やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
第6版
 歯科医療の一翼を担う歯科衛生士のための衛生行政・社会福祉・社会保険に関する入門書として,本書を世に出したのは1987年,まだ昭和の時代であった.その後まもなく平成の時代へと移り,いま第1版から数えると23年目を迎えている.
 この間,歯科衛生士の業務に歯科保健指導が加わり,また,介護保険制度で口腔ケアが加わり,業務領域の増加に伴い教育も2年制から3年制へと移行した.あわせて,国家試験を経て厚生労働大臣免許と,歯科衛生士の資格・身分の面でも重みを増した.
 世の中は少子高齢社会へと移行し,保健医療も福祉と一体となって,国民・患者が質の高い生活を送るうえで何が必要かを考えたサービスの提供が求められるようになった.したがって,保健医療福祉の担い手である歯科医師・歯科衛生士も,歯科領域の科学知識・技術だけではなく,社会の制度や社会の姿について理解を深める必要がある.
 本書は,今日まで社会の制度や社会の姿の変化にあわせて,ほぼ毎年内容を改訂・更新してきた.が,今あらためて考えると,本書を手にする方の多くは平成の生まれである.このたび,保健医療福祉に関する制度等の変化にあわせた改訂・更新だけでなく,第1版以来続いた文体を読みやすく変え,また,表を図に変えるとともにその数を増やし,見出しのデザインも一新した.幸い,本書は単著であるため,著者の意向を快く理解いただいた出版社の編集者とともに,改訂・更新の作業を短期間に集中してできた.
 本書が20年以上にわたり刊行できたのは,今日まで本書を活用された皆様のおかげと感謝し,今後も歯科衛生士をめざす方々,歯科衛生士の方々をはじめ多くの方々に活用されることを願い,また,親と子で本書を活用する歯科衛生士が生まれることを夢見つつ,本書が単著である特徴を生かして今後とも改訂・更新に努めていきたい.
 2009年3月
 末高武彦

第5版
 新しい世紀を迎え少子高齢化はさらにいっそう進み,国民の生活スタイルや意識は急速に変化している.この変化に合わせ保健・医療・福祉それぞれの分野における制度も,国民に対するサービスとして年々急速に変化している.本書は制度と法律をもとにした記述が多く,その内容もこれらの変化に合わせて毎年変えてきた.そのようななかで,今回は4章の社会保障制度の内容を時代に合わせ一新させ,新たな版とした.
 1987年に本書が刊行されてから早いもので15年,この間多くの読者に恵まれるとともに,そのときどきの読者から貴重なご意見をいただいた.長きにわたり刊行できたことをお礼申し上げるとともに,今後もこのことを糧として時代に合う書としていきたい.
 2002年2月15日

第4版
 第3版を発行してから7年を経た.この間毎年部分的に補訂をしてきたが,1997年12月には介護保険法が公布され,また,1998年4月には児童福祉法が改正されるなど,社会福祉関連の分野で大きな変化が見られた.このため,5章,6章の内容を大幅に改めるなどし,版を新たにした.
 旧版と同様に活用いただければ幸いである.また,忌憚のないご意見がいただければ幸いである.
 1999年3月20日

第3版
 平成元年に公布された歯科衛生士法の改正も,平成4年3月の歯科衛生士試験(統一試験)の実施によりすべて完了した.
 第2版から第3版へ,わずかな期間であり十分とはいえないが,歯科衛生士法ならびに関係政省令の大幅な改正にあわせて内容を改めた.また,3章では政府統計の一部統合もあり,図を表に改めた.
 旧版と同様に活用いただければ幸いである.また,忌憚のないご意見がいただければ幸いである.
 1992年3月

第2版
 本書を刊行してから3年を経た.この間,多くの方々から貴重なご意見をいただき,また,制度の改正,統計値の推移もあり,部分的には内容を改めてきた.
 平成元年には本書の主要部分の一つである,歯科衛生士法ならびに関係する政省令が大幅に改正された.このため,本書も「2章III.歯科衛生士法」の部分を改め,ここに第2版として刊行する.旧版と同様に活用いただければ幸いである.
 1990年3月5日

第1版
 21世紀を間近にひかえた今日,疾病構造の変化や急速な人口の高齢化に伴い,医療需要も増大するだけでなく,多様化してきている.このため,今日そしてこれからの医療は,地域を主体とした,健康増進,疾病の予防からリハビリテーションにいたる包括的な保健医療体制,さらには福祉面をも含めた保健医療と,福祉との連係した体制が求められている.
 このような時期において,歯科衛生士も,歯科医師のもとで時代の要求に合致する歯科医療に貢献するためには,歯科医療に関する高度な専門知識・技術を修得することはもちろんのこと,衛生行政の仕組みや保健医療,さらに福祉関係の法規についても精通し,また,社会福祉や社会保険制度における医療保障の諸対策についても,理解を深めなければならない.
 本書はこれらのことを念頭におき,歯科医療の一翼を担う歯科衛生士のための,衛生行政,社会福祉,社会保険に関する入門解説書として,また,昭和63年度から全面的に移行される2年制での新しい歯科衛生士教育における教授要綱に合致した,衛生行政・社会福祉の学習書として活用されるよう執筆した.
 執筆にあたっては,著者のいささかの教育経験にもとづき,従来の衛生行政・社会福祉の学習書とはやや異なる構成を試みた.また,保険医療の実務をも記すことにより,医療保険制度に関する理論と,歯科医療における実際面とを結びつけるよう試みた.読者の忌憚のない,ご意見がいただければ幸いである.
 本書が,歯科衛生士の方々に,あるいは歯科衛生士学校の教育に活用され,今後の歯科医療の向上にいささかでも貢献できるならば,望外の喜びである.
 おわりに,本書の刊行にあたり,お世話いただいた医歯薬出版の編集部の方々に,心より感謝の意を表すものである.
 1987年3月10日
 末高武彦
1章 衛生行政
 I.衛生行政の目的
  1.行政とは
  2.衛生行政の目的
  3.衛生行政の特色
 II.衛生行政の沿革
  1.明治憲法下の衛生行政
  2.現憲法下の衛生行政
  3.医療制度の沿革
  4.歯科衛生行政の沿革
 III.衛生行政の組織
  1.衛生行政の分野
  2.国際機関
  3.厚生労働省,都道府県,保健所を設置する市・市町村
  4.保健所,市町村保健センター
  5.歯科衛生行政
2章 衛生関係法
 I.法制概論
  1.法の意義
  2.形式からみた法の分類
  3.その他の法の分類
 II.医師法,歯科医師法
  1.医師,歯科医師の任務
  2.医師,歯科医師の免許
  3.医師,歯科医師の業務
  4.医業と歯科医業
 III.歯科衛生士法
  1.歯科衛生士法の目的
  2.歯科衛生士の定義
  3.歯科衛生士の身分の取得
  4.歯科衛生士免許,歯科衛生士名簿
  5.歯科衛生士免許の申請,書換えなど
  6.歯科衛生士の身分の喪失
  7.歯科衛生士の業務
 IV.関連する医療関係者の身分に関する法規
  1.保健師助産師看護師法
  2.歯科技工士法
  3.診療放射線技師法
  4.臨床検査技師等に関する法律
  5.その他の法律
 V.医療に関連する法規(医療法)
  1.医療施設の定義
  2.医療提供の理念と医師等の責務
  3.病院,診療所の開設と管理
  4.病院,診療所の広告
  5.医療計画
 VI.薬事に関連する法規
  1.薬事法
  2.薬剤師法
  3.その他の法律
 VII.地域保健に関連する法規
  1.地域保健法
  2.健康増進法
  3.母子保健法
  4.学校保健安全法
  5.労働安全衛生法
  6.その他の保健関係法規
 VIII.社会保障に関連する法規
  1.健康保険法
  2.国民健康保険法
  3.介護保険法
  4.高齢者の医療の確保に関する法律
  5.障害者自律支援法
  6.その他の法律
 ・法律に現れた数字
3章 保健医療の動向
 I.厚生関係統計調査
  1.統計制度
  2.官庁統計の分類
  3.主な保健関係統計調査
  4.統計調査資料の利用法
 II.国民の健康状態と受療状況
  1.人口とその動態
  2.生活習慣と健康
  3.有訴者,通院者
  4.医療機関受療者
  5.口腔の状況
 III.医療施設
  1.病院
  2.医科診療所
  3.歯科診療所
 IV.医療関係者
  1.医師
  2.歯科医師
  3.歯科衛生士
  4.歯科技工士
  5.看護師,保健師
  6.医療関係者の教育機関
 V.国民医療費
  1.国民医療費とは
  2.国民医療費の現況
 ・歯科衛生士に関係する法律キーワード その1
4章 社会保障制度
 I.社会保障制度の沿革
  1.社会保障の前史
  2.今日の社会保障
 II.社会保障の目標と機能
  1.社会保障の目標
  2.社会保障の機能
 III.ライフサイクルにおける社会保障制度
 IV.世界の社会保障制度
  1.アメリカ
  2.イギリス
  3.ドイツ
  4.フランス
 ・歯科衛生士に関係する法律キーワード その2
5章 社会保険
 I.社会保険の沿革
  1.社会保険の前史
  2.今日の社会保険制度
 II.社会保険行政の組織
  1.国
  2.地方組織
  3.社会保険事務所など
 III.医療保険制度
  1.医療保険の概要
  2.医療保険の給付
  3.医療保険の費用負担
  4.医療保険の種類
 IV.年金制度
  1.国民年金
  2.厚生年金保険
  3.その他の年金
 V.雇用保険・労働者災害補償保険制度
  1.雇用保険
  2.労働者災害補償保険
 VI.介護保険
  1.介護保険制度の創設
  2.介護保険制度の概要
  3.介護サービスの利用
 ・歯科衛生士に関係する法律キーワード その3
6章 社会福祉
 I.社会福祉の沿革
  1.社会福祉の前史
  2.社会福祉の制度化
 II.社会福祉行政
  1.厚生労働省
  2.都道府県・市町村
  3.福祉事務所
 III.社会福祉の担い手
  1.民生委員,児童委員
  2.福祉・介護サービス従事者
 IV.生活保護制度
  1.生活保護制度の基本原理
  2.生活保護の実施原則
  3.生活保護の種類と方法
  4.生活保護の動向
 V.児童と家庭の福祉制度
  1.児童福祉の概要
  2.子育て支援
  3.要保護児童の保護
  4.母子福祉
 VI.障害者の福祉制度
  1.障害者基本法
  2.障害者の自立支援
  3.障害者の状況
 VII.高齢者の福祉制度
  1.高齢者の福祉
  2.高齢者の保健
 ・歯科衛生士に関係する法律キーワード その4
7章 保険医療の実務
 I.保険医療の組織
  1.保険医療機関
  2.保険医
  3.診療報酬審査支払機関
 II.保険医療機関での責務
  1.保険診療の方針
  2.受付窓口事務
  3.診療録の整備
 III.歯科診療報酬の請求
  1.診療報酬点数表
  2.診療報酬明細書の記載
  3.保険医療費の請求と支払い
 IV.介護保険での居宅療養管理指導の請求
  1.要介護者に対する医療保険と介護保険の関係
  2.居宅療養管理指導の請求

 資料 関係法令集
  1.歯科衛生士法
  2.歯科衛生士法施行令
  3.歯科衛生士法施行規則
  4.歯科医師法
  5.歯科技工士法

 参考文献
 索引