やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 近年,わが国の人口は減少局面を迎え,2065年には総人口が9千万人を割り込み,高齢化率が38%の水準になると推計されています.そして2025年に向け,在宅医療の需要は,高齢化の進展や地域医療構想による病床の機能分化・連携に伴い,大きく増加すると見込まれています.このため,在宅歯科医療に携わるかかりつけ歯科医院の確保と,在宅歯科医療に関わることのできるスキルをもった歯科衛生士の人材確保が急がれます.
 在宅療養者においては,口腔や義歯の清掃不良等による口腔環境の悪化に伴い,う蝕や歯周病が発症・重症化し,口腔粘膜の異常や舌苔の付着・口臭が亢進するなど,口腔内にさまざまなトラブルが生じ,療養生活の大きな障害となります.それらに加え,口腔・摂食嚥下の機能低下により,誤嚥性肺炎等のリスクが高まるだけでなく,低栄養が進み基礎疾患の回復にも悪影響を及ぼし,要介護度の重度化も懸念されます.これらのことから,在宅療養の早期から歯科が介入し,口腔衛生状態や口腔機能,摂食嚥下機能の改善を図ることが重要です.
 しかし,これまで歯科診療所の中で業務を遂行してきた歯科衛生士にとって,歯科診療所から出て,患者の自宅や施設などに赴き,まったく異なる環境の中で業務を遂行するには,大きな壁を感じる方も少なからずいらっしゃるでしょう.
 そこで日本歯科衛生士会では,その障壁を少しでも低くし,歯科訪問診療に取り組む歯科衛生士を支援すべく,本マニュアルを企画しました.歯科衛生士が在宅療養者や要介護高齢者等が生活する自宅・施設等において口腔健康管理を行ううえで,必要な知識やスキルなどについて示しています.
 多くの歯科衛生士が地域に出て,在宅療養者のQOL向上の支援者として活躍されることを本会は応援しております.最後になりましたが,発行にあたり,ご協力いただきました皆様に深く感謝申し上げます.
 令和4年4月
 公益社団法人 日本歯科衛生士会
 会長 吉田直美
 在宅・施設口腔健康管理委員会
 はじめに
第1章 在宅療養者への歯科からの支援
 1 在宅歯科医療とは
 2 在宅療養者の口腔健康管理の考え方
 3 地域で口腔健康管理を継続するために
 4 医療と介護の連携の推進
第2章 在宅療養に関する制度
 1 介護保険制度について
  1.介護保険制度の目的
  2.介護保険の被保険者(加入者)
  3.要介護認定
  4.介護報酬改定
 2 地域包括ケアシステム
 3 地域包括支援センターの役割
 4 在宅療養者が利用するサービス
  1.居宅サービス
 5 在宅療養者の生活
 6 制度における口腔健康管理の位置づけ
  1.居宅療養管理指導…介護保険制度の中で歯科衛生士が行う口腔健康管理
  2.訪問歯科衛生指導…医療保険制度の中で歯科衛生士が行う口腔健康管理
第3章 在宅療養者を支える多職種連携
 1 在宅療養者を支える多職種連携
  1.在宅療養者を支える他職種と歯科衛生士のかかわり方
 2 多職種連携の例
第4章 居宅療養管理指導を行う際の必要記録事項と指導のための基礎知識
 1 居宅療養管理指導を行う際の必要記録事項
  1.基本情報
  2.スクリーニング・アセスメント
  3.居宅療養管理指導計画
  4.実施記録
 2 歯科衛生介入のための基礎知識
  1.有病者の口腔の特徴
  2.食べることの支援
  3.食形態の工夫
  4.経口摂取と非経口的栄養補助方法
  5.日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021
第5章 在宅療養者への訪問の実際
 1 訪問前の情報収集と日程調整
  1.事前の情報収集
  2.訪問先(利用者宅)への連絡
  3.電話連絡時の注意点
 2 訪問前の身支度と準備物品
  1.身支度と心構え
  2.訪問に必要な物品の準備
 3 在宅訪問
  1.在宅への初回訪問
  2.訪問時の注意点
  3.利用者・介護者と話をする時の注意点
  4.初回訪問時の情報収集と確認事項
  5.車椅子を利用している方への対応
  6.口腔衛生管理の手順
  7.口腔衛生管理終了後
 4 在宅訪問後に行うこと
  1.歯科診療所に戻り行うこと
第6章 在宅療養者の口腔健康管理の事例
 事例について
 業務記録について
  1─脳血管疾患(脳出血後遺症)
  2─脳血管疾患(脳梗塞後遺症)
  3─認知症(アルツハイマー型認知症)
  4─認知症(脳血管性認知症)
  5─神経難病(筋萎縮性側索硬化症:ALS)
  6─神経難病(脊髄小脳変性症:SCD)
  7─神経難病(パーキンソン病:PD)
  8─呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患:COPD)
  9─悪性腫瘍(下咽頭癌)
  10─悪性腫瘍(膵体部癌)
第7章 感染対策
 1 歯科訪問診療における感染対策
  1.感染成立の3要因