やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 わが国は高齢社会を迎え,社会生活に関連するすべての分野で,その対応が急がれています.最近の研究では,全身の健康に口腔の健康が広く深く関っていることが明らかになっています.高齢者における口腔の健康維持増進については,とくに重要であることが叫ばれています.一方,歯科衛生士を目指す学生諸君にとって「高齢者の口腔保健」を学習しやすい教科書が少なく,歯科衛生士業務に就いてからの臨床が,即ち教科書となりがちでした.
 このような背景のもとに,歯科衛生士の教育の場において高齢者の歯科医療に関する専門の教科書が是非必要との願いから本書が生まれました.
 この本にはいくつかの特徴があります.
 ・執筆者の多くが歯科衛生士であり,歯科衛生士の視点から将来歯科衛生士になる学生のために必要な情報が記載されています.
 ・高齢者を対象とした歯科医療についての教科書であり,高齢者歯科学といった学問の書籍ではありません.
 ・患者さんが中心にいて,歯科衛生士,歯科医師などの歯科医療従事者がその患者さんの生活全体の質を上げるのにどのような医療・保健サービスを行うかをベースにした内容にしたいとの思いから執筆されています.
 ・高齢者の歯科医療にかかわる技術的な知識はもちろん,種々の病気と付き合いながら生活していることが多い高齢者の心と身体にどう接するかなど,人をみる視点から記述されています.
 ・高齢者の生活の場へのかかわりが増すことが考えられるため,他業種の人たちとの連携がスムーズに行えるよう配慮されています.
 ・歯科衛生士を目指す学生が,新しい分野である高齢者の歯科医療についてどこまでの範囲で学ぶかを,各章の最初に到達目標として記載し,また文章もわかりやすく,簡潔を旨として学生を主体とした体裁としました.
 新しいこれからの歯科医療領域である要介護を含めた高齢者の歯科医療に対して,行間にある執筆者の思いをも読み取っていただき,将来の糧になる知識と技術と態度を培うために活用していただけたら幸いです.
 平成15年3月
 執筆者一同
1章 高齢者歯科の現状
 I.高齢者とは
 II.高齢者の特性
   1.加齢と老化
   2.身体的特性
   3.精神的特性
   4.能力的特性
   5.社会的特性
 III.高齢者をとりまく社会的問題と環境
   1.人口の高齢化
   2.高齢者世帯の増加
   3.老後の生計維持
   4.高齢者の生きがい,社会支援対策などの問題
 IV.高齢者を支える保健・医療・福祉の基盤
   1.老人保健
   2.高齢者の保健福祉対策
   3.介護保険法
   4.在宅訪問歯科保健医療
2章 高齢者の健康と疾病
 I.高齢者の健康と生活
   1.健康とは
   2.高齢者に多くみられる疾患
   3.高齢者の疾患と口腔との関連
3章 高齢者の口腔
 I.高齢者の口腔領域の特性
   1.口腔
   2.咽頭,喉頭
   3.摂食・嚥下機能
 II.高齢者に多い口腔領域の疾患
   1.複数歯の根面齲蝕・残根状態
   2.歯周疾患
   3.粘膜疾患
   4.摂食・嚥下障害
   5.口腔乾燥
   6.口臭症
   7.その他
4章 高齢者と薬剤
 I.薬剤に関する情報
   1.薬剤の情報とその重要性
   2.歯科で処方される薬剤
   3.他科で処方されている薬剤
 II.他科で処方された薬剤との併用に対する注意
   1.併用薬剤に対する注意
   2.重複処方に対する注意
 III.服薬状況への配慮
   1.他科処方の薬剤のチェック
   2.歯科の薬剤服用の際の配慮
 IV.服薬に関わる指導
   1.服薬指導内容の再説明
   2.服薬の確認
   3.鎮痛剤の服用
   4.抗菌剤の服用
5章 高齢者の歯科診療における歯科衛生士の役割
 I.高齢者の歯科診療
   1.診療時の問題と留意点
   2.診療内容に応じた補助対応
 II.診療室における高齢者との接し方,介護技術
   1.高齢者との接し方(コミュニケーションスキル)
   2.歯科診療室での介助
6章 高齢者の歯科診療の実際と歯科診療補助
 I.全身状態の把握
   1.バイタルサインとモニタリング
 II.全身疾患への配慮
   1.疾病状態を考慮した歯科診療補助時の留意点
 III.口腔のおもな疾患への対応
   1.歯科治療前の注意点
   2.歯科治療時の注意点
   3.治療後の注意点
 IV.感染予防
   1.歯科治療で問題となる感染症
   2.歯科治療における問題点
   3.歯科診療室における感染経路
   4.歯科治療における感染予防対策
 V.摂食機能療法
   1.摂食機能療法と歯科衛生士
   2.摂食機能療法と歯科診療の補助
   3.摂食機能療法の実際
7章 高齢者の口腔保健管理
 I.老人保健法と歯科衛生士
   1.老人保健法の成立
   2.歯科衛生士の役割
 II.「介護予防事業」と歯科衛生士
   1.介護予防事業の成立
   2.介護予防対策の3つの柱
 III.歯科衛生士による口腔保健管理
   1.高齢者の現状
   2.口腔保健管理を行う上での留意点
 IV.日常的な口腔の器質的,機能的ケアと義歯
   1.高齢者とセルフケア
   2.義歯の取り扱い
8章 高齢者の歯科保健指導の実際と留意点
 I.情報の収集
   1.全身の状態について
   2.口腔の状態について
   3.精神的状態について
   4.社会的状態について
 II.歯科保健指導の実際
   1.歯の清掃
   2.補綴物周辺の清掃
   3.舌の清掃
   4.義歯の清掃と取り扱い
   5.その他
 III.摂食・嚥下状態と食物物性の関連
   1.食物のおいしさ
   2.摂食・嚥下障害者に対する好ましい食事
   3.調理方法の工夫
   4.その他の留意点
9章 要介護高齢者の現状
 I.要介護高齢者の現状と特性
   1.要介護高齢者とは
   2.要介護高齢者の現状
   3.要介護高齢者の特性
   4.介護の考え方
   5.障害モデルからみた要介護高齢者
   6.要介護高齢者の生活の場
 II.要介護高齢者のQOL
   1.QOL
   2.命(生命)の質としてのQOL
   3.生活の質としてのQOL
 III.要介護高齢者を取り巻く社会環境
   1.介護保険以前
   2.社会環境としての介護保険制度
   3.介護予防・生活支援事業
   4.ボランティア活動
 IV.要介護高齢者にかかわる職種
   1.チーム医療・チーム介護
   2.要介護高齢者を支える制度
   3.おもな医療・福祉専門職
10章 要介護高齢者と歯科衛生士
 I.歯科衛生士に求められるもの
   1.口腔のケアの必要性と効果
 II.歯科衛生士と訪問活動
   1.在宅ケア
   2.訪問指導の留意点
 III.介護保険制度と歯科保健医療とのかかわり
   1.介護保険制度の仕組み
   2.介護保険制度における歯科の位置づけ
11章 訪問歯科保健指導の実際
 I.訪問歯科保健指導の基本的知ッ
   1.訪問歯科保健指導の必要性とその効果
   2.要介護高齢者への接し方・介護技術
   3.訪問歯科保健指導の基本手技
   4.義歯に関するケア
   5.訪問歯科保健指導と歯科診療補助
   6.訪問歯科保健指導の業務記録
 II.在宅における要介護高齢者を理解する
   1.在宅における要介護高齢者の現状
 III.在宅での訪問歯科保健指導の流れ
   1.歯科衛生士が行う在宅訪問歯科保健指導
   2.訪問歯科保健指導の流れ
   3.器具の工夫
 IV.施設における要介護高齢者の訪問歯科保健指導
   1.施設の違い
   2.施設での訪問歯科保健指導の進め方
   3.施設での訪問歯科保健指導の実際

 文献
 索引