やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 厚生労働省「国民健康・栄養調査(2017年)」によれば,現在糖尿病人口は2,000万人と推計されています.さらに,住民の8割が対象者である久山町スタディでは,日本人全体の糖尿病人口は予備軍も含めて4,000万人と類推されています.なんと,40歳以上で糖尿病と予備軍が,男性で2人に1人,女性で3人に1人ということになり,糖尿病予防および重症化予防の重要性が指摘されています.
 一方,「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン(改訂第2版)」には歯周病と糖尿病の関連性について多くのエビデンスが示されております.また,昨今では新聞や雑誌などにも「糖尿病と歯周病の関係」記事が掲載され,糖尿病予防としての歯周病の重症化予防・管理の重要性が報じられています.今こそ医科歯科連携により,糖尿病予防・重症化予防を推進し,国民の健康増進を推進していくときです.糖尿病予防・重症化予防においては,多職種連携・協働が進められるなか,歯周病の予防・治療・管理を担う歯科衛生士も重要な医療職であり,キーパーソン足り得る一職種です.
 そこで公益社団法人日本歯科衛生士会は,糖尿病予防の口腔保健指導および管理にかかる専門的な知識・技能を習得し,地域社会に貢献できる医学的・歯学的知識と口腔保健学的技能を有する「糖尿病予防指導認定歯科衛生士」の養成を2016年から開始しました.当初から徳島大学に協力を依頼し,大学教育の理念に基づいたセミナーを年1回開催しています.このセミナーでは,歯周病専門の歯科医師や歯科衛生士に加え,糖尿病専門医や糖尿病の予防・治療に関わる認定看護師,管理栄養士,作業療法士など多職種に講師をお願いしています.今までに,「糖尿病ガイド(2016-2017)」や「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン(2014)」も副教材として,オリジナル・テキストを作成し開催してまいりましたが,この度,より多くの歯科衛生士に参考にして頂けるよう,書籍を出版することにいたしました.
 本書は,これまでのセミナーの経験から,糖尿病予防指導の基盤となる「糖尿病」「歯周病」「糖尿病と歯周病の関係」「多職種協働・連携」「口腔保健指導」などの要素を基本マニュアルとして1冊にまとめました.これから「糖尿病予防指導」を学ぼうとする他の医療職種の皆さんや学生さんにも,わかりやすく読んでいただけるよう編集いたしました.今後多くの職種が「糖尿病予防・重症化予防」を多職種連携・協働により推進頂けることを願ってやみません.
 編集主幹 徳島大学大学院医歯薬学研究部口腔機能管理学分野 教授 松山美和
 公益社団法人日本歯科衛生士会 会長 武井典子
 はじめに
総論
 1 糖尿病の基礎知識
  1 なぜ歯科衛生士が糖尿病を学ぶ必要があるのか?
  2 糖尿病を学ぶために必要な書籍
  3 糖尿病の定義
  4 糖尿病の診断
  5 成因と病態による分類
  6 糖尿病の自覚症状
  7 糖尿病の他覚所見
  8 糖尿病の合併症
  9 糖尿病の治療
  10 歯科外来で注意すべきポイント
  11 糖尿病領域における医科歯科連携
 2 糖尿病予防指導に必要な糖代謝異常の知識
  1 糖尿病も歯周病も治癒する病気ではない
  2 糖代謝異常とは?
  3 歯周炎のステージ分類
  4 歯科衛生士だからこそ見えてくる糖尿病予防
 3 糖尿病と歯周病の関係
  1 糖尿病患者の歯周病罹患率は高く,重症化を示す
  2 歯周病患者では糖尿病の発症率や糖尿病合併症発症率が高い
  3 重度歯周病はHbA1cを悪化させる
  4 重度歯周病の治療はHbA1cを改善させる
  5 ヒロシマスタディ
  6 DPTTスタディ
  7 2つのスタディの結果が相違する理由として考えられること
  8 糖尿病患者において重度歯周病で全身性に炎症が惹起される想定機序
 4 糖尿病患者における歯周治療の流れと歯科衛生士の役割
  1 メタボリックシンドロームと歯周病
  2 糖尿病患者の歯周治療
  3 診療報酬改定に関して
  4 医療連携に関して
  5 糖尿病患者の歯周治療における歯科衛生士の役割
 5 健康の疫学
  1 糖尿病の疫学
  2 歯と口腔の健康の疫学
各論
 1 歯科衛生士による保健指導
   1-歯科衛生士に関係が深い法律と健康増進施策
   2-ヘルスプロモーションと保健指導
 2 糖尿病予防の保健指導と管理
   1-保健師による保健指導
   2-ライフステージごとの保健指導
   3-糖尿病重症化予防の保健指導
   4-糖尿病発症予防の保健指導
   5-おわりに
 3 糖尿病予防の栄養指導と管理
   1-食事療法の目的
   2-食事療法のポイント
   3-必要栄養の求め方
   4-栄養指導とその管理
   5-糖尿病チームにおける多職種連携
   6-まとめ
 4 糖尿病予防の運動指導と管理
   1-糖尿病の1次予防のエビデンス
   2-運動療法が糖尿病予防効果を発揮するメカニズム
   3-身体活動の目標値
   4-リスクの管理
 5 糖尿病予防の口腔健康管理
  (1)歯科保健指導
   1-保健指導の展開と手順
  (2)咀嚼と肥満の関連性と健康教育に生かすヒント
   1-就業者の咀嚼と肥満の関連性の調査
   2-就業者の肥満予防セミナーの実際と効果
   3-咀嚼方法の違いによる食後の生化学検査値の比較
   4-子どもの肥満と食・生活習慣との関連性とよく噛むための健康教育
  (3)妊婦に対する歯科保健指導
   1-妊娠中に出現しやすい全身疾患
   2-歯周組織の変化
   3-歯周病による周産期の不良な転帰
   4-必要な歯科保健指導
 6 地域医療における糖尿病予防
  (1)糖尿病予防の多職種連携
   1-糖尿病と歯周病の医科歯科行政連携の一例
   2-糖尿病の多職種連携の推進のために
   3-糖尿病予防のために歯科医院で保健指導をしよう
  (2)歯周基本治療による炎症消退を介して劇的に改善した2 型糖尿病の一例
   1-歯周病と糖尿病は炎症を通してつながる
   2-歯周基本治療により劇的に改善した2 型糖尿病の患者
   3-歯周治療は糖尿病内服薬一剤に匹敵する
   4-歯周治療は糖尿病の発症を予防できるか?
   5-健康な味覚が回復すると偏食が正された
   6-歯科的視点を医科の栄養指導に還元する
事例・演習
 歯科衛生士による糖尿病予防の事例
  CASE 1 専門病院における多職種連携
  CASE 2 歯科衛生士による糖尿病療養の実際
  CASE 3 糖尿病患者における口腔健康管理
 演習I ワークショップ(症例シナリオ,指導のポイント)
  1-演習の狙いと進め方
  2-演習テーマ
  3-演習手順
 演習II 予防指導のポイント把握とプラン立案
  1-演習の目的