やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 超高齢社会を迎え,厚生労働省は,2025年を目途に,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的に,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域における包括的な支援・サービス提供体制,すなわち地域包括ケアシステムの構築を推進しています.このような中,在宅療養者・要介護高齢者等の口から食べる機能を維持し,低栄養や誤嚥性肺炎を予防するなど,口腔健康管理を担当する歯科衛生士の役割に期待が高まっております.また,介護予防における口腔機能向上の推進が求められており,地域ケア会議等において高齢者の歯科医療および口腔の健康ニーズを把握し,サービス提供に繋げる等,多職種連携における支援の重要性が高まっています.
 地域ケア会議は,高齢者個人に対する支援の充実とそれを支える社会基盤の整備とを同時に進め,地域における個別課題の解決を通して地域包括ケアシステムの実現につなげる重要な情報共有の場です.
 介護予防のための地域ケア会議では,自立支援・介護予防の観点をふまえて地域ケア個別会議を活用し「要支援者等の生活行為の課題の解決等,状態の改善に導き,自立を促すこと」ひいては「高齢者のQOLの向上」を目指すことが大切です.そして,地域ケア会議における専門職(助言者)の役割は,助言者として対象者のニーズや生活行為の課題をふまえ,自立に資する助言をすることが求められており,多職種の視点に立って事例の課題をとらえ,その解決にあたることが極めて重要となります.
 現状では,市町村や地域包括支援センターにおける介護予防のための地域ケア会議が活発に実施されているのは一部の地域に限られています.しかし,介護予防のための地域ケア会議によって,多くの高齢者のQOLが向上するという成果が,厚生労働省の介護予防活動普及展開事業や市町村・地域包括支援センターの取組み等により確認されております.
 そこで,日本歯科衛生士会では,歯科衛生士が積極的に地域ケア会議に参画できるよう,本マニュアルを企画いたしました.本マニュアルは,地域ケア会議の理解のための背景,概要を示し,会議の実際の流れ,助言内容を模した具体例をあげ,即会議に役立つような構成となっています.また地域での歯科衛生士の研修にすぐに使用できる演習や資料も掲載し,人材育成のテキストとしても使用できる内容になっています.
 口腔に関する的確な助言を行うことができる歯科衛生士の育成に本書が役立ち,多くの歯科衛生士が地域で活躍し,ますます社会から求められることを願ってやみません.
 2017年10月 公益社団法人日本歯科衛生士会
 本マニュアルの使い方
第1章 地域ケア会議の背景と目的
 1.地域包括ケアシステム
 2.平成30年度介護保険制度改正で改めて強く打ち出された「自立支援と重度化防止」
 3.地域ケア会議とは(種類・目的・機能)
 4.介護予防のための地域ケア会議
第2章 地域ケア会議における効果的な助言
 1.アドバイスを行う時の心構え
 2.課題の把握
 3.地域ケア会議の資料
  資料1-A 利用者基本情報(おもて)
  資料1-B 利用者基本情報(うら)
  資料2 基本チェックリスト
  資料3 課題整理統括表
  資料4 介護予防サービス・支援計画書(ケアプラン)
 4.基本チェックリストの質問項目に該当した人への助言
  基本チェックリストNo.13
  半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか
  基本チェックリストNo.14 お茶や汁物等でむせることがありますか
  基本チェックリストNo.15 口の乾きが気になりますか
 5.助言のポイント
第3章 地域ケア会議の事例と助言内容
 1.閉じこもり予防のケース
 2.体重減少のケース
 3.脳梗塞後遺症のケース
第4章 地域ケア会議研修プログラム
  資料 地域ケア会議のための人材育成を目的とした歯科衛生士研修プログラム例

 演習
  地域ケア会議の研修(演習)例

 参考資料
  1.介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の概要
  2.介護保険における口腔関連サービスの全体像
  3.自立度・要介護度
  4.5疾患(脳卒中・心疾患・糖尿病・がん・精神疾患)の特徴について

 参考文献