やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 「歯科衛生士の資質の向上に関する検討会・作業委員会」において示された,歯科衛生士養成施設における新たなカリキュラムでは,歯科衛生士業務に関連する科目は,歯科予防処置論,歯科診療補助論,歯科保健指導論として,論理的な学問体系を構築して教育することが図られています.
 今後,歯科衛生士業務の見直しが行われ,歯周病の継続管理やかかりつけ歯科医による訪問歯科診療,市町村や老人社会福祉施設・病院などへの配置の推進など,歯科衛生士の活躍の場が拡大されます.これらの社会のニーズに対応できるためには,個人に向き合ったとき,あるいは集団をとらえたとき,自分で見て,考え,計画を立てたうえで,歯科医師の指示を得て行動できる歯科衛生士が求められることになるでしょう.
 従来の主要三科目は,歯科衛生士法に定める歯科衛生士業務そのものを科目名としたもので,主として技術の習得を目的としています.そこで,歯科予防処置論と歯科保健指導論として必要な分野を加えるために,「口腔保健管理」という教科書を作成しました.
 1章は口腔疾患予防の臨床とし,口腔保健の意義のなかで,健康教育について理論的に解説し,齲蝕予防の臨床と歯周疾患予防の臨床の基礎知識をまとめました.さらに,病勢措置のための第2次予防についての基礎知識がまとめてあります.2章は生涯を通じた口腔保健管理とし,ライフステージごとの口腔保健管理計画の理論と実際が述べられています.3章は口腔観察と口腔清掃とし,ここでは歯周病の継続管理のための口腔観察の手法をまとめ,口腔清掃はホームケアとプロフェッショナルケアとに分けて,PTC,PMTCについても述べました.4章は業務記録ですが,診療録(カルテ)の開示が一般化されると,歯科衛生士の業務記録の公開も求められることになります.5章は演習です.いくつかのモデルを示しました.
 この教科書は,歯科衛生士業務関連科目の一部として,歯科衛生士独自の教育科目を意識して内容を組み立てました.馴染みにくい点もあると思いますが,歯科衛生士が臨床の場で個々の患者に適した口腔保健管理プログラムを作成し,実践できる能力を習熟するために,歯科予防処置論,歯科保健指導論の内容をされに拡充させるものとして,現在の新歯科衛生士教本「歯科予防処置」,「歯科保健指導」を併せて活用してください.
 「口腔保健管理」は主要三科目を総合的にとらえるもので,歯科衛生士が臨床において行う業務として,最も重要な分野のひとつであると考えています.
 2003年5月
 著者一同

最新歯科衛生士教本の監修にあたって
 「この最新歯科衛生士教本」は,今後ますます多様化するわが国の歯科衛生士の業務内容を念頭におき,21世紀に活躍する歯科衛生士の養成,教育のためのテキストとして刊行されたものである.
 本新シリーズの刊行については,別途の発刊の辞にも述べられているように,「歯科衛生士の資質向上に関する検討会」などから提示された,「歯科衛生士養成施設の教育内容を見直し,教育の大綱・総合化が必要である」との指針が,その端緒となっている.したがって本新シリーズは,この点を十分踏まえ,従来の教本中に取り上げられてこなかった,新たな領域の教科書を含め,今後の社会ニーズにこたえる歯科衛生士を養成するために構成,編集されている.
 本シリーズの執筆者は,全国の歯科大学・歯学部,歯科衛生士養成所,関係諸機関の,現在,文字どおり第一線で活躍されている,それぞれの領域のテーマにふさわしい専門の方々である.それと同時に,歯科衛生士を目指す学生諸君にできるだけわかりやすいように,内容を平易に執筆するように配慮されていることがわかる.
 本協議会としては,この最新歯科衛生士教本シリーズの内容を詳細に検討した結果,まことに時宜を得た企画,編集であると考え,その監修をお引き受けした次第である.この新時代の要請により誕生した教本が,今後の歯科衛生士教育の場で十分に活用され,わが国の歯科保健の向上・発展に,大いに寄与することを期待したい.
 終わりに本シリーズの監修にあたり,種々ご助言,ご支援をいただいた榊原悠起田郎,石川達也,善本秀知の諸先生および編集の任にあたられた先生方,全国歯科衛生士教育協議会の関係各位,さらに全国の歯科衛生士養成所関係者の方々に,衷心より厚く御礼申し上げたい.
 2003年12月
 全国歯科衛生士教育協議会
 会長 淺井康宏

最新歯科衛生士教本発刊の辞
 21世紀の国民健康づくり運動「健康日本21」では「壮年期死亡の減少,健康寿命の延伸と生活の質(QOL)の向上」を目的として具体的な目標値が設定され,生活習慣の改善による疾病予防と健康増進を図ることにより,国民の健康な生活を確保しようとしています.さらに,健康増進法の制定により,国も地域も国民も健康増進に向かっての努力が求められることになりました.健康寿命の延伸とQOLの向上には歯科医療は大きなかかわりをもっており,歯科衛生士の活躍の場も広がります.少子高齢社会を迎えたわが国では,医療・保健・福祉に対するニーズも多様化し,歯科医療のあり方も変化してきており,それに対応できる歯科衛生士の養成が強く求められています.
 歯科衛生士教育に関しては1983(昭和58)年に歯科衛生士学校養成所指定規則が改正され,1989(平成元)年には歯科衛生士法の改正により,歯科保健指導が業務のなかに追加され,全国統一歯科衛生士試験の実施により歯科衛生士の資質の向上が図られてきました.21世紀の少子高齢社会に対応できる歯科衛生士を養成していくためには,まず,教育内容を見直すことが急務であり,時代のニーズに適応するように教育内容の拡充を行わなければなりません.そのようななかで,より高度で幅の広い教育を行うことを目指して,3年制に移行される養成機関も年ごとに増えてきています.それに伴い歯科衛生士教育のための教科書の充実も重要課題となってきました.
 今回,歯科衛生士の資質の向上に関する検討会作業委員会が提示した大綱化されたカリキュラムに基づき,新しい歯科衛生士教育に必要な教科書を編纂しました.3年制教育に活用していただくことはもちろん,2年制教育のなかでも時代のニーズに応えることのできる歯科衛生士を養成するために,これらの教科書をぜひとも教育現場で活用していただきたいと願っています.
 2003年12月
 編集委員 可児徳子
 矢尾和彦
 松井恭平
1章 口腔疾患予防の臨床〈基礎知識〉
 I.口腔保健の意義
  1.日常生活と口腔保健
  2.食生活と口腔保健
  3.歯科保健行動
  4.歯科健康教育
 II.対象把握と予防管理法
  1.疾病発生の予防
  2.齲蝕予防の臨床
  3.歯周疾患予防の臨床
 III.病勢阻止のための継続管理(第2次予防)
  1.歯周疾患の継続管理
  2.補綴物装着後の継続管理
  3.その他の歯科治療終了後の継続管理
  4.矯正歯科治療継続中の継続管理

2章 生涯を通じた口腔保健管理
 I.目 的
 II.口腔保健管理の実際
  1.ライフステージごとの口腔保健管理計画
  2.特別な配慮が必要な人の口腔内の状況と口腔保健管理
 III.口腔保健管理の場の理解(施設,居宅訪問指導等)
  1.老人保健法としての口腔管理
  2.介護保険と口腔管理

3章 口腔観察と口腔清掃
 I.口腔観察と記録
  1.問 診
  2.口腔内診査
 II.ホームケアとプロフェッショナルケア
  1.ホームケア
  2.プロフェッショナルケア
 III.口腔清掃
  1.継続管理システム
  2.口腔清掃の術式と器材
  3.ライフステージ別の口腔清掃指導(ブラッシング指導)
  4.おもなブラッシング方法
  5.特別な要因がある場合のブラッシング

4章 業務記録
 I.はじめに
 II.業務記録の目的と意義
  1.業務をしたことの証明
  2.医療あるいはケアチームメンバー間のコミュニケーションの資料
  3.実行した業務の質の評価に活用
  4.専門職としての能力の育成
  5.医療関係者の教育・研究の資料
 III.業務記録の種類と形式
  1.主治の歯科医師の指示書
  2.指導記録
  3.報告書
 IV.記入上の注意点
 V.臨床の場における業務記録
 VI.訪問歯科保健指導の業務記録
 VII.地域保健の場における業務記録
  1.業務記録の作成
  2.記録内容
  3.記録の保管
  4.記録の活用

5章 口腔保健管理法の演習
 I.演習でのポイント
  1.情報の収集について
  2.問題の抽出について
  3.指導(ケア)計画について
  4.実地経過記録について
  5.評価について
 II.学童期の指導
  1.情報の収集
  2.問題の抽出
  3.指導計画
  4.実地・経過記録
  5.評価
 III.歯周病患者の継続管理指導
  1.情報の収集
  2.問題の抽出
  3.指導計画
  4.実施・経過記録
  5.評価
 IV.要介護高齢者の指導
  1.情報の収集
  2.問題の抽出
  3.指導計画
  4.実施・経過記録
  5.評 価
 文献
 索引

 執筆分担

 1章  I─1〜3 中垣晴男
    I─4 飯島洋一
    II─1 中垣晴男
    II─2 飯島洋一
    II─3 太田利光
    III─1〜3 飯島洋一
    III─4 中垣晴男
 2章  I 中垣晴男
    II─1 飯島洋一
    II─2 中垣晴男
    III 中垣晴男
 3章  高阪利美・可児徳子
 4章  足立三枝子
 5章 
 I〜III 小原啓子
 IV 足立三枝子