やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

口腔機能をみないメインテナンスはありえない!
 近年,日本人の死因の上位である肺炎患者のうち,入院した高齢患者の肺炎の種類を調べたデータによると,80歳代の肺炎患者では約80%が,90歳以上では95%以上が誤嚥性肺炎であったと報告されています.このように,後期高齢者の肺炎の多くは誤嚥性肺炎であり,少しでもこのリスクを軽減させるために,一般の歯科医院で口腔機能低下症を管理することが求められています.一方で,患者さんも歯科医療者も「いつまでも自分の歯で食べられるようにしたい」という共通の思いはあるものの,患者さんは「痛みが出なければいい」,歯科医療者も「歯が残ればいい」と思っている人が多い気がします.
 50歳を越えた頃から,誰しも一度や二度は舌や頬の内側を噛んだり,咳払いが増えたりします.振り返ってみれば,その頃から口腔機能が衰え始めていたことに気づくはずですが,現在開業している先生方の多くは,私を含めて,この分野の学校教育を受けていません.今まであまりスポットを浴びてこなかっただけに,見逃してしまいがちです.しかし歯科医師や歯科衛生士には,患者さんに少しでも早い段階で「口腔機能低下症のサイン」に気づかせてあげる役割があるのです.そして,口腔機能低下症の管理を今後多くの歯科医院で行うことで,誤嚥性肺炎による死亡者を減らすことができたら,歯科医療者の地位向上にもつながることと思います.
 予防歯科を標榜する医院は年々増えてきましたが,口腔機能低下症の管理までできる医院は多くありません.ぜひ普段のメインテナンスプログラムに「口腔機能への取り組み」を加えていただききたい.そのためには,まずは医院の管理者である歯科医師が,医院の方針として口腔機能低下症に取り込む号令をかけてください.器材が揃えば,あとはこの本がナビゲートしてくれます.また取り組んでみてわかったことですが,口腔機能管理を通して歯科衛生士と患者さんの距離が縮まり,ブラッシングなどのモチベーションもアップします.歯科衛生士の皆さんはこの新しい武器を手に,歯周病やう蝕予防のメインテナンスの効果も上げてください.口腔機能をみないメインテナンスなんて,ナンセンスですよ!
 2024年9月
 松島良次
第1章 なぜ一般の歯科医院で「口腔機能低下症」をみるのか〜「噛める=食べられる」ではない!?〜
  口腔機能の重要性―「噛める」と「食べられる」は違う!
  「今は困ってない」……じゃあ,今後も本当に困らない?
  メインテナンス患者にこそ口腔機能低下症の検査を!
  もっとも大事なのは訓練(トレーニング)!
  医院にとっても患者さんにとってもメリットは大きい!
第2章 フツーの歯科医院でできる! 検査のコツ
 (1)7つの検査は症状に合わせて実施する!〜検査をスムーズに受け入れてもらうために
 (2)-A 口腔内状況の検査
  口腔衛生状態不良の検査
  口腔乾燥の検査
 (2)-B 咀嚼状況の検査
  咬合力低下の検査
  咀嚼機能低下の検査
  舌口唇運動機能低下の検査
 (2)-C 嚥下状況の検査
  嚥下機能低下の検査
  低舌圧の検査
第3章 フツーの歯科医院でできる! 訓練のコツ
 (1)検査結果から考える訓練の提案
 (2)-A 口腔内状況の検査で基準値を下回った患者さんに勧める訓練
  鼻呼吸トレーニング
  唾液腺マッサージ
  舌回し
 (2)-B 咀嚼状況の検査で基準値を下回った患者さんに勧める訓練
  ガムトレーニング・咀嚼トレーニング
  あいうべ体操
 (2)-C 嚥下状況の検査で基準値を下回った患者さんに勧める訓練
  スプーンプレス
  舌ブラシを使ったトレーニング
  ガラガラうがい
  ペットボトルトレーニング
  ハンドマウス法(ペットボトルトレーニングの代用法)
  パタカラ体操
  カラオケ
第4章 スムーズな検査と訓練のためにおさえておきたい患者さんの“サイン”
 (1)知っておきたい3つのポイント
  ポイント(1) 「歯科疾患」と「口腔機能」はつながっている
  ポイント(2) 「口腔機能」は全身ともつながっている
  ポイント(3) でも「高齢者=全員問題あり」ではない!
 (2)口腔機能低下症に関わる全身のサイン
  患者さんの変化:受付〜ユニットでの観察から
  全身疾患:問診から
  生活背景:何気ない会話から
 (3)口腔機能低下症に関わる口腔のサイン
  口腔衛生状態が悪くなってきた
  口腔乾燥がある
  咀嚼機能が落ちてきた
  嚥下機能が落ちてきた
  舌や口唇をうまく動かせなくなってきた
第5章 口腔機能低下症への取り組みの実際
 (1)口腔機能低下症のサインをみつけたら〜検査と訓練を導入するコツ
  口腔機能低下と全身の異常のつながりを知ってもらう
  聞き方を工夫して,口腔機能の低下に気づいてもらう
 (2)実際に検査をし,訓練によって口腔機能が改善した症例
  1)現時点では何の変化もみられない患者さん
  2)兆候や変化はあるが,口腔機能が低下しているとは思っていない患者さん
  3)全身疾患や服用薬の影響で,明らかに口腔機能が低下している患者さん
第6章 普段の診療に+α! 算定のポイント
 (1)口腔機能低下症の算定の基本知識
  基本の算定項目
  口腔機能管理料の算定手順
  歯科疾患管理料・長期管理加算・口腔機能管理料は
  今後のゴールドスタンダードに!
 (2)実際の算定の流れ
第7章 口腔機能低下症への取り組みによって症状が改善した症例
 (1)「義歯だから仕方ない」といって諦めなかった症例
 (2)咬合力が強くても口腔機能が低下していた症例
Q&A