やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序
 日本歯科衛生学会は,歯科衛生業務の確立と発展を目指して2006年に設立された.学術大会を毎年全国で開催し,発表数は年々増加,すべてのライフステージに対応した多岐にわたる研究がなされ,学術大会はまさに「歯科衛生研究の宝庫」といっても過言ではない.学会設立後,歯科衛生士の研究発表(分野)は格段に広がり,「妊産婦の出産前後の口腔保健行動」や「子育てに取り組む父親のオーラルヘルス意識」,「幼児期のう蝕の地域格差」,「学生のストレスと口腔環境」,「病院における周術期口腔機能管理」,「緩和ケアや終末期への歯科衛生士としての対応」,「特別養護老人ホームにおける口腔ケア」,「通所介護利用者や在宅における口腔ケア」,「障害児・者の口腔ケア」,「災害医療と歯科衛生士」など多岐にわたってきた.そうした学会の目覚ましい発展の一助となってきたのが,学会設立の翌年の2007年11月に初版が発刊された本書である.
 一方,国の方針として高齢化の進展や疾病構造の変化を見据え,団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に,医療,介護,予防,生活支援および住まいの5つの視点から,地域において包括的に支援する取り組み(地域包括ケアシステム)が推進されている.そうした状況を踏まえ,初版から8年後の改訂第2版では,(1)社会の変化に応じた新たな歯科衛生研究の視点の追記,(2)研究倫理の記述の強化,(3)歯科衛生士法の改訂を含めた関連資料の一新を行った.今後,さらに多職種との連携が進み,歯科衛生士の業務展開が高度化する中で,これまで以上に専門性を求められることとなる.この専門性を高め,人々の期待に応えて責任のある職務を遂行するためにも,日常業務における歯科衛生研究の実践がいっそう重要となる.歯科診療所の歯科衛生士には,人の一生をロングスパンでとらえ,妊婦,乳幼児期,学童期,思春期,成人期,壮年期,高齢期などの各ライフステージにおけるウェルエイジングのための口腔機能を高める支援が求められる.これは,要介護に至る高齢者を極力少なくし,「いつまでもおいしく食べ,楽しく語り,心豊かな長寿社会を実現する」ために極めて重要な視点である.歯科衛生士の学術活動の推進には,この認識(理解)がますます重要となる.
 一方,同時に現在の超高齢社会においては,有病者や要介護高齢者等への歯科衛生に関する取り組みが求められ,よりいっそうの専門性の拡大とその研究推進も喫緊の課題となってきている.
 近年,臨床研究を推進するためには,倫理審査委員会への申請・承認が必要であり,日常業務における歯科衛生研究の実践に対するハードルが高くなっている.しかしそうした状況だからこそ,ルールにのっとった研究を推進し,また得られた成果をまとめて広く社会へ周知することの大切さは,さらに高まっていると考え,改訂第3版の発行となった.歯科衛生士の皆様には是非とも本書を活用して,日常業務を通じて得られる成果や気づき,また新たな発見等を研究として取りまとめ,日本歯科衛生学会での報告や学会誌への投稿等を通じて広く社会へ発信し,歯科衛生分野の財産として次世代につなげていただけたら望外の喜びである.
 2021年4月 編者一同


第2版の序
 日本歯科衛生学会は,2006年に歯科衛生業務の確立と発展を目指して,日常の業務に立脚した学術研究を推進することを目的に設立された.そして2007年には,あらゆるライフステージの人々や社会に対して,専門職として責任ある職務の遂行の一助となることを願って本書を出版した.これまで,本学会では,人の一生をロングスパンでとらえ,妊婦,乳幼児・学童・思春期・成人期・壮年期などの各ライフステージにおけるウェルエイジングのための口腔機能を高める支援が,要介護に至る高齢者を極力少なくし,いつまでも「おいしく食べ,楽しく語り,心豊かな長寿社会」の実現のために極めて重要な視点であることを基本に,学術活動を推進してきた.しかしながら,一方では,近年の超高齢社会においては有病者や高齢者を中心とした歯科衛生に関する取り組みが求められ,より一層の専門性の拡大とその研究の推進も喫緊の課題となってきている.
 学会設立から2015年までに9回の学術大会が全国で開催され,毎年発表数が増加して9年間で1,238件の発表があった.あらゆるライフステージにおける多岐にわたる研究がなされ,まさに歯科衛生研究の宝庫である.特に近年では,研究分野がさらに広がり,妊産婦の出産前後の口腔保健行動や子育てに取り組む父親のオーラル意識,乳幼児期のう蝕の地域格差,小中学生のストレスと口腔環境,病院における周術期口腔機能管理,緩和ケアや終末期への対応,特別養護老人ホームにおける口腔ケア,通所介護利用者や在宅における口腔ケア,障害児・者の口腔ケア,東日本大震災関連など多岐にわたっている.
 近年のわが国の高齢化の進展や疾病構造の変化にともない,医療,介護,予防,生活支援および住まいの5つの視点から,地域において包括的に支援する取り組みが進められている.今後ますます「医療から介護へ」,「病院・施設から地域・在宅へ」への流れが加速すると予測されている.歯科衛生業務は,病院,施設,地域,在宅において医療や介護に関わる多職種と連携した中で,メディカルケアプロフェッショナルの一員としていっそうその専門性を発揮することが求められてくる.それぞれの職種が,それぞれの分野で,自らの活動・行為に責任をもち,国民の信頼を得て職種をまっとうできるような学術的根拠が必要となる.さらに,根拠が得られた方法を,より多くの人々に効率的に広げるための方法論を確立することも重要であり,専門職の社会的貢献としての意義は大きい.
 一方,2014年度は,医学研究においていくつかの倫理面での問題が発生し,文部科学省と厚生労働省は研究に関する倫理指針を出し,研究を行う医療従事者にその遵守を求めている.日本歯科衛生学会においても,対応強化に向けて,2014年4月1日に倫理審査委員会を設置したところである.さらに,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(2014年6月25日交付)」において,歯科衛生士法の一部が改正され,2015年4月1日から施行される.このような社会や歯科衛生士を取り巻く環境の変化を踏まえ,本書を改訂することとした.改訂のポイントは,(1)社会の変化に応じた新たな歯科衛生研究の視点を加えたこと,(2)研究倫理の記述を強化,(3)歯科衛生士法の改訂等を含めて関連資料を一新したことである.歯科衛生士の業務展開が,多職種連携,専門化,高度化するなかで,これまで以上に多職種や人々や社会から専門性を求められることとなる.この専門性を高め,対象となる人々や社会に対して責任のある職務を遂行するためにも,日常業務における歯科衛生研究の実践が必要であり,本書がその推進のための一助となることを願ってやまない.
 2015年3月 編者一同


第1版の序
 歯科衛生の実践に根ざした学術研究は,歯科衛生業務を確立し,発展させるために欠かせないことである.また,専門職として,対象となる人々や社会に対して責任ある活動を行うためには,学校教育や卒後研修の充実とともに,業務実践の科学的根拠と可能性を追求する研究活動が不可欠である.
 歯科衛生士の研究は,これまでも,関連する分野において先駆的・実験的に行われてきたが,一方,日常の業務に疑問や課題を残したまま,その根拠について検証することなく,経験的,主観的に業務を実施している歯科衛生士も多くみられる.また,「研究」と聞いただけで自分には関係のないことと遠ざけてしまう歯科衛生士も多いと思われる.しかし,専門性を追求し,確認する姿勢は専門職としての良心であり,規範であるといっても過言ではない.そして,よりよい業務を行うために日々努力している行為そのものが研究対象であり,研究課題でもある.そのような歯科衛生業務に立脚した研究が「歯科衛生研究」といえるだろう.
 歯科衛生研究の目的は「歯科衛生業務に関しての疑問や課題について研究し,新しい知識や理論を導き出すこと」であり,そこから導き出された結果は,歯科衛生業務や歯科衛生活動に応用され,より適切な実践と開発につながるものである.同時に,体系化された歯科衛生学の確立に寄与することが期待される.
 これらのことから,日本歯科衛生学会の設立(2006年4月)を契機に,歯科衛生研究を積極的に推進するための方策が求められるようになった.その第一歩として,歯科衛生研究が大学や研究機関の研究者のみならず,保健・医療・福祉や教育の現場で業務に従事する歯科衛生士,また,歯科衛生士を目指している学生等,多くの人に身近なものとなるよう,共有できるマニュアルを作成することが急務となり,日本歯科衛生学会の関係者により本書が企画された.
 本書の流れを大別すると,「歯科衛生業務とは」,「歯科衛生研究の考え方」,「研究のプロセスと研究成果の発表」,「学校教育における論文(研究)のまとめ方」および「研究に役立つ知識,資料」等により構成されている.
 編集に際しては,あらたに研究を志す方々にもご理解いただけるように基礎的なことを中心にまとめたが,すべてを網羅するにいたっていない.また,企画から発行までに拙速の感もあり,残された課題も多いが,研究に取り組み,発表につなげたいと考えている歯科衛生士に一日でも早く届けたいとの思いで発行を急いだことも事実である.このような経緯から,今後,さらに内容の充実をはかりたく,読者の皆様から忌憚のないご意見をいただきたいと思う.
 日本歯科衛生学会の発足を機に,歯科衛生研究における質の高い多くの研究発表が期待されるなかで,本書がそのための一助となれば望外の喜びである.
 2007年11月 編者一同
I 歯科衛生業務とは(金澤紀子)
 ―歯科衛生業務の変遷と課題
  (1)―歯科衛生業務の成り立ち
  (2)―歯科衛生士法に基づく業務の考え方
   1.歯牙及び口腔の疾患の予防処置
   2.歯科診療の補助
   3.歯科保健指導
  (3)―業務の質を高めるために
   1.業務実践の基礎となる資質・能力
   2.業務実践における倫理的課題への対応
II 歯科衛生研究の考え方(石井拓男)
 1―歯科衛生士と研究
  (1)―はじめに
  (2)―大学教員の歯科衛生士
  (3)―短期大学教員の歯科衛生士
  (4)―博士の学位
  (5)―専門学校教員の歯科衛生士
  (6)―学会に入ることが,正しく「研究」を知る第一歩
  (7)―学生の行う研究
  (8)―歯科衛生士は歯科医学に基づいて業務を行う
  (9)―歯科衛生士と研究
 2―研究倫理(鳥山佳則)
  (1)―医の倫理と研究倫理
  (2)―不正行為の防止
  (3)―医学系研究における倫理規範の変遷
   1.ニュルンベルク綱領
   2.ヘルシンキ宣言
   3.ベルモントレポート
  (4)―人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針
   1.目的と基本方針
   2.対象となる研究
   3.侵襲と介入
   4.研究機関の長の責務
   5.研究計画書
   6.倫理審査委員会
   7.インフォームド・コンセント
    1)具体的な内容
    2)方法
    3)社会的に弱い立場の者への配慮
   8.個人情報の保護
    1)適正な取得
    2)安全管理
    3)個人情報の開示
    4)匿名加工情報の取扱い
  (5)―臨床研究法
  (6)―利益相反(COI:Conflict of Interest)
   1.利益相反とは
   2.倫理審査と利益相反
   3.開示の基準
   4.利益相反への向かい方
  (7)―日本歯科衛生士会の倫理審査(吉田幸恵)
   1.倫理審査委員会設置の趣旨
   2.倫理審査の流れ
 3―歯科衛生業務における研究の考え方(武井典子)
  (1)―専門職における研究の必要性
   1.専門職における研究の意義
   2.他職種から学ぶ研究の必要性
    1)実践での活動から研究すべき課題を導き出すこと
    2)研究成果を客観的で正確な数値として提示すること
    3)研究成果を論文にまとめること
    4)研究成果を実践の場に生かすこと
    5)優秀な共同研究者を得ること
  (2)―日本歯科衛生学会設立時の歯科衛生業務における研究の必要性
   1.日本歯科衛生士会の研究活動と日本歯科衛生学会の設立
    1)日本歯科衛生学会の設立の必要性
    2)日本歯科衛生学会設立までの研究活動
   2.学会設立時の歯科衛生業務における研究の必要性
  (3)―近年における歯科衛生業務の変化と研究の必要性
  (4)―歯科衛生業務における研究の考え方
  (5)―歯科衛生業務における研究が必要となった事例
   1.活動の評価としての研究
   2.他職種からのセミナー依頼から
   3.講演会での他職種からの質問から
   4.『自然科学的な研究』から『社会科学的研究』『人文科学的研究』へ
  (6)―今後の歯科衛生研究について
   1.2019年の「歯科衛生士の勤務実態調査」結果から
    1)歯科衛生士の研究活動の実施状況
    2)研究活動を推進するために必要な条件
    3)歯科衛生研究の推進に向けて
   2.今後の歯科衛生研究
    1)歯科衛生士を取り巻く環境の変化と対応
    2)歯科衛生士の業務の新たな研究
    3)他・多職種との連携の機会の増大と科学的実証・根拠の必要性
    4)まずは日本歯科衛生学会の学術大会へ行ってみよう!
    5)日本歯科衛生士会・日本歯科衛生学会と一緒に研究を推進しよう!
III 研究のプロセスと研究成果の発表
 1―研究の進め方とまとめ方(小原由紀・武井典子)
  (1)―研究のプロセスと発展
  (2)―研究のプロセス
   1.STEP1 研究テーマ(リサーチ・クエスチョン)の作成
    1)研究テーマを見いだすために
    2)研究テーマの具体例
    3)クリニカル・クエスチョンからリサーチ・クエスチョンへ
    4)リサーチ・クエスチョンの構造化
   2.STEP2 文献検索
    1)文献検索の重要性
    2)文献の種類
    3)文献検索の実際
    4)文献検索データベース
    5)文献の管理
    6)文献の読み方
    7)すでに研究されているテーマでは意味がないのか?
    8)英語論文にも挑戦を
   3.STEP3 研究手法の検討と仮説の設定
    1)研究方法を検討する
    2)研究テーマの吟味と仮説の決定
    3)模擬事例-研究テーマ決定のプロセス-
   4.STEP4 研究計画の立案
    1)研究計画の重要性
    2)研究計画の時点で決めておくべきこと
    3)評価項目の検討
    4)調査票のデザインーアンケートの例ー
    5)同意文書の作成
    6)具体的な調査内容とスケジュール
    7)プレテストの実施
    8)臨床研究事前登録(介入研究の場合)
    9)論文賞を受賞した論文の研究計画例
   5.STEP5 倫理審査委員会への申請・承認
   6.STEP6 研究の実施(データの収集)
    1)研究実施に当たっての留意点
   7.STEP7 データの整理・解析
    1)データ・クリーニング
    2)ナンバリング
    3)コーディング
    4)データ入力
    5)データの解析
   8.STEP8 研究成果の公表
 2―研究成果の発表の仕方(松本厚枝)
  (1)―発表の意義
   1.研究発表は研究者の義務である
   2.研究発表の方法
   3.学術大会は討議の場
   4.論文は査読によってブラッシュアップされる
  (2)―学会発表
   1.演題の申し込み
   2.抄録作成方法
   3.口頭発表
    1)口頭発表における事前の準備
    2)発表当日
   4.ポスター発表(示説)
    1)ポスターの作成方法
    2)ポスター作成時の留意点
    3)ポスター掲示時の留意点
  (3)―論文発表
   1.論文の種類
    1)原著論文
    2)臨床報告,症例報告
    3)調査報告
    4)活動報告
   2.学術論文の書き方
    1)論文の標準的な構成
    2)各区分の書き方
   3.症例報告の書き方
   4.論文を書くための一般的注意事項
    1)学術論文の書式
    2)文章の書き方
    3)略語・外来語の使い方
    4)用語の統一
   5.投稿方法
   6.査読への対応
   7.校正の方法
IV 統計解析(大川由一)
 ―統計解析の基本
  (1)―統計解析の目的
  (2)―統計解析の手順
   1.データの種類
   2.データの収集
   3.バラツキ(偶然誤差)とバイアス(系統誤差)
   4.データセットの作成
   5.データ分析
    1)単変量解析(1変数の解析)
    2)2変量解析(2 変数の解析)
    3)多変量解析(多変数の解析)
   6.仮説検定
   7.統計解析手法の選択
   8.統計解析ソフトウェア
  (3)―統計解析の実際
   1.表計算ソフトへのデータ入力
   2.EZRへのデータ読み込み
   3.データの要約
   4.独立した2群間の平均値の比較
    1)t検定
    2)Mann-WhitneyU検定
   5.対応のある2群の平均値の比較
    1)対応のあるt検定
    2)Wilcoxonの符号付順位和検定
   6.独立した3群以上の平均値の比較
    1)一元配置分散分析
    2)Kruskal-Wallis検定
   7.相関分析
    1)Pearsonの相関分析
    2)Spearmanの相関分析
   8.独立性の検定(フィッシャーの正確検定・カイ2乗検定)
   9.ロジスティクス回帰分析
V 歯科衛生士養成機関における研究の進め方(吉田直美)
 ―歯科衛生養成機関における研究の進め方
  (1)―学生時代に研究を行う意義
  (2)―卒業論文とは
   1.概要
  (3)―卒業研究の進め方
   1.研究テーマの設定
    1)クリニカル・クエスチョンから,リサーチ・クエスチョンへ
    2)研究テーマ(仮)の提出と指導教員とのマッチング
   2.研究における計画立案
   3.研究計画と統計解析
  (4)―研究成果発表のためのプレゼンテーションの仕方
  (5)―卒業論文の作成
   1.卒業論文の様式
   2.卒業論文作成

 関連資料
  人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針
  ヘルシンキ宣言 人間を対象とする医学研究の倫理的原則
  歯科衛生士の倫理綱領

 索引