)─在宅医療の目的と内容
1.在宅医療の目的
2.自宅でみるということとナラティブな医療
3.訪問診療と往診の違い
4.どのような患者をみているのか
5.在宅療養支援診療所
1)在宅医療制度の変遷
6.在宅と施設
7.在宅医療でできる検査・治療
8.在宅医療の保険の仕組み
9.指示書について
10.地域包括ケアとしての在宅医療
1)どのような患者が歯科衛生士を必要としているか
2)在宅医療における連携の重要性
2章 歯科衛生士が関わる公的介護保険の概要
(1)─介護保険の流れ
(2)─介護保険認定者数の推移
(3)─地域支援事業と予防給付
(4)─歯科衛生士が関与する介護予防
1.地域支援事業における口腔機能向上の支援
2. デイケア・デイサービス(通所による介護保険利用)における口腔機能向上支援
3.高齢者施設入所者への口腔機能維持管理
4.在宅療養高齢者への居宅療養管理指導
3章 かかりつけ歯科の役割
1.かかりつけ歯科医とは
Coffee Break プライマリ・ケアとは
2.高齢者に対するかかりつけ歯科医機能の提供の場
3.高齢者への関わり方とかかりつけ歯科医の役割
1)高齢者の心身の特性を理解し,生活機能低下予防の視点をもつ
Coffee Break 生活機能とは?
Coffee Break 歯科診療所における高齢者への対応の留意点
2)在宅歯科医療の現状について
3)歯科診療所での外来診療と歯科訪問診療の違い
Coffee Break 地域包括ケアシステムとは?
5.地域保健医療における歯科衛生士への期待
4章 訪問看護と歯科の役割
(1)─在宅医療における訪問看護と歯科医療の連携
(2)─在宅医療現場における歯科の役割
1. 歯科が在宅医療で依頼される問題の具体例
1)義歯による問題
Coffee Break 患者の潜在ニーズを引き出す大切さ
2)残存歯による問題
3)開口困難
4) 経鼻経管栄養・胃瘻・腸瘻患者の経口からの栄養摂取
5)摂食・嚥下障害による誤嚥性肺炎
Coffee Break 介護チームと専門家チームの連携
2.口から食べることの意義と歯科の関わり
VII編 高齢者歯科における歯科衛生過程
1章 歯科衛生過程の概要
(1)─歯科衛生過程とは
(2)─歯科衛生過程の各段階における考え方
1.歯科衛生アセスメント
1)情報収集
2)情報の記録
3)情報の処理
2.歯科衛生診断
1)歯科衛生診断の定義
2)歯科衛生診断の考え方
3.歯科衛生計画立案
1)目標
2)歯科衛生介入方法の決定
3)期待される結果
4.歯科衛生介入
1)実施の流れ
2)業務記録
5.歯科衛生評価
1)全面達成
2)部分達成
3)未達成
2章 歯科衛生過程 事例
事例 1 在宅
事例 2 特 別養護老人ホーム
事例 3 一 般病棟
事例 4 集 中治療室:ICU
付 各種スケール一覧
(1)─はじめに
1.高齢者歯科と歯科衛生士
2.医療連携
3.本書の使い方
I編 高齢者をとりまく社会と環境
1章 高齢社会と健康
(1)─人口の高齢化
(2)─総人口・少子化・高齢者の人口・高齢化率
(3)─寿命と死因
1.平均寿命・健康寿命
2.死因の変遷
(4)─歯科疾患実態調査からみた高齢者の特性
1.残存歯数
2.未処置歯数・喪失歯数・歯周ポケット
(5)─高齢者の健康
2章 高齢者にかかわる法制度
(1)─老人保健・医療・福祉対策の経緯
1.戦前・戦後から1982 年(昭和57)までの取り組み
2.老人保健法による2007 年(平成19)までの取り組み
3. 2006 年(平成18)の医療制度改革と2008 年(平成20)からの健診(検診)等の取り組み
4.ゴールドプラン21 の経緯
(2)─介護保険制度
1.介護保険制度の概要
1)保険者
2)被保険者
3)給付の手続きと内容
4)地域支援事業
3章 高齢者の居住形態・施設および入院設備の特徴
(1)─高齢者の居住場所を規定する要件
1.健康状態
2.家族との同居・独居
3.性別・職歴・生活歴
4.経済状況
5.地域
(2)─高齢者の居住する場所と設備の特徴
1.一般住宅・高齢者向け住宅
1)一般住宅
2)グループハウス
3)シルバーハウジング
4)サービス付き高齢者向け住宅
2.高齢者施設
1)特別養護老人ホーム
2)養護老人ホーム
3)軽費老人ホーム(ケアハウス)
4)有料老人ホーム
5) グループホーム
3.介護保険制度で規定された介護保険施設
1)介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
2)介護老人保健施設
3)介護療養型老人保健施設
4)介護療養型医療施設
5)地域密着型介護老人福祉施設
4.病床
Coffee Break 地域包括ケアと歯科衛生士
II編 加齢による身体的・精神的変化と疾患
1章 加齢に伴う身体的機能の変化
(1)─全身的な変化
1.老化とは
2.加齢に伴う全身的な変化
1)筋力の加齢変化
2)骨の加齢変化
3)内臓機能の加齢変化
Coffee Break 高齢者と脱水
Coffee Break 歯科治療中の配慮
4)感覚の加齢変化
Coffee Break 高齢者の白内障
(2)─口腔・咽頭領域の加齢変化
1.歯と咬合
1)歯数の減少
2)摩耗・咬耗
3)歯髄腔の狭窄(象牙質の二次的添加)
4)歯根透明象牙質の出現
5)セメント質の肥厚
2.顎骨の加齢変化
1)下顎骨の形態変化
2)上顎骨の形態変化
3.顎関節の加齢変化
4.口腔,咽頭,喉頭の生理的加齢変化
1)口腔粘膜の加齢変化
2)唾液腺の加齢変化
3)咀嚼機能の加齢変化
Coffee Break “のど仏”の位置の加齢変化
4)咽頭の構造と加齢変化
2章 高齢者の精神・心理的変化
(1)─老化による心理的変化
1.老化や疾患による身体の不具合
2.脳の老化
3.喪失体験によるストレス
4.死生観の変化
(2)─老化以外の心理的変化ーうつ・せん妄
1.うつ
2.せん妄
(3)─高齢者の精神・心理的変化をふまえたコミュニケーションとは
3章 高齢者に多い全身疾患・障害および口腔疾患
(1)─主たる死因となる疾患
1.悪性腫瘍
1)がん治療の基本
Coffee Break がん化学療法による口腔粘膜炎
2.脳血管障害
1)脳卒中
Coffee Break 放射線治療による顎骨骨髄炎・骨壊死
2)脳卒中と口腔疾患
3.心臓病
1)心臓病の種類
2)心臓病と口腔疾患
4.肺炎
1)誤嚥性肺炎
2)脳卒中・心臓病の治療と人工呼吸器関連肺炎
5.パーキンソン病
1)病状
2)パーキンソン病の治療
3)パーキンソン病と口腔疾患
Coffee Break 口腔機能障害を起こす病態─球麻痺と仮性球麻痺
6.認知症
1)認知症とはどういう状態か
2)認知症の精神症状
3)認知症の重症度
4)認知症と間違われやすい症状
5)認知症の診断
6)認知症の治療・ケア
7.高血圧症
8.糖尿病
(2)─高齢者に特有な口腔の疾患
1.根面う蝕
1)根面う蝕のリスク因子
2)根面う蝕への対処
2.歯周病
1)高齢者における歯周病
2)歯周病と全身との関係
3.Tooth Wear(トゥース・ウェア)
4.高齢者における咬合の崩壊と義歯補綴治療の重要性
5.高 齢者に多いその他の口腔疾患
1)口腔カンジダ症
2)扁平苔癬
3)口腔白板症
4)口腔がん
5)剥離性歯肉炎,天疱瘡,類天疱瘡
III編 高齢者の状態の把握
1章 高齢者の生活機能の評価
(1)─生活・ADL評価
1.ADL(日常生活動作)とは
2.障害に関する分類
3.ADLの評価
1)Barthel Index
2)FIM
4.IADL(手段的日常生活動作)の評価
1)IADL Scale
2)老研式活動能力指標
5.BDRの評価
6.QOLの評価
1)SF-36
2)EQ-5D
3)GOHAI
7.介護者の評価
1)Zarit介護負担尺度
2)BIC-11
(2)─認知機能の評価
1.認知機能とは
2.認知機能評価の必要性と留意点
3.認知機能の評価方法
4.認知機能の評価スケール
1)質問式スケール
2)観察式スケール
2章 高齢者歯科と臨床検査
(1)─バイタルサイン
1.脈拍
1)脈拍の診察方法
2)不整脈の種類
2.呼吸
1)呼吸の診察方法
2)呼吸の種類
3)経皮的動脈酸素飽和度(SpO2)
3.血圧
4.体温
(2)─血液検査
1.感染に関わる主な検査値
1)ヘモグロビン(Hb)
2)白血球数(WBC)
3)C反応性タンパク(CPR)
2.血液凝固に関わる主な検査値
1)血小板数(Plt)
2)プロトロンビン国際標準化比(PT〈-INR〉)
3.肝機能に関わる主な検査値
1)AST(GOT),ALT(GPT)
2)γ-GTP
3)HBs抗原/ 抗体・HCV抗体
4.腎機能に関わる主な検査値
1)血中クレアチニン(Cr)・血中尿素窒素(BUN)
2)腎糸球体濾過量(GFR)
5.体液に関わる主な検査値
1)ナトリウム(Na)
2)カリウム(K)
3)ヘマトクリット(Ht)
3章 高齢者の栄養状態
(1)─低栄養になりやすい高齢者の栄養評価
1.栄養スクリーニング
1)SGA
2)MNA-SF
2.栄養評価
1)身体計測
2)検査値
3)エネルギーバランスと口腔機能訓練
4)エネルギー必要量
(2)─経口摂取の代償による水分・栄養摂取法
1.投与ルートの種類と選定
2.経管栄養
1)経管栄養の種類
2)経鼻経管栄養
3)胃瘻
3.静脈栄養
4章 高齢者の薬剤服用
(1)─高齢者における薬物に影響を与える因子
1.生体構成成分の変化
2.薬物の体内分布の変化
3.循環・腎・肝機能の低下と薬物の吸収と排泄の変化
(2)─薬物に対する反応性の変化
(3)─薬物の相互作用
(4)─服薬管理
(5)─薬物治療上の注意点
(6)─頻用される代表的な薬剤の口腔に関する副作用
1.薬剤の副作用による例
2.口腔乾燥
1)薬剤の副作用による口腔乾燥に対するアプローチ
IV編 口腔のケア
1章 高齢者に対する口腔のケア
(1)─口腔のケアにおける高齢者の特徴
1.通院条件の悪化
2.ケア自立度の低下
3.摂食・嚥下障害
4.加齢に伴う変化
1)歯肉退縮
2)口腔乾燥症(ドライマウス)
3)口腔機能の低下(口腔の廃用)
(2)─口腔のケア用品
1.セルフケア用品
2.介助によるケアと使用する用品
1)用いる器材
2)口腔のケア・アセスメント票
Coffee Break 「ディスポーザブル・ブラシ」
2章 有病高齢者への口腔のケア
(1)─急性期の口腔衛生管理
1.周術期における口腔機能管理
2.病態の把握
3.感染防止
4.口腔衛生管理の実際
1)口腔清掃器具
2)口腔アセスメント
3)口腔衛生管理
4)口腔衛生管理終了後
(2)─留意すべき全身疾患と口腔衛生管理
1.虚血性心疾患への対応
2.脳血管疾患への対応
3.化学・放射線療法を受けている患者への対応
Coffee Break 急性期からの口腔のケア
4.高血圧症への対応
5.糖尿病への対応
6.気管挿管患者への対応
事例
3章 要介護高齢者への口腔のケア
(1)─要介護高齢者における口腔のケアの意義
1.要介護高齢者への対応
1)問診内容の把握
2)コミュニケーションのはかり方
3)口腔清掃の自立度の確認
4)口腔周囲の感覚異常の確認
2.要介護高齢者にみられる機能障害とその対応
1)口腔粘膜疾患への対応
2)口腔乾燥症への対応
3)剥離上皮への対応
4)粘膜が易出血性の場合の対応
5)口臭への対応
6)オーラルジスキネジアへの対応
7)開口障害への対応
8)摂食・嚥下障害への対応
9)口腔ケアへの拒否がある患者への対応
(2)─要介護高齢者に対する歯科治療の目標設定と目安
(3)─臨床現場における歯科衛生士の役割
1.口腔のケアの実際
1)病院や施設で実際によくみられる患者の口腔内の状態と注意点
2)口腔のケアの手法の例とポイント
3)唾液の排出方法
Coffee Break 病棟看護師とのかかわりのなかで
V編 摂食・嚥下リハビリテーション
1章 高齢者のリハビリテーションの概要
(1)─リハビリテーション医学とは
(2)─障害のみかた
1.国際障害分類(ICIDH)
2.国際生活機能分類(ICF)
(3)─チーム医療
(4)─高齢者の特徴とリハビリテーション上の問題点
1.老化
2.併存疾患
3.退院後の問題
2章 摂食・嚥下の評価と対応
(1)─診察
1.観察
2.診察
1)全身状態の把握
2)栄養摂取状況の聴取
3)口腔,咽頭機能の評価
(2)─スクリーニングテスト
1.反復唾液嚥下テスト(RSST)
2.改訂水飲みテスト(MWST)
3.段階的フードテスト(FT)
4.頸部聴診
5.咳テスト
(3)─嚥下内視鏡検査(VE)と嚥下造影検査(VF)
1.嚥下内視鏡検査
2.嚥下造影検査
3章 誤嚥性肺炎の予防のための訓練
(1)─誤嚥と誤嚥性肺炎─誤嚥性肺炎発症のバランス
(2)─嚥下訓練
1.間接訓練
1)嚥下機能に関する間接訓練
2)呼吸機能に関する間接訓練
2.直接訓練
1)Think swallow(嚥下の意識化)
2)Effffff ortful swallow(努力嚥下)
3)頸部前屈嚥下
4)頸部回旋嚥下
5)一側嚥下
6)リクライニング
(3)─食事支援
(4)─誤嚥,窒息の対応法
1.誤嚥への対応
1)経過観察
2)ドレナージ
2.窒息への対応
4章 在宅訪問歯科診療における摂食・嚥下リハビリテーション
(1)─在宅における摂食・嚥下リハビリテーションの特徴
1.病院や施設との主な共通点,相違点
1)主な共通点
2)主な相違点
(2)─在宅での摂食・嚥下リハビリテーションにおける歯科の役割
1.歯科治療
2.口腔のケア
3.口腔機能の診査・診断
4.嚥下診察・検査
(3)─在宅の摂食・嚥下リハビリテーションにおける歯科衛生士の役割
1.バイタルサインの確認
2.診療のフォロー
3.摂食・嚥下リハビリテーションの実施
4.口腔のケアの実施
5.他職種との連携
1)歯科が行う在宅嚥下診療の実際
事例 1
事例 2
5章 介護施設における摂食・嚥下リハビリテーション
(1)─介護保険施設に入居する高齢者について
1.介護保険施設と入居者の概要
2.介護保険施設入居者の摂食・嚥下機能
(2)─介護保険施設における摂食・嚥下障害者に対するリハビリテーション
1. 介護保険施設における患者のおかれているステージと目標設定
Coffee Break 介護保険施設における摂食・嚥下障害者に対するサービス
Coffee Break 栄養ケアマネジメント(経口維持加算,経口移行加算)
2.環境の考慮
(3)─介護保険施設における摂食・嚥下リハビリテーションの導入効果
(4)─事例からみる歯科衛生士の役割
事例
VI編 高齢者に関わる医療と介護
1章 在宅訪問診療の概要
(1)─在宅医療の背景
1.在宅医療とは何か
2.病院での医療の普及と死亡場所の変化
(2)─医療と患者意識の変化
(3)─在宅医療の目的と内容
1.在宅医療の目的
2.自宅でみるということとナラティブな医療
3.訪問診療と往診の違い
4.どのような患者をみているのか
5.在宅療養支援診療所
1)在宅医療制度の変遷
6.在宅と施設
7.在宅医療でできる検査・治療
8.在宅医療の保険の仕組み
9.指示書について
10.地域包括ケアとしての在宅医療
1)どのような患者が歯科衛生士を必要としているか
2)在宅医療における連携の重要性
2章 歯科衛生士が関わる公的介護保険の概要
(1)─介護保険の流れ
(2)─介護保険認定者数の推移
(3)─地域支援事業と予防給付
(4)─歯科衛生士が関与する介護予防
1.地域支援事業における口腔機能向上の支援
2. デイケア・デイサービス(通所による介護保険利用)における口腔機能向上支援
3.高齢者施設入所者への口腔機能維持管理
4.在宅療養高齢者への居宅療養管理指導
3章 かかりつけ歯科の役割
1.かかりつけ歯科医とは
Coffee Break プライマリ・ケアとは
2.高齢者に対するかかりつけ歯科医機能の提供の場
3.高齢者への関わり方とかかりつけ歯科医の役割
1)高齢者の心身の特性を理解し,生活機能低下予防の視点をもつ
Coffee Break 生活機能とは?
Coffee Break 歯科診療所における高齢者への対応の留意点
2)在宅歯科医療の現状について
3)歯科診療所での外来診療と歯科訪問診療の違い
Coffee Break 地域包括ケアシステムとは?
5.地域保健医療における歯科衛生士への期待
4章 訪問看護と歯科の役割
(1)─在宅医療における訪問看護と歯科医療の連携
(2)─在宅医療現場における歯科の役割
1. 歯科が在宅医療で依頼される問題の具体例
1)義歯による問題
Coffee Break 患者の潜在ニーズを引き出す大切さ
2)残存歯による問題
3)開口困難
4) 経鼻経管栄養・胃瘻・腸瘻患者の経口からの栄養摂取
5)摂食・嚥下障害による誤嚥性肺炎
Coffee Break 介護チームと専門家チームの連携
2.口から食べることの意義と歯科の関わり
VII編 高齢者歯科における歯科衛生過程
1章 歯科衛生過程の概要
(1)─歯科衛生過程とは
(2)─歯科衛生過程の各段階における考え方
1.歯科衛生アセスメント
1)情報収集
2)情報の記録
3)情報の処理
2.歯科衛生診断
1)歯科衛生診断の定義
2)歯科衛生診断の考え方
3.歯科衛生計画立案
1)目標
2)歯科衛生介入方法の決定
3)期待される結果
4.歯科衛生介入
1)実施の流れ
2)業務記録
5.歯科衛生評価
1)全面達成
2)部分達成
3)未達成
2章 歯科衛生過程 事例
事例 1 在宅
事例 2 特 別養護老人ホーム
事例 3 一 般病棟
事例 4 集 中治療室:ICU
付 各種スケール一覧