やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序文
 本書は,1986年に病院勤務する歯科衛生士のための成書として愛知学院大学名誉教授・榊原悠紀田郎先生と全国私立歯科大病院総看護婦長会のご指導のもと企画・発行されました.その後,高齢社会の到来や疾病構造の変化,歯科衛生士と看護師が協働する場所の広がりなどを背景に1999年に東京歯科大学名誉教授・野間弘康先生によって改訂されました.
 さらに10年,社会情勢はさらに大きく変化し,看護師や歯科衛生士をとりまく背景も,法や制度を含めだいぶ変わってきています.2005年に指定規則が改訂され歯科衛生士の教育修業年限が3年制に移行しました.これを受け日本歯科医学会主導のもと業務の見直しが今も進められています.2011年には歯科口腔保健法が制定され全身における口腔管理と予防の重要性が強調されました.そして,2012年には周術期における口腔ケアの算定が新規に加わり,歯科衛生士業務の必要性と拡大が求められています.
 病院におけるチーム医療なども推進されつつあり,各領域における患者さんとのかかわりのなかで看護師と歯科衛生士が協働する場面も増え,それに伴い,歯科衛生士が基礎知識として押さえておくべき看護師の業務内容はさらに多くなっていると言えます.
 以上のことから,本書の内容の見直しの必要性が看過できない状態となってきました.本改訂版では,従来の構成に則って進めていますが,データ等は一新し,写真・図表を多く用い,視覚に訴えるページになるよう留意しました.
 コンテンツでは,まず病院における歯科衛生士の役割はどのようなものかについて述べ,ついで看護の概念,歯科衛生士に必要な基本的な看護技術や看護実務について,時代に即して具体的に解説し,最後に地域医療活動における歯科衛生士の役割,求められる理想像についても言及しました.また,付章として,関連する主要な法律を巻末に掲載しています.キーワードや補足が必要な内容についてはコラムを必要に応じて作成し,索引も充実させましたのでご活用ください.なお本書の執筆は,1章を柴原,2章を飯田,3章を福井,4章を神,5章を松尾が,それぞれ担当しました.
 新しい歯科衛生士業務が求められている今,本書が皆さまの座右の書として有用されることを願っています.
 2012年3月
 柴原孝彦

第2版の序文
 高齢社会を迎えようとしている今日,歯や口腔の疾患以外に内科疾患をもつ患者や,診療に際して特別な介護を必要とする患者が歯科を受診する割合が増加している.このような疾患構造の変化に対応するために,病院の歯科・口腔外科ばかりでなく一般の歯科診療所においても,寝たきり高齢者の訪問診療など,歯科診療の内容に大きな変革が求められている.これまでの歯科診療は口腔全体を視野に入れて,いわゆる“一口腔単位“ でバランスのとれた診療を行うことを目標としてきた.しかしこれからは,全身疾患をもった患者の歯科診療を行う機会が増えるので,さらに患者の全身状態をも考慮して“一個体単位” で行うものへと歯科医師の視野を拡大する必要がある.
 歯科医師のパートナーである歯科衛生士に対しても,歯科予防処置,歯科診療補助,歯科保健指導だけではなく,患者の精神面をも含めて全身状態にも目を向けることが求められるようになってきた.
 これからは,歯科衛生士が,病院の歯科・口腔外科に勤務したり,保健所や市町村などの地域保健活動に従事したり,また一般の歯科診療所に勤務していても地域医療の場で活動する場合には,看護婦と共同作業を行う機会が増えてくる.
 看護婦は,医師のパートナーとして種々の全身疾患をもつ患者の看護業務を行ってきた長い歴史があり,そのなかで,人の死を看み取とったり誕生に立ち会ったりといった重要な役割を果たしてきた.今後は,歯科衛生士も看護婦との共同作業を円滑に行うために,看護学のなかの重要な部分を学んでおくことが必要である.
 歯科衛生士養成施設の教員を対象としたアンケート調査においても,21世紀に生じる社会的ニーズに応えるために,歯科衛生士の教育に看護および介護に関する教育を取り入れる必要性が強調されている.
 本書の初版は,幸いにして多くの歯科衛生士学校・養成所で使われ,歯科衛生士が最小限知っておきたい看護の知識を習得するのに一定の役割を果たしてきた.しかしながら発行後12年の月日もたち,(歯科)医療や歯科衛生士を取り巻く環境も変化してきたことなどから全体的な見直しを行い,改訂版を発行することになった.
 そのようなことから本書では,まず病院における歯科衛生士の役割はどのようなものかについて述べ,ついで看護の概念,歯科衛生士にも必要な基本的な看護技術や看護実務についてわかりやすく具体的に解説し,最後に,地域医療活動における歯科衛生士の役割についても言及した.また,付章として,関連する主要な法律を巻末に掲載した.
 21世紀の歯科医療の一翼を担う歯科衛生士にとって,本書がおおいに役立つことを心から願っている.
 なお本書の執筆は,1章を野間.2章を林,3章のI〜IV・VIを許斐,Vを幸崎,4章のI・IIIを幸崎,IIを許斐,5章を堀が,それぞれ担当した.
 おわりに,本書の初版を中心になって企画・編集された,愛知学院大学名誉教授 榊原悠紀田郎先生に,本改訂版においても大変お世話になった.深く感謝申しあげます.
 1998年12月
 野間 弘康

第1版の序文
 歯科衛生士が実際に現場で看護婦とともに仕事する機会はあまり多くはない.
 およその概念としては看護婦のことはもちろん知っているし,歯科衛生士教育の中でも看護学大意というような科目名で教えられているところも多い.
 現実には,病院に就職して仕事をする歯科衛生士もかなりある.しかしながら,病院は,歯科診療所といろいろな面で異なるため,とまどうことが多い.これは歯科衛生士の側ももちろんであるが大部分の看護婦のほうでも同様である.
 そんなとき看護婦として,どんなことを歯科衛生士にわかってもらえればよいか,また歯科衛生士はどんなことがわかればよいかについての手びきになるものがいるのではないかということが,全国私立歯科大学病院総看護婦長会で検討されていた.そして,歯科衛生士が最小限知っておきたい看護の知識として,一つの看護学大意のようなものを編集することになった.
 ガイドブックとしては少し重たいものになったが,基礎看護のテキストを読むよりずっと抽き出された内容になっており,病院に就職する歯科衛生士にとって看護ということを知る上でも大変役立つと思う.
 歯科衛生士と看護婦とを比べて,よくその職業意識のちがいなどがいわれることがあるが,最も大きなことは看護という仕事の中に,“人の死をみとる” という場面があることからくるちがいではないかと思う.臨死患者にめぐりあうことは看護婦としてもそんなに多くはないとしても,それについての心構えはふだんからもっていなければならない.
 それが本当は看護婦の職業観の根源の一つになっていると思う.
 基礎看護のところの一番はじめにバイタルサインのことがかかれているのはこのためである.
 そしてそれをベースとして,患者の安全と安楽とが述べられていることも,看護というものを理解する上で大切なことと思う.
 歯科衛生士は看護婦と同様に,広い意味での医療の専門職であり,多くの患者と接し,しかも職業婦人としての共通点も多い.その意味では,看護から学ぶことは少なくないと思われる.
 そんな角度でこの本をみてもらうと歯科衛生士にとって大変有力な糧となるのではなかろうか.
 それをねがっている.
 1986年8月10日
 榊原 悠紀田郎
1 病院における歯科衛生士の役割(柴原孝彦)
 I 歯科衛生士の活動の場
 II 診療所
  1 歯科診療所
  2 医科診療所
 III 病院
  1 病院の種類
   1)一般病院
   2)地域医療支援病院
   3)特定機能病院
  2 病院の機構
  3 病院のなかの歯科・口腔外科
 IV 医療チームのなかの歯科衛生士
  1 外来における歯科衛生士の役割
  2 病棟における歯科衛生士の役割
2 看護の概念(飯田美保子)
 I 看護の歴史
  1 近代の看護
   1)ヨーロッパの看護
   2)日本の看護
  2 現代の看護
   1)看護制度の改革
   2)看護教育の高度化
 II 看護とは
  1 看護は「なにを」「だれのために」「なんのために」「どのように」行うのか
  2 看護の定義
  3 健康とは
  4 看護の対象
  5 看護の目標
  6 看護の役割
   1)身体的援助
   2)心理的援助
   3)教育的援助
   4)環境の保持
  7 保健医療福祉活動の一環
   1) NST(栄養サポートチーム)の活動
3 歯科衛生士が知っておくべき看護技術(福井和枝)
 I バイタルサインについて
  1 体温
   1)正常体温
   2)発熱と熱型
   3)うつ熱
   4)低体温
  2 脈拍
   1)脈拍数
   2)脈拍のリズム
   3)脈拍の性状
  3 呼吸
   1)呼吸の数と深さ
   2)呼吸の型
   3) 呼吸の異常(数・深さ・周期性・努力性)
  4 血圧
   1)収縮期血圧と拡張期血圧
   2)脈圧
   3)血圧の異常
 II バイタルサインの測定方法
  1 体温測定
   1)測定器具
   2)腋窩温の測定
   3)口腔温の測定
   4)直腸温の測定
   5)鼓膜温の測定
  2 脈拍測定
  3 呼吸測定
  4 血圧測定
   1)血圧計の構造と種類
 III 患者とのコミュニケーション
  1 コミュニケーションの種類
   1)言語的コミュニケーション
   2)非言語的コミュニケーション
  2 コミュニケーションの構成要素
  3 コミュニケーションを阻害する因子
   1)態度に関する因子
   2)表現に関する因子
   3)環境・時間に関する因子
   4)話題・介入に関する因子
   5)その他
 IV 患者への支援
  1 小児への接し方
  2 高齢者への接し方
  3 障害者への接し方
  4 妊婦への接し方
  5 認知症患者への接し方
 V 患者の安全と安楽
  1 安楽への援助
  2 安楽を図るための看護用品
  3 安楽な体位の工夫
   1)立位
   2)坐位
   3)臥位
  4 体位変換
   1)体位変換の手順
 VI 摂食
  1 食べることの意義
  2 栄養の補給
  3 病人食の必要条件
  4 摂食・嚥下障害の食事の選択
   1) 嚥下痛,刺激痛,摂食痛などの痛みに対して
   2) 開口障害,咀嚼障害,嚥下障害などに対して
  5 摂食方法とその援助
   1)経腸栄養法
   2)静脈栄養法
 VII その他の看護技術
  1 与薬
   1)薬物の名称と種類
   2)薬物保管上の注意点
   3)与薬方法
   4)与薬上の注意事項
  2 罨法
   1)罨法の種類
   2)温罨法の効果
   3)冷罨法の効果
   4)罨法適用上の注意事項
  3 吸引および吸入
   1)吸引
   2)吸入
4 歯科衛生士に必要な看護実務(神尚子)
 I 患者の観察および治療経過の記録の作成
  1 身体的問題と対応
   1)食物摂取障害
   2)言語障害
   3)呼吸障害
   4)全身状態の観察
  2 心理的・社会的問題と対応
  3 患者の観察と記録
   1)記録の種類
   2)記録方式
   3)記入上の留意事項
   4)記録の管理
 II 病院外来での業務
  1 外来患者の特徴
  2 全身疾患を有する患者の一般歯科治療における診療補助
   1)虚血性心疾患
   2)高血圧症
   3)糖尿病
 III 入院を要する患者の看護
  1 口腔外科的疾患を有する患者の基本的看護
  2 入院患者の看護
  3 おもな疾患とその看護
   1)歯性感染症
   2)顎骨骨折
   3)先天異常(奇形)
   4)顎変形症
   5)顎関節症
   6)良性腫瘍
   7)悪性腫瘍
   8)唾液腺腫瘍
   9)インプラントに関わる合併症
 IV 口腔ケア
  1 口腔ケアの目的
  2 口腔ケアの方法
  3 患者の状態別の注意点
   1)寝たきりの場合
   2)嚥下障害のある場合
   3)開口障害のある場合
   4)顎間固定中の場合
   5)義歯の場合
   6)禁食中の場合
 V 救急時の看護
  1 一次救命処置(BLS)
   1)反応の確認
   2)心肺蘇生法(CPR)
  2 AED(自動体外式除細動器)
  3 神経性ショック
   1)原因
   2)症状
   3)処置の要点
  4 過換気症候群
   1)原因
   2)症状
   3)処置の要点
 VI 洗浄・消毒・滅菌
  1 洗浄・消毒・滅菌の定義
  2 洗浄・消毒・滅菌の方法
   1)洗浄
   2)消毒と滅菌
  3 滅菌の確認
   1) 生物学的インジケーター(バイオロジカルインジケータ:BI)
   2) 化学的インジケーター(ケミカルインジケータ:CI)
   3) 物理的インジケーター(滅菌器付属計器の監視・記録)
  4 滅菌物の保管と取り扱い
   1)保管
   2)取り扱い
 VII 感染対策
  1 標準予防策(スタンダード・プリコーション)
  2 手指衛生
   1)目的
   2)手指衛生の種類
   3)手指衛生時の注意
  3 個人防護具の着脱
  4 感染疾患に対する対策
   1)外来患者の感染対策
   2)医療従事者の感染予防
   3)環境への対策
 VIII 医療安全対策
  1 医療事故報告制度
  2 転倒・転落防止
  3 針刺し事故防止
   1)対策
5 地域医療活動における歯科衛生士の役割(松尾佳代)
 I 地域社会における看護のあり方
  1 在宅医療を必要とする社会的背景
   1)人口の高齢化と少子化
   2)疾病構造の変化
   3)医療費の高騰
  2 高齢者を支える制度と社会資源
   1)老人福祉法
   2) ゴールドプラン(および新ゴールドプラン)
   3)医療保険制度
   4)介護保険制度
 II 保健・医療・福祉チームとの連携
  1 チームアプローチの基本
  2 地域医療にかかわる職種
  3 地域連携の現状
   1) 病院におけるチーム医療と地域におけるチーム医療
   2)歯科診療と地域医療の関係
   3)地域連携診療計画
   4) 地域医療におけるケアマネージャーの役割
 III 在宅医療における歯科衛生士の役割
  1 在宅医療
  2 訪問歯科診療
  3 訪問看護
  4 訪問口腔衛生指導
   1)対象の把握,情報収集
   2)訪問時のマナー
   3)訪問口腔衛生指導の実際
付 関係法令
 I 歯科衛生士法
 II 保健師助産師看護師法(抄)
 III 歯科医師法(抄)
 IV 医療法(抄)
 V 地域保健法(抄)
 VI 地域保健法施行令(抜粋)
 VII 介護保険法(抄)
 引用・参考文献
 索引