やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 昨今のインプラント治療の普及によって,歯科衛生士がインプラント治療の現場に対応する場面が多くなっています.一方,それに応じた歯科衛生士に対する教育の場面や,歯科衛生士向けの教材は,十分にあるとはまだいえない状況です.そのためか,著者が行っているセミナーなどでもインプラントに関する質問が寄せられることが増え,現場の歯科衛生士の悩みを感じることが多くなってきました.
 歯科衛生士はインプラントのメインテナンスにおいて,大きな役割を担っています.
 インプラントの長期成功のためには,歯科衛生士による口腔内環境のコントロールが欠かせません.患者さんが毎日のホームケアでプラークなどの除去を適切に行うことができるように,メインテナンスにおける定期健診でその必要性を繰り返し説明して理解していただくこと,そして患者さん自身で除去できない部位のプラークや歯石を,歯科衛生士がインプラントを損傷しないよう除去することが,インプラントを長期に維持するための重要な鍵になります.それには,歯科衛生士として必要なインプラントの知識と技術を習得することが不可欠です.特にインプラントのメインテナンスにおいては経験則に答えを求める前に,知識やテクニックを十分学ぶ必要があります.
 米国では徹底したメインテナンステクニックの習得が歯科衛生士に求められますが,著者もまた,米国の大学で4年間インプラントメインテナンスにおける知識を学び,母校の歯科研究所歯周病部門や,複数の歯周病専門医院で,数多くのインプラント患者のメインテナンスに長年携わってきました.また,インプラントの分野は日進月歩です.歯科衛生士として最新の情報を得るため,また自身の技術のメインテナンスを行うために,卒後研修などに参加したり,文献を読むなどの研鑽と努力を積むことは著者も行っており,新人〜ベテラン問わず必要なことです.
 今回そういった経験をふまえ,歯科衛生士のインプラントにおける役割を具体的に伝えたいという気持ちから,インプラントのメインテナンスを中心としたベーシックな内容を記しました.
 本書が,臨床において読者のみなさまのお役に立ち患者さんのよりよい人生に貢献できる歯科衛生士として活躍できるような指標になれば幸いです.
 この本を出版するにあたり,多くのご協力をいただいた歯科医師の南昌宏先生に感謝申し上げます.

 2010年4月
 加藤 久子
 序文

第1章 歯科衛生士がおさえておきたいインプラントの基礎知識
 1─インプラントの基本構造
  1.なぜ基礎知識が必要なのか
  2.基本構造
   1)上部構造
   2)アバットメント
   3)インプラント体
  3.インプラントの手術法
   1)1回法
   2)2回法
 2─インプラントと天然歯の共通点と相違点
  1.周囲組織の構造
   1)共通点
   2)相違点
 3─インプラントと骨の関係
  1.オッセオインテグレーション(骨結合)
  2.オッセオインテグレーション確立の判断
  3.骨の分類
 4─インプラント周囲疾患(periimplantdisease)
  1.インプラント周囲粘膜炎(periimplantmucositis)
   1)インプラント周囲粘膜炎の評価
   2)インプラント周囲粘膜炎への対応
  2.インプラント周囲炎(periimplantitis)
   1)骨吸収の原因
   2)インプラント周囲炎に対する処置
  3.インプラント撤去になる場合
第2章 インプラントのためのコンサルテーション〜インフォームドコンセント
 1─治療開始までの流れ
 2─患者さんへのコンサルテーション
  1.コンサルテーションとは
  2.インプラントにおけるコンサルテーション
   1)説明内容
   2)コンサルテーションの基本ポイント
  3.治療希望のタイミングとコンサルテーションの行い方
   1)はじめからインプラント治療を希望して来院した場合
   2)初診時の診査結果から,インプラントをすすめられ希望した場合
   3)リコール時に希望した場合
 3─全身・口腔状態についての情報収集
   1)問 診
   2)口腔内診査
   3)エックス線写真,CTの確認
   4)スタディモデルによる咬合状態の検査
   5)ぺリオアセスメント
   6)口腔外診査,写真撮影
   7)口腔衛生状態
 4─歯科医師による診断と治療計画の立案
   1)インプラント治療の適否の診断
   2)治療計画に必要な資料
   3)手術法の選択
   4)患者さんへの説明
 5─インフォームドコンセント
  1.提供すべき情報
  2.同意書の作成
第3章 インプラント手術にあたり歯科衛生士がおさえておくべきこと
 1─手術前の患者さんへの対応
  1.ホームケアについて指導する
  2.食事と生活に関する指導を行う
   1)手術前の食事指導
   2)生活上の注意事項
   3)インプラント埋入手術の再説明
  3.ディブライトメントを行う
  4.手術直前の患者対応
 2─手術室の準備
   1)手術室の消毒と準備
   2)器具の準備
 3─手洗い・グローブ・術衣について
  1.手洗い
  2.術衣の装着
  3.グローブの装着
  4.手術後の脱衣
 4─手術について
  1.手術中の補助者の役割
  2.術式
   1)一次手術
   2)術後の管理
   3)二次手術
  3.インプラント補綴
 5─手術後の患者さんへの対応
  1.術直後
  2.抜糸までの口腔衛生指導
  3.食事指導
  4.生活上の注意事項
第4章 インプラントのメインテナンス
 1─メインテナンスにおけるリコール
  1.リコールの重要性
  2.リコールの間隔
  3.リコール時の施術の流れ
 2─メインテナンス時の感染予防
 3─リコール時の要観察・確認事項
  1.患者自身の違和感
  2.インプラント周囲の軟組織の状態
  3.動揺度
   1)動揺度の評価
   2)動揺度から推測される状態
  4.プロービング
   1)使用できるプローブの種類
   2)プロービングの方法
   3)プロービングを行う場合の時期
   4)プロービングによる出血の評価
  5.エックス線検査
   1)エックス線検査の意義
   2)適したエックス線撮影の方法
  6.残存歯の評価
  7.歯石沈着,プラーク付着状態の確認
  8.義歯の管理
 4─メインテナンスにおけるプラークコントロールと患者指導
  1.治療・メインテナンスの各段階におけるプラークコントロールとホームケアの重要性
  2.メインテナンスにおけるブラッシングとホームケア指導
   1)患者さんと口腔衛生状態の認識を共有する
   2)歯・歯間部清掃の用具の選択とホームケア指導
   3)舌清掃のホームケア指導
   4)オーラルイリゲーションとホームケア指導
   5)洗口のホームケア指導
   6)患者さんのモチベーションアップのための指導
 5─メインテナンス期のディブライドメント
  1.インプラントにおけるプラークと歯石の分類
  2.超音波スケーラーによるスケーリング
   1)超音波スケーリングの手順
  3.ハンドスケーラーによるスケーリング
   1)インプラントに使用するハンドスケーラーの要件
   2)インプラント用ハンドスケーラーの種類
   3)ハンドスケーリングの基本をおさえる
   4)ハンドスケーリングの実際
   5)スケーリング時の工夫
  4.ラバーカップによる研磨
   1)操作法
   2)使用する研磨剤
   3)研磨後のチェック
  5.シャープニング

 索引