はじめに
審美歯科治療とは,口腔内の状態を一人ひとりのあるべき健康な形態と円滑な機能に基づいた「美しさ=自然観」を回復・獲得する治療であり,歯周治療,咬合治療,修復処置とともに矯正治療などの多様な専門的アプローチによって構成されるものです.したがって,審美歯科治療の実践においては歯科医師,歯科技工士そして歯科衛生士が,それぞれの専門家としての知識および技能を最大限に発揮して連携するチーム医療が不可欠となります.
歯科審美(学)および審美歯科治療に関する書籍はこれまでにも数多く発刊され,優れた手引き書としての役割を果たしてきましたが,臨床における歯科衛生士のアプローチあるいは対応などについての基本がまとめられたものはほとんどありませんでした.そこで本書では,審美歯科に関して,歯科衛生士として理解しておくべき基本的な知識・技術について臨床術式を踏まえながらまとめることにしました.執筆者はいずれも本書の目的を理解している専門家であり,経験年数が少ない歯科衛生士にもわかりやすく解説するという企画趣旨を遵守しながらも,充実した内容となっております.
本書は大きく4つのパートに分けた構成とし,冒頭のGraphにおいては,健康的で美しい天然歯列によって審美歯科治療のゴールを明示したうえで,この健康美を再現する手法として,機能と形態の回復の上に確立された審美修復治療例を供覧しました.次に,Part1では,歯科における“美”のとらえ方・作り方の基準を正しく理解していただくために,形態,機能そして色彩の調和からなる歯科審美のガイドラインとその評価法についてまとめました.そしてPart2では,特に審美修復治療における歯科衛生士の役割・業務をプロフェッショナルな立場から解説するとともに,歯科医師・歯科技工士との共通言語として知っておきたい治療に関するキーワードを精選して解説しました.さらにPart3では,各種審美修復治療のフローチャートと歯科衛生士の業務について,術前の診査から治療中の診療補助,修復方法や材料の特性,各種修復物におけるメインテナンスの留意点について歯科医師と歯科衛生士の共著で示しました.最後に実習に役立つ附則としてPracticeを設け,審美歯科治療においてきわめて重要な記録・評価法である測色法と写真撮影法について解説しました.
審美歯科治療について研鑽する歯科衛生士諸氏,そして歯科衛生士学校の学生諸氏の必読書として,本書を十分に活用していただきたいと思います.さらに,他に見ない系統的な内容であることから,歯科学生,臨床研修医さらには歯科技工士学校学生の臨床教育の場においても活用されることを願う次第です.
2013年7月
編集委員(五十音順)
末瀬一彦(大阪歯科大学歯科衛生士専門学校,同歯科技工士専門学校)
土屋和子(株式会社スマイルケア,歯科衛生士)
南 昌宏(大阪市北区・南歯科医院)
宮崎真至(日本大学歯学部歯科保存学教室修復学講座)
審美歯科治療とは,口腔内の状態を一人ひとりのあるべき健康な形態と円滑な機能に基づいた「美しさ=自然観」を回復・獲得する治療であり,歯周治療,咬合治療,修復処置とともに矯正治療などの多様な専門的アプローチによって構成されるものです.したがって,審美歯科治療の実践においては歯科医師,歯科技工士そして歯科衛生士が,それぞれの専門家としての知識および技能を最大限に発揮して連携するチーム医療が不可欠となります.
歯科審美(学)および審美歯科治療に関する書籍はこれまでにも数多く発刊され,優れた手引き書としての役割を果たしてきましたが,臨床における歯科衛生士のアプローチあるいは対応などについての基本がまとめられたものはほとんどありませんでした.そこで本書では,審美歯科に関して,歯科衛生士として理解しておくべき基本的な知識・技術について臨床術式を踏まえながらまとめることにしました.執筆者はいずれも本書の目的を理解している専門家であり,経験年数が少ない歯科衛生士にもわかりやすく解説するという企画趣旨を遵守しながらも,充実した内容となっております.
本書は大きく4つのパートに分けた構成とし,冒頭のGraphにおいては,健康的で美しい天然歯列によって審美歯科治療のゴールを明示したうえで,この健康美を再現する手法として,機能と形態の回復の上に確立された審美修復治療例を供覧しました.次に,Part1では,歯科における“美”のとらえ方・作り方の基準を正しく理解していただくために,形態,機能そして色彩の調和からなる歯科審美のガイドラインとその評価法についてまとめました.そしてPart2では,特に審美修復治療における歯科衛生士の役割・業務をプロフェッショナルな立場から解説するとともに,歯科医師・歯科技工士との共通言語として知っておきたい治療に関するキーワードを精選して解説しました.さらにPart3では,各種審美修復治療のフローチャートと歯科衛生士の業務について,術前の診査から治療中の診療補助,修復方法や材料の特性,各種修復物におけるメインテナンスの留意点について歯科医師と歯科衛生士の共著で示しました.最後に実習に役立つ附則としてPracticeを設け,審美歯科治療においてきわめて重要な記録・評価法である測色法と写真撮影法について解説しました.
審美歯科治療について研鑽する歯科衛生士諸氏,そして歯科衛生士学校の学生諸氏の必読書として,本書を十分に活用していただきたいと思います.さらに,他に見ない系統的な内容であることから,歯科学生,臨床研修医さらには歯科技工士学校学生の臨床教育の場においても活用されることを願う次第です.
2013年7月
編集委員(五十音順)
末瀬一彦(大阪歯科大学歯科衛生士専門学校,同歯科技工士専門学校)
土屋和子(株式会社スマイルケア,歯科衛生士)
南 昌宏(大阪市北区・南歯科医院)
宮崎真至(日本大学歯学部歯科保存学教室修復学講座)
執筆者一覧
はじめに
Graph 審美歯科治療とは
1 審美歯科治療が目指すもの=天然歯列(本書編集委員会)
2 歯質の部分的な修復例(南 昌宏)
3 単独歯の修復例(南 昌宏)
4 複数歯の修復例(南 昌宏)
5 多数歯〜全顎にわたる修復例(石川知弘)
Part 1 歯科における美のとらえ方に関する基本知識
1 歯科における美しさとは(宮崎真至)
・審美,そして美しさとは
・歯科における審美とその重要性
・これからの審美歯科
・審美に対する患者のニーズとその心理
・審美歯科治療の種類と使用材料
1)審美歯科治療の種類
2)審美修復に用いる修復材の種類
2 「ものを見る」とは(宮崎真至)
・形と色
・感覚としての視覚
・視覚の仕組みと色覚
・形の認識
・空間の認識
3 審美歯科治療における美しさのとらえ方(宮崎真至)
・色の認識
1)色と色覚
2)色の三属性
・歯の色とは
・歯の色を比較する方法
・歯の形をみる
4 審美歯科治療における顔貌のとらえ方(北原信也)
・なぜ顔貌を診るのか
・審美歯科治療の流れ
・審美歯科治療の目的と考え方
・顔貌と歯の診査
・審美歯科治療における治療目標
・臨床例にみる審美歯科治療の流れ
5 審美歯科治療における歯と歯列のとらえ方・評価(北原信也)
・歯の審美診断
・審美修復治療の予後について
6 審美歯科治療における歯と歯周組織のとらえ方・評価(北原信也)
・なぜ歯と歯周組織の関係を学ばなければならないのか
・歯と歯周組織の関係
・修復物と歯周組織の関係
・歯肉の変色
1)メラニン色素沈着の原因と特徴
2)ガムピーリングの方法
Part 2 審美修復治療と歯科衛生士
1 審美歯科治療を成功させるための臨床的基本知識(土屋和子)
・歯と口唇の印象
・条件は,口腔が“健康である”こと
Column:唾液と補綴修復物
・基本的な治療を理解する
1)印象採得における歯周組織の理解
2)歯肉圧排による印象採得
3)歯肉レベルを整える
4)歯間乳頭を整える
5)再現された歯間乳頭を守るためのセルフケア指導
6)オベイトポンティックと歯肉の密着性
7)歯肉色の改善
・咬合の安定と全身の健康
2 審美修復治療期間中のハイジーンコントロール(貴島佐和子)
・プロビジョナルレストレーションによる最終補綴装置の検討
・最終補綴装置装着後のセメント除去
・補綴装置の形態と清掃性
3 治療の結果を維持するためのメインテナンス(牧江寿子)
・審美治療におけるメインテナンスの重要性
・術後のトラブルと対応
1)トラブル1:修復物マージンからのう蝕
2)トラブル2:歯周ポケットの再感染
3)トラブル3:歯根破折
・メインテナンス開始前の患者および口腔内の観察
1)歯肉退縮について
・修復部位・修復形態に応じたメインテナンスの留意点
1)すべての修復物に共通するメインテナンス時のチェック項目
2)PTC
3)修復物マージン部のステップの確認
4)ラミネートベニア修復における隣接面う蝕の予防
5)インプラントへのプロービング
・修復材料に応じたメインテナンスの留意点
Column:フッ化物についての注意事項
4 治療の結果を維持するためのセルフケア指導(池田育代)
・セルフケア指導の重要性
・セルフケアへの患者の意識
・完璧なセルフケア指導?
・清掃器具
・モチベーションの維持
・患者を支える
5 審美歯科治療に携わるうえで必要な基礎知識70
・基本的治療テクニックにかかわる基礎知識(植松厚夫)
1)診断用ワックスアップ(diagnostic wax-up)
2)プロビジョナルレストレーション(provisional restorations)
3)セメンテーション
・新しい治療テクニックにかかわる基礎知識(風間龍之輔・福島正義)
1)インプラント補綴
2)メタルフリー修復
3)CAD/CAM修復
・歯科衛生士として知っておきたい重要キーワード(大森かをる・小久保祐司)
1)カントゥア(contour)
2)エマージェンスプロファイル(emergence profile)
3)ブラックトライアングル(black triangle)
4)生物学的幅径(bioUgic width)
5)オベイトポンティック,ハーフポンティック(ovate pontic,half pontic)
Part 3 各種審美修復治療の流れと歯科衛生士業務
1 コンポジットレジン修復の臨床(宮崎真至・長澤治子)
・コンポジットレジン修復の特徴
・接着システムの違いによる臨床操作法
・コンポジットレジン修復の適応
・前歯部修復症例における治療の流れ
・臼歯部修復症例における治療の流れ
・術後のメインテナンス
2 セラミックインレー・アンレー修復の臨床(宮崎真至・黒川弘康・長澤治子)
・セラミック修復の特徴
・窩洞の特徴
・接着操作
・セラミックインレー・アンレーの適応症
・セラミックインレー修復症例における治療の流れ
・術後のメインテナンス
3 ポーセレンラミネートベニア修復の臨床(六人部慶彦・見谷朋美・箸尾祐子)
・ラミネートベニア修復の特徴
・治療の流れ
・セルフケア指導
・術後のメインテナンス
4 クラウン・ブリッジ補綴の臨床(末瀬一彦・頭山高子)
・オールセラミッククラウン・ブリッジ
1)オールセラミッククラウンの復活
2)オールセラミッククラウンの種類と製作方法
3)治療の流れ
4)術後のメインテナンス
・ハイブリッド型コンポジットクラウン・ブリッジ
1)製作材料の特徴
2)製作方法
3)治療の流れ
4)術後のメインテナンス
5 インプラント補綴の臨床
・クラウン・ブリッジタイプ(歯冠形態のみ)の上部構造の場合(内山徹哉・山村玲加)
1) クラウン・ブリッジタイプのインプラント上部構造における特徴(天然歯の治療との違い)
2)審美的なインプラント治療に適したインプラント体の形状
3)審美的な補綴を行うためのインプラント埋入ポジション
4)治療の流れ
5)術後のメインテナンス
・ガム付きの上部構造の場合(木村洋子・木村麻弥)
1)ガム付きのインプラント上部構造とは
2)治療の流れ
3)術後のメインテナンス
4)セルフケア指導
Practice 美をとらえる・記録するための実習
1 審美歯科治療のための測色法(末瀬一彦)
・天然歯の色調の特徴
・天然歯の測色法(シェードテイキング)
1)視感比色法
2)測色器によるシェードテイキング
2 審美歯科治療のための写真撮影法(鈴木昇一)
・口腔内規格写真の意義
・美しい写真の条件
索引
はじめに
Graph 審美歯科治療とは
1 審美歯科治療が目指すもの=天然歯列(本書編集委員会)
2 歯質の部分的な修復例(南 昌宏)
3 単独歯の修復例(南 昌宏)
4 複数歯の修復例(南 昌宏)
5 多数歯〜全顎にわたる修復例(石川知弘)
Part 1 歯科における美のとらえ方に関する基本知識
1 歯科における美しさとは(宮崎真至)
・審美,そして美しさとは
・歯科における審美とその重要性
・これからの審美歯科
・審美に対する患者のニーズとその心理
・審美歯科治療の種類と使用材料
1)審美歯科治療の種類
2)審美修復に用いる修復材の種類
2 「ものを見る」とは(宮崎真至)
・形と色
・感覚としての視覚
・視覚の仕組みと色覚
・形の認識
・空間の認識
3 審美歯科治療における美しさのとらえ方(宮崎真至)
・色の認識
1)色と色覚
2)色の三属性
・歯の色とは
・歯の色を比較する方法
・歯の形をみる
4 審美歯科治療における顔貌のとらえ方(北原信也)
・なぜ顔貌を診るのか
・審美歯科治療の流れ
・審美歯科治療の目的と考え方
・顔貌と歯の診査
・審美歯科治療における治療目標
・臨床例にみる審美歯科治療の流れ
5 審美歯科治療における歯と歯列のとらえ方・評価(北原信也)
・歯の審美診断
・審美修復治療の予後について
6 審美歯科治療における歯と歯周組織のとらえ方・評価(北原信也)
・なぜ歯と歯周組織の関係を学ばなければならないのか
・歯と歯周組織の関係
・修復物と歯周組織の関係
・歯肉の変色
1)メラニン色素沈着の原因と特徴
2)ガムピーリングの方法
Part 2 審美修復治療と歯科衛生士
1 審美歯科治療を成功させるための臨床的基本知識(土屋和子)
・歯と口唇の印象
・条件は,口腔が“健康である”こと
Column:唾液と補綴修復物
・基本的な治療を理解する
1)印象採得における歯周組織の理解
2)歯肉圧排による印象採得
3)歯肉レベルを整える
4)歯間乳頭を整える
5)再現された歯間乳頭を守るためのセルフケア指導
6)オベイトポンティックと歯肉の密着性
7)歯肉色の改善
・咬合の安定と全身の健康
2 審美修復治療期間中のハイジーンコントロール(貴島佐和子)
・プロビジョナルレストレーションによる最終補綴装置の検討
・最終補綴装置装着後のセメント除去
・補綴装置の形態と清掃性
3 治療の結果を維持するためのメインテナンス(牧江寿子)
・審美治療におけるメインテナンスの重要性
・術後のトラブルと対応
1)トラブル1:修復物マージンからのう蝕
2)トラブル2:歯周ポケットの再感染
3)トラブル3:歯根破折
・メインテナンス開始前の患者および口腔内の観察
1)歯肉退縮について
・修復部位・修復形態に応じたメインテナンスの留意点
1)すべての修復物に共通するメインテナンス時のチェック項目
2)PTC
3)修復物マージン部のステップの確認
4)ラミネートベニア修復における隣接面う蝕の予防
5)インプラントへのプロービング
・修復材料に応じたメインテナンスの留意点
Column:フッ化物についての注意事項
4 治療の結果を維持するためのセルフケア指導(池田育代)
・セルフケア指導の重要性
・セルフケアへの患者の意識
・完璧なセルフケア指導?
・清掃器具
・モチベーションの維持
・患者を支える
5 審美歯科治療に携わるうえで必要な基礎知識70
・基本的治療テクニックにかかわる基礎知識(植松厚夫)
1)診断用ワックスアップ(diagnostic wax-up)
2)プロビジョナルレストレーション(provisional restorations)
3)セメンテーション
・新しい治療テクニックにかかわる基礎知識(風間龍之輔・福島正義)
1)インプラント補綴
2)メタルフリー修復
3)CAD/CAM修復
・歯科衛生士として知っておきたい重要キーワード(大森かをる・小久保祐司)
1)カントゥア(contour)
2)エマージェンスプロファイル(emergence profile)
3)ブラックトライアングル(black triangle)
4)生物学的幅径(bioUgic width)
5)オベイトポンティック,ハーフポンティック(ovate pontic,half pontic)
Part 3 各種審美修復治療の流れと歯科衛生士業務
1 コンポジットレジン修復の臨床(宮崎真至・長澤治子)
・コンポジットレジン修復の特徴
・接着システムの違いによる臨床操作法
・コンポジットレジン修復の適応
・前歯部修復症例における治療の流れ
・臼歯部修復症例における治療の流れ
・術後のメインテナンス
2 セラミックインレー・アンレー修復の臨床(宮崎真至・黒川弘康・長澤治子)
・セラミック修復の特徴
・窩洞の特徴
・接着操作
・セラミックインレー・アンレーの適応症
・セラミックインレー修復症例における治療の流れ
・術後のメインテナンス
3 ポーセレンラミネートベニア修復の臨床(六人部慶彦・見谷朋美・箸尾祐子)
・ラミネートベニア修復の特徴
・治療の流れ
・セルフケア指導
・術後のメインテナンス
4 クラウン・ブリッジ補綴の臨床(末瀬一彦・頭山高子)
・オールセラミッククラウン・ブリッジ
1)オールセラミッククラウンの復活
2)オールセラミッククラウンの種類と製作方法
3)治療の流れ
4)術後のメインテナンス
・ハイブリッド型コンポジットクラウン・ブリッジ
1)製作材料の特徴
2)製作方法
3)治療の流れ
4)術後のメインテナンス
5 インプラント補綴の臨床
・クラウン・ブリッジタイプ(歯冠形態のみ)の上部構造の場合(内山徹哉・山村玲加)
1) クラウン・ブリッジタイプのインプラント上部構造における特徴(天然歯の治療との違い)
2)審美的なインプラント治療に適したインプラント体の形状
3)審美的な補綴を行うためのインプラント埋入ポジション
4)治療の流れ
5)術後のメインテナンス
・ガム付きの上部構造の場合(木村洋子・木村麻弥)
1)ガム付きのインプラント上部構造とは
2)治療の流れ
3)術後のメインテナンス
4)セルフケア指導
Practice 美をとらえる・記録するための実習
1 審美歯科治療のための測色法(末瀬一彦)
・天然歯の色調の特徴
・天然歯の測色法(シェードテイキング)
1)視感比色法
2)測色器によるシェードテイキング
2 審美歯科治療のための写真撮影法(鈴木昇一)
・口腔内規格写真の意義
・美しい写真の条件
索引